文・宮川密義

長崎を代表する食べ物は「しっぽく 」「ちゃんぽん 」「皿うどん」や「カステラ 」「ザボン漬け」など数多くありますが、当然ながら歌にも取り込まれ、長崎独特の情緒を演出する役割を担っているように思います。
それらの歌を挙げていけばキリがないので、ここでは話題性のある歌を選んでみました。


〜カステラ、ぼたもち、落花生などを歌う〜

1.「長崎節」
(昭和5年=1930年、西岡水朗・作詞、杉山長谷夫・作曲、植森たかお・歌)




「長崎節」のレコード・ラベル

長崎出身の作詞家・西岡水朗(にしおかすいろう)さんが作詞した長崎の名物賛歌です。
バックナンバーの「古き良き時代を歌う」にも紹介しているので、歌詞は6番だけにします。
食べ物は6番に戦前の長崎の人気メニューをコミカルにまとめています。
「どうはっせん」は長崎弁で「落花生(らっかせい)」のことで、中国音の転化。
「南京豆(なんきんまめ)」ともいい、昭和になって「ピーナット」とも呼びました。
「お諏訪のぼたもち」は諏訪神社の境内にある月見茶屋で明治のころから売られている名物もち。
この歌のヒットで“あじゃよかろ”は、はやり言葉にもなりました。
「東坡肉(トウパニー)」は中華料理やシッポク料理に出る豚の角煮のことです。
なお、作曲は西岡さんを東京に誘った杉山長谷夫(すぎやまはせお)さん。
歌った植森(うえもり)たかおは、声楽家・奥田良三(おくだりょうぞう)さんの別名です。


2.「長崎名物ぶし」
(昭和51年=1976年、出島ひろし・作詞、村沢良介・作曲、市川勝海・歌)




1番は思案橋などの長崎名所、2番にザボン、カステラなどの長崎土産、3番にボタ餅、ちゃんぽんなどの長崎の味、4番には長崎の方言を面白く紹介しています。
出島ひろしは当時、長崎市内の会社員のペンネーム。
作詞としてはこれがデビュー作ですが、これも長崎の魅力を詰め込んだ“長崎名物賛歌”です。
民謡舞踊が盛んになり始めたころにレコードが作られ、ご婦人方が盆踊り大会などでよく踊っていました。


〜果物の歌〜

3.「長崎のザボン売り」
(昭和23年=1948年、石本美由起・作詞、江口夜詩・作曲、小畑実・歌)




石本美由起(いしもとみゆき)さんの作詞家デビュー第1作。
詩人・北原白秋(きたはらはくしゅう)の詩集「思ひ出」の中の『朱欒(ざぼん)のかげ』と『人形つくり』にヒントを得て“ザボン娘”をイメージして作詞したそうです。
ザボンは寛文7年(1667年)に、日本で初めて長崎にジャワからザボンの種が持ち込まれ、西山神社の境内にまかれました。
その後、ザボンは見事に実をつけ、今でも3代目のザボンの木が健在です。
歌がヒットした当時、長崎にはザボンは見当たりませんでした。
大正5年(1916年)に害虫が発生、他の柑橘類への影響を心配した市当局が市内のザボンの木を伐採したため、ザボンは皆無の状態でした。
長崎を訪ねた観光客から観光案内所に苦情も出る始末。


「長崎のザボン売り」の楽譜表紙

しかし、ほどなく駅前広場に、鹿児島県の阿久根から持ち込まれたザボンが並べられ、“ザボン娘”も登場しました。
県内産のザボンも次第に増えてザボンは長崎の特産品となりました。


〜ちゃんぽんの歌〜

4.「オランダ坂をのぼろう」
(昭和40年=1965年、永六輔・作詞、いずみたく・作曲、デューク・エイセス・歌)




これは食べ物のちゃんぽんの歌というよりも、『ちゃんぽん』の言葉の響きを方言の『バッテン』に絡ませて、リズミカルに歌ったものです。
歌ったデューク・エイセスの当時のメンバーに、長崎の出身のトップテナー・谷口安正(たにぐちやすまさ)さんがいました。
谷口さんはコミカルな歌い方で人気がありましたが、残念なことに、平成2年(1990年)の大晦日に51歳で亡くなりました。

長崎名物の「ちゃんぽん」(左)と「皿うどん」(右)


5.「チャンポン」
(平成10年=1998年、川田金太郎・作詞、作曲、金太郎樂団・歌)




国見町在住のフォークシンガー、川田金太郎(かわだきんたろう)さん率いる4人組「金太郎樂団」初のCDアルバム「LETTERS」に収録されています。
金太郎さんは東京でラジオのパーソナリティーや司会業、役者などをしていた人。
仲間とオートバイで普賢岳噴火災害の募金をしながら島原を訪れましたが、国見町が気に入って、仲間数人と国見に移住し、現在はNHK長崎放送局の夕方の番組「金太郎のがまだせ5」のパーソナリティーを務めるなど、九州各地で活躍中です。
明治33年(1900)に長崎で考案され、長崎を代表する人気料理となった“ちゃんぽん”の作り方を、詳しく説明しています。
まさに“ちゃんぽんレシピ・ソング”です。


〜しっぽく料理の歌〜

6.「しっぽくパラダイス」
(平成4年=1992年、松原一成・作詞、大鋳武則・作曲、ZINM・歌)




長崎をテーマにした歌にこだわり続けた長崎のグループ、ZINM(ジンム)のCDアルバム「長崎熱」には、ヒット曲「みんな長崎を愛してる」をはじめ14曲の長崎の歌が収められています。
この歌はその中の1曲で、長崎料理「卓袱(しっぽく)」をベースに、べっ甲細工、ギヤマン、ビードロ、月琴節、皿うどん…など、長崎の名物を散りばめ、軽快なテンポで歌っています。
先の「オランダ坂をのぼろう」と同様、“シッポク”の言葉の響きを巧みにリズムに乗せた傑作です。


長崎名物「卓袱(しっぽく)料理」


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