長崎の冬は伝統野菜!



はるか昔、海を渡り、長崎の地に下り立った野菜達が、「ながさき伝統野菜」として、今、注目を集めている。長崎特有の食文化を継承してきた貴重な野菜とは? 精魂込めて育て、伝承に努めている生産者の声と共にその歴史と気になるその味に迫る。


ズバリ!今回のテーマは
「伝統野菜で冬の体力作り!」なのだ




小売り商店が軒を連ねる市場での買物よりも、ラップでグルグル巻きにされた野菜やトレー入りの肉や魚を手にする機会の方が断然多いのが現代の買物風景。 その食材の種類の多さも、バラエティに富んだ産地名も、ひと昔前には考えられないほど賑やかなものとなっている。産地のものを生産者から購入するのが当たり前だった時代からすると想像できない状況だ。

しかし、秋の終わりから真冬にかけて、市場だけでなく馴染みのスーパーにも、時折、長崎に古くから伝わる伝統野菜が陳列棚に並ぶ。食卓を賑わす冬野菜。その中には、長崎特有の食文化を継承してきた影の主役達がいるのだ。

さて、古くから伝わる野菜=伝統野菜。という区別からもわかるように、今、私達が口にしているのは、ほとんどが外国から伝わった野菜、あるいはそれらを品種改良した新種の野菜だ。

鎖国時代、出島に伝わったジャガイモ、キャベツ、アスパラガス、トマトなどは、長崎を通過して全国に伝わった野菜。特にアスパラガスやトマトなどは、もともと鑑賞用の植物として伝わった。
※2010.3月 ナガジン!特集「長崎と海外を結んだ植物たち」参照

野菜は、もともとは野草。そのなかから食べられるものを選び、品種改良を重ね、おいしく食べることができる野菜となった。といっても、それは紀元前2000年までさかのぼった話なのだという。つまり原産国とは、野草の時代から食している国のこと。はじめて野菜として栽培されたのは、トウモロコシ、キャベツ、カブなどだった。

海外から伝来した野菜名には特徴がある。例えば古い時代に中国から伝来した野菜には漢字で名前が付いていることだ。実は野菜を示す漢字は多くはなく、カブ(蕪)、ナ(菜)、ウリ(瓜)、ネギ(葱)、マメ(豆)、イモ(芋)などに限定される。

赤かぶは、もちろんカブが品種改良されたもの、紅大根もカブの一種。そして、「菜」が付くのは、当然もとは同じもの……つまり、「長崎赤かぶ」、「辻田白菜」、「唐人菜」、「紅大根」、「長崎たかな」……「ながさき伝統野菜」であるこの5つの野菜も、ほとんど古い時代に中国から伝わった種類というわけだ。


ながさき伝統野菜エントリーNo.1
アントシアニン豊富な
長崎赤かぶ

収穫期 10月下旬〜1月下旬
長崎赤かぶ

さて、そんな品種改良された野菜の代表格のひとつにカブがある。カブは2系統あり、中央アジア原産が中国経由で西日本へ、ヨーロッパ西南部原産が朝鮮半島経由で東日本へと伝わり、その土地土地で品種改良された。その結果様々な形態のカブが誕生。本来のカブの形をしたものや、大根のように細長いもの、はたまた、野沢菜や小松菜のように葉を食べるものまで、いまや全国で80種以上もあるのだという。

そのカブの1種が、長崎市片淵地区ではじめに作られていたことから「片淵かぶ」と言われ、今も親しまれている赤かぶだ。この「片淵かぶ」は、片淵地区の小さく入り組んだ地形で隔離され生産されてきたことが幸いし、ほぼ伝わった当時の原種のままだといわれている。しかし、すぐに鬆(す)が入りやすく日持ちがしないのが弱点。明治後期の品種比較では、聖護院カブと品種比較した際、劣等であるとされた。そこで、明治後期から大正期にかけて、良質なものを見分けぬいての選抜がなされた。農家の方々の種の保存と改良で、肉質もやわらかな「ながさき伝統野菜」の「長崎赤かぶ」へと進化をとげ、今に至っている。

見た目の特徴 根部から先端までが、美しい紫赤色。
味わい やわらかい肉質と独特の風味と香り。シーズン中は漬け物や三杯酢につけた酢の物として市場の漬物店にも並ぶ。

※2004.1月 ナガジン!特集「長崎の冬の味覚 とっておき10」参照


ながさき伝統野菜エントリーNo.2
日本育成初の結球白菜
辻田白菜

収穫期 11月中旬〜2月中旬
辻田白菜

冬の鍋料理には欠かせない、白菜。カブが全国で80種以上なら、白菜の栽培品種も150種以上と、さらに種類も豊富。原産地は中国北部で、野生の植物からではなく、カブと漬け菜(ツケナ)類が自然に交雑して、栽培種としての白菜の原形ができたと推定されている。中国では、山東(さんとう)、北方、南方の3型に大別され、気候と風土の関係から、日本では山東型のみ定着し分化していきた。株の形態は、結球性、半結球性、不結球性に分けられ、主体は結球型だ。

「ながさき伝統野菜」の「辻田白菜」は、早生で品質が優れ、結球率の高い系統を選抜し育成された、日本における完全結球白菜の最初の白菜。戦前戦後にかけては全国を風靡した名高い品種だった。ネーミングは、大正8年に県に登録した辻田長次郎氏の名に由来したものだ。昭和40年以降、採種程度の規模でしか栽培されていなかったが、近年、その品質が見直され、需要も急増。長崎市木場町を中心に、復活を目指し、栽培規模も広がっている。

見た目の特徴 大型で、丸く結球し、葉肉が厚い。
味わい 葉肉の厚さから、どんな料理でも存在感のある食べごたえで、噛みしめる程に甘味が増す。
 

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