文・宮川密義


今回は“一千万ドル”とも賞賛されている長崎の夜景を“歌さるき”で観賞してみます。眼鏡橋など主な観光地はライトアップされており、夜の観賞スポットは豊富です。(本文中の青文字はバックナンバーにリンクしています)

(1) 稲佐山公園
  夜景を楽しむには最高のスポット。標高333メートルの山頂には展望台があり、宝石を散りばめたような長崎市街をパノラマで。ロープウエイ、スカイウエイでの空中眺望も最高。また宵のうちは、あかね色に染まる西方の島々のシルエットも絶妙。
(2) 立山
  立山公園の下、立山バス停から五社神社下バス停までの道路(ホテル日昇館下)からの眺望はJR長崎駅やオフィス街の町並、そして長崎港、遠くにはライトアップの女神大橋が観賞できます。
(3) 風頭山公園
  春はハタ揚げでにぎわう標高151.9メートルの風頭山(かざがしらやま)からは、手前に思案橋や浜町などネオンがまたたき、左右に横たわる長崎港の水面に映る様々な光、そして正面にはあかね色の空にくっきり稲佐山のシルエットが浮かびます。
(4) 鍋冠山公園
  海抜169メートルの鍋冠山(なべかんむりやま)からは手前に南山手、東山手の洋館群を一望にしながら、長崎市街の中心部から遠くは浦上方面、さらに稲佐山と麓の家々。西方に目を転じると三菱造船のドック、ライトアップの女神大橋、さらに薄暮の海面に浮かぶ香焼、伊王島など島々のシルエット。特に松が枝国際観光埠頭に大型観光船が接岸した夜などは時を忘れてしまいます。まさに“長崎の夜はむらさき”の気分が味わえます。
(5) 女神大橋
  長さ1,289メートル、海面からの高さ65メートル(日本一)の女神大橋。そして斜張橋としては九州一、日本では6番目の長さ。橋の上には歩道もあり、橋の中央から女神寄りの部分で長崎市街を望むことはできますが、夜景は橋上よりも市街側から橋を遠望したほうが趣は増すようです。
(6) グラバー園
  園内はライトアップされており、昼間とは違う洋館などが楽しめますが、グラバースカイロードやグラバー邸の庭園から市街地の夜景も観賞できます。また、グラバー園に昇る途中、ライトアップで浮かぶ大浦天主堂も見逃せません。
(7) 旭町岸壁
  岸壁に腰を下ろし、対岸のJR長崎駅、大波止、出島、大浦海岸を低い目線で眺めると、水面に揺らぐ“光のオブジェ”が美しく、満月が風頭山や彦山あたりから昇る夜は、蜀山人が詠んだ“こんげん月はえっとなかばい”を実感します。
(8) 水辺の森公園
  園内には街灯がともり、夜の散策もムード満点ですが、ここからの眺めは、遠くの女神大橋、近くの街の光、行き交う船や遊覧船の七色のランプ群が水面に揺れる情景に、しばし心を癒されます。
(9) 出島ワーフ
  県美術館前から眺める出島ワーフは昼間と違う顔を見せます。全体にオレンジ色に輝き、それが港の水面に揺れて、ひととき童話の世界に誘われた気分になるかも…。

