長崎市内のお盆は他県に見られない特徴が多くある。
夜の墓参り、墓前でする花火、 そして
全国的に広く知られる 大量の爆竹をハデに鳴らし賑やかに故人を送る「精霊流し」。
これらの習慣などはいつ誕生し、現代に定着してきたのだろう?

 そんな疑問をワンサカ抱えたナガジン取材班、
今回は日本最古の唐寺、興福寺(黄檗宗・おうばくしゅう)と、
同じく寺町にある延命寺(真言宗御室派)という異宗派の両住職に
いろんな質問を投げかけてみた。
宗教に裏付けされた習慣あり、風土色あり……
それらから浮かび上がる“長崎的盆風景”。
長崎人にとっても目からウロコの大発見満載だ。


ズバリ!今回のテーマは
「長崎の盆風景に迫る」なのだ


ナビゲーター

興福寺住職 松尾法道氏
(寺町 黄檗宗)

延命寺住職 堤 祐敬氏
(寺町 真言宗)




長崎在住の華僑の方が亡くなられ出棺する際、爆竹が鳴らされるのだという。

松尾住職「これは魔界との関係を音によって断つ、またこの大きな音で喝を入れ、この世との未練を断たせるという意味があるようです。運気の神様に届くように、大きな音の爆竹を鳴らすんですよ。それに華僑の方はお通夜で麻雀をするんですが、この卓が多ければ多い程、故人が得を積んだ証として、素晴らしいことだとされています。この卓、つまりダイニングテーブルは日本ではじめて長崎に隠元禅師が伝えたもの。長崎のお盆で墓参りの後など親類がテーブルを囲んで食事をする習慣もこのテーブルが伝わったからこそ生まれたものだと思いますよ」
堤住職「そういう風習は他の宗派でもすっかり定着していますね」


また、葬儀後火葬を終え、親類や近しい友人などがテーブルを囲む“おとき”も同様。
松尾住職「集う機会を増やしテーブルを囲んで故人の話しをするという風習は華僑の人達がする麻雀の意味合いと同じなんでしょう」

そう、長崎のお盆は中国の影響を強く受けているのだ。

●長崎の盆は仏壇飾りから


長崎のお盆は、先祖の御霊が14日に家へ帰り、15日に冥土へ引き返すのを生きている人に対するかのように歓待するという意味が込められているという。13日、各家では迎燈籠(むかえどうろう)を軒先や縁などに下げ先祖の御霊を迎える。そして初盆の家は16日、通常は15日に送燈籠(おくりどうろう)を下げ先祖の御霊を送るのだ。仏壇には精霊棚と呼ばれる出仏壇をつくり、萱(かや)で編んだ精霊菰(しょうろうごも)をひく。

まずはその際供えられる種類豊富なお供物に注目してみよう。
松尾住職「まず特徴的なのは「むかえだご」ですね。燈籠と同じ意味合いでだんごをお供えしてご先祖様を迎えるんです。味付けは各家で違うんでしょうが、帰り(15日)はこの世に名残りを持ってもらわないように薄味にするという家もあるようです」
日によって手づくりのだんごを作って供える習慣があるとは……。
堤住職「裕福だったというのもありますよね。砂糖が豊富でしたし。昔は宗派や地域によっていろいろと違ったのでしょうけど、現在では中国の文化が多分に加わったものが、どの宗派にもすっかり定着していて、長崎市内だと宗派関係なくほとんど同じではないでしょうか?」


また、盆菓子と呼ばれる飾り菓子(細工菓子)も長崎の他ではあまり見られないもののようだ。
天保元年(1830)創業の長崎一古い歴史を持つ商店街・中通りにある和菓子の老舗、岩永梅寿軒のご主人に盆菓子についてうかがった。

「当店ではスイカ、ホオズキ、フキなど24種類の飾り菓子を作りますが、それぞれに意味があるんですよ。例えば、スイカは水分、ホオズキは提灯、フキは杖、蓮の花は傘を代用するものです。盆菓子は仏教の世界に由来するものが集められているわけですね。お盆の13日から16日まで仏壇にお供えしますが、初盆の家は15日に精霊流しで一緒に流すので16日に再度買われるところもあります。京都でも盆に飾り菓子が作られますが、京都のそれは細工が繊細であくまで見せるもの、長崎のものは目的がお供えすることですから頑丈に作るのが特徴です。また、仏事、祝い事共に他県では落雁(らくがん)が主流ですが、長崎にはうるち米を煎って粉にしたものに砂糖をふんだんに加え型打ちした“口砂香(こうさこ)”という打ち物もあります。落雁がもち米を使用しているため硬いの対し、口砂香はサクッとした口当たりが特徴です。
これは唐人屋敷が建造される前、寛永年間に町宿の唐人から長崎のお梅さんという人が習い伝えたものと言われていて、そのためか型は梅の形で一口サイズなんです。
これらの供え物、昔は盆が過ぎたら仏様からいただいて食べていました。これは仏様と同じものをいただいて御加護を得るという考えと同時に、ものを粗末にしないという教えが含まれているんですよ」




お供物のお菓子にも中国の影響がおよんでいることを発見!

取材協力/岩永梅寿軒 TEL095-822-0977 



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