文・宮川密義

許諾番号
J030407883

１．「瞳を閉じて」
（昭和49年＝1974、荒井由実・作詞、作曲、歌）


長崎県立奈留高校は昭和40年（1965）に五島高校の分校として開校しましたが、校歌は五島高校のもので馴染みが薄く、奈留とは関係ない内容でした。
昭和49年、同分校の女子生徒の１人がラジオの深夜番組に「校歌を作って…」と投書、その番組に出ていたユーミンこと荒井由実（松任谷由美）から後日、「瞳を閉じて」の楽譜とテープが奈留高校に寄せられました。
また「悲しい酒」などで有名な作詞家、石本美由起からも長崎の音楽家、深町一朗作曲の楽譜と共に昭和51年に寄せられました。
学校では検討の末、校歌は石本作品を採用しました。「瞳を閉じて」はユーミンの持ち歌として昭和49年10月にレコードも出ており、奈留高校では愛唱歌として受け入れました。

奈留高校の庭園に建つ
「ユーミンの歌碑」
「瞳を閉じて」は生徒たちに歌い継がれているほか、町内放送の前奏に使われるなど、町民にも親しまれています｡
昭和63年（1988）には卒業生たちの努力で、学校の庭園に「ユーミンの歌碑」が造られ、ユーミンも出席して感動的な除幕式も行われました。

２．「ナンジャモンジャ音頭」
（昭和57年＝1982、宮原龍夫・作詞、雅木しげる・作曲、岡ゆう子・歌 ）


長崎県対馬市上対馬町には、毎年５月に白い花を咲さかせる植物があります。国の天然記念物にも指定されている「ヒトツバタゴ」。モクセイ科に属する大陸系の落葉高木で、朝鮮半島や中国、台湾など、アジア東部に分布。日本では韓国に一番近い上対馬町北部の鰐浦が自生地として知られています。
鰐浦地区には約1,000本も自生しているので、満開の時には山一面、雪が降り積もったような真っ白い花を咲かせます。ナタも折れるほど硬い木という意味で「ナタオラシ」。一般には余り知られていない木なので「ナンジャモンジャ」、山一面が白くなり海を照らすという意味で「ウミテラシ」とも呼ばれています。
上対馬町では昭和55年に、ヒトツバタゴを町の花木に指定して“ヒトツバタゴの町”として売り出すことにして、57年５月には「ヒトツバタゴ花祭り」を催し、ヒトツバタゴをモチーフにした歌も作りました。

テープの表紙
「ひとつばたごの唄」（落合嘉男・作詞、宗 武志・補作詞、雅木しげる・作曲、三沢あけみ・歌）と「ナンジャモンジャ音頭」の２曲。このほか、平成13年（2001）には自費製作で「ひとつばたごの白い花」(末吉タツエ・作詞、水谷守・作曲、末吉タツエ・歌)が「思い出長崎」（水谷守・歌）とのカップリングで出ています。

３．「異国の華〜お春物語〜」　
（平成17年＝2005、松井由利夫・作詞、水森英夫・作曲、三代目ミス・コロムビア・歌）


サブタイトル「お春物語」の“お春”は、寛永13年（1636）に出された徳川幕府の混血児海外追放令によって、ポルトガル人と結婚した日本人女性と共にジャガタラ（今のジャカルタ）に流された子供たちの中の14歳の少女のことで、“じゃがたらお春”として有名で、「長崎物語」など多くの歌に歌い込まれています。
しかし、この歌ではその史実とは異なり、父親がオランダに帰ってしまい、長崎に残された“お春”とい名のハーフの女性が、孤独の中で前向きに生きていこうとする姿が描かれています。
曲は中国風のイントロの後、ワルツのメロディーに乗せて、港や教会など異国情緒あふれる長崎を舞台にした物語が歌われます。

