文・宮川密義


*高度成長期
昭和31年(1956)、経済白書が「もはや戦後ではない」と結論づけて流行語にもなりました。この期間は一時期“なべ底不況”が見られたものの、「神武景気」から「岩戸景気」へと経済成長が続きました。
音楽・芸能分野ではロカビリーブームや太陽族映画、うたごえ喫茶などが流行。テレビの普及で“一億総白痴化”の嘆きの声も聞かれる一方、レコード界は蓄音機で聴くSP盤から新素材、ステレオ方式のEP盤、LP盤への転換が行われ、新しい時代を迎えます。長崎の歌は全体に低調に推移しました。(表中、下線付きの青文字はバックナンバーにリンクしています)

【昭和31年(1956)】 全12曲から10曲
No. 曲 名 歌 手 作 詞 作 曲
1 1 雨のオランダ屋敷 西村正美 牧喜代司 水時富士夫
2 1 お春恋しや
コロムビア・ローズ 石本美由起 堀場正雄
3 2 からゆきさんの船は行く 松山恵子 多旗享 中尾正
4 2 さらばザボンの港町 若山彰 関沢新一 三界稔
5 3 長崎ナイト 若原一郎 矢野亮 林伊佐緒
6 3 アチャサン屋敷の 中村メイコ サトウハチロー 成本信夫
7 4 長崎の唐人娘 関真紀子 野村俊夫 古関裕而
8 6 ヨカバッテン 鈴木三重子 大倉芳郎 長津義司
9 8 波止場への道 松島詩子 矢野亮 中野忠晴
10 8 何年振りかでやって来た 中島孝 池田功 三界稔
※ほかに「からゆきさんの船は行く」「玄海船乗り」があります。

●主な出来事

1月=新潟県の弥彦神社の初詣で124人圧死。5月=売春防止法公布(33年施行)。9月=火星が32年ぶりに地球に大接近。10月=日ソ国交回復共同宣言(12月12日発効)。12月=日本の国連加盟が総会で可決。
この年、「週刊新潮」が創刊され週刊誌ブームへ。熊本県水俣港の魚貝類常食者に奇病(水俣病)が多発し問題化しました。
本県関係では8月に第2回原水爆禁止世界大会が長崎で開催。8〜9月にかけて台風9、12号による大被害が出ています。
世相では、映画「太陽の季節」が大ヒット、その後「狂った果実」など類似作品が続出、“太陽族映画”に非難が高まりました。
流行歌は「リンゴ村から」「別れの一本杉」など農村と都会を結ぶ歌がヒットしましたが、長崎ものにヒットは出ていません。


【昭和32年(1957)】 
全12曲から8曲
No. 曲 名 歌 手 作 詞 作 曲
1 5 慕情の港 大津美子 高橋掬太郎 飯田三郎
2 7 長崎の蝶々さん
美空ひばり 米山正夫 米山正夫
3 9 バタフライ 沢たまき 大高ひさを 杉原泰蔵・編曲
4 9 長崎恋唄 鈴木三重子 門井八郎 下川博省
5 9 ぶらぶら節 照菊 高橋掬太郎 細川潤一(補作曲)
6 9 九十九島 三橋美智也 玉井向一郎 細川潤一
7 12 じゃがたら恋文 市丸 吉川静夫 大村能章
8 12 雪之丞変化 美空ひばり 西条八十 古賀政男
※ほかに「歌う弥次喜多 黄金道中」「玄海だより」「平戸節」「玄海がらす」(今村隆)。

●主な出来事
1月=美空ひばりがファンに塩酸をかけられて負傷。3月=原爆被害者の医療法公布。4月=瀬戸内海で第五北川丸が座礁転覆、死者・不明113人。7月=25日、九州西部の豪雨で諫早の815人を含む死者・不明992人(諫早大水害)。10月=ソ連が世界初の人工衛星スプートニク号の打ち上げに成功。12月=カラーテレビ実験放送開始。この年「なべ底不況」。
世相では長崎出身の丸山明宏の「メケ・メケ」が話題を集め、元禄時代の小姓の衣装を取り入れたユニセックスファッションで“神武以来の美少年”“シスターボーイ”などと評され一世を風び。歌は浜村美智子の「バナナ・ボート」で“カリプソ・ブーム”。島倉千代子の「東京だよおっ母さん」、三波春夫の「チャンチキおけさ」などヒット。
長崎では10月に三菱長崎造船所が創業100周年でグラバー邸を長崎市に寄贈。7月、タイムリーに美空ひばりの「長崎の蝶々さん」が出てヒット、グラバー邸が長崎観光の核となっていきます。

