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第11回 長崎市原子爆弾放射線影響研究会

更新日:2020年5月29日 ページID:034679

長崎市の附属機関について(会議録のページ)

担当所属名

原爆被爆対策部調査課

会議名

第11回 長崎市原子爆弾放射線影響研究会

日時

令和2年3月23日(月曜日) 14時00分~15時30分

場所

長崎原爆資料館 平和学習室

議題

審議事項
1 小児期に低線量(<100mSv)の電離放射線に曝された人々の白血病および骨髄悪性腫瘍:9つの歴史コホート研究のプール分析
2 長崎原爆被爆者におけるプルトニウム内部被曝のオートラジオグラフ分析

その他
1 次回開催について

審議内容

開会

審議事項

1 小児期に低線量の電離放射線に曝された人々の白血病および骨髄悪性腫瘍:9つの歴史コホート研究のプール分析

(会長)
 これまでも原子力発電所や放射線を扱う施設でかなり大きなコホートを使ったプール解析というのは、すでにこの研究会でも何度か検討してきているが、この研究のユニークなところは、小児期に20歳までに放射線に被ばくしたという条件下にあった人達を対象としたところである。
 ヨーロッパを中心にEPI-Studyという小児のCT検査の研究行われており、注目していたが、結果が発表されておらず、結論を出すことができていない。
 今回は2018年に発表されていた論文について討論をしていただきたい。
 背景について、主に原爆被爆者の研究で中等度または高線量の電離放射線への曝露が、白血病のリスクを増加させるという確実な証拠がこれまでに得られている。また、100mSv以上だと、がんや白血病の発生のリスクが、確実に上昇していることが統計学的にこれまでに何度も確認されてきた。
 特に小児期において放射線は、白血病と低線量の放射線被曝との関連性に関して、まだ一般的ではない。100mSv以下では一般的になっていない。それを示唆するような研究がこれまでいくつか発表されており、当研究会でも議論の対象にしてきたが、確実にそうだといえるものがまだないという状況である。
 大きな集団が放射線被曝という事態に立ち至ったときに、大体線量が低いところの人が多くの集団の主体を占めており、最も一般的な集団となるが、確実なデータがないというのが、大きな問題である。
 9つのコホートの研究は、2014年6月30日までに報告された適格とみなされる集団をプールしたものであり、これらのコホートにおける白血病及び類縁疾患の転帰は関連する国際疾病分類及び国際腫瘍学分類において、腫瘍学の定義に基づいて診断、分類されている。含まれているコホートは悪性腫瘍の治療を全く受けていない人達である。悪性腫瘍の治療を受けた人達が入るといろんなバイアスが起こってしまう。関連する造血器腫瘍の少なくとも5例以上が、報告されている集団ということである。
 そしてここの被ばく者の活性骨髄線量(ABM)、もう少しわかりやすい言葉で言うと、赤色骨髄線量が推定されている条件がある。この集団の平均赤色骨髄線量が、100mSv未満の最初の照射で21歳未満の個人に限定している。線量反応モデルというのは、従来から研究に用いられている、ポアソン回帰を適合させたということが報告されている。
 結果であるが、カナダ、フランス、日本、スウェーデン、イギリス、アメリカから9つの適格コホートを特定し、その中で100mSv未満の曝露を受けた262,573人が含まれている。平均の追跡期間は19.63年。標準偏差は17.75年、平均累積骨髄線量は19.6mSv、標準偏差値は22.7mSvであった。
 トータルで154例の白血病類縁疾患が挙がっており、うち79例の急性骨髄性白血病、8例の骨髄異形成症候群、36例の慢性骨髄性白血病、及び40例の急性リンパ芽球性白血病が含まれている。
 急性骨髄性白血病と骨髄異形成症候群を合わせた100mSv未満での適合相対リスクは3.09で、95%信頼区間は1.41から5.92でP値が0.008とかなり高度の有意差があり、線量100mSv未満を受けたグループの方が、より多くの白血病を起こしていた。急性骨髄性白血病単独では2.56でこれは1.09から5.06という範囲でP値は0.033。急性骨髄性白血病は5.66で1.35から19.71の範囲でP値は0.023。これらは3つのカテゴリーですべて有意差があった。
 慢性骨髄性白血病に対する明確な用量反応がなく、100mSvで相対リスクは0.36で0.00から2.36。P値は0.394であった。
 フィギュア1に、各病型に関しての線量反応曲線を示している。
 Table3に示したが、急性骨髄性+MDSと急性リンパ性に関しては、さらに50mSvの線量以下でも適合相対リスクはそれぞれ4.88と11.52で有意であり50 mSv以下でも有意であった。4.88の場合の95%のCIは1.79から10.17までP値は0.01以下、11.52の場合は1.99から45.45でP値が0.02と有意であった。