「異国の華」のＣＤ表紙
三代目コロムビア・ローズは本名・野村美菜（みな）。宮城県仙台市出身。高校時代に日本舞踊界で活躍。2002年に作曲家水森英夫に師事、2004年に「出航五分前」でデビュー。2005年「蒼いバラの伝説」の発表会には初代と二代目コロムビア・ローズが激励に駆けつけ、３人のコロムビア・ローズそろい踏みで話題になりました。
３枚目シングルにこの歌をリリース。折から開幕した“長崎さるく博”でもキャンペーンに努めていました。

４．「港子守歌〜蝶々夫人に寄せて」
（平成17年＝2005年、下地亜記子・作詞、小野彩、杉紀彦・作曲、二葉百合子・浪曲作曲、藤あや子・歌）


人気の演歌歌手、藤あや子が長崎の蝶々さんを取り入れて歌った歌謡浪曲。オペラ「マダム・バタフライ」の中の「ある晴れた日に」のメロディーが挿入され、台詞（せりふ）も入った６分を超える大作です。
その５年前（平成12年＝2000年）のアルバムに入れていた「港子守歌」の浪曲バージョン。藤あや子自身が「小野彩（このさい）」のペンネームで作曲に参加、二葉百合子も浪曲バージョンの作曲で名を連ねました。今回のシングルＣＤには最初のバージョンも収録しています。
歌は蝶々夫人のピンカートンへの悲恋、子供への思いを情熱的に、ロマンチックに表現しています。

「港子守歌」のＣＤ表紙
その発売記念イベントが平成17年６月16日、グラバー園で催され、アジサイ祭りのグラバー邸で観光客を前に熱唱しました。蝶の柄をあしらった着物姿で、三味線の生伴奏に乗せて歌っていました。

５．「寺町坊譚(ぼんたん)」
（平成18年＝2004＝５月、岡野雄一・作詞、作曲、歌）



バックナンバーの「長崎言葉の歌（下）」で紹介しましたが、作詞、作曲、歌の岡野雄一は45歳からギターの弾き語り始め、長崎の人情、長崎弁の面白さ、温かさをモチーフに歌作りを続けている人。
この歌は２枚目のアルバム「どんげんでんなる!!〜ペコロスの唄・�供廚房�録した長崎言葉を駆使した４曲の中の１曲。
寺町の若いお坊さんの恋物語を、光源寺に伝わる民話「飴屋の幽霊」に絡めて歌っていますが、長崎弁独特のイントネーションとリズムを生かし、ギターやハーモニカも加えた楽しい歌になっています。

お寺や墓地が並ぶ長崎市の寺町通り
“チンチン”と何回も聞こえますが、これは「一日の長いこと」を長崎弁で「一日（いちんちん）ん長（なん）かこと」と歌っているため。 作者は「一日を長崎のチンチンに引っかけて、楽しいつくりにしました」とコメントするなど意味深な歌です。
ほかにも「短（みしか）か」（短い）、「温（ぬっ）か」（あたたかい）、「冷（つんた）か」（つめたい）、「若（わっ）か」（若い）、「わずろうとっとげな」（わずらっているそうだ）、「どんげん」（どのように）、「行きなる」（行かれる）…などなど、長崎の人にしか分からない長崎弁が出ています。

６．「女の帰郷」
（平成21年＝2009＝９月、市川森一･作詞、 聖川　湧･作曲、香西かおり･歌 ）


諫早市出身で脚本家の市川森一（いちかわしんいち）が作詞し、香西かおりの師匠・聖川湧（ひじりかわゆう）が作曲した、五島をモチーフにした歌です。
市川はミュージカルの作詞、作曲はありますが、演歌の作詞は初めてとか。テレビ東京の「日本作詞大賞」の審査員を務めたことが縁で香西かおりの作品を書いたそうです。
東京で暮らす地方の女性が“胸を張って古里に帰ろう”と思えるような応援歌をねらったそうで、都会の暮らしに疲れて東京から五島に帰ろうとする女性の心情が描かれています。
「バラモンの凧（たこ）」「地獄炊きのうどん」など五島ならではのフレーズも出ており、平成21年11月５日には五島市内のホテルで発表会も開かれ、香西かおりはファン約250人の前で新曲のほか、持ち歌の「雨酒場」など数曲を熱唱していました。



「女の帰郷」のＣＤ表紙


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