長崎の冬は伝統野菜!


ながさき伝統野菜の伝承に尽力する
中尾順光さんの畑を訪問!
 
中尾順光さん Nakao Nobuteru(中尾ファーム)
(長崎市認定農業者連絡協議会 顧問/その他、西山木場伝統野菜保存会、長崎ザボン振興会、長崎蘭柑研究会、長崎市ゆうこう振興会に所属)

年も押し迫った12月下旬、長崎市木場町の山間部に広がる中尾さんの畑にお邪魔した。世界的にも珍しい「丸田」と呼ばれる円形劇場のような中尾さんの畑は、伝統野菜が注目されるようになった近年、その象徴にもなっている。古くから矢上方面から峠を越え、長崎市街地へと続いた旧道沿い。のどかな山間に広がる、美しい畑だ。40年間、農業を営まれている。

中尾順光さん

中尾さんの畑

生産が減りつつある長崎の伝統野菜の復活のために、20年程前から長崎市と協議。現在は保存会を結成し、全国へも飛び回ってPRするなど、精力的に普及に尽力されておられる。中尾さんの畑には「長崎赤かぶ」、「辻田白菜」、「唐人菜」、「紅大根」、「長崎たかな」、5つすべての「ながさき伝統野菜」がスクスクと育っていた。

畑の長崎赤かぶ

畑の唐人菜

畑の紅大根

中尾さん「昔は、山奥に移して自然交配を避けながら種を守ってきました。現代では、自然交配を避けるための網がありますが、毎年、良質なものに印を付け、網を張り、蝶や鳥から守り、5月下旬には種を採種。家の中で乾燥させ、種を取り出し瓶に保管し、冷蔵庫で休眠……といった一連の作業はほぼ1年がかりで、手間ひまかかるのは昔から何ら変わりません。」

お話をうかがっていて、品種を変化させずに毎年作り続けるのは、とてつもなく難しいことだということを実感させられた。

中尾さん「ながさきの伝統野菜は“奇跡の野菜”なんですよ。300年以上前に伝来した野菜が、今も同じように作られ、食べられているんですからね。おそらく、はじめは長崎に住んだ中国人達用に、長崎のあちこちの畑で作るようになり、しだいに長崎の人達にも伝わり食べられるようになったんでしょう。」

すると、当時、長崎在住した中国人達をはじめ、その頃に生きた人々と同じ味を味わっているということになる……。

中尾さん「京野菜や加茂野菜(金沢)などに勝るとも劣らない歴史ある野菜ですし、一般的な野菜とは違って、独自の味、香り、風味を持っているのが特徴です。そして、もちろん美味しいですから、地元のホテルなどからの注文はひっきりなしですし、全国のこだわりを持ったレストランやホテルなどは、美味しくて目新しい食材を探していますから、問い合わせも多いんですよ。先日も、築地市場から問い合わせがあり、近々見に来られるといわれました。」

20年程前、伝統野菜の保存と普及のため動き出したとき、はじめは「種を保存する」だけの話だったそうだ。

中尾さん「しかし、種を冷凍保存していても、伝わってはいかないですからね。」
今冬の収穫期もそろそろ終了。中尾さんは来期の収穫に向け、また一年、手間を惜しまず畑を耕されることだろう。
収穫の様子(長崎赤かぶ)
収穫の様子(唐人菜)
収穫の様子(紅大根)


ながさき伝統野菜エントリーNo.3
長崎雑煮に欠かせない!
長崎白菜(唐人菜)

収穫期 10月下旬〜1月下旬
長崎白菜(唐人菜)

唐人菜の名で親しまれる「長崎白菜」は、長崎雑煮に彩りと独特の風味を与えてくれる長崎のお正月に欠かせない冬野菜。もともと中国山東省から伝来したとされ、中国のヒサゴナ、江戸唐菜の土着種といわれている。京都の蘭方医・廣川かい(かい)が寛政12年(1800)、京都の書林より発刊した「長崎見聞録 全五巻」には、「唐菜」の絵図と記事が記されているが、現在の「長崎白菜」とは何故かちょっと違う。明治から大正にかけて早生、中生、晩生の3系統栽培が広がり、現在は長崎市木場町・田手原町・東長崎地区などで生産。平成19年7月にスローフード協会国際本部「味の箱船」に認定され、全国からも広く注目を集めている。
 