 急性リンパ性白血病に関しては、さらに20mSv以下においても適合RRは45.09で7.86から192.50で、P値が0.01であった。急性リンパ性白血病が特に低線量でも有意に出てきたというのはこの論文の一つの特徴といえる。
 このプールコホートについて有意の差異はなく線量反応の線形成からの逸脱の兆候もほとんどなかった。
 急性骨髄性白血病と骨髄異形成症候群を組み合わせた場合、及び急性リンパ芽球性白血病については、線量反応は50mSv未満の線量でも有意なままであった。20mSv以下ではこのグループは有意ではない。
 100mSvでの過剰絶対リスクを計算しているが、1万人年当たり0.1から0.4症例で非常に小さい過剰絶対リスクであった。
 A委員と私の解釈は、急性骨髄性白血病及び急性リンパ芽球性白血病のリスクは、電離放射線の累積線量被曝の後に有意に増加していると認められると考えた。小児期または青年期では100mSv未満で、累積放射線量が50mSv未満の場合でも過剰なリスクが見られた。統計学的にはこれが有意と判定される。
 これらの知見は、低線量の放射線被曝に伴う白血病のリスク増加を支持している。ひとの健康のために現在の放射線防護システム、国際的なICRPが設定しているものは、慎重に設定されており、これが20mSvくらいで福島などには適応されており、これが過度に防護していると批判がこれまであったが、この論文のデータからすると、過度に防護しているわけではなく、適切に防護しているという風に結論付けるということを著者らは主張している。
 9つのコホートの概要であるが、6番目の日本の原爆被爆者の研究が長期で8万人以上の被爆者を追跡しておりそのうち20歳未満での被ばくの症例を集めている。
 放射線の種類に関しては診断用のX線があり、3番目の血管腫の治療に使ったフランスのX線がありスウェーデンの血管腫の治療に密封小線源治療が使われている。イギリスの9番目がCTで、これはすでにピアースの論文で研究会でも既に検討済みのコホートで、原爆被爆者の放影研の研究者でフランスさんという研究者がここに加わっている。
 各コホートの人数に関しては、6の原爆被爆者が38,902人でどこも5,000を超えている。9番目がピアースさんの小児のCTで167,564人である。今ヨーロッパで行われているEPI-Studyの集計作業が100万を超えており、EUの所属の8か9ヵ国だったと思うが、ここもプールスタディで今出そうとしている。世界的な動向として、低線量被曝の人体への影響を明らかにするために、こういうプールスタディを多用する傾向にある。
 TableB1というのは、コホート別にどのくらい症例が出ているかということで一番多いのが、原爆の54人、CTの54人、後は7人から41人になる。
 意見としては、9つの異なる母集団をプールして、急性骨髄性白血病と骨髄異形成症候群及び急性リンパ性白血病においては、この100mSv以下の低線量被曝で有意なリスクの上昇が認められたとする報告である。慢性骨髄性白血病ではこのような有意の上昇は認められなかった。また、これらの病型では50mSv以下でも有意な上昇を認めている。急性リンパ性白血病ではとくに20mSv以下でも有意のリスク上昇が観察された。
 慢性骨髄性白血病で全く有意差がなかったことに関しては、色々考察がされている。まず症例が全体的に少ない。小児は、慢性骨髄性白血病は基本的には一番少ない白血病でありあまり出ない。基本的に慢性骨髄性白血病は成人の白血病で成人の白血病が中心の原爆被爆者の慢性骨髄性白血病のデータは、常に放射線の影響があり、これがマイナスになっているのは理解できないが、恐らく小児であるということと、CMLという病気になりにくい小児だということ、そういう症例の数が少ないということが、影響しているのではないかと考察している。
 以上から、これらの結論は各コホートの適格性、統計手法の合理性が確保されていると思われる。プールデータの解析によって、低年齢層における100mSv未満の低線量被曝のリスクを初めて、統計的な有意差を示したと思う。低年齢の原爆被爆者と他のコホートの比較も個別にされているが、そこには大きな差異はないことが確認されている。
 この有意のRRに基づく1万人年当たりの絶対リスクは0.1から0.4人でかなり低い。10年で1人から4人くらいで、それでも、低線量で白血病が誘発されるというデータとしては有意ではないかと思われる。
 先程申し上げたが、放射線防護の基準でICRPが推奨する20mSvの基準については、この研究結果は必ずしも過剰な防護基準にはなっていないということを示している。
 コホートの6番は広島・長崎の原爆被爆者集団において小児期に100mSv未満で被ばくした症例のグループである。
 留意すべき点は、本研究の方法が果たして疫学的な研究方法として適切、正しいものかどうか慎重に判断する必要があるが、他の同様のプール解析の報告は、一応国際的には研究報告としては、妥当なものだということで、論文としては受理されているため、我々も適格性のある解析ではないかと考えた。

