第8回 早稲田 佳子さん


茶道を教える茶道教授として、また、多種多様な空間を使っての催しにおいては、季節の花や旬の素材を用いた懐石料理で“和”を演出する早稲田さん。
今回の「愛すべき、長崎人」は、一貫して“和”にこだわりを持ち、空間、時間をプロデュースする早稲田さんに“長崎の魅力”についてうかがった。
 
現在、寺町にある日本最古の唐寺・興福寺と、秋の大祭“おくんち”で知られる諏訪神社奥にある諏訪荘を、季節の花によって、定期的にプロデュースしておられるそうですね。

早稲田さん「私、日本に生まれて良かったな、って思うんです。畳、障子、石垣……日本古来のものや日本独特の自然が好きなんですね。道を歩いていると、様々な野花が咲いていますよね。その昔、海外から飛行機で来た花も多くて、カタカナの名前で覚えきれないものも多いですが、そこら辺に咲いているだけだと見落とすけれど、ちょっと切って花器に挿すと、
『この花、昔ありましたよね』なんて話が出てくる。
すると、『最近なくなってきたよね』
『大事にしなくちゃね』となるんです。
私は、いろんな空間を使わせてもらって、日本古来のいいもの、大切なものを多くの方々に伝えられたらいいな、と思っています。」



伝えたいことの中には、具体的にどんなものがあるんですか?

早稲田さん「お茶の教室でも料理教室の中でも、私が仕事の中で出会った方には大人としてステップアップしていけるようなことを伝えていきたいと思っているんです。例えば、挨拶。お世話になった方とか、頂き物をしたというときに、電話一本、お礼状一枚書くこと。相手に気持ちが伝わるようにできて大人だと思うんです。“人の在りよう”というもの、人類(日本人)の歴史、進歩というものを次の世代に伝えていきたいんですね。今は、失くしていいものと、失くしてはいけないものを判断する過渡期にあると思うんですね。そんな中から今からの人達に“決して失くしてはいけないもの”をどんなに小さなことでも伝えていきたいと思っているんです。そのひとつの機会として、9月からは月2回、3ヶ月間に渡ってお手前以前の作法、言葉遣いや頭の下げ方などを短期特訓するお教室を開く予定にしているんですよ。」

他に、ライフワークにされていることがあるそうですね。

早稲田さん「今年前半は、江迎町の繭玉まつりという町興しの一環であるイベントを約1ヶ月間お手伝いしたんです。平戸のお殿様が食べていた卵料理などを再現して、お客様に食べて頂いたりしたのですが、私は “自分達の町を良くしたい!”と、爆発するようなエネルギーをもって地道な努力をしながら頑張っている人達を応援したいんですよね。」

また、早稲田さんは長崎に住んでいながら、出身地である島原をフォローするような動きもなさっている。

早稲田さん「島原で何かイベントをするとなったら、バスを貸し切って人を集めて出向きます。途中、島原名物の具雑煮を食べたり、神代(こうじろ)の鍋島藩の屋敷を見学したり、農家の方が経営している店に立ち寄って新鮮な野菜を買ったり、島原の魅力を満喫できるツアーです。参加者の中にはいろんな方がいらっしゃいますから、参加者の仕事や趣味を生かした話を往復のバスの中でして頂いたりします。歯医者さんがいたら歯の話、私だったら料理やお茶の話と、内容は様々。耳だけ貸してもらってもいいし、別に寝ていてもらってもいいんです。何かに役に立てばいいなとも思いますし、生きて、動ける時間をどのように濃密に過ごすかというのが、私がテーマにしていることなので、私が勝手に好きでこのような“時間の提供”をさせてもらっているんです。」

さて、そんな早稲田さんから見た長崎の魅力ってどんなところでしょう? 観光客、またはこれから長崎に移り住む方へ訪れて欲しい場所など具体的なアドバイスをお願いします。


早稲田さん「学生時代、休講になったら興福寺へ寝転がりに行っていました。私は、そんな気持ちが良い所、何だか安心できる場所が好きです。聖福寺の鬼塀もいいし、上町から玉園、炉粕町辺り、諏訪神社から西山の方へ抜ける道筋の風情も大好きです。それから石橋界隈や南山手の杠葉(ゆずりは)病院辺りの雰囲気もいいですね。私、石垣が好きなんですよ、長生きしているな?なんて思いながら通るんです。そして、市場! 独特な雰囲気、臭いがあるでしょう? 市場の小売店は、小さいながらもその店の主人が商品を厳選し、いろいろと考えて陳列しているわけでしょう? それが何だか愛おしいんです。人と人とが接触できる、スーパーにはない昔ながらの良さが長崎の市場にはまだまだ残っていますよね。」


生きている間は“もっと!もっと!”の精神で、レベルアップしていきたい、とおっしゃる早稲田さん。指導する立場にあっても、生徒さん達と接する中で逆に気づかされることも多いのだという。生きている時間を濃密にするには“好きなことを大切にすること”を基本に自分自身を充実させること。早稲田さんと出会った多くの人々は、そのきっかけを手に入れているのではないだろうか。

※花滴庵 TEL095(828)5767


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