ここから本文です。

第8回(平成28年度第2回)長崎市原子爆弾放射線影響研究会

更新日:2019年2月7日 ページID:032391

長崎市の附属機関について(会議録のページ)

担当所属名

原爆被爆対策部調査課

会議名

第8回(平成28年度第2回) 長崎市原子爆弾放射線影響研究会

日時

平成29年3月31日(木曜日) 11時00分~12時30分

場所

長崎原爆資料館 2階 平和学習室

議題

1 研究論文等の調査結果 について
(1) 前回(第7回)紹介された論文の意見交換
1. 小児および胎児の放射線被曝にる癌リスク
2. 胎児及び若年被爆者における固形がん
(2) 2015~2016小児CTスキャン論文の紹介およびCT癌リスクの検討
(3) 原発労働者研究におけるpooling dataの長所と短所
2 第8回研究会までの中間報告について

審議内容

1 研究論文等の調査結果について

(1) 前回(第7回)紹介された論文の意見交換

1. 小児および胎児の放射線被曝による癌リスク

2. 胎児及び若年被爆者における固形がん


【会長】
小児というよりは、胎児について議論を進めていきたい。
そこで紹介している論文は報告書であり、米国学士院(※1)の「低線量被曝による健康リスクに関する委員会」第7項の第2期の報告書であり、いわゆるベアセブン、フェイズツーといわれるものである。胎児の放射線被曝によるこれまでのアリス・スチュワート以来の1955年の長い歴史のある胎児被曝のことがまとめられている。
まず、一番目に原爆放射線による胎内被曝とがんのリスクがあるかという問題についてはABCC(※2)以来、現在の放影研(※3)につながる一連の部分が5、6編出ており、それらを1ページ目に紹介している。最初の第1報では確認がされなかったということである。これは戦後24年間のものである。がんが一つ出ているが、はっきりしたものはなかった。第2報で吉本という方が1991年までのデータを調べて、今期初めて胎児被爆者でも小児がんが2例、成人型のがんが16例、合わせて18例出ており、これを母親の被曝線量で調べてみるとRR(※4)が3.77、1Gy当たりである。線量反応が初めて見られた。それから、1997年の放影研の第3報としてデロングシャンプによる論文が文献2で、再び線量反応を認めている。このときはERR(※5)は1Sv当たり2.1という数字が出ていた。ここで特異的な所見があり、がんになった人の10例中9例が女性である。普通はなかなか見られないデータである。
後ほど、最近のプレストンの報告をB委員にお願いする予定であったが、今お願いしたい。

【B委員】
お手元の資料5ページで、これは胎児及び若年被爆者における固形がんという2008年にプレストンが出した論文である。
胎内被曝によって小児がんのリスクが上昇するということであるが、その後成人になった時のがんリスクは実はよく分かっていないということで、この論文は広島・長崎で胎内被曝をされた2,452名と、被爆当時6歳以下だった方、当時既に生まれていた方が15,388名を対象にして、固形がんの頻度について調査を行ったものである。その結果のまとめを下の表に書いているが、小児期に被爆した方は、診断到達時年齢が30歳から54歳の年齢では、男性女性ともに0.2Gy以上被曝した群では有意な上昇を認めているということである。12歳から29歳では女性のみ0.2Gy以上の被曝線量群で有意な上昇をみせたというのが小児期の被爆者である。一方、胎内の被爆者群では、12歳から29歳の女性のみ、固形がんの有意な上昇を認めたということである。これは委員の意見に書いているが、原爆被爆者のうち胎内被爆者の調査の一番のポイントは、そもそも対象者が限られているということである。しかしながら、その一方で線量評価については他の調査に比べても信頼性が極めて高いと思う。今後も継続した調査が必要であるが、現時点で胎内被爆者では0.2Gy以下の低線量域における固形がんの有意な上昇は観察されていないということで、胎内被爆をされた方、あるいは小児期被爆の方の今後フォローアップ解析が必要ということになる。一方で、医療検査、医療被曝による胎児被曝についての健康影響についても多くの調査がされているが、大きな点として、線量の評価の妥当性についてバイアスがかかるということである。調査のスタイルとして、今紹介しているのはいわゆる前向き調査であるが、多くの場合がいわゆる後ろ向きの調査、ケースコントロールを含めた後ろ向きの調査があるため、どうしても信頼性の問題があるということで、これを慎重に考慮する必要があるのではないかというのが、委員の意見としてここに述べてある。

