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「動物由来感染症」とは、動物から人に感染する病気の総称です。「人獣共通感染症」や「人と動物の共通感染症」ともいわれますが、厚生労働省は人の健康問題という視点から、「動物由来感染症」という言葉を使っています。動物由来感染症には、人も動物も発症するもの、動物は無症状で人だけが発症するもの等、病原体によってさまざまなものがあります。
世界では新しい感染症が次々と出現しています。そしてその多くが動物由来感染症です。動物由来感染症は、世界保健機関(WHO)が確認しているだけでも200種類以上あり、医師および獣医師は活動現場で感染するリスクを有しています。こうした分野横断的な課題に対し、人、動物、環境の衛生に関わる者が連携して取り組む One Health(ワンヘルス)という考え方が世界的に広がってきています。
病名 |
病気の特徴(症状) |
感染経路・感染状況 |
予防 |
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E型肝炎 |
潜伏期は平均6週間で、急な発熱、倦怠感、吐き気や嘔吐が見られるようになり、数日後に黄疸を示す。通常2週間程度で治まるが、重症例として劇症肝炎になることもある。 |
ブタ、シカ、イノシシなどはE型肝炎ウイルスを保有していることがある(特にブタは高率に感染している)。肉やレバーを十分に加熱しないで食べること等により感染する。近年患者が急増し、全国で毎年300名以上の患者が報告されている。 |
食肉(特にブタ、シカ、イノシシ)の生食はせず、必ず十分に加熱して食べる。食事の前には十分に手洗いをし、衛生状態が悪い国では、飲用水や野菜などにも注意を払う。 |
病名 |
病気の特徴(症状) |
感染経路・感染状況 |
予防 |
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重症熱性血小板減少症候群(SFTS) |
主な初期症状は、発熱、全身倦怠感、消化器症状で、時に意識障害などの神経障害や出血症状が出現する。重症化し、死亡することもある。 |
主に感染マダニに刺されて感染する。西日本で患者報告が多く、春から秋にかけて患者発生が多い。また、感染猫からの咬傷や接触による飼育者等の感染例も報告されている。 |
草むらなどに入る場合には、虫除け剤の使用や、長袖・長ズボンを着用して素肌の露出を少なくする。動物にもマダニ等の駆除・防虫薬を使用し、動物が体調不良の際には、動物病院を受診する。 |
つつが虫病 |
5~14 日の潜伏期を経て、高熱や全身倦怠感、食欲不振、頭痛を伴って発症する。 |
つつが虫病リケッチアを保有するダニの一種「つつが虫」に刺咬されることで感染する。 |
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日本紅斑熱 |
2~8日の潜伏期を経て、高熱や全身倦怠感、頭痛を伴って発症する。 |
日本紅斑熱リケッチアを保有するマダニに刺咬されることで感染する。 |
病名 |
病気の特徴(症状) |
感染経路・感染状況 |
予防 |
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デング熱・ |
それぞれ、発熱、発疹、結膜炎、筋肉痛、関節痛、倦怠感、頭痛等の症状を示す。デング熱は重症化すると死亡する場合がある。ジカウイルス病は、妊娠中の感染と胎児の小頭症等との関連性が強く示唆されている。 |
ウイルスを保有する蚊(主にヤブ蚊)に刺されることにより感染する。東南アジアやアフリカ、中南米など、熱帯・亜熱帯地域で流行している。近年の温暖化による媒介蚊生息域拡大による流行地域の広がりが懸念される。 |
流行地域では蚊除け剤の使用や、長袖・長ズボンを着用して素肌の露出を少なくする。デング熱は再感染時に重症化のリスクが高くなることから、過去に感染歴を持つ者は特に注意を要する。 |
病名 |
病気の特徴(症状) |
感染経路・感染状況 |
予防 |