【夜景観賞スポット マップ】


立山の高台(地図の(2))から見た長崎の夜景


*夜の歌から

バックナンバー14「長崎の夜の歌」でも紹介しましたが、長崎の夜景は戦後間もないころ“百万ドル”とうたわれ、その後“一千万ドル”に格上げされました。夜の長崎は歌の素材にぴったりで、1,700曲を数える長崎の歌からタイトルで拾った素材ランキングでは(1)「女・娘・ひと」、(2)「恋・ロマンス・ロマン」に次いで「夜」「ナイト」が付くタイトルは3位にランクします。
また、歌詞に出るものを含めると100曲を超えると思われますが、そのほとんどが“恋が絡んだ夜の世界”の歌で、“夜景賛歌”は“宝石箱”と表現したさだまさしの「長崎小夜曲」程度です。
★バックナンバーで紹介した“夜の歌”
��14「長崎の夜の歌」
(1)「長崎夜曲」(東海林太郎・歌) (2)「長崎の夜」(藤山一郎・歌)
(3)「長崎の夜」(金沢明子・歌) (4)「長崎ナイト」(若原一郎・歌) 
(5)「長崎ブルース」(青江三奈・歌) (6)「長崎の夜はむらさき」(瀬川映子・歌)
��23「長崎の月を歌う」
(1)「月の居留地」(岡本敦郎・歌) (2)「ぎやまん月夜」(二葉あき子・歌)
(3)「南蛮月夜」(多摩幸子・歌) (4)「ぎやまん朧月」(都はるみ・歌)
(5)「長崎の子守唄」(楠 アコ・歌)
��24「思案橋の歌」
(1)「思案橋ブルース」(高橋勝とコロラティーノ・歌) 
(2)「女の思案橋」(矢野憲一郎とアローナイツ・歌) (3)「思案橋小路」(立花みどり・歌) 
(4)「思案橋恋灯り」(瀬川瑛子・歌)
��25「4つの長崎ブルース」
(1)藤山一郎の「長崎ブルース」 (2)ディック・ミネの「長崎ブルース」
(3)青江三奈の「長崎ブルース」
��28「長崎の女性を歌う(上)」
(1)長崎のランタン娘(小畑 実・歌)
��29「長崎の女性を歌う(下)」
(1)「女の思案橋」(矢野憲一郎とアローナイツ・歌) (2)「銅座の女」(久保たかし・歌)
��32「長崎のオランダを歌う(上)」
(1)「オランダ坂の夜は更けて」(後藤良子・歌)
��43「秘曲・珍曲・話題曲(下)」
(1)「羅紗綿夜曲」(香港フラワーズ・歌)
��52「歌さるき5・銅座〜思案橋」
(1)「長崎の別れ星」(大木英夫・歌) (2)「銅座の宵待草」(浜たかし・歌)
(3)「思い切り橋」(内山田洋とクール・ファイブ・歌) (4)「長崎未練」(青江三奈・歌)
��53「歌さるき6・思案橋〜丸山」
(1)「丸山甚句」(新内枝幸太夫・歌) (2)「長崎夢情」(瀬川瑛子・歌)
��54「歌さるき7・新地〜唐人屋敷」
(1)「長崎夜曲」(三条町子・歌) (2)「青いガス灯のチャイナタウン」(瀬川 伸・歌)
(3)「長崎のチャイナタウン」(平野愛子・歌) (4)「長崎夜曲」(岡田ゆり子・歌)


1.鶴田浩二の「長崎夜曲」
(昭和26年=1951年、竹中 香・作詞、田中幸夫・作曲、鶴田浩二・歌)


「長崎夜曲」は7曲出ています。東海林太郎、三条町子、岡田ゆり子の歌はバックナンバーで紹介ずみです。ここでは残りの4曲から2曲紹介します。
この頃の夜の歌には、光り輝く長崎の夜景の素晴らしさは出ていません。灯りは月の光や青いガス灯で、むしろ、ほの暗い中にエキゾチックなムードを求めようとするものが多かったようです。
鶴田浩二は浜松出身。少年時代から映画に出演。大学を出て松竹に入社、すぐ大役に抜擢され、まもなくドル箱スターに。
歌は昭和26年に「男の夜曲」でデビュー、戦後の歌う映画スター第1号となり、以後「ハワイの夜」などを出していきますが、「長崎夜曲」は「男の夜曲」に続く夜曲シリーズの2曲目でした。


グラバースカイロードから見た長崎市街(撮影・辻本亨一氏)


2.岡晴夫の「長崎夜曲」
(昭和39年=1964年、服部鋭夫・作詞、桜田誠一・作曲、岡晴夫・歌)


岡晴夫(おか・はるお)は戦後も「啼くな小鳩よ」「憧れのハワイ航路」などのヒットを飛ばしていましたが、一時キング・レコードを出てフリーになった時期に、リバイバル企画のためキングに再入社して吹き込んだ新曲の3曲目に当たります。
作詞の服部鋭夫(はっとり・えつお)さんは、もともとオペラが好きで、「マダムバタフライ」のイメージで歌謡曲を書きたかったそうですが、美空ひばりの「長崎の蝶々さん」に先を越されて悔しい思いをしたことがあり、この歌はその長崎への憧れを込めて書いたそうです。
歌詞の「花を売る娘の後を追いかけ…」の描写も、最初「ザボン売る娘の…」としていましたが、「長崎のザボン売り」のヒット直後に現れたザボン売りが娘さんではないと聞いて、慌てて「花を売る娘の」に直したということです。
この歌の光も港の水面にちらちら揺れている程度です。