(A委員)
 Table B1にはそれぞれのコホートの詳細が書かれている。
 この表から見た解釈としては、一応観察開始時期がマサチューセッツの1915年から1979年まで観察開始時期がかなりバラついているということで、時代性の考慮が必要ではないかと考えている。そして最初の平均曝露年齢がロチェスターの0.11歳からカナダの18.16歳まででかなり年齢幅が広いということで、年齢と疾患の関連も考慮する必要があると思う。

(会長)
 非常に時代が古く1900年の初めで何かこの時代にはこういう特徴がある。放射線の線量の評価など、研究者達は一応適格性があると判断しているが、放射線が人体に使われた最初の時期である。レントゲン博士が放射線を発見したのが1895年で、その後20~30年して世界中でX線の使用が広まったときの症例であるが疑義はないか。
 単位はレントゲンであるが、比べられない単位ではないということか。

(C委員)
 レントゲンから今使っている吸収線量グレイであるなどの換算は一応可能になっている。

(会長)
 比較ができないということではない。
 年齢のことは確かに小児の急性リンパ芽球性白血病などが、1歳未満など生まれてからすぐ白血病になる子供、乳児白血病について、放射線によって感受性がどう変わるかということはあまり研究されていないが、確かに言われるように非常に低い年齢の方から出ている。そこが20mSv以下でも有意差が出てきたというのは、初めての報告であり注意が必要だと思う。

(B委員)
 プール解析というのは、疫学分野でよく使う研究法で、要するに対象者を増やすということで、例えば高血圧の薬が効くかどうかを飲んだ分と飲まない分でいくつかの場所でデータを積み重ねて解析するものであると思う。
 この場合の飲む飲まないを表にすると、X軸にあたるところは飲んだ人と飲まない人、縦軸に血圧が下がったかどうかは、同じ薬を投与すれば、均等性の担保というのはできると思う。
 一方で、この研究は1915年から1975年に行ったデータをもとにしており非常に古い。単位を変えると計算できると思うが、1915年の検査の線量の正確性がどの程度担保できているかというのは厳しいのではないかと思う。特に、当時はX線が発明されて20年で放射線に対する防護が今とは全く違うため、1回の検査、同じ検査をしたとしても当てる量も違えば被ばくする量も違う、ということがあったろうと十分に想像される。
 先程言ったX軸が、かなり正確性がないのではないか、正確性がないというよりかかなりばらつきが生じるだろうと思う。したがって、先程言った高血圧とか、明確に投与した投与してないといったというようなプール解析の信頼性と、こういったかなり昔の診断レベルのX線を中心としたような、プール解析の信頼性というのは、少し区別して考えたほうがいいのではないかと思う。

(会長)
 大事な指摘である。症例としては全体の中での占める割合というのは、それほど多くはないということか。1915年のマサチューセッツはどうか。

(A委員)
 マサチューセッツは症例が41名である。

(B委員)
 論文の25ページにあるように1920年より前はすごく少ない。一番多いのは1950年代であるが、かなり昔のデータであるため、そういった部分で線量の正確性というのは注意して考えていく必要があると思う。

(会長)
 そのことは、ディスカッションのところで著者らも論じている。コホートの適格性に疑問を生じるほどのことではなかったと思うが、解釈が少し甘いか。

(B委員)
 甘いというか、自分の論文である以上そこがあるから信頼できないとは出来ない。

(会長)
 放影研のフランス氏も入っており、筆頭著者はアメリカのリトル氏である。

(A委員)
 リトル氏はNCIの放射線疫学のプロで、放影研のデータもかなり長年にわたってモデルの反応やがんのリスク等いろいろ研究されている。

(会長)
 リトル氏のような方々が共同著者になってかなりディスカッションして書いており、信頼できると思う。

(C委員)
 今の線量評価に関しては、その場で測定するわけではないため量上の線量の推定というは大変難しい。その時の、その機械がどのくらいの線量を出しているのか、吸収線量してのデータを推定するしかない。まずカルテを見て、医者にインタビューし、それからX線間の量を必要に応じてTLD、いわゆる線量計を近くで測定をしたというようなデータを集めて、各論文、各コホートの時に線量評価をしているため、一つ一つのコホートによって受けている放射線の種類が違う。ガンマ、中性子、ベータすべて入っておりそれぞれのコホートで最適とその当時考えられる手法で線量評価をしている。
 X軸に関しては、その時のベストな条件であるが、本当に同じような効率的な形で評価されているかというとそうではない。それはプール解析で仕方ないことであり限界だと思う。
 もう一つはこれだけ線源も違い平均線量も倍以上違ってきている中でよく差が出たと逆に不思議な感じがする。