美空ひばり「長崎の蝶々さん」
のレコード・ラベル

【昭和33年(1958)】 全7曲から6曲
No. 曲 名 歌 手 作 詞 作 曲
1 1 島原の子守唄 島倉千代子 宮崎康平(採譜) 古関裕而(編曲)
2 1 ばてれん船 若山彰 野村俊夫 古関裕而
3 6 長崎慕情 中田ハルノ 服部鋭夫 五十嵐正一
4 6 黒い雨 池真理子 西沢爽 原六朗
5 6 雨と港と石畳 大江洋一 西沢爽 船村徹
6 12 南蛮月夜 多摩幸子 高月ことば 山田栄一
※ほかに「玄海がらす」(三波春夫)。

●主な出来事

3月=関門トンネル開通。9月=狩野川台風で死者・不明1,269人。11月=皇太子と正田美智子さんの婚約発表。“ミッチー・ブーム”も。12月=1万円札発行。東京タワー完成。この年、テレビ受信契約が100万台を突破、フラフープが流行、団地族、ながら族、白タク、神風タクシー、すし詰め教室…などの流行語も。長崎では3月29日長崎市役所が火災、2階の大半を焼失。5月には中国国旗引き下ろし事件が発生、国際問題に。
歌関係では国産初のステレオレコードが発売され、ロカビリー・ブームが起こり、フランク永井、三橋美智也、石原裕次郎らの歌がヒット。反面、長崎の歌は低調でした。


【昭和34年(1959)】 全8曲から5曲
No. 曲 名 歌 手 作 詞 作 曲
1 ? 長崎の鐘
  「あたらしき」付き
藤山一郎 サトウハチロー、
永井隆
古関裕而、
藤山一郎
2 4 長崎市民歌 藤山一郎、安西愛子 長崎市選定 古関裕而
3 4 モッテコイ節 浜子 長崎市選定 古関裕而
4 9 長崎の兄妹 若山彰 野村俊夫 古関裕而
5 10 じゃがたらお春 豆千代 石川潭月 柴田佳典
※ほかに「島原の子守唄」(森繁久弥)「落城の賦」(同)「九州よかとこ」(三橋美智也)。


「長崎市民歌」
EP盤と歌詞カード(部分)

SP盤、EP盤とも付けられた
「モッテコイ節」の振り付け
●主な出来事

1月=メートル法施行。4月=皇太子ご成婚式。9月=伊勢湾台風で東海地方に大被害、死者・不明5,041人。10月=教職員勤務評定が「長崎方式」で妥結。11月=安保阻止の国会請願デモ隊約2万人が国会構内に入るなど安保闘争が激化する一方、経済は“岩戸景気”に。この年、カミナリ族が横行、緑のおばさんが登場します。
歌謡界では和田弘とマヒナスターズ、村田英雄、ペギー葉山、小林旭らの歌がヒットしましたが、長崎ものは低調が続きました。


【昭和35年(1960)】 全7曲から4曲
No. 曲 名 歌 手 作 詞 作 曲
1 2 長崎夜曲 岡田ゆり子 石本美由起 万城目正
2 2 島原地方の子守唄 ペギー葉山 宮崎耿平、妻城良夫 宮崎耿平
3 7 ナガサキ マヒナスターズ 吉川静夫 渡久地政信
4 9 あれが岬の灯だ 橋幸夫 佐伯孝夫 吉田正
※ほかに「みかん音頭」「長崎夫人の唄」「平戸じゃがたら娘」。

●主な出来事

1月=日米安保条約調印。3月=三池争議。6月=15日・安保反対の全学連4,000人が国会構内突入を図り警官隊と衝突、東大生の樺美智子さんが死亡。17日・新安保条約批准書を交換、発効。10月=浅沼社会党委員長が3党立会演説会で右翼少年に刺殺される。11月=三池争議が282日ぶりに解決。12月=第二次池田内閣が発足、国民所得倍増計画(高度成長政策)を決定。この年、ダッコちゃんブームを招き、電気冷蔵庫が普及する一方、インスタント食品が続出。レコード界では坂本九、水原弘、ザ・ピーナッツ、平尾昌晃らの歌がヒットしましたが、長崎ものはペギー葉山の「島原地方の子守唄」程度でした。


