第21回 山口八重子さん

今回は「生ごみシェイパーズ長崎」の会長を務める山口八重子さんに話を伺った。生ごみシェイパーズとは、つまり「生ごみ減らし隊」。山口さんは環境にやさしい生ごみ処理容器を使った生ごみの堆肥化(コンポスト)を実践し、広める活動をしている。

山口さんが、この活動を始めるようになったきっかけを教えてください。

山口さん「今から12年ほど前に生ごみに関しての講習を受ける機会があったんです。それまでは私も生ごみを普通に捨てていたんですが、その講習を受けて『生ごみってすごいんだな、リサイクルできるんだな』ということを知ったんです。それから、1人で細々と自宅の生ごみをポリ容器の中で堆肥にし始めました。それが6、7年ほど続きましたね。  
そんなとき、さまざまなテーマを通じて地域づくりについて考える長崎伝習所で『生ごみシェイパーズ塾』を立ち上げる話があり、私に白羽の矢が立ったんです。塾長なんて最初は責任重大だと思いましたが、『人のために、誰かのために、喜ぶようなことがしたい』と、引き受けることを決意しました。  
生ごみというのは、生活する上においては必ず出るもので、終わりがありません。生ごみを減らすということは、やりがいのあることだと思いました。自分が行動することによって、みんなが喜んでくれるんじゃないか、市民のためになるんじゃないかと考え、私にもできることがあるなら、がんばってみようと思ったんです。」

「生ごみシェイパーズ塾」で大変だったのは、どんなことですか?

山口さん「苦労したのは、やっぱり立ち上げの時ですね。公募で集まった15名のメンバーで月に1度、今後の活動について話し合いを持つ予定にしていたのですが、半年くらいは集まりが悪くて、いつも集まるのは2、3名。多くても5名ほどしか集まりませんでした。これではどうしようもない。『私が悪いのかな』と落ち込んだこともありましたね。  
それでもとにかく、どこかでイベントをやってみんなにごみの堆肥化について知ってもらおうということになり、まず最初に、メンバーの1人の地元でもある梁川公園で、生ごみの堆肥化に欠かせない発酵促進剤(ボカシ)づくりを行うことにしました。当日は雨雪が降り、急遽、公民館をお借りすることになったのですが、その会場に100名近くの方が足を運んでくださいました。それも地元の方だけでなく、遠くからも集まってくれたんです。このイベントが大成功し、マスコミの取材の効果も手伝って、塾に人が集まるようになりました。  
何かに一生懸命取り組む姿勢を見せたら、伝わるんだなぁと思いました。イベントを通じて、多くの方が私たちの活動に関心があるんだということが分かり、本当に嬉しかったですね。」


生ごみの堆肥化について、具体的に教えてください。

山口さん「私たちが実践しているのは、生ごみ処理容器を使った生ごみの堆肥化(コンポスト)です。必要なのは、生ごみ処理容器とボカシと呼ばれる発酵促進剤。生ごみ処理容器は大きさにもよりますが、約3,000円で購入できますし(件数に限りはありますが、市の補助を受けると半額で購入できます)、ボカシは一般家庭で普通1ヶ月に2kg(約400円〜600円)あれば十分です。ボカシを自分で作れば、もっと低コストで実践できます。ボカシには乳酸菌という腐敗を抑える働きをする微生物が入っていますから、1ヶ月経っても熟成するだけで、腐敗はしません。つまり、臭くないんです。  
よく『堆肥化したくても、畑がない』という方がいらっしゃいますが、ベランダで野菜等を栽培している方もたくさんいらっしゃいますよ。自然の力で生ごみを発酵させ、まさに有機の堆肥ができますので、家庭菜園やガーデニングに最適なんです。  
また、ボカシは作れると言いましたが、私も最初は市販のものを使っていました。それが『生ごみシェイパーズ塾』を始めるにあたり、ボカシから作ろうということになったんです。それは、試行錯誤の連続でした。ボカシづくりは人によって様々です。ほとんどのボカシは微生物液と米ぬかだけで作っていますが、私たちは籾がらを入れて作ります。籾がらを入れると、ダマにならずに、よく混ざるんです。それから水分量や微生物液の種類など、何度も何度も挑戦し、研究を重ねました。その結果、オリジナルのボカシが完成し、評判も上々です。」


