第20回 松尾小太郎さん

今回は「お米マイスター」なる資格を持ち、多くの人においしいお米を食べてもらおうと日々努力を重ねている長崎市油屋町の米穀店店主、松尾小太郎さんに話を伺った。

お米マイスターとはどういうものですか? また、なぜその資格を取得しようと思ったのですか?

松尾さん「お米マイスターは平成14年度から始まった制度ですが、私はこのスタートの時に試験を受けて、資格を取得しました。お米マイスターの定義は『お米に関する幅広い知識を持ち、米の特性(品質特性、精米特性、ブレンド特性、炊飯特性)を見極めることができ、その米の最大の特長を活かした商品づくりを行い、その米の良さを消費者との対話を通じて伝えることができる者』となっています。私はこの仕事をやっている以上、自分の知識を確かめてみたいというのもあり、試験を受けました。」

お客様にすすめるときに心がけていることは何ですか?

松尾さん「お客様にすすめるときというよりも、仕入れの段階で心がけていることの方が大きいですね。私は必ず自分で買って食べて納得した米だけを販売するようにしています。やっぱり実際に食べてみて『これは、おいしくないな』というものもあるんですよ。そういう米は販売できませんよね。香り、味、甘み、ねばりなどを確認し、おいしいと思うものだけを売る、自信を持って売るということが大事だと思います。 これは、育った環境も関係しているかもしれませんね。私がこの店を継いでもう40年になります。小さい頃から、米に対する姿勢は他の家庭とは違うものがあったと思います。新しい米が入るたびに、食卓でこの店の初代でもある父と試食していましたからね。今は基本的には私が好きな県の米を取り寄せて試食をするのですが、その好きな県の米に辿り着くまでにも、たくさんの試食を重ねました。マイスターの資格の中には米の特性を見極めるという項目も入っていますが、それはコシヒカリやひとめぼれなどの品種を見極めるのではなく、いい米かどうかを見極めることを意味します。 もうすぐ新米の季節なので、またたくさんの米を試食して、みなさんにお届けしたいですね。 」


最近は地産地消ということで、長崎産のお米に興味のある方もいらっしゃると思います。長崎のお米について教えてください。

松尾さん「長崎の米のことで、私が心配しているのは、地球温暖化なんです。気温が上昇していることで、長崎の米もところによっては品質低下が見受けられます。今まで作ってきた米では今の気温に耐えられないんですよ。害虫の種類も変わってきていますしね。米の質が落ちていることで、地球温暖化を実感しています。そのため、品種改良が行われ、最近では長崎県内でも『にこまる』など新しい品種が出てきています。温暖化に負けない品種『にこまる』が出てきて、だいぶ県内の米の品質は上がったと思いますよ。試験期間を乗り越え、ようやく生産も追いつくようになり、いま期待の米ですね。11月に入ると店頭にも並ぶので、ぜひ食べていただきたいと思います。」

この仕事をしていて良かったと思うときは、どんなときですか?

松尾さん「やっぱりお客様に『今度のお米はおいしかったよ』と言っていただくと嬉しいですね。私の店では米を1kgから販売していますが、お客様によっては来られるたびに違う米を買って楽しまれている方もいらっしゃいます。私も店頭に並んでいる米はすべて食べているので、そういうお客様にもいろいろなアドバイスができます。 また、米のブレンドも私の仕事です。米には相性があります。単品で食べた方がおいしいもの、他の米と組み合わせた方がおいしいもの。簡単に言えば、柔らかすぎる米と固めの米をブレンドして、ちょうどいい固さにするというようなことですね。ブレンド米は業務用が多いのですが、お店の人と話をして、そのお店のカラーに合う米を作り上げていきます。常に『今度の米はどうだったか』という話をし、その店に合う米を追求しているんです。そうやってお客様に喜ばれることが1番嬉しいときです。 」

お米マイスターとしてこれからどういう活動をしていきたいですか?

松尾さん「米は品種も変わってくるし、毎年情報収集をし、常に勉強しないと、いいものは提供できないんですよ。例えば『ここの米は品質が落ちてきたな』と思えば、次の新しい品種がまた出てきますしね。だから、取り寄せて試食するというのは大事なことです。時には実際に生産農家へ足を運び、生産者の方とお話することもありますよ。どんな仕事もそうでしょうが、常に勉強していないと、お客様のニーズには応えられないですよね。最近、ニュースなどで食の安全が叫ばれていますが、本当にどうしてこういうことが起こるのかと、信じられない思いでいっぱいです。私はただただ、今の姿勢を貫いていこうと思います。結局は地道に努力していくしかないんです。」

簡単にできるおいしいお米の炊き方ってあるのでしょうか。あればぜひ教えてください。

松尾さん「まずは、最近よく言われていることではありますが、米を研ぎすぎる方が多いんですよ。昔は米はよく研ぎなさいと言われていたと思うんですが、最近は精米機の質が向上しているので、ヌカの付着が少ないんです。今の米はそのままでも炊けるくらい付着が少ないので、逆に研ぎすぎると栄養価も落ちるし、べちゃっとした感じになります。軽く2、3回こすり合わせる程度を心がけてください。それだけで味が随分と違いますよ。また、電気炊飯器で炊く場合、炊きあがった直後に炊飯器の蓋を開けて、ご飯をざっくりと混ぜていただきたいですね。放っておくと蒸らしすぎになり、味が落ちるんです。この2点を実行するだけでも、絶対においしくなります。 研ぎすぎ、蒸らしすぎでは、どんな米でもおいしくないし、逆に同じ米でも、この2点を守ればおいしくなります。おいしい米を食べるために、ぜひ実行していただきたいですね。私たちの仕事は、米の質だけでなく、研ぎ方や炊き方も含めて、消費者のみなさんに伝えてくことが大事だと思います。 」

ほんの少しの気遣いでお米がおいしくなるんですね。とても参考になりました。最後に長崎のおすすめの場所や好きなところを教えてください。

松尾
さん「もう、くんちしかないですね(笑)。私たち、油屋町の川船は来年が踊町。24歳の時に初めてくんちに出て、それから虜(とりこ)です。今は指導にあたっていますが、この夏からもう動き出しているんですよ。くんちが近付くと、血が騒ぎますね。来年はくんち一色の年になると思います。くんちはその日までの過程が楽しいんです。仲間意識というか、子どもたちも日を追うごとにピシッとしてきますしね。人を思いやる気持ちが育つのだと思います。これから地域の人と話し合いを重ねて、どんな川船にしていくかとても楽しみです。」


毎日のように流れる食品に関する暗いニュース。だが、「本当においしいものを食べてもらいたい」という気持ちで仕事に向き合っている松尾さんの話は、それを吹き飛ばしてくれた。松尾さんがお米と向き合う真摯な姿勢は当たり前のことなのかもしれないが、これからもその姿勢を崩すことなく、私たちにおいしいお米を紹介し続けてほしい。


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