3.海の歴史を体感するプチ観光
長崎港周辺・岩崎彌太郎&グラバードライブコース



ルート土佐商会跡→(車で3分)→鉄道発祥の地→(車で5分)→小菅修船場跡→(5分)→女神大橋→(8分)→三菱重工史料館
(見学時間を含め最短120分)

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このコースのキーパーソンは、三菱グループの創始者である岩崎彌太郎と幕末日本を影で支えたイギリスの貿易商人、トーマス・B・グラバー。深い関わりをもつ2人の大物の長崎での偉業の地を巡ってみよう。
働きビトへの教訓〈信念と柔軟さを備えたら残るは野望!〉

「長崎の町はものづくり大国、ニッポン!」の船出の地である。などと大口たたいても決して言い過ぎではないだろう。黒船来航の直後に設けられた長崎海軍伝習所。ここで勝海舟をはじめとした幕臣や雄藩藩士などがオランダ人教師から直に航海術や製鉄や造船など、西洋技術の知識を学んだことから日本の近代産業がはじまったからだ。

長崎でこの日本の近代化に一役かった人物といえば、開国1年目の安政6年(1859)、大志を抱き長崎に乗り込んだ貿易商人・トーマス・B・グラバーだろう。そして、長崎を代表する近代産業といえば、造船業。造船業といえば、三菱重工長崎造船所。ということで、その創始者である土佐藩出身の岩崎彌太郎が登場する。



岩崎彌太郎之像


トーマス・B・グラバー之像

ドライブコースではあるが、まずは浜市アーケードの入口、中央橋の傍らに建つひとつの石碑からスタートしよう。その碑には、土佐商会跡碑とある。慶応3年(1867)、彌太郎は土佐藩の開成館長崎出張所(土佐商会)に赴任してきた。彌太郎は、この土佐商会を拠点に土佐藩のために奔走することとなる。そこで彌太郎とグラバーとの歴史的出逢いが待ち構えていた。


土佐商会跡碑

来崎したグラバーは程なくグラバー商会を設立。幕末の激動期、西南雄藩に艦船や武器、弾薬など、つまりは“戦グッズ”をジャンジャン売り込み、すぐに最大手の商館へ。坂本龍馬や後藤象二郎など土佐藩出身の志士とも否応無しに出会い親密な関係へとなっていた。

グラバーは赴任してきた彌太郎をさっそくグラバー邸に招き、商談に取りかかったのだとか。金策に、蒸気船や武器弾薬の買い付けに、さらには海援隊の活動支援にと力を注いだ彌太郎は、いわば経済官僚担当。グラバーなどの外国商人を相手に武器の輸入をしたり、土佐の物産の輸出をしたりとビジネスを展開していった。石碑には小さく「海援隊発祥の地」とも書いてある。日本初の株式会社、亀山社中は慶応元年(1865)の結成から2年後、坂本龍馬が隊長となり海援隊と改称。土佐藩に付属する外郭機関として土佐屋敷の中に土佐商会も置かれていた(正しい場所はもうひとつ先の西浜町電停前(角地)付近)。
ナガジン!「あの人が愛した長崎」参照
ナガジン!「真昼の銅座巡遊記」参照


さて、次は中央橋から車で大浦方面へ。出島道路入口先の市民病院入口に建つのはまたもや石碑。そこには我が国鉄道発祥の地とある。慶応元年(1865)7月、グラバーはこの大浦海岸通りに300m程の線路を敷き、輸入した英国製蒸気機関車を走らせたのだ。これは上海博覧会にも出品された機関車で、名前もアイアン・デューク号。初めて見る光景に、周囲は連日黒山の人だかり。明治5年(1872)、それは新橋−横浜間を走った鉄道より実に7年も早いものだった。


鉄道発祥の地

さて、この大浦海岸通りを走って行くと、右側に長崎港が見え隠れしてくる。そして、ちょうど水辺の森公園に近づいたとき、対岸に三菱重工長崎造船所の立神ドック! 巨大なクレーン! 造船の町らしい風景が見えてくる。

この三菱重工長崎造船所の前身は、安政4年(1857)に幕府が設立した日本最初の船舶修理工である長崎鎔鉄所(後に製鉄所と改称)。

明治3年(1870)、土佐藩士達により九十九商会(後に三川商会、三菱商会と改称)が設立され、彌太郎はその監督という形で海運事業に乗り出した。これが三菱の出発点。明治17年(1884)、三菱が明治政府から長崎鎔鉄所を借り受け、3年後に買い上げ、それ以来、船舶や発電設備などを生産していくこととなったのだ。

一方、文久3年(1863)、グラバー24歳の時、敷地9500坪という広大な敷地に豪邸を設けた。

そこは居留地時代、貿易で冨を得た商人達の住宅が点在する南山手の一等地。現在のグラバー園は、後に三菱が買い取り長崎市に寄贈した旧グラバー住宅ほか、周囲の豪邸、そして市中から移築された当時の洋館などで構成されている(旧グラバー住宅主屋付属屋、旧オルト住宅、旧リンガー住宅/国指定重要文化財)。異国情緒豊かな街並みと、いつも穏やかなかつての海外貿易港の美しい景観を見渡すことができるグラバー園は、やはり長崎を代表する観光スポット。園の最上部には、船がドック入りしている間、船員たちが休憩・宿泊するために建設された三菱第2ドッグハウスが移築されている。長崎港を、そしてその先の造船所を見渡せる絶景。そして、こうして見るとグラバーと彌太郎の強い結びつきを感じる場所でもある。

