観光地側の町の湯で
もう一つの“長崎”を発見!


ひんやりとした空気が漂う脱衣室。引き戸をひくと同時に鼻孔をくすぐるかすかな消毒の臭い。昔ながらの銭湯は、今も瞬間にしてノスタルジックな気分にしてくれる不思議な空間だ。大半の家庭にお風呂が設けられるようになっても、やっぱり大きなお風呂がいいと通う人も多く、足しげく通う常連客も多い銭湯。そこで飛び交うのは、やっぱりバリバリの長崎弁。観光客にとっては生活感のある長崎の町を体感できる場所に違いない。今回は、観光地近くの銭湯をピックアップしてみた。






■ 山頭温泉(やまがしらおんせん)

家族総出で町の湯を守る老舗銭湯
天井からわずかに差し込む日差しの下に広がるのは、日々念入りに清掃された浴室。ヨモギとカルシウム入浴剤がブレンドされた薬草風呂が自慢!創業約80年の山頭温泉は、その名称からピンとくる人も多いことだろう、丸山公園から徒歩2、3分の高台にある。かつて花街丸山の入り口を“山の口”、その上手を“山頭”と呼んでいた。その頃の名残から名付けられた“山頭温泉”という名称が地域に根付いた銭湯の証しだ。
「昔は東小島方面を東山頭、こちらの西小島方面を西山頭と呼んでいたみたいです。その辺りに住んでいた人達が利用するというので、“山頭”と名付けたんでしょうね。以前はここより少し上の現在タバコ屋がある辺りにあったのが、移ってきたみたいです。」と語るのは、3代目の松井寿勝さん。代々続くこの銭湯を28歳の時に引き継ぎ、今も家族総出で営んでいる。松井さんが番台に座るのは、1時間程度。あとは娘さんの仕事だ。

「これまでにもいろんな煽りがありましたし、最近でも油の高騰でやはり経営は難しくなっていますよね。でも“やめないで!”って声が強いんですよ。」
昔、あらゆる世代が日々触れ合う銭湯は、地域の教育の場でもあった。
「昔はよその子どもでもかまわず怒っていましたもんね。今の子どもは何を考えているのかわからない。あらゆる環境を昔に戻すのは難しいでしょうが、どうにか昔に近いものにすることを考えんばでしょうね。銭湯もその一つになればいいのですが。」
家族総出の銭湯経営が困難な時代。地域の人々の拠り所であり、日本人の心の故郷である銭湯。観光スポットに溶け込んだこの銭湯が、いつまでもあり続けてほしいと願うばかりだ。




【営業時間】15:00〜21:00
※毎月25日は“ふれあい入浴”実施のため12:00〜16:00
【定休日】5・15日
【入浴料金】大人(中学生以上)300円/小学生150円/幼児80円※毎月25日は“ふれあい入浴”実施のため70歳以上の長崎市民は無料
【電話】095-826-7045
【住所】寄合町2-27
【JR長崎駅からのアクセス】
路面電車:長崎駅前電停から正覚寺下行きに乗車し、思案橋電停で下車。徒歩8分。
長崎バス:長崎駅前南口バス停から田上、茂木行きに乗車し、思案橋バス停で下車。徒歩8分。
車:長崎駅前から約15分。
【駐車場】なし

【丸山エリアについて】
映画『長崎ぶらぶら節』の舞台として、全国的に広く知られることとなった日本三大花街のひとつ。全盛期は江戸時代で、丸山遊女達は中国人が住む唐人屋敷やオランダ人などが住むオランダ屋敷(出島)への出入り許され、外国人との交流があったため、とても華やかな衣裳を身に纏っていた。現在も当時を偲ばせる建造物や石畳などが点在。細い路地を歩けば、往時の風情ある佇まいに出会うことができる。
●ナガジンバックナンバー 2002年10月「花街跡をたずねて・・・丸山ぶらぶら散策のススメ」

