第6回 岡 和臣さん


週3回、絵画教室の講師をなさっている岡さんは、脱サラして絵描きとなった経歴の持ち主。
今回の「愛すべき、長崎人」は、常に絵描きの目線で長崎を見つめ続ける長崎在住の画家、岡さんに“長崎の魅力”についてうかがった。
 
サラリーマン時代、責任ある仕事を任されて忙しい日々を送り活躍していた岡さんは、30代半ばで絵の道へ進む決断をされたのだという。その背景には明治生まれの母の影響を少なからず受けた幼少〜青年時代の記憶があった。

岡さん「絵は兄が上手かったんですけど、僕も潜在的に好きだったんでしょうね。中学の時、学校が嫌いで行かない時期があって、その時母が何も言わずに油絵の道具を買ってくれたんですね、絵はそれから描くようになりました。高校ではサッカー部と美術部に所属していましたが、美術部には結局一度も行きませんでしたね(笑)。卒業後は芸大を目指したんですが、結局長崎に帰って就職しました。船関係の仕事だったんですが、高度成長の時代、忙しければ忙しい程絵が描きたくなるんですよ。ある日突然のように、絵の道に進もうと思ったんですよね。結局すぐには辞められず、5年後に退職しましたが退職金を使ってモロッコやスペインなどを旅しました。純粋に旅が目的なんですけど、もちろんスケッチもたくさんしました。小さい時から母がギリシャ神話や海外の童話などをよく話してくれてましたんでね、ずっと海外、特にヨーロッパへの憧れがあったようなんです。」

今現在、絵描きであるご自分の仕事と絵画教室、どんなバランスで行っているんですか?

岡さん「主に午前中はアトリエで創作活動。僕は旅に出ても、2、3週間のうちに100枚ぐらいスケッチをしてきます。5、6分で1枚描いちゃうんです。一日に50枚描いたりするなど訓練した時期もありますからとにかく早いんですよ(笑)。だから創作活動は午前中にササッと(笑)。教室は水・木・金曜日の午後。水彩でもパステルでも油絵でも何でもいいんです。皆さんといろんな会話を楽しみながら行っています。」

絵画教室にて


画家である岡さんから見た長崎の魅力ってどんな所でしょう?

岡さん「地元に帰って来た時秋だったんですが、真っ先に東望の浜へ行って泳ぎましたね。海を見ないと落ち着かないんです。長崎の素晴らしさは空が青い、そしてすぐそこに海があるということです。やはり港の見える風景がいいんですよ。高台から海を眺めるのもいいし、水辺ギリギリからの風景もいいですね。そして絵のモチーフが溢れた恰好の場所ですよね。」

それでは最後に観光客、またはこれから長崎に移り住む方へ訪れて欲しい場所など具体的なアドバイスを。

岡さん「今はなかなか難しくなっていますが、僕はまだ整備されていない場所へ訪れるのが本当の観光だと思っているんです。歴史に興味がある方と、そうでない方へのアドバイスは多少違ってくると思いますが、長崎の歴史は1570年(元亀元年)の開港以来の新しい町。皆さん御存知のように他県にない様々なユニークな歴史を持っています。現在、その時代の面影が残っているのはやはり鎖国後の開国以降に外国人居留地として開かれた東山手、南山手でしょうね。今はグラバー園内にきれいに整備されていますが、僕が幼い頃はうっそうと繁った木々の中から“リンガー邸(旧リンガー住宅)”を覗き込み、こんな家(洋館)があるんだ、とドキドキしたのを覚えています。今でも周辺を歩くと杠葉病院からグラバー園内最上部の旧三菱第2ドックハウスへ続く道などは雰囲気があっていいですね。またその居留地時代より以前に唐人屋敷(中国人の居留地)が置かれていた館内周辺も、当時のものはほとんど残っていませんが生活感のある町並みが続いていてとてもいい雰囲気です。初めて訪れた時は長崎の歴史に興味がなくても、それらの場所を歩いてみて、その時代の長崎に興味を持ってもらったらいいなと思います。そして再来してもらったらうれしいですね。」



現存する南山手の洋館


唐人屋敷があった館内周辺


岡さんの持論は、絵は普遍的なものもあるが常に時代と共に評価が変化して行くというもの。絵は個性の表現であり、その人そのものが現れ、精神状態によって絵も変わっていく。だから今年の目標は“柔らかくなること”なのだとか。長崎の風景を愛してやまない岡さんの作品は、“柔らかさ”を増してどう変化するのか? 今年秋頃に予定されている個展が楽しみだ。

※アトリエ TEL095(839)1370


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