長崎っこはその昔、母親から「今日のおやつはおじさんから貰ろうた『シースクリーム』よ」と言われたら、思わず「やった〜」と叫んで飛び回ったものです。長崎っこの間では「ケーキ」といえば『シースクリーム』のことでした。
このケーキが長崎特有のもので、一般的なショートケーキがいちごと生クリームのケーキだと知ったのはずっと後のことです。カスタードと生クリームが入ったしっとりしたスポンジ生地の上には、さらに生クリームとシロップで煮た黄桃、パインがのっています。この姿を見ただけで幸せな気分になったものでした。



 長崎ではお馴染みのおやつ「シースクリーム」の歴史は40年前にさかのぼります。昭和30年代初頭、長崎の老舗洋菓子屋梅月堂から発売され、当時の「シースクリーム」は、ブッセ生地(しぼって焼く生地)に、カスタードクリームを挟み、上にチョコレート、生クリーム、そして、みかんを乗せたものだったそうです。現在のものとはかなり違いますね。

 このケーキの名前もなんだか中途半端な名前ですが、誰も「シースクリームケーキ」とか「黄桃ケーキ」などとは言いません。実は、お菓子の見た目が「豆のさや(Pod ポッド)」のように見えたため、「さや」を英語で 言い換えようとしたところ、「刀のさや(Sheath シース)」と取り違えて、「シース」と名がついたのでは、と考えられているそうです。なんでシースなんだろうと考えた長崎っこは多かったのではないでしょうか。

 最近では、ケーキの種類も形も豊富で、なかなか「ケーキ」イコール「シースクリーム」というわけにはいかないようですが、長崎の「ケーキ」の王道をいくのはやはりこの「シースクリーム」です。いちごではなく、果物の中でもなかなか主役にはならない黄桃とパインがりっぱに存在感を出しているのも妙に愛らしく、ついつい「最後にシースクリームを入れてね」と言ってしまいます。



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