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第24回文学講座(H25.10.5)
題目 遠藤周作の描いたアジア~『王国への道―山田長政』
講師 久保田裕子氏(福岡教育大学)
平成25年10月5日(土曜日)、福岡教育大学の久保田裕子氏を講師に迎え、第24回文学講座を開催しました。台風が九州に接近する悪天候にもかかわらず、応募者のほぼ全員の出席で講座は始まりました。
今回のテーマは「遠藤周作の描いたアジア~『王国への道―山田長政』」と題し、作品に登場する異文化の中に生きる日本人としての山田長政に焦点をあて、遠藤文学の中のアジアの表象についてお話しいただきました。
近現代文学で三島由紀夫研究がご専門の久保田氏は、同時代作家である三島と遠藤との関わりについて世代的共通性と同時に、西洋だけでなくアジアに目を向けた作家という共通性を挙げ、国際的な視点をもって創作活動を続けてきた作家の特殊性を挙げられました。作家個人の創作活動のみに着目するのではなく、作家の同時代性について置き換えて見れば、遠藤作品にもまた〈戦後文学〉の相貌を与えることができると説かれました。
昭和10年代に頻出した〈南進論〉の系譜の中で、教育や文学の中で〈山田長政〉像がどのようなものであったか、そして『王国への道』に描かれる長政の表象は連載当時(1970年代)、日本がもう一度東南アジアに進出し始めた高度経済成長の日本とどう結びつくか、ということを近年の表象文化研究の方法論と共にお話しいただきました。
講座では、講師と受講者のやり取りも多くなされ、終始なごやかな雰囲気で会は運び、作品を歴史的文脈の中に置いて読み直す文化研究的視座から、遠藤作品を再読する機会に恵まれました。