(D委員)
 今まで被爆者で100mSv以上でがんが誘因するといわれていたが、今回50ミリ、あるいは疾患によっては20ミリで出るということで、比較的若い人を対象にしていることと、それから症例のデータということで、その辺りが出てきたのではないかと思う。
 ただ一つ分からないのが、3ページのいわゆる9つのコホートがあり、対象は結核であるが、三つ目から血管腫で、この血管腫の人達というのは、バックグラウンドが分からないが何か腫瘍ができやすいことがあるのではないか。
 最後の9番のCT白血病罹患データというがどういうバックグラウンドの人達なのかがわからない。ここが一番多く16万人で半分以上を占めている。A委員が言われた症例でいくと、このグループから出た白血病は少ないが、その辺りのグループというのはもしかすると、腫瘍性の疾患を起こしやすい人が混ざっているのではないかと少し引っかかっている。

(会長)
 最後の部分は、ピアース氏の論文ではそこが問題になっている。それを克服しようとヨーロッパのグループはなぜCT検査を受けたのかEPI-studyでやっている。
 おそらく、世界レベルで、リトル氏もカルティス氏というスペインのリーダーの方も本当に適切なコホートを設定してきちんと有意差も高いものが出せるのかと皆思いあぐねている。線量測定がこういう方法でないと、なかなか統計解析で耐えられるようなデータが出てこない。そういうものが今論文として、数が増えているという状況にあると見ている。EPI-studyが100万人といわれており、2018年には論文を出すといっていたが、2019年でも出ていない。そこまで出たところで国際的な評価の会議がそれなりの国際的な機関でなされていくのではないかなと思う。
 そういう意味で、ポジティブのデータが、論文の一つとしてはカウントしてもいいかと思っている。ここで私たちがこのデータをネガティブに評価することは今の段階ではまだできないと考えている。
 26万人というスケールでしかも原爆被爆者が入っている。原爆被爆者の小児だけのデータというのは、論文の中身としては解析されている。単独で小児を扱った論文というのは放影研からは出ていないように思う。しかし、ここにフランス氏という放影研の統計学者が入っており、一応彼らも最後は承認したのだろうと思う。
 いずれにしても、今後1、2年のうちに結論が出てくるのではないか。おそらく、人間に対する放射線の影響として、100mSv以上でないとがんは起こらないという状況からは、違う事態が生まれつつあるのではないか。それをどこまで確実なものとして、最後に世界の研究者が承認するのかというのは、もう少し時間をかけて分析しなければいけない。他にも、こういうプール解析をまだ行っているところがあるかもしれない。

(B委員)
 先程説明していただいた、Figure 1、論文の18ページのグラフについて、これで見るとやはり、前も話したかと思うが、いわゆる線上について増えている傾向については有意であるというのは分かるが、各線量でみた場合、例えばAの急性骨髄性白血病とMDS、これも大体30ミリくらいで、一回有意になっているが、その後70になると有意性が無くなり、有意に増えていないとなる。Bの急性骨髄性白血病の単独も同じで、これがどの線量でも有意な増加というのは認められていない。Dの急性リンパ性白血病も30や20で低いところで有意性が出ているが、70くらいになってくると、有意性が消えているというように全体として線上に増えていると抵抗が認められていくが、各線量の範囲を見てみると、必ずしも線量反応関係が当てはまっていないというようなことがあるのではないかと思う。Figureを見ると解析として正常を示しているというのはそうだと思うが、それぞれの線量域においてリスクが増えているのかというと、少しこれではどうかというのが、正直このグラフを見た印象である。

(会長)
 放影研の統計の専門家と議論したこともあるが、彼らは一つの線量のところだけで、全部有意性がつかないといけないとはみていない。その範囲内で一定の傾向を出すようなデータが、一応ここにある。そこに別の解釈としては、症例が全部きちんとディテクトされているかという問題から始まり線量の推定の時の誤差などいろんなものを含めて考えると、そんなにきちんと線量ごとにも有意になっていくところまで統計の結果を得ることがなかなか難しいと思っているところがある。
 厳密に各線量のところで、きちんと反応が出ないといけないと解釈されていると思うが、例えば50で有意に出て70で下がるというようなことはある。それでもある程度のところまで上がっているが、それが傾向としては、こういう風に出てくるのを推定するのが統計学だということだと説明している。

