第25回 前田嗣義さん

写真?と思ったら実は絵だった!それも色エンピツだけで描かれた絵と聞いてさらにびっくり。幼い頃から絵や写真に親しみ、色エンピツ画の世界に独自の画法を切り開いた「まえだいろエンピツ画教室」主宰の前田嗣義さん。その画法は何十種類とある色鉛筆を使い分け重ね塗りすることで、まるで本物のような質感や深みを表現するというもの。前田さんのその類まれな才能と発想力とは?

前田さんが考案された色エンピツ画の画法について教えてください。

前田さん 「印刷にしても写真にしても黄、青、赤の三原色の組み合わせが基本であることはご存じですか?三原色にどの段階で、他のどの色を重ねていくかで仕上がりは変わってくるものですが、色エンピツ画にもその技法を取り入れてはどうかと考えました。色エンピツには赤ひとつを取っても色の種類はいくつもあります。三原色の法則をもとにさまざまな色を重ねていけば、色エンピツでもモチーフの影や光沢などより立体的に表現できるという結論にたどり着きました。」

前田さんは新聞社でカメラマンをされていたそうですが、そういった経験も色エンピツ画に活かされているのでしょうか?

前田さん 「そうですね。写真を撮るのはもちろんですが、以前、写真修正というのは針のようにとがったエンピツを使ってフィルム上で行っていました。色エンピツの芯の先を細長くとがらせ、軽く塗り重ねていくという方法をこの画法に取り入れたのは、そういった写真修正技術の応用でもあります。ほかにも、教室で生徒さんに教える時、特に初心者の場合、いきなりデッサンというのはなかなか難しいので、まずモチーフとなる写真を私が撮影してきてそれを見て描いてもらうという方法を取り入れています。 」


これだけの技術を初心者の方に伝えるのはなかなか難しいと思いますが。

前田さん 「例えば、ぶどうの紫を表現する場合、赤、グリーン、紺、薄い紫、最後に光沢を出す白…という順番で色を重ねていきますが、ここでこの色を重ねるという順番を色番号でみなさんに伝えます。“908番の緑”というように、色エンピツにはすべて番号がふられていて、私の頭の中にはその番号がすべて入っているんですよ。番号をひとつ間違えるだけで大変なことになりますから、責任は重大です。 」


細く長くとがらせた色エンピツ。同じ色に見えても番号が違えば微妙に色が違うというからスゴイ。その番号をすべて覚えているという前田さんはもっとスゴイ。


色エンピツ画の一番の魅力とは?

前田さん 「色エンピツと画用紙があれば、誰でもどこでも気軽にすぐに描くことができるところです。主婦の方が家事の合間に台所で気軽に描くこともできるわけですね。教室には小学生もいれば84歳の方もいらっしゃいます。みなさん絵が完成した時には、自分でもこんな絵が描けるんだ!と、とても喜ばれますよ。そんな生徒さんを見ていると私も嬉しくなります。」


前田さんはこれまでにたくさんの作品を残していらっしゃいますが、今後、新たに取り組みたいことを教えてください。

前田さん 「私が考案した色エンピツ画は描く素材を選びません。画用紙の色も白でなくてはいけないということはありませんし、実際、私はベニヤ板に描いたこともあるんですが、今後はトレーシングペーパーなど、紙を何枚も重ねて描く研究に取り組んでみたいと思います。」



前田さんは自作の色鉛筆画や写真を組み合わせてこんな栞やポストカードも制作している。

(最後に)
「色エンピツ画のおかげなのか老眼鏡いらず」という御年77歳の前田さんは、絵を描き、写真を撮るだけでなく、現在も長崎市内・時津町・長与町で全8クラスの色エンピツ画教室を受け持つ。そんな若い人顔負けのパワーの源には、自らが考案したこの素晴らしい画法をできるだけたくさんの人に伝えたいという思いがあるのだろう……。色エンピツという魔法のステッキを手に、前田さんはこれからも描き続ける。


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