山口さんは、その堆肥を使って、野菜も作っているんですよね。

山口さん「私たちの取り組みというのは、ゴミを減らすだけじゃなくて、食育につながっていくんですよ。生ごみを捨てずに土に還し、その土で野菜を作り、食べる。生ごみは捨てればただの汚い、臭いごみですが、これを土に還して、その土からできたものを食べることで、命もつながっていくんです。まさに循環型リサイクルです。私にとって、生ごみは宝物。生ごみを土に還して、そこから命をいただくのですから。  
今、うちの畑ではほうれん草を栽培しています。私が生ごみ堆肥を作る担当で、主人が野菜を作る担当です(笑)。大根やちんげん菜など、季節によっていろんな野菜を作っていますよ。食べきれない分は、友人や知人におすそわけ。それが、市販のものに比べて味が濃い、甘いと評判がいいんです。全く野菜を食べない子どもがうちで作った野菜なら食べると言われることもあります。それくらい野菜本来のおいしさがあるんですね。生ごみが減って、おいしい野菜ができて、健康をもらえる…生ごみパワーって、本当にいいこと尽くしなんです。  
私のように、堆肥を使って野菜を作っている方は増えてきました。ごみを減らすことから始めた活動ですが、最近では野菜を収穫したときの喜びの声が多く聞かれます。プランターや発砲スチロールで人参やキャベツ、ブロッコリーを作っている人もいるんですよ。安全で、おいしい野菜は土づくりからだと痛感します。  
誰でも嫌々だと、物事は長続きしません。私たちのモットーは『家庭から出る生ごみを減らして、楽しみながらリサイクルしましょう』ということなんです。みなさんにも生ごみはごみではなく、土に還せば私たちの命をつなぐ宝物になるということを知っていただきたいですね。」



山口さん宅の生ごみ処理容器。
毎朝、生ごみをボカシと混ぜ、この容器へ入れる。白いカビは熟成している証だ。この容器で1〜2週間熟成させたものを畑に返す。
生ごみなのに、ほとんど臭いがしない!


生ごみを減らす以外で、家庭でできることは何でしょうか?

山口さん「生ごみだけじゃなくて、各家庭でできることは、たくさんありますよね。私はぜひ、みなさんに『環境家計簿』をつけてほしいなと思っているんですよ。それは、車のガソリン、ヒーターの灯油、電気代、水道代…と、基本的なもので構わないので、いくらかかったかを毎月記録すること。記録をすることによって、『今月は少しつかい過ぎたから、来月は気をつけよう』と思うようになります。コンセントはこまめに外す、家族の誰かが消し忘れた電気は気付いた人がすぐに消す…そういうことを気がけるようになります。私は6年ほど環境家計簿をつけて、それを実感しました。  
それは単なる節約ではなく、環境に対しての意識の問題です。しかも意識が出てくると、必ず前年より1、2万円ほど家計が浮きます。それがご褒美ですね(笑)。長崎市の全世帯がこれを実践すれば、すごいですよね。本当に意識の問題なんです。」

これからの夢は何ですか?

山口さん「私たちは現在、いろいろな地域に出掛けていって、その地域のみなさんと一緒にボカシづくりから、土づくりまでを実践し、生ごみの堆肥化の普及活動をしています。最近では、各自治会からお声が掛かる機会も増え、意識が高まっていることを実感します。嬉しいですね。でもまだまだだなぁと思うんです。これからもっと普及していくといいですよね。  
私はこの活動にとてもやりがいを感じています。今後は更にこれを積極的に広めて、みんなが元気で喜ぶ顔が見たいです。」

最後に、長崎の好きなところを教えてください。

山口
さん「私が住んでいる茂木の上の方に唐八景があります。そこの展望台からの景色が私は大好きです。そこから長崎全部が見えるんですよ。孫が来たら必ず連れてく場所です。橘湾が広がり、稲佐山や港が見え、昭和町の先の方まで見渡せる。あの場所からの眺めは最高です。あの展望台に上ると、なんだか頂点に立ったような気持ちになるんです(笑)。前を向いても、後ろを向いても、横を向いても、みんな気持ちのいい眺めです。」


「生ごみは宝物」。そう言って笑う山口さんは、本当にキラキラとしていた。考えてみると、私たちが捨てる生ごみは野菜の皮、魚の骨、食べ残し…。これらには、栄養分がたっぷり含まれている。それを土に還し、野菜を作るのだから、おいしい野菜ができないはずはないのだ。生ごみを減らすことが、それだけに止まらない効果を生み出していることは素晴らしい。山口さんは「誰にでもできること」だとも語ってくれた。1人1人ができることから始めること、それこそが未来によりよい環境を残す一歩なのだろう。


【もどる】