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オウム病 |
突然の発熱で発症し、咳や痰を伴う。全身倦怠感・食欲不振・筋肉痛・関節痛・頭痛等のインフルエンザのような症状を示す。重症では呼吸困難・意識障害等を起こし、診断が遅れると死亡する場合もある。 |
インコ、オウム等の糞に含まれる菌を吸い込んだり、口移しでエサを与えることによっても感染する。2002、2005年、国内の動物展示施設で従業員や来場者に集団感染があった。2014年、2021年には事業所でドバトが原因の集団感染があった。 |
インコ、オウム類に口移しでエサを与えない等、濃厚な接触を避け、節度ある接し方が大切である。ケージ内の羽や糞をこまめに掃除し、鳥の世話やケージの掃除をするときは、マスクや手袋をする。 |
病名 |
病気の特徴(症状) |
感染経路・感染状況 |
予防 |
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レプトスピラ症 |
5~14日の潜伏期の後に、38~40度の発熱、悪寒、頭痛、筋肉痛、結膜充血等の初期症状で発症する。重症の場合は、発症後5~8日目に黄疸、出血、腎機能障害等の症状が現れる。 |
ネズミ、犬等の尿や尿に汚染された水・土等から皮膚や口を介して感染する。全国で散発的に発生し、地域によっては集団発生も報告されている。 |
汚染の可能性のある水・水辺などには近づかない。必要時には、手袋やゴーグルなど着用して、水や土壌に直接触れないようにする。ネズミの駆除や侵入阻止等の動物対策により、店舗内の清潔を保つ。 |
※ 長崎県内で近年発生が確認された四類感染症について記載しています。
(長崎県感染症発生動向調査年報より)
細菌やウイルス等が動物の口の中にいる場合があるので、口移しでエサを与えたり、スプーンや箸を共有したりするのはやめましょう。動物との入浴や布団に入れて寝ることも、濃厚に接触することになるので要注意です。
動物は、動物自身には病気を起こさなくても、人に病気を起こす病原体を持っていたり、動物の毛に寄生虫の卵等がついていることがあります。また、動物やその唾液や粘液に触れた手で、知らないうちに自分の目や口、傷口等をさわってしまうこともあるので、動物に触れたら必ず手洗い等をしましょう。
のら猫・のら犬をはじめ、野生動物はどのような病原体を保有しているか分かりません。野生動物にはむやみに触れないようにしましょう。また、家庭での野生動物の飼育は避けましょう。なお、野生動物の肉(ジビエ)を食べる場合は、中心部までしっかり加熱しましょう。
餌として、生肉を与えてはいけません。生肉や加熱不十分な肉には、有害な寄生虫や食中毒菌、薬剤耐性菌が存在する可能性があるため、十分に加熱して与えるようにしましょう。また、食べ残しなどは速やかに処理しましょう。
飼っている動物はブラッシング、つめ切り等、こまめに手入れをするとともに、小屋や鳥かごも清潔にしておきましょう。タオルや敷物、水槽等は細菌が増殖しやすいので、こまめな洗浄が必要です。
羽毛や乾燥した排泄物等が室内に充満しやくなります。鳥かごや室内のこまめな清掃のほか、定期的な換気に努めましょう。
ふん尿が乾燥すると、その中の病原体が空気中に漂って、吸い込みやすくなります。ふん尿に直接ふれたり吸い込んだりしないよう気を付け、早く処理しましょう。
動物が排せつを行いがちな砂場や公園は注意が必要です。子どもの砂遊びや、ガーデニングを行った後は、十分に手を洗いましょう。また、糞を見つけたら速やかに処理しましょう。
飼い主には、狂犬病予防法で飼い犬の登録と飼い犬への毎年の狂犬病予防注射、鑑札と注射済票の装着が義務付けられています。犬の登録と年1回の狂犬病予防注射を必ず受けましょう。詳しくは動物愛護管理センター(Tel:844-2961)にお問い合わせください。
(注)掲載している内容の一部は、「動物由来感染症ハンドブック2024」(厚生労働省発行)より抜粋しています。
動物由来感染症について<外部リンク> (厚生労働省ホームページ)
蚊の生息調査について<外部リンク> (長崎県ホームページ)
狂犬病予防集合注射について (長崎市動物愛護管理センターホームページ)