今月は長崎の秋の風物詩、長崎くんち。
諏訪神社の無料の特等席「長坂」を初体験する
とある男性の、つぶやきを聞いてみましょう。


へえ〜、くんちば長坂で見るとは、今年が初めてばってん
長坂んほうが、桟敷よかよっぽど良かたい。
なんたって、まっぽしやもんなあ。

え、ずっとですか? 詰むっと?
ええっ、そげん……そげんひっつくとですか。

前ん人ん身体ば、足で挟むごとして座らんばとですか。
わがん身体は、後ろん人の足に挟まるっとですか。
始まる2時間前に集合で、こいから終わるまで
ずっと、こがん体勢でおらんばとですか。

わいちゃあ……こいは……のさんばい(汗)。

《訳》
へえ〜、くんちを長坂で見るのは、今年が初めてだけど
長坂のほうが、桟敷席よりよっぽど良いなあ。
なんたって、真正面だもんなあ。

え、ずれるんですか? 詰めるの?
ええっ、そんな……そんなにくっつくんですか。
前の人の身体を、足で挟むようにして座らなきゃならないんですか。
自分の身体は、後ろの人の足に挟まれるんですか。
始まる2時間前に集合で、これから終わるまで
ずっと、こんな体勢でいなくちゃならないんですか。

うわあ……これは……たまらない(汗)。


(数時間後、ほかの観客とともに大興奮の男性)

モッテコーイ、モッテコイ!
《訳》
早く持ってこい。

ショモーヤレー、ショモーヤレー!
《訳》
所望するからもう1回やれ。

フトーマワレ、フトーマワレ!
《訳》
大きく輪を描いて回れ。

ヨイヤー!
《訳》
良い哉。



(すべての奉納踊りが終わって)

あいや〜、良かった〜。
途中で、トイレに行きとうなって
しかぶったりせんかって、心配しとったばってん
そがん段じゃなかった。そがんことすっかり忘れとった。

あんだけ、おめいておめいておめきつらかしたけん
本当に、気持ちん良かった〜。

さて次は、お昼にお下りの始まるとば
このへんで待っときましょうだい。

《訳》
ああ、良かった〜。
途中で、トイレに行きたくなって
漏らしたりしないかって、心配していたけど
そんな状況じゃなかった。そんなことすっかり忘れてた。

あれだけ、叫んで叫んで叫びまくったから
本当に、気持ちが良かった〜。

さて次は、お昼にお下りが始まるのを
このへんで待っていようかな。



<ワンポイント>

【長坂】
長崎くんちにおいて、諏訪神社の石段を使った席。
無料の特等席ということで、人気がとても高い。
早い者勝ちの当日席という習わしが、長く続いていたが
数年前から、席の入手方法が再検討され
現在、さまざまな試みがなされている真っ最中。

【お下り】
くんち前日(まえび)、午前中まで座席だった長坂を通って
午後からは、神輿従列が下る。
猿田彦を先頭に、神職や巫女、つづいて
諏訪・住吉・森崎の神輿3基が
約1000名の行列を従え、大波止のお旅所まで移動する。

【ずる】
ずらす。ずれる。
例/「ほら、もうひとり入るけん、ずってずって」
   (「ほら、もうひとり入るから、ずれてずれて」)

【ひっつく】
ぴったりとくっつく。ねばりつく。
例/「そがんひっついたら、暑かやっか」
   (「そんなにくっついたら、暑いじゃないか」

【のさん】
たまらない。
例/「今年ん夏は、暑うしてのさんやった」
   (「今年の夏は、暑くてたまらなかった」)

【しかぶる】
糞便をもらすこと。

【そがん段じゃなか】
そのような状況じゃない。

【おめく】
叫ぶの意味。
例/「びっくいしたけん、おめいてしもうた」
   (「びっくりしたから、叫んでしまった」)

【くんちの掛け声】
掛け声には、独特の約束と意味がある。

「モッテコーイ」は、奉納踊りに対しての歓迎と
演技を終え退場した演し物に、アンコールの意味で用いる。

「ショモーヤレ」は、曳き物の演技ではなく
本踊に対してのアンコールに、用いられる掛け声。

「フトーマワレ」は、傘鉾が回るときに掛けられる声。

「ヨイヤー」は、傘鉾が勇壮に回ったときや
川船の船頭の投げた網が、みごと魚を捕らえたときなどに叫ぶ。
「ヤッター!」というようなことであろう。
(ちなみに、春の風物詩「ハタ揚げ」で
敵に勝ったときにも「ヨイヤー!」と叫ぶ)




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