(A委員)
 結局、解釈の仕方というか、100mSvあたりにどれだけのネガティブリスクという計算をするためにどうしてもモデルに当てはめてしまうため、このグラフから見る形とは違ってくるというか、それはもう統計的に仕方がない。見た人の感覚でどちらを好むかになると思う。

(会長)
 一旦有意になったものが、また下がるというのは、私も放影研の研究に参加していたが、度々あった。それで一つの解釈は、そこのグループのところは本当に市内から出た、すべての症例をきちんとディテクトできたかという点から考えると、そこに大きな誤差があって、なかなか言われるように全部きれいに線量反応が出ていくというのはなかなか難しいためそういう手法を取らざるを得ないというような、これまでのプレストン氏らの研究でも明らかになっている。

2 長崎原爆被爆者におけるプルトニウム内部被曝のオートラジオグラフ分析

(A参考人)
 背景として、プルトニウム型原爆は、1945年8月9日11時2分に長崎市に落とされた。原爆被爆者の被曝線量は、実質的に外部被曝線量で評価されている。あまり多くの放射性物質が被爆者には見つかっていないため内部被曝の影響は見過ごされてきた。
 しかし、プルトニウムが24年後の1971年に長崎の土壌に残っていることが報告されている。距離による被爆の状況について、算出された外部被曝はガンマ線に換算すると500m付近では、80グレイ位、1キロメートル付近では7.9グレイ位と概算される。
 長崎原爆の物理的影響について、ご存知のとおり爆風があり、その次には熱線、放射線、とそれぞれ被爆距離によって算出されている。 
 論文の目的は、アルファ線放出核種の残留を1945年に急性放射線障害で亡くなられた原爆死傷者の解剖標本の中に見つけることである。もう一つは、その原爆死傷者のアルファ粒子がプルトニウムかどうかを決定することである。1945年に原爆が落とされ、そのあと病理的な報告は既にアメリカから1949年に報告されている。その後、プルトニウムが1971年に土の中から発見されている。また、1973年には米軍病理研究所から資料の返還が日本の方にあった。ここにあるのは、原爆資料の分、そして病理報告も返還されたということである。そこで私たちは、2009年よりアルファ線の飛跡ということで内部被曝を確認するためにオートラジオグラフ法を行った。
 これは被爆者のサンプルで、腎臓の標本であるがここに黒い線、アルファ線の飛跡が見えるが、この飛跡をずっと観察してきた。ここの下に見えているのは、トロトラストといって、以前、血管造影剤として内部被曝を起こした薬剤であるが、これを対象としてこのアルファ線の飛跡がたくさん見られている。
 ここで見られた症例は、被爆者7症例、1番目は症例1として年齢は不明、性別は男性、距離も不明、生存日数が16日、被爆時の遮蔽は不明、この4例の方は、ほぼ1キロメートル以内で被爆された方の標本サンプルを用いている。症例2は21歳で男性、被爆距離が0.8キロメートル、生存日数が38日、屋内被ばく。3番目は年齢60歳、性別女性、0.5キロメートル、生存日数が68日、屋外で被爆。症例の4は、43歳男性、0.5キロメートルで生存日数が78日、日本家屋で屋内で被爆。症例5。23歳男性、距離が0.5キロメートルで、生存日数が87日、被爆時の遮蔽は不明。症例6は33歳女性、被爆距離は不明。125日間の生存日数で、倒れた家屋の下で火傷を負っている。症例7、年齢77歳女性、被爆距離1キロメートル、144日生存日数、木の後ろに座っていた、屋外、とされている。非被爆者としては、このように被爆距離が遠く、また、生存日数も長いということで症例を集めた。
 これは長崎原爆死傷者標本におけるアルファ線、放射線、アルファ線放出核種である。これは、肝臓の標本であるが、ここに一つの細胞がある。この青く見えるところが、一つの細胞の核で、そこから核のすぐ脇の細胞質の方から黒い飛跡としてプルトニウムのエネルギーが通った後のもの、飛跡として認められている。これは骨であるが、これも核のすぐ横のところから飛跡が見られた。前立腺、気管支軟骨、肺は、3本見えているが、これも細胞質の方から見えている。これはコンタクト法といって、標本は大体3から4ミクロンの厚さで乳剤をかぶせるときに、厚い甲板をのせて、長い飛跡が見られるようにしている。このように、色々な長さの飛跡が見られるが、標本の厚さが4ミクロン程度であるため、この飛跡は電子顕微鏡で標本の上から見る。この標本がありその上に乳剤を塗り、その中をエネルギーが通過すると、それを現像した時に黒く見える。