旭町岸壁(地図の(7))から見た
満月の夜の長崎港


水辺の森公園(地図の(8))から見た女神大橋


3.霧島昇の「長崎の夜」
(昭和30年=1955年、門田ゆたか・作詞、竹岡信幸・作曲、霧島昇・歌)


「長崎の夜」の同名異曲も6曲ありますが、同じ題名の歌がこれほどあるのは長崎ならではのことでしょう。
作詞の門田(かどた)ゆたかさんは「東京ラプソディ」や「ニコライの鐘」などで知られ、作曲の竹岡信幸(たけおか・のぶゆき)さんも「赤城の子守唄」や「悲しき子守唄」のほか、「長崎のお蝶さん」のヒットで知られます。
戦前・戦後を通じて活躍したこのコンビが、昭和26年の藤山一郎の「長崎の夜」に続いて、なぜか「長崎の夜」を2曲書き、当時の人気歌手に歌わせています。
歌詞は、藤山一郎の「長崎の夜」が「赤いランプ」で始まっているのに対し、2曲目のこの歌は「港の灯りもランタンの」と、表現は少し違いながらも「ランプの灯り」から始まります。“月さえ出ない”暗い夜の描写です。

風頭山(地図の(3))から望む長崎市街 (撮影・辻本亨一氏)


4.宇都美清の「長崎の夜」
(昭和27年=1952年、吉川静夫・作詞、加藤光男・作曲、宇都美清・歌)


こちらは軽快なテンポで進行します。「銀のクルス」に始まり「南蛮絵皿」や「シュロの木」「赤い鳥篭」と、小道具は南国のムード。
しかも「長崎 長崎 長崎の夜」というフレーズが1節に2回ずつ出ます。作詞の吉川静夫(よしかわ・しずお)さんは昭和43年に青江三奈の「長崎ブルース」を書いた人。吉川さんの長崎の歌は25年の「唐人夜船」以来2曲目。28年には「おらんだ夜船」も書いており、「長崎ブルース」も夜の歌でした。よほど長崎の夜が気に入ったのでしょう。
宇都美清(うつみ・きよし)は栃木県の宇都宮出身。戦前・戦後のSPレコード時代に活躍した人。ソフトで正統的な歌い方で人気があり、「長崎の夜」でも丁寧な歌い方で、上品な夜の感じを出しています。

鍋冠山展望台(地図の(4))から眺めた薄暮の長崎
(左の船は観光船「ダイヤモンドプリンセス」)


5.「長崎小夜曲―NAGASAKI-CITY-SERENADE」
(昭和57年=1982年、さだまさし・ 作詞、作曲、歌 )


故郷・長崎を愛するさだまさしの“ふるさと賛歌”です。後半に「宝石箱に身を投げた様な港の夜…」と長崎の夜景を描写しています。1,700曲もある長崎の歌で、夜景の素晴らしさを取り入れたのはこの1曲だけのようです。
この歌はもともと、全電通近畿地本が結成30周年の記念事業の一つ「反核・平和の願いを込めた歌」として、被爆地・長崎出身のさだまさしに依頼して作られたものです。
組合ではレコードを5万枚作り、49,000人の組合員に配りましたが、まもなく大きな反響を呼び、一般も入手できるレコードの要望が相次ぎました。
そこで同年、フリーフライト・レコードがテレビドラマの主題歌「北の国から」とのカップリングでシングル盤を出しました。
さだまさしの東京・武道館での3333回記念コンサートのオープニングを飾ったほか、長崎の稲佐山での「夏 長崎から」と題した恒例の平和コンサートもこの歌から歌い始め、20回目のファイナルコンサートでもオープニングのこの歌から熱く燃えました。

「長崎小夜曲」で開幕した
「夏 長崎」ファイナルコンサート
(長崎新聞社提供)

稲佐山(地図の(1))からの眺望(撮影・辻本亨一氏)

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