第15回 杠(ゆずりは)達郎さん


結髪師とは、文字通り、髪を結い、カツラを作る専門家。現在は時代劇や婚礼用カツラ作りの仕事が中心だ。長崎市稲佐山の麓で制作をしている杠(ゆずりは)達郎さんは、全国でも数少ない結髪師の一人。映画『精霊流し』で俳優さんがつけるカツラ作りを担当したり、全国版の結婚情報誌では婚礼用カツラが紹介されるなど、高い技術は全国的にも知られている。
今回の「愛すべき長崎人」は、長崎を拠点に日本の伝統の美を追求する杠さんに、“長崎の魅力”についてうかがった。


結髪師とはあまり知られていない職業ですが、杠さんはどうしてこの道を選んだのですか

杠さん「実家は佐賀で美容室をしているのですが、私自身は美容師になる気は全くなくて、大学卒業後は東京の商社に就職しました。でもだんだん、もっと自分で責任が持てる仕事をしたい、という思いが強くなり、2年半で退職しました。組織の中で働いていると、他の人がやったことの責任を負わなければならなかったり、自分の仕事への手応えを実感しにくかったりして、次第に働くことに疑問を持ってしまったのです。
退職後は佐賀に帰って美容師の勉強を始めました。当時、岡山から長崎へ専門家が髪結いやカツラ作りの技術を教えに来ていたので、長崎へも通いました。
『結髪師になりたい』と強く思ったのは、ある結婚式の会場で、不似合いなカツラを被せられ、笑っている花嫁さんの姿を見たときです。ショックでした。『花嫁さんにぴったりのカツラをつけてもらいたい、本当の笑顔にしてあげたい』と思ったのです。」

いま全国的に結髪師は少ないそうですが、職につくのは難しいのですか

杠さん「そうですね、食べていくのが難しい職業で、途中で挫折してしまう人も少なくありません。私は27歳位のときに大会に出場し、稲森いずみさんのカツラを作らせてもらったのですが、幸運にも、それから少しずつ仕事をいただくようになりました。それでも常に腕を磨いていないと、カツラの出来をみればすぐにわかりますから、気が抜けませんね。」

細かくてとても神経を使う大変な作業だと思いますが、やめたいと思ったことはありませんか?

杠さん「やめても次がありませんから。正直、ノイローゼになりそうな作業です。でも私は学生時代から射撃をやっていて、それがストレス解消法になっているんです。射撃は点数が出るし、100点満点もある。もちろん100点なんて出せないんですけど、究極が求められるでしょ。カツラ作りは求めても求めても終わりがないんですよ。カツラ作りで行き詰まったとき、一旦カツラから離れて射撃をすると、なんだ!と解決することがよくあります。逆に射撃で陥ったスランプは、カツラ作りで解消することが多いのです。
この仕事は1+1=2だけではなく、1+1が0にも10にもなる。そこが面白いところ。サラリーマンより今の仕事が自分には合っていますね。」

これからの夢や目標はありますか?

杠さん「夢は・・・今のまま細々とやっていけたらいいかな、と。あまり大きくなりたいとは思わないんです。仕事自体は表に出るものじゃないですから。これからも、花嫁さんを綺麗にしてあげたいという初心を忘れず、お客さまに満足していただけるカツラを作り続けたいです。」


それでは最後に観光客、またはこれから長崎へ移り住む方へ訪れて欲しい場所など具体的なアドバイスをお願いします。

杠さん「小さな街だから面白い場所が狭い範囲に集中していて、観光もしやすいと思います。タクシーで回れますから車はいりません。その方がお酒も飲めますし。魚がおいしいので、ぜひ食べてもらいたいですね。」



「他人の評価は気にせず、自分が気に入ったものを選んでください」と杠さんからのアドバイス。カツラのほか、自分の髪でも結ってもらえる。特別な日に、髪にもこだわって、いっそう素敵な思い出にしませんか。

婚礼かつら ゆずりは
長崎市曙町11−6
TEL 095(862)7236


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