 その後現像し、その飛跡を見ることになる。エネルギーを持ったものが標本から飛び出すときには、標本上から見ると、真上に飛び出した場合点に見える。真横に飛び出した時一番長く見える。そのエネルギーが持つ力で、その飛び出す長さが決まる。その最大の長さのところが、プルトニウムのエネルギーを持ったアルファ線の長さということで、決定されることになる。
 飛跡を何千個も集めていくと、最大の長さのところでプルトニウムだと分かるため、それを足して確率を求めていく。これは累積の確率で一番上までいくと、1になる。ここの縦軸は長さの頻度で、ある長さのものが何個あったという頻度で、右はその飛んだ長さが一番長いところでピークが分かる。これは乳剤の厚さによって長さが少しずつ変わる。乳剤が薄いと短いものがたくさん見えるということで、これは算出された累積確率と微分確率の乳剤厚さの依存性ということで、薄いと小さなところに最大に飛んだところのピークが、一番見える。最大に飛んだところまでがプルトニウムのエネルギーと分かるので、それ以後はないということである。
 この赤いのが、被爆者で、これが非被爆者、これはトロトラストであるが、このようにピークがプルトニウム239、240のところで認められた。これは被爆者の分で、非被爆者の分はここのピークがないということで、明らかにプルトニウムのピークは飛跡の距離によって、被爆者のみで認められたということである。これで、この飛跡が飛んだあとの線が何本あるかということで、放射濃度が計算される。これはプルトニウムの放射濃度ということで、このピークがプルトニウムと分かったため、そこから逆算してプルトニウムの放射濃度を換算した。症例1、症例2、症例3、症例4、5、6、7と並んでいるが、これは生存日数が16日、144日、長いほうが下の方に書いてある。放射能濃度はそれほど高くなく、立方センチ当たり0.015ぐらいから0.02とかの間にあった。遮蔽の問題で、インドアと書いてあるのは、屋内被ばくと確実にわかっている方であるが、この方々には高い値は認められず、高い値が認められたのは、屋外にいた方であった。
 こういう解析をして、写真乳剤中の飛跡の長さということで、それぞれ最初に求めたのは、ポロニウム212というもので、この距離を規定の長さとして合わせ、それからプルトニウムの飛跡の長さがエネルギーと飛跡の長さのところの関係の上にきちんと乗った。ポロニウム212に関しては、少し飛跡の長さが長くこの時点できちんと見分けることができた。あとアメリシウムもコントロールの飛跡の長さをとってみて、この線の上に行った。内部被曝の線量としては、かなり少なく、内部被曝の実態というのは、ひとつの細胞核があり、そこを飛跡が通ったとすると、粒子であり短くしか飛ばない。アルファ粒子、その間に色んな所にエネルギーを付与して、細胞に対する傷害としては高いということがいわれている。もし細胞の核があり、その真ん中でアルファ粒子が止まるとしたら、どのようなエネルギーの付与の仕方をするかということで、物理的に計算してみた。
 するとここで、血管、胆管、膀胱や肺なども入っているが、それぞれ2グレイや3グレイの高線量で、その時に止まった時の総線量が高線量で、吸収エネルギーが現れるという結果となった。
 内部被曝がどうなるのかは未知の分野であるが、このプルトニウム239がアルファ粒子としてDNA障害を起こし、がんなどに繋がるのかもしれない。
 まとめとして、私たちはオートラジオグラフ法で近距離原爆死傷者標本に残っている、アルファ線粒子核種、プルトニウム239を見つけた。原爆被爆者にはプルトニウム239による内部被曝があったことが分かった。屋外で被爆した方がプルトニウム239は高濃度であることからも、原爆の影響であることが確認できた。

(会長)
 論文に脳の中にも飛跡が見つかったとあるが、脳にも入っていたのか。

(A参考人)
 脳の標本でも飛跡が見つかったことから、色んな場合が想定されるということで、論文にはBBB(blood-brain barrier)を書いている。

(会長)
 ブレインバリアを越えたのか。

(A参考人)
 その可能性もあると思う。いろんな非常事態で、結局、外傷もあり、原爆の地点で1キロメートル以内にいた方ということで、集めていたため色々な場合が想定されており、血液中を全部まわる、それ以上にBBB、血液脳関門をもしかしたら越えるのかもしれないと考えている。

