第12回 高浪高彰さん


鎖国時代、長崎奉行所西役所があった江戸町、現在の長崎県庁のすぐ側に、長崎雑貨の店「たてまつる」がある。店舗は築52年の町家。風情のある一角だ。
店内に並んでいるのは陶器や手染めのスカーフ、ポストカードなど、どれも長崎の歴史や文化、風景をモチーフにしたオリジナル商品。特に目をひくのは、凧揚げ、中島川と眼鏡橋、長崎ことはじめなどをデザイン化した手ぬぐいで、一枚一枚の絵柄にストーリーがある。
今回の「愛すべき、長崎人」は、これらの手ぬぐいを自らデザインしている「たてまつる」の店主・高浪高彰さん。一昨年、東京から故郷の長崎へ戻り、ゆったりとした長崎暮らしを楽しんでいる高浪さんに“長崎の魅力”についてうかがった。



長崎の風物をモチーフにしたバッグ


手ぬぐい

高浪さん「地元の高校を卒業後、東京の専門学校に進学してからは、ずっと東京で暮らしてきました。学生時代は歴史には興味がなくて、上京した当時も長崎について何も知りませんでした。
専門学校卒業後、就職先で山形出身のSくんと知り合ったのですが、彼は、山形の歴史や文化について詳しく知っているのです。私が感心して聞いていると、彼は、何も特別なことではなく、自分の故郷のことだから知っているのは当然だという素振りで、私に、長崎ならいろいろと面白いことがあるでしょ、と聞いてきました。そのとき恥ずかしながら、私は皿うどんしか思い浮かばなかったのです。それで、長崎のことを少しは知っておこうと古書店で長崎に関する本を購入し、読んでみました。するとそれが面白くて面白くて。もっと長崎について知りたくなって、それからは長崎に関する本を見つけては購入しています。」

勉強熱心なんですね。

高浪さん「勉強という感じではないんですよ。本当に面白くて読みあさっているだけなんです。」

そんな高浪さんの長崎に対する好奇心から“長崎雑貨”は誕生しているのですね。

高浪さん「私は“長崎雑貨”というネーミングが気に入っています。どこにでもある、みやげ物ではなく、長崎にしかないものを作りたいのです。

陶器は、東京に住んでいる陶芸家の知人に、長崎の風景などをイメージして創作してもらっていますし、手織り、手染めのスカーフやバッグは妻のオリジナル。染めは、クローブなど出島を通過して日本に入ってきた草木染料を使ったもので「出島染め」と名付けました。
手ぬぐいは現在15種類ありますが、いずれは人間の煩悩の数と同じ108種類作りたいと思っています。ネタは十分にありそうですから。長崎の歴史をぬきにして、日本の歴史は語れません。それだけ奥が深いのです。」




出島染めのバッグ
住み慣れた東京を離れ、長崎で商売を始めることに抵抗はありませんでしたか?

高浪さん「もちろん不安がなかったわけではありません。しかし実際に帰郷してみると、とても暮らしやすい街だと実感しました。坂本龍馬は生前、長崎のことを“墓、坂、馬鹿”と表現しています。馬鹿とは、馬鹿みたいに人がいいということ。この言葉は長崎のことをよく言い表していると思います。私も快く受け入れてもらい、店にもたくさんの人達が立ち寄ってくれます。
それから気候がよくて、時間の流れがゆったりしているのも魅力ですね。」

それでは最後に高浪さんの好きな場所やおすすめの場所を教えてください。

高浪さん「そうですね、ではおすすめの散歩コースをご紹介しましょう。眼鏡橋から中通りを抜けて、たくさんのお寺が立ち並ぶ寺町へ。皓台寺と大音寺との間のヘイフリ坂(幣振り坂)を上ります。坂道から階段へ変わり、きつい石段ですが、決して振り返らないで。シーボルトの娘・おイネさんのお墓まできたら、そっと後ろを見てみてください。そこにはとっておきの景色が広がっていますよ。」


長崎で好きな場所を尋ねたとき、高浪さんは返答に困っていた。それだけ高浪さんにとって長崎はどこも魅力的な場所なのに違いない。現代の長崎に暮らしながら、歴史上の人物や出来事に思いを馳せ、人一倍、長崎暮らしを満喫しているように思える。
好奇心いっぱいに長崎の街を見つめ、様々な発見に目を輝かせる高浪さん。これからもユニークなオリジナルの長崎雑貨で、私たちを楽しませてくれそうだ。

長崎雑貨「たてまつる」
長崎県長崎市江戸町2-19
Tel&Fax 095-827-2688
http://www5.cncm.ne.jp/~tatematsuru-net/


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