文・宮川密義


1.「長崎シャンソン」
(昭和21年=1946、内田つとむ・作詞、上原げんと・作曲、樋口静雄・歌)


終戦からちょうど1年目の昭和21年8月に、戦後の長崎の歌第1号として登場しました。
終戦直後の歌にしては“のどかな良き時代”の長崎風景が描かれています。
南蛮船でにぎわう長崎港や丸山、オランダ屋敷の情緒が軽快なテンポで歌われていますが、この歌の魅力は長崎言葉で「見まっせヨカトコ 寄りまっせ」と呼び掛けている部分です。いわば長崎の観光ソングです。
この歌のヒットで“長崎=バッテン”が強くアピールされ、その後に相次いだ「長崎のザボン売り」などとともに、戦後の長崎観光と復興に大きく寄与したことは間違いありません。


「長崎シャンソン」の
レコードレーベル


2.「長崎浜おどり」
(昭和38年=1963、小野金次郎・補作詞、小沢貴与志・採譜、新橋照千代・歌)


前回(バックナンバー36「長崎言葉の歌」(上)参照)で紹介した「長崎月琴節」とカップリングされた踊りのための新民謡です。長崎の民謡「浜節」(4番以外は新作)をベースに、アップテンポの伴奏と囃子が入り、ハイヤ節ばりのコミカルな楽しい歌になっています。
長崎言葉は各節で繰り返される※印部分の囃子に使われています。
「あなたはいつでも可愛いね、お父さま、お母さまもご自慢でしょう」と、踊る娘さんをたたえる情景です。
「キタキタキタキタ…」は特に意味はなく、踊りに弾みを付けるための囃子詞(はやしことば)のようです。


3.「ヨカバイ音頭」
(昭和45年、井田誠一・詞、鈴木庸一・曲、榎本美佐江、鈴木正夫・歌)


昭和45年は開港400年でした。長崎市では「長崎まつり」と名付けて、4月に記念式典などが催されました。
その記念に「ヨカバイ音頭」と「ギヤマン小唄」の2曲をカップリングしたレコードが作られ、4月26日の前夜祭で発表しましたが、影が薄かったため、翌46年、今度は長崎民踊保存会が知恵を集めて作詞した「長崎ばやし」のレコードが出て人気を集め、こちらは今も踊りの定番となっています。
「ヨカバイ音頭」に取り込まれた長崎言葉は「よか」と「ばってん」を軸に組み合わせています。
前回でも触れましたが、「よか」は「良い」、「ばってん」は「けれども」の意味であり、「よかばってん」は「よいけれども」と否定的になり、厳密には意味不明になりますが、ここでは単に言葉の妙味を囃子に取り込んで、面白く展開しています。



「ヨカバイ音頭」のレコード表紙


4.「からゆきさん」
(昭和49年=1974、本間繁義・作詞、八坂邦生・作曲、一寸法師と親ゆび姫・歌)


昭和49年、突然「からゆきさん」と名付けた歌が同時に2曲出て話題になりました。(バックナンバー19「貧困の悲劇“からゆきさん”を歌う」参照
当時、“からゆきさん”を素材にした小説、山崎朋子著「サンダカン八番館」が話題になり、映画「サンダカン八番館・望郷」も作られました。
そのムードの中で、フォーク・グループ(一寸法師と親ゆび姫)と演歌コーラス・グループ(松井久とシルバースターズ)が同名異曲の「からゆきさん」を同時に発売、長崎で発表会を開くなどして競いました。
2曲ともそれほどヒットしませんでしたが、地元の人が作詞、作曲した一寸法師と親ゆび姫の歌は方言のセリフ入りで、話題にはなりました。
セリフは“からゆきさん”の舞台となった島原半島の方言ですが、長崎の方言に似ています。
「貧乏じゃったけん」は「貧乏だったから」、「つんのーて」は「連れだって」、「ですばい」は「ですよ」、「こげんして」は「このようにして」、「うったちば」は「私たちを」で、難解な言葉は「つんのーて」くらいでしょうか。


“からゆきさん”を運んだ石炭船(明治の口之津港)


5.「捧げたとよ」
(昭和50年=1975、石川せいどう・補作詞、沢しげと・作曲、立花みどり・歌)


方言だけでつづられた歌で、長崎言葉というより“博多弁”です。
この歌は高峰三枝子さんのヒット曲「湖畔の宿」(昭和15年)の節で歌われた長崎の「おうちゃよかとき」(バックナンバー26「長崎の替え歌」参照)を基にした新作です。
長崎では「おうちゃよかとき どげん云うたへ/帯も買うてやる 着物も買うてやる/時にゃ映画(かつど)に連れて行く ねェ/そげん云うちょってね/うちばだますとへ/そいばってん うちは思うとっとよ…」の1節だけ歌われましたが、題名は付いていません。
これを訳すと「あなたは仲の良い時、なんと言いました? 帯も着物も買ってあげる、時には映画(昔は活動写真と呼んでいました)に連れて行く…とねぇ、そう言っていながら私をだますのですか? それでも私はあなたを思っているのですよ」と、逃げ腰の男性(旦那)に詰め寄る女性の歌です。
「捧げたとよ」も同じ情景で、「捧げたとよ」と同時期に、「惚れとっとよ」(加藤新吾・作詞、松井淳子・補作、沢しげと・作編曲、三田恵子・歌)も出ました。
どちらも歌詞は少し違う程度ですが、「どげん云うたね」の場合、長崎言葉では「どげん云うたへ」です。「へ」は「ye」でなく「he」と発音します。

「捧げたとよ」のレコード表紙


6.「長崎名物ぶし」
(昭和51年=1976、出島ひろし・作詞、村沢良介・作曲、市川勝海・歌)




長崎のアマ作詞家(出島ひろし)の作品で、1番は思案橋や丸山、めがね橋などの名所、2番にザボン、カステラ、べっ甲…の長崎土産、3番にボタ餅、茂木ビワ、しっぽく、ちゃんぽんなど長崎の味を盛りだくさんに紹介した題名通りの“名物賛歌” (バックナンバー13「長崎の食べ物賛歌」参照)ですが、4番には長崎の方言を展開しています。
4番のカタカナ部分は(女性から)「あなたは粗暴で、あまり見かけない口の悪い人。あの人は出来た方(人格者)で、すてき」、(男性から)「僕の恋人は美人ではないが、かわいげのある女」という意味です。
なお、「ヤダモン」は、長崎のハタ揚げ(たこ揚げ)で、相手の紐を切るため竿の先に付けたトゲのある木の枝の呼び名でもあります。


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