(会長)
 それは動物実験でプルトニウムを注射した実験があると思うが、脳に入るのか。

(A参考人)
 それはまだ確認はしていない。

(C委員)
 Fig.3であるが、スペクトルの比較をされていると思うが、自然放射線、自然核種によるアルファ線と、プルトニウムによるアルファ線をどう分けるかというのは、ほとんど不可能だと思っていたが、それを数学的に累積微分スペクトルで、それでちょうどうまく被爆者の方々のところに多く出てくるところのピークがまさしくこれがプルトニウムだという解釈でよろしいか。
 それで、一番上のグラフで、ph、トリウムと書かれたポイントがいくつかある。あれはトリウム系列の自然放射線核種を実験的にこうやって、飛跡を見てその長さをプロットしているという、そういう理解でよろしいか。

(A参考人)
 トロトラストの標本があったため、どういうところにピークがあるかということで、トリウム系列の分をいくつかポイントにおいている。

(C委員)
 それともう一つは、ポロニウム210、これと分けるのが大変だと思うが、上から2番目のグラフでポロニウム210がちょっとプルトニウムのピークの右にきているが、これもやはり同じように、実際に試薬レベルで高かったということでよろしいか。

(A参考人)
 以前、論文の方で実際にポロニウムをして、fig.4のBで実際にオートラジオグラフにして確認している。

(C委員)
 15ページの原子爆弾による内部被曝について、左のグラフは要はアルファ線のブラッグピークで止まる直前にエネルギーかかるといういわゆる普通のパターンでその線源の位置からその長さにあった細胞の核であってもそれだけの線量が与えられるという理解でよいか。また、その一つ一つの臓器が違うが、それぞれの臓器を構成している細胞の核のサイズを反映しているという理解でよいか。

(A参考人)
 その理解でよい。

(会長)
 これは、ワンヒットで核にそれだけのエネルギーを与えるという考え方で、線量が増えれば、それはがんの発生につながるということは、核にちょうど当たった頻度が高くなると、そこから確率的にはがんになる細胞も出てくるだろうという考え方でワンヒットで確実にがんが起こるということではない。そこは、難しいところである。

(C委員)
 これは、重粒子線治療の基本である。ある臓器のところで全部エネルギーを落とすという、そういう曲線になる。したがって、たまたまその距離のところの臓器あるいは組織あるいは細胞に一番大きなダメージが与えられるということになる。

(会長)
 C委員の論文の評価についてお聞きしたい。

(C委員)
 この研究は、組織切片中のプルトニウムから放出されるアルファ線の飛程を可視化しどれくらいの長さの飛程があったのか、どれくらいの数の飛程が出てきたかを、組織内の放射能と吸収線量まで計算されている。被爆者群が7名のうち5名に関しては外部被曝線量が推定されており、一番高い方で83Gy、それから一番低い方で21.5Gy、かなり線量の被ばくを受けている。
 最初のポイントが今のオートラジオグラフィーで出てきた飛程が、本当にプルトニウムのものなのかどうなのかが鍵である。今回は天然に存在している、ポロニウム212、これはかなり大きなエネルギーを持っているが、これを標準核種として、実験的になされたオートラジオグラフィーの資料の中における実際の飛程の長さと、それからアルファ線エネルギーの環境を数学的に求めて、基本的にエネルギーが決まれば、核種がある程度決まってくるため、そのエネルギーとそれから飛程の長さが分かれば、あとは核種が分かる、そういうロジックである。
 それで、プルトニウム239、240のエネルギーの相当する飛程の長さを割り出している。最初の説明にあったとおり、その飛程の長さ、二次元的にしか、顕微鏡下では測定できないため、本当の長さというのが分からないが、それを先ほどの確率的な分布でこれを計算で求められているということにより、対照群、それからトロトラスト患者の試料と比べて、明らかに被爆者のサンプルでは特異的なピークがあって、これはプルトニウム239、240に合致しているのではないかというところで類推をされている。
 次に、それを組織内のベクレルにどうやって換算するか、これもエネルギー、発生確率、放出確率が分かれば、出てくる。それで骨髄線量として、屋外被ばくの一例で1立方センチメートル当たり0.02ベクレルと最も高かった。
 ただ臓器間での顕著な差は認められなかった。今の0.02ベクレルが骨髄でみなされた方の場合であるが、生存期間を考えるとトータルで0.104ミリグレイ、生存期間中に組織で吸収線量があったのではないかと推定される。
 また、今回の被爆者群全体での生存期間中の最高値としては、0.137ミリグレイであった。微細的な線量分布を見ると、線源から35マイクロメートルの当たりで吸収線量は最大となり、最大で3.89グレイと計算された。
 意見であるが、本実験における天然放線核種とバックグラウンドとプルトニウム239、240をどう区別するかという点は、今回のこの手法を用いて一定の解決が図られたのではないかと思う。先生方、筆者が述べておられるように、ここで出てきた吸収線量は、外部被曝線量と比べて十分に低く、今回の検討の対象となった被爆者におけるプルトニウム被ばくのトータルの影響というのは無視できるのではないか。
 また、最大の組織線量は年間に換算すると最大の組織線量が0.56ミリグレイであり、全身の実効線量としても0.56ミリシーベルト/年を超えることがなかったであろうという解釈ができる。この0.56ミリシーベルト/年は、日本人の食物由来の内部被曝の全身の実効線量は、国際平均の0.12ミリに対して、0.8ミリとかなり高い。理由として日本人は、魚介類を多く食べるため魚介類に含まれる210の摂取によるものと考えられている。1945年当時の海産物摂取が仮に現在とあまり変わらないとするならば、今回得られた0.56ミリグレイ/年、これは天然のポロニウム210の摂取による被曝線量とほぼ同じ程度の線量であろうというような解釈が持てるかと思う。