見た目の特徴 結球せず、葉が立ち上がり外に開く。
味わい やわらかい葉と、火を通すと甘味が増し美味しい。 鍋物はもちろん、間引きした菜は、浅漬け、生長後は、漬け物、おひたし、炒め物と幅広く活用でき、洋風レシピにも最適。


ながさき伝統野菜エントリーNo.4
香り、辛味、旨味が楽しめる
長崎たかな

収穫期 10月中旬〜1月下旬
長崎たかな

暖かい九州地区を中心に栽培されている高菜は、もともと中国から伝来したと伝わる野菜。原産地は中央アジアといわれ、それがシルクロードを経由して中国へ伝播していった。「長崎たかな」の登場については、再び、最も古い記録と思われる京都の蘭方医・廣川かいが記した「長崎見聞録 全五巻」を見ると、「タカナは長崎に多く、他所の地では逢わない。長く漬けたものがよい。」とあり、絵図も葉の形状など、現在の「長崎たかな」にとても近いものが描かれている。つまり、江戸時代にはすでに存在し、定着していたことがわかる。明治以降も栽培され、戦前戦後にかけ、その香りの高さと独特の旨味が評判となり人気を集めたが、長野産の野沢菜に押され、消費が減少。現在は、通常の高菜よりアントシアニンが弱く、香味が高いところや、からし菜の風味を持つ味が着目され、需要も生産量も増えてきた。

見た目の特徴 ちりめん状に縮み細長い葉は、緑に少しだけ紫を帯びた色。
味わい 鮮やかな青みが残る浅漬けでは、マイルドな辛味、香り、旨味など、「長崎たかな」の特徴がよく味わえ、発酵し、べっ甲色になるまで漬けた本漬けは、炒め物やラーメンなどの具材としても美味しくいただける。


ながさき伝統野菜エントリーNo.5
長崎の節分料理にはつきもの!
紅大根

収穫期 11月上旬〜2月中旬
紅大根

お正月に欠かせない「長崎白菜(唐人菜)」同様、長崎には、「節分」にも欠かせない食材、「紅大根」がある。年中行事には験担ぎ的な食べ物がつきものだが、この「紅大根」、赤鬼の腕に見立てられ、鬼を退治するという意味でもって、古くから酢の物にして食されてきた(ほかに、地元でガッツと呼ばれ、「お金が貯まる」に通じるとされる縁起物「金頭」の煮付けも長崎特有の節分料理がある)。その細長い形状から大根の名が付くが、本来はカブの一種。「紅大根」は俗称だが、古くからこの名で親しまれてきた。現在栽培されているものは、戦前から長崎市田中町を中心に受け継がれ、地区の数少ない農家が種を保存してきたものを、種の固定化、生産普及と活用方法を検討しながら継承されてきたものだ。もうすぐ節分。ぜひ、長崎ならではの「節分料理」で一年の厄落としをしよう。
 
見た目の特徴 根部から茎葉まで、鮮やかな紅色。赤鬼の腕の異名は、見た目からきたもの。切ると果肉まで紅色の筋が入っていて、華やかな料理にふさわしいビジュアル。
味わい 生でも甘くてジューシー。煮ても色鮮やかなままで美味しい万能野菜。
 
 

「ながさき伝統野菜」の詳しい情報は、「長崎の食」HP
http://www.city.nagasaki.lg.jp/kosodate/530000/532000/p008974.html
 
 

最後に--。
現代日本では、農業従事者の激減と老齢化は深刻な問題。一方、その深刻さをよそに、家庭菜園人口は年々上昇。自分の手で育て、新鮮な野菜を収穫し、食すのがいちばん!ということを実感し、実行する人は増えてきている。また、「地産地消」、「身土不二」の思想は、スタンダードとなりつつあり、今や生産者名を記入した食品が購入できる直売所も市内各所で増え続けている。味を守るのも、食文化を守るのも、育て続ける、食べ続ける、という「継続」にかかっている。消費者である私達は、300年以上も前から長崎の地に根付いた「種」を守り、育て続けてくれている農家の人々の営みに感謝し、これら伝統野菜が育んできた長崎の素晴らしい食文化を積極的に次世代に伝えていきたいものだ。


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