【会長】
これはその前のデロングシャンプの研究と大きな相違点があるのか。
経過観察の年数が追加された。やはり継続性のある研究であるか。200mSv以上で観察されている。ただ、先ほどのように女性において偏りがあるということになっている。胎児被爆者には第1報であまり影響が出ていないのではないかと世界に伝わっていたが、その後、放影研の研究では胎児被爆でも、小児期の被爆と同じように、少し差はあるがリスクが高まることは同じだということである。ただし、200mSv以下では確認できていないということか。

【E委員】
デロングシャンプの論文で行っているように、女性のがんを引くなど、そういうことは考慮して解析されているのか。前の論文では、10例中9例が女性だったから乳がん子宮がん卵巣がん等を除いて会議が行われたと書いてあったが、今回の論文ではそういうところまでやっていないのか。

【B委員】
テーブルを見ていただけたら分かるが、今回のこれで見てみると小児被爆者をみても、男性女性差はトータルの数でそんなにない。胎内被爆者についても見てみると、男性女性でそんなに差があるわけではない。男女比が1対1であるので、特にそういう女性を引くなどしての解析はされていない。

【会長】
婦人科がんも除いて、デロングシャンプは解析している。残りの婦人科がんを除いて、女性が多いという結論。9例だからそうなる。

【A委員】
胎内で被爆された方のリスクと、小児期で被爆された方のリスクの差という観点で、このデータからいえば、どのように評価されるのか。

【B委員】
小児期の方では、男性女性とも0.2Gy以上で有意な状況を認めている。一方で胎内被爆者の方では、12歳から29歳の群の0.2Gy以上で固形がんの有意な上昇を認めているということであるから、少なくとも胎内被爆群の方がいわゆる小児期被爆群よりもリスクが高いということは、このデータからは言えないと思う。ただし、小児数の問題もあると思う。胎児期のほうが高いということは、この結果からは至らないのではないかと思う。

