幻の技法、美しい刷毛目を再現
250年の時を経て甦った現川焼


和にも洋にも生活に馴染む器ばかり!
(コーディネート:一瀬厚子)

現川焼製陶のはじまりは、元禄4年(1691)。創始者は有田から来た旧諫早藩被官の田中刑部左衛門(たなかぎょうぶざえもん)(宗悦)、甚内、重富茂兵衛らで、彼らが開いた窯跡が現在も残っている(県指定史跡)。しかし、藩の財政面を理由に、わずか60年足らず、18世紀の半ばで現川焼は途絶えてしまった。現在遺品も極めて少ないこの現川焼の特徴的模様は藤の花と蝶々。しかし、やはり現川焼といえば刷毛目(はけめ)だろう。すでにフグの薄造りが施されているような打ち刷毛目、息を吹き掛け白化粧土(しろけしょうど)を吹き広がらせ神秘的な味わいを見せる吹き刷毛目の技法が最大の特徴なのだ。この途絶えてしまった現川焼を再現している工房が県内に3ケ所ある。伝統を守り、現川の山で採れる鉄分の多い赤土で作陶。白化粧土を刷毛筆で彩り、現川焼の技法を再現しながら、独自の世界を模索し続けておられる土龍窯(どりゅうがま) 向井さんの工房を訪ねてみた。

向井さん
「現川焼は旧諫早藩の配下の元、職人達に食器だけを作らせていたんです。すでに有田が繁栄していた時代ですから美術品は作らせてもらえなかったんですね。しかし、だからこそ現川焼の職人達は作品ひとつひとつに全技術を注いだんです。約60年という短い期間で途絶えてしまったその完成された技術が、もし、その後も続いていたらどのように変化していっただろうか……イマジネーションを膨らませ、残された古窯祉から出てきた陶片や数少ない現存する作品などを見て、刷毛の技法、土はどの辺りの土を使ったのかなどを参考に勉強しています。また、窯ものぼり窯にこだわっています。ガス窯や電気窯とは釉薬(ゆうやく)の発色が違ってくるんです。ただ歩留まりが悪くリスクも大きいのが難点ですが、できるだけ昔と同様にしたいと思っているんです。」

オリジナル作品
(写真右上下)
「常住の物です」向井さんがお茶の習い事をしているときに聞いた今も心に残っているとおっしゃる言葉。常住(じょうじゅう)の物とは“普段使いの物”という意味らしい。向井さんは土味を活かした日常の生活にある焼き物、常住の焼き物を目指しておられる。





■成型 ■鏡を見ながら ■成型終了

向井さんは轆轤(ろくろ)を廻す際、バランスを確認するために鏡を見るのだという。


●問合せ

TEL095-837-0068 現川町2980-2
9:00〜18:00
不定休
●アクセス
車:JR長崎駅前から約30分
(JR現川駅から車で1分、徒歩3分)



向井康博さん
工房の裏手にあるのぼり窯にて
 
●一瀬先生のアドバイス!


「渋い色使いの現川焼ですが、和にも洋にも使いこなせそうです。今回は夏らしく水まんじゅうにお抹茶を添えて。近所で見つけた草花や大きめの葉などを加えることによって、季節感が出て一層美味しく見えますよね。水まんじゅうの下にひいているのは栗の葉なんですよ。背が低い一輪挿しには、蔓ものの時計草を挿してみました。緑を組み合わせるだけで、現川焼が食卓の夏を涼しげに演出してくれます。」


〈3/3頁〉
【最初の頁へ】
【前の頁へ】