「ギョホウ」と耳で聞いても、ピンと来ない方も多いのではないでしょうか。でも「漁法」と漢字で書けば、意味が理解できますね。漁師さんが魚を捕る方法のことです。
漁法は、大きく分けると三つあります。網を使う「網漁業」。釣り針を使う「釣漁業」。そして「網」と「針」以外の方法で捕る「雑漁業」(例えば「たこ壷漁業」「突棒漁業」など)。『長崎県の漁具・漁法』という本を開いてみると、実に233種類(網漁業103種、釣漁業105種、雑漁業25種)もの漁法が紹介されていました。なぜ、こんなに沢山の漁法があるのでしょうか。それは、漁法によって捕れる魚が違うからです。200を越える漁法を持つ長崎県は、それだけバリエーション豊富な魚が捕れるということを意味しています。長崎は、300種を越える魚種が水揚げされているといわれ、これはなんと全国ランキング第1位。今回は「漁法で色々 長崎の魚」と題して、各漁法から見た長崎の魚事情を探ってみたいと思います。
「底曳網漁業」とは、文字通り「海の〝底〟を〝網〟で〝曳いて〟魚を獲る」漁法を言います(ちなみに「底」ではなく、海の「表層」や「中層」を曳いて獲るのは「船曳網漁業(ふなびきあみぎょぎょう)」といいます)。一口に底曳網漁業といっても、いろいろな種類があることをご存知でしょうか。例えば、船が動かず一カ所に留まり、網だけ曳き寄せる「曳寄網(ひきよせあみ)」と、船で移動しながら曳き廻して漁獲する「曳廻網(ひきまわしあみ)」。動力船の性能が上がった現在では「曳廻網」が主流になりました。また、網を曳き揚げる際に船の後ろから揚網(ようもう)する方法を「スタン式」、船の横から揚網する方法を「サイド式」といいます。底曳網にもたくさんの種類があり、形・長さ・大きさ・仕掛けなどなど、魚種や漁場に合わせて多種多様な網があります。第1回でご紹介した「以西底曳網」「トロール」も同じ底曳網漁業でしたが、漁場(漁をする場所)は「遠洋(東シナ海・黄海)」でした。今回はもっと近場「沿岸(橘湾)」での底曳網漁業のお話です。
夏の時期、戸石や茂木に水揚げされる代表的な魚といえば「ハモ(鱧)」。名前の由来は諸説有りますが、鋭い歯で餌となる魚に噛み付き「食む(はむ)」ところからきており、鎌倉期までは「ハム」と呼ばれていたようです。「ハモ」に転訛(てんか)したのは、室町時代以降といわれています。長崎でも昔からハモは漁獲されていたようです。宝永6年(1709)貝原益軒が出版した生物学書『大和本草』に「長崎にて中華人はハモを海鰻(うみうなぎ)と云う」という記述がありました。
京都の夏の風物詩「祇園祭り」。7月1日から1カ月間行われる、千年以上の歴史を持つ八坂神社の祭礼ですが、別名「鱧祭り」と言われていることをご存知だったでしょうか。夏場、京都では、現在のような運搬手段がない時代に新鮮な魚を食べる事は海が近くにないので至難の業でした。京都に着くまでに魚が死んで痛んでしまうからです。ところがハモはとても生命力が強い魚で、生きたまま京都に運ぶことが可能でした。新鮮な状態で食べる事ができるハモは、祇園祭の時期の定番メニューとして定着したわけです。この時期に長崎の魚市で水揚げされたハモの、そのほとんどが関西に送られるそうです。
ハモを調理する際「一寸を24に包丁する」という言葉があります。ハモは小骨が多いため、普通に切っても食べられません。そこで骨を蛇腹状に細かく刻んで食べやすくするのです。一寸は3.03センチ、それを24回ですから、1センチにつき8カット。それも皮を切らずに「寸止め」で刻むのです。これは誰にでもできる技ではありません。したがって、ハモが出せる料理店には腕の良い料理人がいることの証明になります。湯引きにして酢みそで食べるのが一般的な食べ方ですが、中には親子丼のように「卵とじ」にする料理店もあります。
「刺網」という文字から「針が付いた網」を想像した方もいたのではないでしょうか。実は刺網漁業「針」は使いません。純然たる「網漁業」なのです。魚の通り道に「通せんぼ」するようにして網を張ります。何も知らずに直進して来た魚は、網に突っ込みます。網目より小さい魚は、そのまま通過し、網目よりも大きい魚は網に突っ込み「頭部」は通過したものの「胴体部」は網よりも太いのでそれ以上先に進めません。仕方ないので、バックしようとしても今度はエラや背びれがひっかかってしまい体が抜けませんね。そうです、この魚は漁獲されたのです。つまり刺網漁業とは「網」に頭が「刺さって」抜けなくなった魚を獲る漁業なのです。刺網は網が1重のもの2重になった「2枚網」、3重の「3枚網」の種類があります。また、海の「底」に設置する「底刺網」と、「上層」「中層」の魚を獲らえるための「浮刺網」などがあります。
刺網漁業で水揚げされる魚といえば「ヒラメ」や「サワラ」などが有名ですが、獲れるのは魚だけではありません。実は夏期には「伊勢エビ」も獲れるのです。伊勢エビを獲らえるために使用する網の色が「赤」だということをご存知でしょうか。網が赤いと目立ってしまい、伊勢エビが警戒して逃げるのではないかと思ったのですが逆でした。赤い色は光の波長が長いため、赤色の網は海中で見えなくなるのだそうです。伊勢エビがいそうな場所にこの赤い網をしかけます。港によってまちまちですが、長崎半島の最南端にある野母崎樺島町の漁師さんは、お昼の12時に網をしかけて、翌日の早朝に網をあげるということでした。引き上げた網に刺さるというよりは絡まっている伊勢エビ。体中がトゲトゲしていますから、さぞ獲り難いだろうと思いきや、トゲはすべて前方に向かっているので、後方に引っ張れば割と簡単に抜けるのだそうです。それでも抜き取るとき、角や足が網に絡まって折れてしまうことがあります。こういう伊勢エビを「足折れ」と呼びます。折れているのが3本までであれば、魚市で引き取ってくれますが、4本以上になると商品価値がなくなってしまうのだそうです。
伊勢エビの刺網漁業解禁は8月の末頃。そして解禁から1~2週間後ぐらいから、長崎市の野母崎、三重、西海市の崎戸で恒例の「長崎三大伊勢エビ祭り」がスタートします。長崎県内で最初に伊勢エビ祭りを始めたのは野母崎三和漁協。18回目を迎えた今年の「のもざき伊勢エビまつり」は、9月3日(日)から9月24日(日)まで開催されます。伊勢エビ祭りに協賛している飲食店では、イベント期間だけの特別メニューとして、伊勢エビを1匹まるごと使用した「伊勢エビ丼」を味わうことができます。詳しくは、長崎市の公式観光サイト「あっ!とながさき」をご覧ください。
「あっ!とながさき」のアドレスhttp://www.at-nagasaki.jp/event/62263/