【昭和36年(1961)】 全12曲から6曲
No. 曲 名 歌 手 作 詞 作 曲
1 4 花の八幡船 三橋美智也 藤間哲郎 桜田誠一
2 6 長崎県民歌・南の風 コロムビア・ローズ、
若山彰
県民歌作詞委員会 山口健作
3 6 長崎県民音頭 コロムビア・ローズ、
若山彰
脇太一 木野普見雄
4 6 南海の美少年 橋幸夫 佐伯孝夫 吉田正
5 9 長崎のチャチャさん コロムビア・ローズ 丘灯至夫 上原げんと
6 9 長崎の夜の物語 高城丈二 薩摩竜 大森盛太郎
※ほかに、「奈良尾音頭」「大村ワルツ」「桜田の堀(大村小唄)」「島原子守唄」(野崎せい子)「花の八幡船」「長崎物語」(朝倉エリ)が出ています。

●主な出来事

4月=ソ連の人間宇宙船打ち上げ成功。5月=五島出身の佐田の山が幕内初優勝。6月=農業基本法公布。7月=韓国朴正熙政権成立。県内関係では、4月に天皇・皇后両陛下が県内ご旅行。12月=旧軍人らによる内閣要人暗殺陰謀の「三無事件」で長崎の川南豊作ら13人逮捕。この年、小児マヒが流行したほか、ソ連の核実験の影響による放射能雨が問題化。少年少女に睡民薬遊びが流行。ジャズ喫茶・うたごえ喫茶が盛況でした。
歌謡界は坂本九の「上を向いて歩こう」、植木等の「スーダラ節」などが大ヒット。長崎ものでは天草四郎を歌った「南海の美少年」(橋幸夫)がヒットしたほか、県民意識の高揚を図る「長崎県民歌・南の風」と「県民音頭」が作られました。


【昭和37年(1962)】 全10曲から5曲
No. 曲 名 歌 手 作 詞 作 曲
1 ? 長崎蛇おどり 小宮恵子 横井弘 細川潤一
2 ? 島原エレジー 花村菊江 小川比富美 竹岡信幸
3 2 からゆきさん 島倉千代子 宮崎耿平 古関裕而
4 4 伊王島音頭 向島しのぶ、鳴海重光 神田まさ子 木野普見雄
5 4 香焼音頭 向島しのぶ 柴田稔夫 木野普見雄
※ほかに「島原美少年」「壱州おけさ」「孤島の丘」「長崎の新聞アルバイト」「天草の雨は」があります。

●主な出来事

3月=離島振興法の10年延長決定。5月=国鉄三河駅で電車が衝突、死者160人。8月=堀江謙一さんがヨットで太平洋単独横断に成功。10月=キューバ危機。県内関係では、5月・長崎市西坂公園に日本二十六聖人殉教記念碑が完成。6月8日に同所で日本二十六聖人列聖100年祭開催。7月には諫早、北高中心に九州北西部で集中豪雨があり死者・不明227人を出したほか、日窒江迎鉱業所のボタ山が崩れ炭鉱住宅など209戸を押しつぶしました。9月26日には福江市で大火があり、480戸を焼失しています。この年、住宅難が深刻となり、東京ではスモッグが問題化しました。
歌謡界では11月に美空ひばりと小林旭が結婚して話題を集めました。歌は「ルイジアナ・ママ」「若いふたり」などのほか、橋幸夫・吉永小百合のデュエット「いつでも夢を」もヒットしましたが、長崎ものは低調でした。


「伊王島音頭」と
「香焼音頭」を歌った
向島しのぶ

【昭和38年(1963)】 全12曲から8曲
No. 曲 名 歌 手 作 詞 作 曲
1 1 長崎エレジー 石原裕次郎 島田磬也 大久保徳二郎
2 5 長崎慕情 マヒナスターズ 吉川静夫 八州秀章
3 6 長崎の女(ひと) 春日八郎 たなかゆきを 林伊佐緒
4 8 長崎盆踊り 扇ひろ子、大下八郎 小川流太郎 古関裕而
5 10 長崎浜おどり 新橋照千代 小野金次郎・補作 小沢貴与志・採譜
6 10 池島音頭 大下八郎、円山鈴子 小野温 天知真佐雄
7 10 長崎月琴節 野崎せい子 小野金次郎・補作 佐野雅美・採譜
8 10 島原乙女 森繁久弥、おさげ姉妹 森繁久弥、宮崎耿平 遠藤実
※このほか「島原の本丸踊り」「この道を行こうよ」「山の家讃歌(雲仙讃歌)」「島原七万石」が出ています。