【周辺の見どころスポット】
◆中の茶屋(山頭温泉から徒歩3分)
丸山(寄合町)の遊女屋「中の筑後屋」が江戸時代中期に設けた茶屋(料亭)跡。花月楼と共に丸山最高の茶屋として内外の文人墨客が好んで遊び親しんだといわれ、幕末期にできた俚謡『ぶらぶら節』に、「♪遊びにいくなら 花月か中の茶屋 梅園裏門たたいて 丸山ぶらぶら ぶらりぶらりというたもんだいちゅう」と唄われている。江戸時代中期に築かれた庭園としては市内寺院を除けば数少ない遺構のひとつで、市指定史跡に指定されている。現在は、長崎出身の漫画家展清水崑の作品を集めた清水崑展示館として利用されている。


【入館料】大人100円、小中学生50円(庭園見物は無料)
【開館】9:00〜17:00(7月20日〜10月9日は〜19:00)
【定休日】月曜日(祝日の場合は開館)
【電話】095-827-6890
●ナガジンバックナンバー 2002年10月「花街跡をたずねて・・・丸山ぶらぶら散策のススメ」 

◆梅園身代り天満宮(山頭温泉から徒歩4分)
映画『長崎ぶらぶら節』では、吉永早百合扮する丸山芸者・愛八がお百度を踏むシーンのモデルとなった寺院。不幸や災難の身代りになってくれるといういい伝えがあり、昭和40年頃まで丸山の芸者衆が多く参詣したといわれている。境内には様々な種類の梅の木約20本があり、梅の季節には息を飲む程の美しい光景が広がる。歯の痛みがある者が狛犬の口に水飴を含ませると痛みを取り除いてくれるという歯痛狛犬が人気。
●ナガジンバックナンバー 2002年10月「花街跡をたずねて・・・丸山ぶらぶら散策のススメ」


■マル金(丸金)温泉

父の意志を受け継ぐ地域に根ざした銭湯
初代・高木金兵衛氏が、自身の名から“金”をとって命名したという丸金温泉は、もともとこの地にあった“水田湯”という公衆浴場の地を買い取り、昭和25年頃に建て直して開いた銭湯。開店当時、この辺りには5、6軒の銭湯があったが、昭和の終り頃に軒並み姿を消していった。開店から約60年、この館内エリアの人々に親しまれ続けいている。看板には“丸金”とあるが、本来はカタカナの“マル金”が正しいなのだとか。現在、この銭湯を切り盛りする金兵衛さんの長女・山本富子さんは「ゴロがよかったから“マル金”になったんでしょうね」とやさしく微笑む。結婚後まもなく金兵衛さんが亡くなり、その跡を継いだとのこと。若くしてご主人をも亡くし、金兵衛さんが指南してくれた“質屋”をしながら息子さん2人を育て上げたという苦労人だ。「父は、小さな子どもを2人抱えた私に、子どもの側にいながらにして働ける“質屋”がいいと勧めてくれました。町内会長を務めていたこともある父は、とても思いやりと先見の明のある人で、このお風呂も“人の為にせんといかん! 風呂のなか人のためにせんといかん!”というのが口癖でした。」
開店は13時。平日でも次々にご近所さんが入っては出ていく。夕方から夜にかけては、常連の若い人達も多いのだとか。そして、たまに息子さん達もやってくるそうだ。人生の大半をこのマル金温泉と歩んできた富子さんにとって、その日は、素敵な笑顔が一層華やぐことだろう。








【営業時間】13:00〜21:00
※毎月25日は“ふれあい入浴”実施のため12:00〜16:00
【定休日】5・15・27日
【入浴料金】大人(中学生以上)300円/小学生150円/幼児80円※毎月25日は“ふれあい入浴”実施のため70歳以上の長崎市民は無料
【電話】095-825-9074
【住所】館内町15-6
【JR長崎駅からのアクセス】
路面電車:長崎駅前電停から正覚寺下行きに乗車し、築町電停で下車。徒歩8分。
長崎バス:長崎駅前南口バス停から長崎新地ターミナル行きに乗車し、長崎新地ターミナルバス停で下車。徒歩8分。
車:長崎駅前から約8分。
【駐車場】なし

