文・宮川密義


1.「恋のオランダ苺」
(昭和27年=1952、石本美由起・作詞、古賀政男・作曲、奈良光枝・歌)


処女作「長崎のザボン売り」で大ヒットを飛ばした石本美由起(いしもとみゆき)さんが作詞しました。石本さんによると、イチゴは『南国長崎』と奈良光枝(ならみつえ)さんのイメージから発想したそうです。
オランダイチゴは別名セイヨウイチゴと呼び、江戸末期にオランダから移入されました。当時、外来のものには“オランダ○○”と、オランダを付けて呼んでおり、オランダ品種のイチゴではなく、今では普通のイチゴとして栽培されている品種です。
なお、この歌は曲が先に作られ、石本さんは古賀政男さん宅に幾度も通って詞をはめ込んで完成させたとか。
奈良光枝さんは当時、映画主題歌が多く、「悲しき竹笛」「青い山脈」などがヒットしていましたが、この「恋のオランダ苺」はオリジナル曲ながら大ヒットとまではいきませんでした。




奈良光枝さん


2.「オランダ屋敷の花」
(昭和29年=1954、西条八十・作詞、古賀政男・作曲、永田とよ子・歌)


ラシャメン(洋妾)お半(はん)が主人公で、禁教政策のために、好きになったオランダ人と添われぬ運命を嘆き、自棄(やけ)酒を飲んで涙を流している情景を歌っています。「お半」は架空の人物で、長崎の地名は出ていませんが、タイトルから長崎の歌に違いないでしょう。
原曲は新東宝映画「江戸城炎上」の挿入歌として、昭和29年に永田とよ子さんの歌でレコードが出ましたが、同41年(1966)に扇ひろ子さんがリバイバル・レコーディングしました。




扇ひろ子さんの
「オランダ屋敷の花」


3.「オランダ坂に花が散る」
(昭和47年=1972、飯田豊作・作詞、木内紀久生・作曲、藤島桓夫・歌)


「月の法善寺横町」の大ヒットで知られる藤島桓夫(ふじしまたけお)さんが、デビューした昭和26年に続けて出した「たそがれ長崎」「長崎の十字架」「この子残して」以来、21年ぶり4曲目の長崎ものです。
福岡の作詞家・中嶋小葦(なかしまこあし)さんが飯田豊作のペンネームで作り、新人作曲家・木内紀久生さんが曲を付けました。
最初のタイトルは「長崎の花」だったそうで、1番は、異人屋敷かオランダ坂の白いザボンの花と紫ぼんれん(アガパンサス)、2番は丸山花月のアジサイ、3番では寺町石垣通りの真っ赤なサネン花(カイコウズ)…と軽やかに歌う“長崎の花づくし”。
藤島さんは長崎を訪れ、秋晴れの午後、活水大学前のオランダ坂を歩きましたが、ヒットするまでには至りませんでした。


藤島桓夫さんの
「オランダ坂に花が散る」


4.「ほろ酔いオランダ坂」
(昭和51年=1976、森雪之丞・作詞、常富喜雄・作曲、松平純子・歌)


昭和47年(1972)、“ポスト藤純子”として東映映画「望郷子守唄」で映画界にデビュー、映画、テレビに相次いで出演していた松平純子さんが、昭和49年(1974)には歌手の仲間入りもして、「両国橋」で人気を集めました。
「ほろ酔いオランダ坂」はフォークタッチで、当時は長崎ものとしても、オランダ坂の歌としてもユニークな曲でした。
松平さんは、発売直後に長崎から全国放送された深夜テレビ番組「11PM」にゲスト出演のチャンスがあり、ついでに長崎キャンペーンも展開しました。




松平純子さんの
「ほろ酔いオランダ坂」


5.「おらんだ坂」
(昭和52年=1977、平本和樹・作詞、作曲、歌)


島根県に生まれ、3歳の時から長崎で育った平本和樹(ひらもとかずき)さんは佐世保の長崎国際経済大学を卒業後上京、音楽喫茶で働きますが、16年間過ごした長崎の街の石畳やアジサイ、坂道、教会など詩的情緒が平本さんを歌の世界へ導きました。
フォークグループで活動した後、昭和52年10月、LP「和蘭陀坂」とシングル盤「シーソー/おらんだ坂」でソロ・デビューしました。
「おらんだ坂」は“オランダ坂に吹く南風のように君も僕も幸せになればいい…”と歌うさわやかな曲でした。
平本さんは翌54年に長崎に戻り、新しいグループを結成してコンサート活動を続けた後、レコード界に再デビュー。その後方向転換して、現在は長崎市内のデザイン会社で活躍中です。



平本和樹さんの「おらんだ坂」


6.「オランダ坂」
(平成4年=1992、江本篤子・作詞、富田梓仁・作曲、中村美律子・歌)



中村美律子(なかむらみつこ)さんは大阪出身。「河内おとこ節」「河内おんな節」などのほか、「壷坂情話」などの歌謡浪曲でも人気を集めました。
平成8年(1996)に「天草四郎時貞」をヒットさせていますが、この「オランダ坂」は「天草四郎…」の4年前にCDアルバムで発表した最初の長崎ものです。
この歌のオランダ坂は、許されない恋に陥った人妻の、わずかな時間の逢瀬。1節で「しのぶ坂」、2節で「涙坂」、3節では「願い坂」となり、数多いこれまでのオランダ坂の歌とはイメージを異にしています。



「オランダ坂」が入った中村
美律子さんのCDアルバム表紙



東山手洋風住宅群の前にあるオランダ坂


丸山に通じるオランダ坂


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