(会長)
 私が知るところでは、被爆者の体内にプルトリウムを、明らかに239、240を検出したというのは、この論文が初めてだと思うが、それでよいか。

(C委員)
 そうだと思う。

(会長)
 こういう研究というのは、外国ではされていないと思う。例えばビキニの核実験など臓器を用いたアメリカの研究などないか。

(A参考人)
 臓器を用いた被爆者の研究というのは見当たらないと思う。

(会長)
 これは、アウトドアの例で多くのプルトニウムが見つかったようであるが、外部線量がものすごく大きいためほとんど無視される内部被曝の線量だと思う。アウトドアの人たちというのは、700m、1km以内であるか。

(A参考人)
 そうである。

(会長)
 プルトニウムは、この研究会の一つのテーマである、12キロ以遠のところでもプルトニウムが土壌から見つかっており、そこから逆算するような形で、外部被曝がどのくらいあったかというのを、セシウムに換算した。
 拡大地域のある場所では25ミリシーベルトでその後生涯線量があったということで一応なっているが、外部被曝線量がほとんどゼロに等しいために、純粋に内部被曝だけを受けたことに状況はあり得るということになるか。

(C委員)
 そうだと思う。

(会長)
 非常に近距離の研究であるが、遠いところで生活していた人達もその当日は、ダストを吸い込んだとかを少し想像したが、体内に入った可能性は十分あるか。

(C委員)
 もちろんゼロではないと思うが、以前計算したような地域というのは、フォールアウトがメインの線源になってくるためにそれらの寄与の方がはるかにあると思う。

(会長)
 その場合は、体の中に入ったフォールアウトの核種は考えられないか。

(C委員)
 あの場合もほぼ外部被曝で土壌中からのセシウムからの被ばくが一番大きな寄与ということを計算している。

(会長)
 被爆地拡大地域の人達が少年期、少女期に被爆し、ある程度吸い込んだ可能性はあるが、それが内部被曝を起こして、病気になるような度を超すほどの量になるというのは、少し推定しにくいということか。

(C委員)
 今回の例が、極めて高い外部被曝を受けられた地域において、おそらく吸入があったと思われるが、その手がかりしかない。あんな重いプルトニウムがそんなに飛んでいくのか、実際福島の原発を見てもそんなに遠くまで実際には飛んでいない。プルトニウムは重い。その辺りのデータがない。

(会長)
 71年の研究、プルトニウムの土壌はどこまでだったか。

(A委員)
 西山地区。

(A参考人)
 主に、西山地区で高い。

(会長)
 そのプルトニウムは、さらに遠距離まで見られたのではなかったか。参考人Bはご存知ないか。

(参考人B)
 熊本まで飛んでいる。

(会長)
 長崎県で言えば島原くらいまでだったのでは。

(参考人B)
 物理学者のモデルでは爆心地近くで、プルトニウムというものはないということに今までなっていた。それは、強力な上昇気流によって巻き上げられているため、下に落ちない。それが崩れたということはおそらく一番大きい。確かに非常に少ないが、その辺りの前提条件が崩れたと、そうしたら全体像はどうなるのかというのが一番大きなインパクトではないかと思っている。

(会長)
 今までは、爆心地付近はプルトニウムはまず見つからないだろうと思われていたのが見つかった。しかもそれが人体に入っていた。そこから人体の影響までを考えるとなるとちょっと距離がありすぎるが、非常に重要な試験が10年がかりの研究で成功されたということで、今日は大変貴重なご発表をいただいた。

 以上をもって今日の研究会を終了とする。

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