【十善寺エリアについて】
唐人屋敷跡を擁する十善寺エリアは、現在の長崎文化を形成する上で欠かせない中国文化との出会いの地だった歴史ある町。十善寺エリアとは、その昔十善寺郷だった館内町、稲田町、十人町、中新町の4つの町のことを指している。この界隈には、かつての十善寺郷の谷間をびっしり埋め尽くすように建つ家並みや、多くの石段があり長崎独特の景観が残っている。
●ナガジンバックナンバー  2002年1月「長崎でチャイナに出会う」

【周辺の見どころスポット】

◆唐人屋敷跡(マル金温泉から徒歩すぐ)
中国との貿易が長崎港だけとなった寛永12年(1635)以降、貿易のために来航していた中国人達ははじめ長崎市中に散宿。しかし、密貿易が増加し問題となったために、元禄2年(1689)、幕府が鎖国後の出島と同様に中国人達を収容するための施設を建設した、それがこの唐人屋敷跡。現在わずかに残る遺構としては、明治以降に修復改築された土神、観音、天后の3堂(共に市指定史跡)と明治30年(1897)に福健省泉州出身者の手によって建てられた福建会館(市指定有形文化財)がある。
●ナガジンバックナンバー 2002年1月「長崎でチャイナに出会う」

◆新地中華街(マル金温泉から徒歩3分)
四方に色鮮やかな中華門がそびえ建つ新地中華街には、現在長崎に住む華僑の多くの出身地である福健省から取り寄せられた石畳が敷きつめられている。現在、ユニークな中国雑貨や食材、長崎中華が味わえる店がひしめく新地中華街は、“新地”という名のごとく、その昔、新しく海を埋め立ててできた場所で、中国から輸入した貿易品を保管する荷蔵が建っていた新地荷蔵と呼ばれていた場所。現在は十字路の中央に記念の石碑が残されている。


■日栄湯(にちえいゆ)

旅先で出会う“我が家のようなお風呂”
大正末期から現在まで約90年続く老舗の銭湯・日栄湯。現在番台に座っておられるのは、3代目であるご主人を支える奥様の赤星星子(せいこ)さんだ。
度々改装を重ね、内部も約18年前に時代をとらえたジェットバスなどを導入するなどして手を加えてきた。冷え性、神経痛、リュウマチなどに効能のあるほんのり香ばしい薫りを放つ薬草湯が人気だ。番台に座っていられないほどの賑わいを見せていたのは、昭和40年代。その後、各家庭にお風呂が普及するとやはり客足は減ってきたが、ご近所の足しげく通う馴染み客は健在だったという。痛手を感じはじめたのはここ5、6年。巨大駐車場を完備したスーパー銭湯の出現によるものだった。しかし、日栄湯がある場所は長崎の観光名所に囲まれた東山手地区。通りすがりの旅行者や、近辺のホテルに宿泊するビジネスマンなど、旅人の入湯者も多いのだという。
「広島からの慰霊祭の帰りだといって毎年夏に立ち寄られる方や、リピーターの方も多くいらっしゃいます。ある若い旅行者の方が、常連客に『あんた体ば洗ってから入らんね〜』といわれたそうで、お風呂に来て怒られた(笑)と嬉しそうに帰っていかれました。」
日々の疲れを癒すご近所さんの大きな社交場は、観光客を我が家のようにもてなしてくれるようだ。日栄湯という名前の由来は不明だというが、もしかすると初代は、“日々ご近所さんと肌触れ合うように入ると、心も体も栄える湯”という意味で名付けたのかもしれない。




