文・清野 直之さん

「私の好きな風景の広がる場所」は、長崎の南部に伸びる野母崎半島の中ほど、深堀町の前に横たわる香焼町の最南端のスポットである。
車で、深堀町からの直線道路を香焼町に入り、左へカーブして町の南部に向かう。
中心部を過ぎ、かつての小山を掘りきった道路の峠にさしかかると、左手に野母崎半島が姿を現す。
そのまま、1キロほど進めば、香焼町から伊王島町への架橋のために作られたトンネルの入口付近に至る。
その左側の堤防との間に約2メートル幅の小径が沖の方へ続いている。
時折、釣り人も見かけるこの道を歩み進んで右へカーブした地点、そこが「私の好きな風景が広がっている場所」だ。
左手には、三和町の蚊焼海岸から野母崎町の高浜海岸、更に遙か先端部へと野母半島が続く。
その先から水平線が右へ広がり、小さな島々を経て、高島町本島が正面のやや右に位置する。
その右水平線上には、遠く五島列島が、時にかすんで見えることもある。
すばらしいのは、この海の風景の上の天空が広く、高く、美しいことである。
月に1度ほどはここを訪れるが、たいていの時は、天空に光が満ちている。
曇天の時には、雲の間を数条の光が水平線上に立ち並ぶこともある。
3年前、福岡からの客人に、ここで大きな夕日が遙か水平線上に沈むのを見せたら、感激されたことがある。
足下では、堤防の下で波が岩に打ち寄せ、潮騒を奏でている。
ここで、天を仰いで深呼吸をすれば、実に爽快である。

「私の好きな空間」は、どこであろう。
風光、風景ではなく小さな空間として考える。
そこに居て気持ちが良く、活き活きとした自分を感じることのできる場所、落ち着いて様々なことに取り組むことのできる場所。
そのような場所があるのか、ここ数年の日常の様々なシーンに思いを巡らせてみる。
そして、今、67才の自分にとって、まぎれもなくそれがあった。
私にとっても思いがけないことでもあるのだが、それは私の仕事場、オフィスである。
長崎駅から大波止間の電車通りに面したビルの5階、ささやかな12坪の一室である。
平成11年3月に、経営コンサルタント事務所として入居し、今年で4年目にあたる。
好きな場所といっても、豪華な調度品や什器に囲まれているわけではない。
しかしながら、正面の大きなガラスを通して、長崎らしい風景がいつも目に入る。
路面電車はもちろんのこと、ビル群と稲佐山の上には青い空が広がり、特に夏の午前中は最高である。
夏の午後の強い太陽にはしばし閉口するが、折々の光や風景が楽しませてくれる、私にとっては何よりも贅沢な空間だ。
ここで仕事をし、アフターファイブにはたまに友人と酒を飲む。
“さあ、今朝も早く、あの気持ちのいいところへ行こう”


清野 直之(きよの なおゆき)さん

長崎市生まれ。中小企業診断士
親和銀行に勤務後、平成4年より経営コンサルタント「経営21」の代表として、中小企業の経営指導と講演をおこなっている。
モットーは「企業に繁栄を、人に幸せを、地域にうるおいを」。


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