●主な出来事

1月=米国が原子力潜水艦の日本寄港を申し入れ(原則同意)。3月=吉展ちゃん誘拐事件発生。11月=三池三川砿でガス爆発、死者458人。11月=ケネディ米大統領暗殺。新千円札発行。12月=力道山、やくざに刺され死亡。本県関係は4月=オランダのベアトリック王女来崎。6月=小さな親切運動本部設置。10月=福江空港開港。この年、経済ではマンモスタンカー・ブーム、世相ではモデルガン、ボウリングがブームを呼びました。「丈夫で長もち」「バカンス」「三ちゃん農業」「ガギっ子」の流行語も生まれました。
レコードは「こんにちは赤ちゃん」「高校三年生」など。また春日八郎の「長崎の女(ひと)」もヒットして、久々に長崎にスポットが当てられました。


春日八郎「長崎の女」の
ジャケット表紙


【昭和39年(1964)】 全10曲から8曲
No. 曲 名 歌 手 作 詞 作 曲
1 ? 長崎の龍踊りばやし つくば兄弟 島内八郎 木野普見雄
2 ? 丸山小唄 向島しのぶ 木野普見雄 木野普見雄
3 3 長崎夜曲 岡晴夫 服部鋭夫 桜田誠一
4 5 長崎エレジー 朝丘雪路 島田磬也 大久保徳二郎
5 6 長崎夜船 下谷二三子 矢野亮 吉田屋健治
6 11 長崎の女(ひと) ブルーエコーズ たなかゆきを 林伊佐緒
7 11 おくんち太鼓 草野士郎 石本美由起 上原げんと
8 12 長崎哀歌 及川三千代 水木かおる 藤原秀行
※ほかに「島原市民の歌」「鹿町音頭」「君は遙かな」が出ています。

●主な出来事

6月=新潟地震、死者26人。6月=ビール・酒類が25年ぶり全面的自由価格に。中国で文化革命運動高まる。8月=米駆逐艦が北ベトナム魚雷艇に攻撃される(トンキン湾事件)。10月=東海道新幹線が開通。10月=東京オリンピック。県内では、4月=香焼炭鉱が閉山し750人離職。9月=長崎市で異常渇水が深刻化。11月=米原子力潜水艦「シードラゴン号」が佐世保入港、デモ隊が警官隊と衝突。この年、三菱長崎造船所が戦前戦後を通して最高の進水量を記録しています。
歌謡界は「お座敷小唄」「夜明けのうた」「東京五輪音頭」「幸せなら手をたたこう」などが歌われ、長崎ものは10曲出たものの低調でした。


【昭和40年(1965)】 全9曲から7曲
No. 曲 名 歌 手 作 詞 作 曲
1 ? 長崎の恋 原耕二 北条密男 下村耕史
2 ? 長崎物語 千葉百合子 梅木三郎 佐々木俊一
3 4 長崎の夢の夜 曽根史郎 木賊大次郎 小畑実
4 5 オランダ坂をのぼろう デュークエイセス 永六輔 いずみたく
5 6 島原を後に 美空ひばり 石本美由起 遠藤実
6 6 ふるさとの空の下で 丸山明宏 丸山明宏 丸山明宏
7 8 長崎の眸 小島弘 宮川哲夫 吉田忠正
※ほかに「九十九島恋しや」「玄界灘」。

●主な出来事

1月=五島有川町出身の佐田の山が横綱に昇進。2月=米軍機がベトナムで北爆開始。6月=福岡県山野炭砿爆発事故、死者237人。日韓基本条約と関係協定に調印、日韓水域での安全操業が確立。10月=朝長振一郎博士にノーベル物理学賞。県内では4月=水不足の長崎市に8日、陸上自衛隊給水派遣隊到着、18日まで高台地区へ配水活動。9日、日鉄伊王島鉱でガス爆発、死者30人、負傷者15人。5月=長崎大学紛争で警官隊200人が学内へ。7月=集中豪雨、長崎市千歳町、神ノ島町でがけ崩れ、合わせて12人死亡、12人重軽傷。9月=長崎市議会が水道料値上げ審議で警官の出動を要請。


「ヨイトマケの唄」とカップリングした
「ふるさとの空の下で」の
レコード・ジャケット

この年、戦後最大の証券不況、消費者物価上昇も問題化。経済不況は国税収入の大幅減収をもたらし地方財政も窮乏しました。世相ではミニスカートが登場。ピンク映画がはんらん。モンキーダンスの流行、エレキブームもこの年でした。
歌は「愛して愛して愛しちゃったのよ」「柔」「まつの木小唄」など。長崎ものは、デュークエイセス、美空ひばり、丸山明宏らの歌が話題になったものの、ヒットまでには至りませんでした。


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