【営業時間】15:00〜21:30
※毎月25日は“ふれあい入浴”実施のため12:00〜16:00
【定休日】5・15日
【入浴料金】大人(中学生以上)300円/小学生150円/幼児80円※毎月25日は“ふれあい入浴”実施のため70歳以上の長崎市民は無料
【電話】095-822-8342
【住所】大浦町9-7
【JR長崎駅からのアクセス】
路面電車:長崎駅前電停から正覚寺下行きに乗車し、築町電停でのりつぎ券をもらい下車。石橋行きに乗車し、石橋電停で下車。徒歩3分。
長崎バス:長崎駅前東口バス停から田上、大平橋行きに乗車し、石橋バス停で下車。徒歩3分。
車:長崎駅前から約8分。
【駐車場】なし

【東山手エリアについて】
開国後、主にヨーロッパ系外国人が異国の文化そのままに暮らした外国人居留地として最初に開拓されたエリア。南山手が主に居住エリアだったのに対し、東山手には領事館や貿易商社、ミッションスクールなどが数多く点在し、この居留地は昭和初期まで大いに栄えていた。
●ナガジンバックナンバー 2002年4月「居留地時代の匂いを追って」

【周辺の見どころスポット】
◆孔子廟・中国歴代博物館(日栄湯から徒歩1分)
明治26年(1893)創建の中国人が海外で建造した唯一の孔子廟。昭和57年(1982)には中国政府、山東省曲阜孔子廟の助力を受けて中国華南と華北の建築様式が合体したユニークな廟宇が誕生した。大理石に刻まれた孔子の言行禄『論語』や、役職に見合った衣裳を身にまとい、様々な表情や動きを見せる孔子の高弟72賢人の石像が見モノ! 併設の中国歴代博物館には、北京故宮博物ンと中国歴史博物館所蔵の国宝級の美術工芸品が常設展示されている。どれも中国国外ではここでしかみることができないものばかりで貴重なものだ。
【入館料】大人525円、中高生420円、小学生315円
【開館】8:30〜17:00
【電話】095-824-4022

●ナガジンバックナンバー 2003年1月「長崎の中の中国!長崎孔子廟」

◆オランダ坂(日栄湯から徒歩1分)
出島に住むオランダ人の影響からか、開国後も長崎の人々は東洋人以外の外国人を“オランダさん”と呼んでいた。かつては外国人居留地にある坂道すべてを“オランダさんが通る坂”という意味でオランダ坂と呼んでいたようだが、現在は、主に東山手洋風住宅群横の誠孝院の坂から活水学院へと続く切り通しのことを指している。周囲の洋風建築とあいまって長崎の異国情緒をかもし出している風景だ。

◆東山手洋風住宅群(日栄湯から徒歩2分)
グラバー園内の住宅や東山手十二番館のように広大な敷地にゆったりと建てられた住宅とは異なり、狭い宅地に7棟が密集した洋風住宅群。これらは居留地時代、明治20年代後半頃に社宅、または賃貸住宅として立てられたと推定されていて、どの棟も中国の欄間飾りに瓦屋根の鳥ぶすま、屋根にはマントルピース用の煙突と、和洋中の建築様式が織り交ぜられているのが最大の特徴だ。現在の建物は復元したもの。7棟のうち4棟は、居留地時代の様子をビデオや写真で解説する東山手地区町並み保存センター、古写真・埋蔵資料館、世界の料理を日替りで味わえる(1日限定約20食)など、国際交流の場である東山手「地球館」として活用されている。

東山手地区町並み保存センター
【入館料】無料
【開館】9:00〜17:00
【定休日】月曜日(祝日の場合は水曜日)
【電話】095-820-0069

古写真・埋蔵資料館

【入館料】大人100円、小中学生50円
【開館】9:00〜17:00
【定休日】月曜日(祝日の場合は開館)
【電話】095-820-3366

東山手「地球館」

【入館料】無料
【開館】10:00〜17:00
【定休日】水曜日
【電話】095-822-7966

●ナガジンバックナンバー 2004年4月「観光地巡り、ここで一服」

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