グラバー園
ナガジン!「グラバーが住んだ丘〜グラバー園・満足観光ナビ〜」参照

そんな南山手の丘を左手に見ながら、南へと車を走らせる。

グラバー園から約1km南へ走った戸町トンネル入口直前、国分町方面へと右折する道の一本手前の道へ下りていくと、右下方にアイアン・デューク号走行とほぼ同時期の慶応2年(1866)、グラバーが薩摩藩と共同で建設した日本初の洋式ドック、その形状から通称・そろばんドックと呼ばれる修船場が見えてくる(小菅修船場跡国指定史跡)。 日本最古のレンガ造り建造物の捲き揚げ小屋内に設置されたボイラー型蒸気機関で船を引き揚げていた。グラバーと彌太郎が出会ったのは、ちょうどこのドックを建設している頃だった。ドックの設備はすべてイギリスから輸入したもので、5400坪の敷地を薩摩藩が負担。工事費4万ドルをグラバーが出資したのだという。後にこの出資もグラバー商会を倒産に導いた一因となってしまった。


小菅修船場跡

それでは先程の戸町トンネルをくぐり、カーブの度に徐々に迫り来る新名所、女神大橋を目指し、車を走らせよう。時間があれば橋目前にある駐車場に車を止めゆっくりと橋からの絶景を楽しんでいただきたい(通行料100円)。長崎港を取り囲むように広がる山と、この山をうめ尽くす家々の風景は圧巻なのだ。また、左手には三菱重工長崎造船所が誇る、香焼の世界最大の100万トンドックをも見渡せる。
ナガジン!「いよいよ開通!! Welcome 女神大橋」参照


女神大橋

女神大橋を通過し木針ICをさらに北上。大浜トンネルを過ぎると、在来道路の202号線にぶつかる。202号線を右折するとすぐに飽の浦トンネルに入り、これを抜けると右側に三菱重工長崎造船所の煉瓦塀が続いている。造船所内には造船所の歴史が凝縮された三菱重工史料館がある。以前は予約が必要となっていたが、近頃、一般客が直接入れる門が設置され、10名以下の少人数であれば予約なしで見学できるようになった。


史料館ゲート


三菱重工史料館

この赤煉瓦の建物は、明治31年(1898)、鋳物工場併設の木型場として建設された三菱重工業株式会社発祥の長崎造船所に現存する最も古い建物。館内は11コーナーに分かれ、安政4年(1857)に長崎造船所前身の長崎溶鉄所建設着手時から現在に至るまでの貴重な資料900点が展示されている。日本最古の工作機械や日本で最初の国産蒸気タービン技術の進歩を物語る珍しい品々など、日本の近代化を学ぶ、また働く人々が刺激を受ける展示品の数々。写真に見る長崎造船所の歴史的変遷も、長崎港湾の変遷も興味深いのでぜひ立ち寄ってみよう。
ナガジン!ミュージアム探検隊 三菱重工業株式会社「長崎造船所史料館」参照

■三菱重工史料館■
開館 9:00〜16:30(月〜金)
休館 土・日・祝日ほか、長崎造船所の休業日
入館料 無料
駐車場 三菱病院駐車場(30分無料、4時間100円、以後30分毎100円)
問い合わせ 095(828)4134
※尚、長崎造船所の休業日および、会社行事の際は休館となるため、念のために事前の電話確認をおすすめしたい

余談ではあるが、彌太郎の長男である三代目久彌の時代、グラバーは技術導入など三菱の国際化路線のアドバイザーとして久彌を助けていたが、その際、キリンビールの前身であるジャパン・ブルワリーの設立にも参画した。ご存知の方も多いと思うがキリンビールの麒麟がたくわえたヒゲはグラバーがモデル! お口にする機会があれば、ぜひ彌太郎とグラバーの物語を思い出しながら一杯どうぞ!



●足をのばして…高島●
長崎市西南沖にある高島と、さらに南西沖に浮かぶ端島(軍艦島)も彌太郎とグラバーゆかりの地。
慶応4年(1868)、肥前藩から経営を委託されたグラバーは、高島炭坑にイギリスの最新の採炭機械を導入し採掘を開始(日本の炭坑史上画期的な北渓井坑)。しかし明治維新、討幕勢力を助けたグラバー商会は倒産に追い込まれた。だが実質的な経営者として残り、明治14年(1881)、岩崎彌太郎の三菱商会が経営権を握ると、グラバーは彌太郎から高島砿業所所長に任命され、後の半生を三菱と共に歩んだのだ。高島には岩崎彌太郎の迫力ある銅像と高島石炭史料館や、グラバー別邸跡などのゆかりの地が残っている。そして炭坑の島・軍艦島も明治23年(1890)に岩崎彌之助が買い取り、高島炭坑の支坑として本格的な採炭を開始した。大波止から出航する観光船マルベージャでの臨時便「軍艦島クルーズ」は約100分の船旅。ぜひお試しあれ!

グラバー別邸跡
ナガジン!「長崎港発遊覧30分! のどかな楽園の島・高島」参照

■伊王島経由高島行きフェリー■
料金 990円(1日往復11便)
問い合わせ 095(826)6238(長崎汽船株式会社)
公式サイト http://www.nomo.co.jp/


■軍艦島クルーズ遊覧船(長崎〜軍艦島沖〜長崎)■
運航 通年(但し、全て15名以上で運航する臨時便のため要予約)
受付 長崎港ターミナル1F 7番切符売り場
乗り場 長崎港ターミナル 浮桟橋
出航時刻 9:30発、13:30発、16:00発(天候により出航できない場合あり)
料金 3000円 
問い合わせ 095(822)5002(やまさ海運)
公式サイト http://gunkan-jima.com/


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