第18回 高橋智子さん


中学一年生のときに見た映画ウエストサイドストーリーの歌と踊りに魅せられたことがきっかけで声楽の道に進み、自らがソロで歌うのはもちろん、後進の指導にも力を入れている地元長崎で活躍する声楽家、高橋智子さんに長崎の魅力について伺った。

どういうきっかけで声楽の道に進もうと思ったのですか?

高橋さん「中学一年生の時に『ウエストサイドストーリー』を見て、それは感激しました。体中に戦慄が走るくらいに・・・。夏休み中に4回も見に行ったんですよ。そしてミュージカルスターになるんだと思いこんで、でもどうしたらいいかわからない。それでスクールメイツに応募したりしました(笑い)。父親が見かねて『まずクラシックの基礎をちゃんと習ったらどうか』というので、近所の先生に歌を習いに行き始めたのです。そして高二から音楽科受験のため正式な勉強をし始め、希望の大学で声楽を学んだんです。」

中学一年生のときからずっと情熱を持ち続けるなんですごいですね。大学を卒業されてからはどうされたのですか?

高橋さん「やはり、ミュージカルをやりたかったので、なんとかつてを探しているとき、遠縁にあたる方が東京でミュージカル『屋根の上のバイオリン弾き』に出演しているということを知りました。それでその方が帝国劇場で公演中に会ってくださるというところまで決まったときに、母が病で倒れたのです。ショックでしたが、とりあえず上京はあきらめ、ピアノ教師として子どもたちに教え始めました。」


それは運命というか、つらい選択でしたね。長崎にいらしても声楽は続けられていたんですよね。

高橋さん「1982年、27歳の時ですが、県民の力でオペラ『蝶々夫人』をやろうということが長崎県、市、文化団体協議会、オペラ協会などの主催で実現し、その合唱オーディションに合格して参加しました。発声の一から勉強し直してがんばりましたよ。83年に長崎県新人オーディションに合格し、その後、西日本新人オーディションにも合格しました。それで、長崎県オペラ協会に入会したんです。」

それからすぐに「蝶々夫人」を演じられたのですか?

高橋さん「いいえ。1985年にイタリアに2ヶ月という短い間ですが、留学しました。これがすごく刺激になりました。とてもいい先生に巡り会えたからです。知らない土地で大変なこともありましたが、とても楽しく一生懸命でしたね。シャワーも満足に使えなくて友人の所へ洗髪に行ってました。今考えるとすごい生活ですね。87年に二回目のオペラ『蝶々夫人』で主役の蝶々夫人を歌わせていただきました。初のソリストとしてのデビューで、ほんとうにラッキーだったと思います。」



やはり「師」というのは大切ですね。いい出会いがあってよかったですね。

高橋さん「そうです。今の私があるのは、イタリアでの先生もですが、疋田生次郎(ひきたせいじろう)という師に巡り会ったことだと思います。非常に独特の発声法をされる方で、1990年から2000年まで東京へレッスンに通いました。この先生に師事できてほんとうに幸せだったと思っています。」


主役を演じられてからは、どういう活動をされたのですか?

高橋さん「発声法を教えながら、グループを組んでの演奏活動など、一時は年に17〜19回もの演奏会をこなしていましたね。ところが、無理がたたって、2001年に体調を壊してしまいました。それでもオペラ協会の「蝶々夫人」の主役を務める弟子を2人も育て上げられたことが何よりの喜びでした。それからは演奏会も少なくして、人を育てることに専念したいと思っていました。」

去年、ソロのコンサートをされたんですよね。大成功だったと伺っていますが、今後も続けていかれますか?


高橋さん「そうなんですよ。人に教えることを何より喜びにしていたのに、自分が練習することになって新たな目標ができましたね。20年間の思いをこめて舞台に立ちましたが、またあらためて歌うことの楽しさを実感しましたし、歌っていると不思議なことに心が安定するんです。また機会をつくって挑戦したいですね。とにかく教え子も含めて人との出会いを大切にしながら活動を続けていきたいと思っています。」


最後に長崎のおすすめスポットを教えてください。

高橋さん「グラバー園ですね。それと活水女子大の中庭から見る長崎港・・・蝶々夫人のある晴れた日の原点の風景だと思っています。皆さんにも蝶々さんに思いを馳せながら、ぜひ見ていただきたいですね。」


私は話す声と歌声とがまったく違うと驚かれるんですよと笑顔で語る高橋さんは、地元で活動を続けることに誇りを持っていますときっぱり言われます。長崎の音楽のレベルアップに微力ながら貢献すること、そしていい歌い手をたくさん育て上げることが今の夢なのだそうです。健康に留意されてぜひ夢を実現して頂きたいと心からエールを送りたいと思います。


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