文・宮川密義

長崎の夏の名物行事、お盆と精霊流しを歌ったものは、タイトルでは数曲に過ぎませんが、歌詞の中にはよく出ています。
ここではそれらの中から、ヒット曲、話題になった歌を選びました



1.「長崎の精霊祭り」

(昭和26年=1951、石本美由起・作詞、上原げんと・作曲、鶴田六郎・歌)




昭和23年(1948)に「長崎のザボン売り」(バックナンバー「長崎の食べ物讃歌」参照)でデビューした作詞家・石本美由起(いしもとみゆき)さんが、その3年後に書いた長崎ものです。
石本さんが初めて長崎に来たのは昭和47年(1972)ですから、この歌を作ったころは、精霊流しは見たことがなかったわけです。
しかし、長崎の歴史については長崎の詩友を通じて研究していたわけで、「豆をいるような唐人鉄砲」のように、実際に即した描写もあります。
ところで、長崎のお盆と精霊流しは昔からにぎやかなものだったようで、丘や山腹の墓地では提灯が飾られ、イルミネーションのように、華やかに町を包んでいたそうです。
長崎民謡「ぶらぶら節」にも『長崎名物、はた揚げ盆祭り』と歌っているように、秋の『くんち』と並ぶ長崎の祭りでもあるわけです。

※ ちなみに、昨年(平成14年)の精霊流しに繰り出した精霊船は大中小合わせて1400隻で、11万人の人たちが見物したそうです。


爆竹や鉦(かね)も鳴り響く長崎の精霊流し


鶴田 六郎


2.「精霊流し」
(昭和49年=1974年、佐田雅志・作詞、作曲、グレープ・歌)






グレープは昭和48年に「雪の朝」でデビューしますが、翌年の4月、2枚目のレコードで発表したのがこの歌でした。
佐田雅志(さだまさし)さんが弾くクラシックバイオリンの哀感に満ちた調べと甘い歌声、吉田政美さんの巧みなジャズギターが独特の世界を作り上げ、たちまち全国ヒットしました。
佐田さんはその年の暮れ、日本レコード大賞で「作詞大賞」を受賞。
この年の精霊流しには全国から見物客が押し寄せ、にぎわいました。
最初に紹介した「長崎の精霊祭り」が、今も見られる祭りのような賑やかな精霊流しを描写しているのに対して、この歌は大きな精霊船の間を、すり抜けるように流し場に向かう小さな精霊舟をイメージしています。
この歌を聴いて見物にやってきた人たちも、余りに騒がし精霊流しに戸惑った様子でした。
最近、この歌をベースに書かれた佐田さんの自伝的小説「精霊流し」も注目され、ドラマと映画にもなり、長崎の精霊流しに再びスポットが当てられています。


グレープ「精霊流し」の表紙


3.「長崎物語」
(昭和14年=1939、梅木三郎・作詞、佐々木俊一・作曲、由利あけみ・歌)




この歌では、3番に『そぞろ恋しい出島の沖に、母の精霊が、ああ流れ行く…』と、出島の沖に流されています。
事実、昔は沖の方に流していました。
精霊流しが始まった頃(年代不明)の精霊船は、藁(わら)と竹で作られ、サイズも1〜1.5メートルと小さく、一人でかついで海岸まで流しに行っていたようです。
それが次第に大きくなり、ひところはローソクや提灯をともした精霊船が、港の水面に美しい灯を落としながら、沖合に流れていたそうです。
精霊船は一層大型になりましたが、明治になって沖流しが禁止されて今日に至っています。
(「長崎物語」はバックナンバー「禁教の悲劇を歌う」参照


「長崎名勝図絵」に描かれた精霊流し

4.「もってこい長崎」
(昭和61年=1986、野村耕三・作詞、市川昭介・作曲、西岡はるみ・歌)






踊りのために作られた歌です。
ハタ揚げや長崎くんち(バックナンバー「長崎くんちの歌」参照)など、長崎の名物行事を取り入れていますが、2番に精霊流しを歌い込んでいます。
最近の歌だけに、ここに登場する精霊流しは、今の出島・大波止の通りが舞台で、“チャンコンチャンコン…”という囃子も臨場感をかもし出しています。


「もってこい長崎」の表紙

5.「ふたたび長崎」
(平成8年=1996、木下龍太郎・作詞、大谷明裕・作曲、内山田洋とクールファイブ・歌)




内山田洋とクールファイブは昭和61年(1986)10月、ボーカルの前川清さんがソロ歌手として独立した後、メンバーを一新、活躍を続けていましたが、ヒット曲に恵まれず、長崎の歌も出していませんでした。
前川清さんが、さだまさしさん作詞作曲による「終着駅 長崎」を出した平成8年、クールファイブもこの「ふたたび長崎」を出して、話題を集めました。
昭和44年(1969)のデビュー曲「長崎は今日も雨だった」(バックナンバー「雨にちなむ唄」[2]参照)の気持ちと、その原点に戻った意気込みで吹き込んだそうです。
歌詞の2番に精霊流しを取り込んでいます。
“催合船(もやいぶね)”は“舫い船”とも書きます。長崎の精霊流しでは2隻、3隻とつなぎ合わせた大型の精霊船も珍しくありません。


「ふたたび長崎」のCD



2〜3隻つなぎ合わせた大型船も繰り出す精霊流し


【もどる】