「ナガジン」歌で巡るながさき

文・宮川密義

長崎の歌には名所、名物が数多く取り込まれていますが、夏祭りを盛り上げる応援歌や幼い頃の思い出の歌も作られています。長崎の夏は“精霊流し”でも有名ですが、精霊流しの歌はバックナンバー22の「お盆と精霊流しの歌」で紹介していますので、今回はそれ以外のペーロンの歌を中心に…。

１．「ペーロンばやし」

（昭56年＝1981、出島ひろし・作詞、深町一朗・作曲、市川勝海・歌）


長崎の夏のイベントといえば350年の歴史を持つ伝統行事「ペーロン」があり、現在は長崎港の松が枝国際観光埠頭で「長崎ペーロン選手権大会」（平成23年は７月30日～31日）が開かれています。ペーロンの起源は諸説がありますが、長崎には江戸時代に中国の福建地方から伝えられ、最初は中国の人たちが長崎で行い、それを長崎の子供が真似て、やがて大人たちもするようになったとか。初めの頃は端午の節句のお祝いと水神を祭るために、端午の節句とその翌日に行われていたようです。激しい競漕の挙句、喧嘩口論、お金の浪費などで奉行所からは何度も禁止令が出ていたものの、ますます盛んになっていきました。	「ペーロンばやし」のＣＤ表紙
この歌は地元の作詞、作曲家コンビの作品で、ペーロンのスタートからゴールインまでを軽快に、勇壮に、そして方言も交えてユーモラスに歌っています。

２．「ペーロン」

（平成４年＝1992、松原一成・詞、大鋳武則・曲、ＺＩＮＭ・歌）


作詞の松原一成（まつばらかずなり）さんは当時県職員でしたが、町おこしのイベントのプロデュースなどでも活躍していました。作曲と歌はＺＩＮＭ（ジンム）のリーダー、大鋳武則（おおいたけのり）さん。昭和63年に「みんな長崎を愛してる」で人気を集めて以来、長崎の伝統文化を今の人達に理解してもらい、長く継承すべく研究していました。
ところが、平成７年、大鋳さんが病没、グループはまもなく解散しました。その後、作詞担当の松原さんがグループのポリシーを受け継ぎ、さまざまなイベントで長崎の活性化のために頑張っています。この歌はペーロンのリズムと迫力を斬新な感覚で表現しています。囃子部分の「せーりゃえんや」は“競漕しないか”の意味で、「せーらんえ」とか「せーりゃえんか」とも言います。	長崎港での長崎ペーロン選手権大会

３．「ペーロン祭り」　

（平成９年＝1997、龍昿光・作詞、中山治美・作曲、杉直人・歌）


こちらはペーロンの勇壮な競漕を演歌で歌っています。作詞、作曲とも地元長崎の人で、ペーロンを演歌で歌ったものは初めてです。杉直人（すぎなおと＝本名・松崎實）さんは昭和46年（1971）に「女、生きる」でデビュー、179㌢の長身とビブラートの大きい歌い方で注目され、キングレコードでは“炎歌”と名付けてプロモートしました。長崎の歌も「ロザリオの女をたずねて」や平成元年には五島の「あぶんぜブルース」、そしてこの「ペーロン祭り」などを発表しました。しかし、平成４年に長崎に戻り、歌謡教室で後進の指導に当たっていましたが、平成20年に他界しました。	「ペーロン祭り」の表紙

４．「まつり長崎」

（昭和51年＝1976、井之上俊郎・詞、泉八汐・曲、小松実幸・歌）


１番にペーロン、２番に精霊流し、３番に長崎くんちを歌っています。
作詞の井之上俊郎（いのうえとしろう）さんは当時、大手広告代理店の長崎支店長でした。長崎に赴任して以来、くんち、ペーロン、精霊流しなど、長崎情緒に富んだ祭りを歌にしようと考えていました。赴任して３年過ぎたこの年（51年）に作詞、クラウンレコードに届けたところ、クラウンが始めていた全国縦断「日本よいとこ」シリーズに採用され、クラウンの新人歌手、小松実幸（こまつみゆき）のデビュー曲として全国発売されました。しかも発売時期が「ながさき祭り」の行事とも重なり、開幕直前にこの歌の発表会が催され、笹みどり、姿憲子、野村ひろし、といったクラウンの人気歌手もステージに立ったほか、地元の長崎民俗舞踊研究会や長崎芸能会の踊りもにぎやかに舞台を飾りました。	「まつり長崎」の表紙

５．「ほおずき」

（昭和50年＝1975、さだまさし・詞、曲、グレープ・歌）




長崎市の八坂神社の「祇園まつり」（平成23年は７月22日～24日）は約350年前から伝わり、疫病退散、家内安全などを祈願する祭りです。地元では「祇園さん」と呼ばれ、境内はホオズキを買い求める浴衣姿の女性や家族連れなどでにぎわい、夏の風物詩として昔から親しまれています。最盛期は昭和初期でした。八坂町一帯には夜店がぎっしり並び、ホオズキが売られ、夏の風物詩となっていましたが、時代と共に寂しくなっていたので、商店街や自治会が街の活性化に役立てようと、平成６年７月に「祇園さん」を復活させ、綿菓子屋、かき氷、金魚すくい、ホオズキ売りなど懐かしい夜店が並びました。ホオズキは、漢方では酸漿(さんしょう)根と呼ばれ、解熱や解毒の効果があるといわれます。無病息災、家内安全を願って買って帰る人が多くみられます。この歌を作った、さだまさしも祇園さんでの思い出が、心の中に深く焼き付いているそうです。
「ほおずき」の表紙	八坂神社の「祇園さん」の夜市

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