長崎の気になる木




四方に枝葉を伸ばし生命の息吹を感じさせる樹木。長崎には、この地特有の歴史を感じさせる木々がある。そこで、市内に点在する荘厳な巨木や、海外との交流を今に伝える樹齢数百年の大樹などを巡り紹介。


ズバリ!今回のテーマは
「樹木の語りかけに耳を澄まそう!」なのだ



 
花の季節にその名を知り、紅葉の頃に存在感を意識する――。普段、暮らしの風景に解け込んでいてなかなか気づかない、私達を取り巻く樹木に注目してみよう。
 

秋の燃えるような紅葉が美しい
市内の並木道の木といえば……
長崎市の市花は「あじさい」! 多くの人がすぐに答えるに違いない。では、長崎市の木は?「…………」答えは真夏のいきいきとした緑と、秋の紅葉が美しいナンキンハゼだ。日本で最初に長崎に持ち込まれたこの木は、今から約40年前の昭和50年(1975)、原爆被爆30周年の記念行事の一つとして「ながさきの木」を募集した際、102種類、1,825通の応募の中から選ばれ「長崎市の木」に制定された。今や市内の公園樹や街路樹に広く利用されているので、誰もが目にしている見慣れた樹木だ。

【長崎市の木 ナンキンハゼ】
 
中国原産の落葉樹であるナンキンハゼは、中国では蝋や油をとるため広く植えられている。1709年頃に長崎に渡来したとする資料が残っているが、街路樹としての始まりは、ずーっと下って昭和10年(1935)頃。最初は大浦に植えられたようだ。そして、戦後いち早く市街地に並木の計画が出されたとき、ナンキンハゼも登場。確かに!見渡せば、セントポール通りや純心女子学園前の文教通り、浦上川沿いなど周囲には、ナンキンハゼの並木道があふれている。

セントポール通りのナンキンハゼ

文教通りのナンキンハゼ

※2010.6月 ナガジン!特集「名のある通りを歩いてみたら…」参照


また、長崎街道沿いや、各所に点在する古くからの寺院などには、大抵見上げる程の高さの大クスがそびえ立つ。矢上八幡神社、春徳寺、観善寺……。

矢上八幡神社の大クス
※2002.2月  ナガジン!特集
「シーボルトも歩いた道」参照


※2002.7月 ナガジン!特集
「祈りの道筋・寺院と教会が立ち並ぶ風景」参照


※2009.2月 ナガジン!特集
「春はほのぼの。東長崎巡行」参照
 

今は天然記念物の大クスも
昔は子どもの遊び場だった!
寺もないのに大徳寺――と、「長崎七不思議」に謡われる西小島の大徳寺跡の大クスもそのひとつ。樹齢は推定800年前後。江戸時代より長崎港が見渡せる名勝地として賑わったここ周辺には、他にもクスノキは多いが、この木は特別。「大徳寺の大クス」として古くから有名だった。木の傍らには大楠稲荷神社も祀られ、ずっと大切にされてきたことを意味している。昭和25年に県の天然記念物に指定されているが、年配の方のお話をうかがうと、それまでは子ども達の格好の遊び場だったとか。

【大徳寺の大クス】
根回り23.35m、胸高幹囲12.60mで、文句なく県下第一のクスの巨木。幹は直ぐに3つの支幹に分かれ横に大きく広がっていて、確かに木登りには適した木だ。平成3年(1991)2月、火災に遭ったが、今も樹勢に衰えはみられず、スクスクと育っている。坂段途中にあるため、広角でも全体をカメラに収めるのが難しく、大樹を前に、ただただ正面に立ちつくし圧倒されるしかない。

※2002.10月 ナガジン!特集 「花街跡をたずねて…丸山ぶらぶら散策のススメ」参照
大徳寺の大クス

寺院といえば、不思議な姿をした古木がある。

くぐれば頭が良くなる?
不思議門と呼ばれる古木
平間町、間の瀬川の中流にある「滝の観音」。長崎県名勝文化財第一号に指定されているこの霊場は弘法大師ゆかりの地で、しかも日本最古の霊場でもある。昔から「滝の観音」の名で親しまれるが、正式には長瀧山霊源院という禅宗の一派である黄檗宗の寺院。高さ約30mの一条の滝が、その名の由来だが、そこに至るまでの参道で、あっ!と驚く木と出逢う。伏樹門(ふしぎもん)と呼ばれる厳檀(いづかし)の古木でできた不思議な門だ。

【滝の観音の伏樹(いづかし)】
 
この古木は樹齢不明。説明板には「弘法大師の加持祈祷があるから、この門を100回くぐれば、どのような脳病もなおる。ゆえに不思議門とも言う」とある。どちらが根かわからないのも、不思議門である由縁だろう。一度に100回は難しいが、何度も参詣してこの門をくぐるうちに、いつの間にか頭が良くなっているかもしれない?

※2008.4月 ナガジン!特集「長崎の小さな滝巡り」参照
滝の観音の厳檀

次は、不思議ではなく珍しい花木をご紹介。

山中にひっそり咲く名花は
野母の風土を一身に浴びて
長崎半島(野母半島)の先端に位置する権現山展望公園周辺の山林で自生する原種のヤブツバキが発見されたのは、昭和52年のこと。発見したのは、当時の町の観光課職員。ツバキ調査の折だったという。町の職員は、発見時、このツバキの持つ素晴らしさを直感的に感じたらしく、「長崎県ツバキ協会」に持ち込み大きな反響を得たそうだ。その後、このヤブツバキの原種は、野母の風土を一身に浴びたネーミンングの「陽の岬」と名付けられた。

【陽の岬(ヤブツバキ)】
 
筒状で白く美しい花を咲かせる陽の岬は、最後まで形を崩さず、抱え咲きと呼ばれ、中に芯が巻いている花型で咲くのが特徴。普通の花のようには満開にはならないので小輪の慎ましやかな印象だという。また、薄いピンクから、やがて白色に近くなる、色の変化も楽しめるという。あまりにも貴重なため、生息場所は公表されてないが、脇岬町の長崎県亜熱帯植物園では、保護のため、挿し木をして大切に保存されているので、ぜひ、原種の美しさに触れてみよう。
野母の陽の岬

※2010.3月 ナガジン!特集「長崎と海外を結んだ植物たち」参照
 

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