文・宮川密義

「長崎のザボン売り」(バックナンバー13「長崎の食べ物賛歌」参照)は歌のヒットで“長崎名物”となった好例ですが、長崎の歌の大部分に名所名物が取り入れられており、このサイトでも、それぞれのテーマの中で既に多数紹介ずみです。
名所・名物に絞って作られた歌は長崎市内のものだけで約50曲。そのほとんどに踊りの振りが付き、盆踊りや夏祭りで市民に親しまれています。
このコーナーでは、それらの中から何曲かピックアップしてみました。

1.「ぶらぶら節」
(昭和47年=1972、高橋掬太郎・作詞、細川潤一・編曲、照菊・歌)


民謡の旋律に高橋掬太郎(たかはしきくたろう)の詞を乗せた新作です(バックナンバー31「長崎ぶらぶら節」参照)。
1番と3番は江戸時代の出島と港の様子、5番には今の眼鏡橋と石ただみなど長崎の名所を、2番には諏訪神社の秋祭り「くんち」、4番に春の名物行事の凧揚げ(長崎では“ハタ揚げ”と呼称)を挟んでいます。歌詞の「旗上げ」は誤りです。


復元された出島・オランダ屋敷の一部


2.「長崎県名所行進曲」
(昭和9年=1934、原 善麿・作詞、瀬戸口辰弥・作曲、小野喜代子・歌)


昭和9年、佐世保の軍港新聞社が佐世保市制30周年を祝って、タイヘイ・レコードに委託して作った「佐世保小夜曲」のB面に収められた歌です。2曲とも軍港新聞社からの依頼で作詞されました。
原善麿(はらよしまろ)さんは昭和初期から活躍した民謡詩人で、銀行に勤めながら佐世保市内の詩人たちと活動を続け、昭和6年に楽器店とレコード会社が歌詞を募集した際、「新佐世保小唄」が入選。それ以来、佐世保の歌を中心に多くの作品を生みました。
この「長崎県名所行進曲」は佐世保生まれですが、島原半島、平戸、長崎、雲仙の見どころを歌いつづっています。




「長崎県名所行進曲」の
レコード・レーベル部分


3.「長崎ばやし」
(昭和46年=1971、長崎民踊保存会・詞、市川昭介・曲、都はるみ・歌)


昭和45年、開港400年記念盤として発表された「ヨカバイ音頭」(バックナンバー37「長崎言葉の歌(中)」参照)と「ギャマン小唄」の人気がそれほどでもなかったので、代わりに長崎民踊保存会が知恵を集めて作詞して出来た歌です。
都はるみさんのハイテンポでエネルギッシュな歌と踊りが人気を集め、港祭りに変わる「長崎まつり」パレードの定番となり、ご婦人たちが踊りながら練り歩く様は壮観なものでした。今でもイベントでよく踊られる息の長いヒット曲で、全国の盆踊り歌を集めた20曲のCDアルバム「決定版 盆踊り大会全曲集」にも収録されているほどです。
この歌には長崎の名所や祭りが散りばめられており、3番は秋祭り“長崎くんち”と、演し物の“龍(じゃ)踊り”を、6番は春の名物行事“ハタ揚げ”を歌っています。



「長崎ばやし」のレコード表紙
7番の“彦さん山の こんげんよか月ゃ〜”は狂歌師・蜀山人(しょくさんじん=太田南畝)が「長崎の山から出づる月はよか こんげん月はえっとなかばい」と長崎言葉で詠んだ歌(バックナンバー23「長崎の月を歌う」参照)を取り入れたもので、中秋の夜、南東にそびえる彦山から出る月は最高の眺めです。

「長崎ばやし」のパレード(長崎まつりで)


4.「長崎旅情」
(昭和46年=1971、西沢 爽・作詞、市川昭介・作曲、都はるみ・歌)


「長崎ばやし」のB面に収録された歌で、「長崎ばやし」の続編の性格を持ち、長崎の名所や行事を都はるみさんがコミカルに歌っています。
1番のオランダ坂は雨がよく似合う長崎観光のメッカ。(バックナンバー8〜9「雨にちなむ歌」参照
2番の港に架かる橋は“虹の橋”ですが、長崎港の入口には現在「女神大橋」の架橋工事が進められています。
3番の「銅座町」は「思案橋」界隈に続く長崎を代表する夜の歓楽街で、「鍛冶屋町」も思案橋に近いにぎやかな町です。
4番は秋祭り“長崎くんち” (バックナンバー12「長崎くんちの歌」参照)がテーマで、「アオモチ」は“恋人”のことです。



雨に濡れたオランダ坂(南山手)


5.「長崎めがね橋」
(昭和46年=1971、やなせたかし・作詞、小川寛興・作曲、倍賞千恵子・歌)


「アンパンマン」などで知られる漫画家で、「手のひらを太陽に」などの作詞家でもある、やなせたかしさんの作品らしく、全国に知られた長崎の眼鏡橋を、絵本を開いていくような楽しい描写で、倍賞千恵子さんが明るく軽快なテンポで歌い進めています。
NHKがテレビとラジオで流していた童謡シリーズ「NHKみんなのうた」の中で歌われました。
テレビではオランダ坂などの映像を流して異国情緒を盛り込んでいましたが、いわゆる“お国もの”でも、この歌は反響がよく、LPに収録したキングレコードは、この歌を第1曲目に配した程でした。


ライトアップされた夜の眼鏡橋


6.「港長崎めがね橋」
(昭和48年=1973、石本美由起・作詞、山路進一・作曲、金田たつえ・歌)


「長崎のザボン売り」(バックナンバー13「長崎の食べ物賛歌」参照)以来、数多くの長崎ものを作詞している石本美由起(いしもとみゆき)さんの30曲目の長崎の歌です。
歌詞は2節ですが、間に長崎民謡「ぶらぶら節」を挟み、眼鏡橋や出島の風情を、「花街の母」でヒットを飛ばした金田たつえさんがしっとりと歌いました。



「港長崎めがね橋」のレコード表紙


7.「ばってん長崎」
(昭和50年=1975、出島ひろし・作詞、細川潤一・作曲、江崎はる美・歌)



長崎を東西南北に分けて名所を紹介しています。盆踊りで人気を集めました。
キングレコードが佐世保のイベントを歌った「西海の火祭り音頭」をレコードにする際、B面に長崎の歌を入れることになり、急きょ長崎の出島ひろしさん(ペンネーム)に相談、作詞も依頼しました。
出島さんは長崎のPRになれば…と、長崎の名所名物を東西南北に分けて散りばめ、完成させました。
一番の「カルルス」は明治末期から昭和10年ごろまで長崎市中川で人気を集めた温泉のことで、「蛍茶屋」は江戸時代、長崎街道に旅立つ人たちが別れの水盃を交わしたという茶屋(バックナンバー6「古き良き時代を歌う」参照)があった所で、今では唯一、一ノ瀬橋にその時代の面影が残っています。


彦山の横から出た10月の満月(旭町岸壁から撮影)


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