【会長】
症例が、まだそんなに多くはない。この研究は、放影研は継続していたと記憶している。
2ページの2、医学的な検査による被曝というのが、あるいは医学的治療による被曝というのが脊柱湾曲(スコリオーシス)のデータや、CTスキャンに関することがある、これは後回しにして胎内被曝を続けている。
3番目が医療被曝についてであるが、検査で母親が妊娠中に骨盤の計測を正確にして、胎児の分娩の安全性を確保するということが1950年ごろから盛んに行われており、多くの母親たちが骨盤検査を受けていた。そのデータで、胎児が生まれた後にがんリスクや白血病リスクがあるという研究がなされている。それがオックスフォードの小児がん調査研究である。
これは以前に説明したため結論だけ言うと、ケースコントロールスタディという、後から思い出して、母親が検査を受けたと申告した人の子供たちが、がんと白血病を合わせると40%、1.4倍になっているという世界で始めての指摘があったものである。
その後、マクマホンが東北米地方の73万4千人の調査で、1.4倍くらいに増えているということを観察して報告している。オックスフォードのビテール/スチュワートの論文から1975年からのシリーズで観察が続けられており、いつも大体同じ傾向を確認して、なおかつ89年くらいのデータでは、知識が広まってドクターたちが婦人科の先生たちが骨盤計測をしなくなり、レントゲンの機械も改良されて1回の撮影で被曝する量も減ってきたことがあると推測されるが、1.4倍よりも下がっていた。ある意味では医療被曝を避けるということが徹底して、少し下がってきたということが観察されている。それと同じようにマクマホンのグループが1980年に米国でも同じように下がってきたということを言っている。
ビッテルは1989年と1990年にケースコントロール研究と、そのほかのコホート(※6)研究をまとめてメタアナリシスを行ってコホート研究でも確認されるという経過をとっている。それからドールとウェイクフォードで、ドールは脊柱湾曲症で、初めて白血病が増えていると言った人でイギリスの教授であるが、全ての論文を調査して、結論としては1.4倍だということを言っている。ボイッシーが1999年にケースコントロールスタディだけで有意な上昇が確認されているということを反論しているが、ドール、ウェイクフォードの1997年の解析では、コホート研究においてもやはり同等のRRが観察されているということを言っている。
それから、線量がどのくらいかということも、次のページ3番目、それから妊娠の第3期。トリメスターの時にピークがくるということである。エックス線の撮影枚数が増えるごとにRRが上昇していくということを言っている。このころUNSCEAR(※7)、国連の放射線委員会は、オックスフォードの調査と報告とその他の報告をまとめて、統計学的に有意なRRの上昇を15歳までの小児白血病と小児がんにおいて認めている。それによれば、10ないし20mGyで約40%の過剰が認められている。これはlow LET である。その他の報告を含めて、このベアセブンというあたりの報告書の結論は12となっているが、ドール/ウェイクフォード、ウェイクフォード/リトル、それらの論文も含めて、結論としては、胎児のエックス線被曝事例と原爆放射線被曝の事例におけるERRはほぼ一致しており、10mSvのオーダーで胎内被曝が小児がんのリスクを押し上げるということである。原爆の方は、先ほど言ったように200mSv以上での観察である。ところがこのオックスフォードシリーズは、10から20mSvというところで押し上げているという結論を出している。
私の意見は、オックスフォードシリーズでも原爆のシリーズでも、胎児被曝はがんリスクを上げるということは間違いないだろうということである。どのくらい低線量被曝の影響があるかということは、10ないし20mSvとここに出ているように推計されている。そういうことで、かなり低い線量であるが、胎児が被曝した場合は影響がありうるという一つの根拠になる状況にあると思う。
これは、なぜこのように調査を詳しくやったかというと、被爆地域拡大地域の住民の方々で、登録上、母親の胎内にあった方が140名くらいいる。そういうことで、これは考慮しなければいけないデータではないか。
胎児被曝についてのまとめをいたしたいが、どう解釈するか、先生方からご意見をお願いしたい。私の意見は今述べたようなことであるが、いかがか。
そこまでは言えないのではないか、など色々なご意見があるかとは思う。

【B委員】
読ませていただいて、少し文献を調べてみたが、2003年にICRP(※8)が、このオックスフォード研究についてレビューを出していることについて、日本語訳はなかったが、そこにやはり問題点がいくつかあった、と指摘をしている。一つはまさに先生が言われたようにスタディデザインとして、多くはケースコントロール(※9)であるということ。同じような対象者をした前向き研究ではリスクが出てこないということをICRPは指摘している。もう一つのオックスフォード研究の特徴として、がんの発生場所のリスクにあまり差が無いということである。ただ、ほとんどの方は、まさに会長が言われたように第3トリメスター、妊娠後期に被曝をされたが多い。つまり器官形成期よりあとに被曝をしているわけであるから、普通に考えれば、放射線感受性によってがんの部位差が出ると考えられるが、にも関わらずオックスフォード研究では部位ごとに差が無いというのは矛盾しているのではないか、とICRPは指摘している。
そういった点から、ICRPはオックスフォード研究が小児がんに通じていて大規模であると認めながらも、明確にこれをもってオックスフォード研究が正当化されるとは書いていない。当然ながら、ご承知のとおりICRPは医療時の被曝について、100mGy以下の医療被曝については、その中絶を正当化すべきではないという勧告を出している。
その勧告を変えていないから、少なくともICRPはいくつかの問題点があるというのを認識しているのではないかと思う。

【C委員】
ERRを見ると例えば5年あたり50というところで出てきているが、線量的には10mSvのオーダーでもリスクが出ているというのは、これはもう、大体そうなのかなと思うが、線質が違っていて、11番のところにかっこでlow LETと書いているが、エックス線のところで骨盤検査で軟部組織、かなり低い。そのため60、70くらいの低い線質を使っているが、原爆被爆者の方の場合、おそらくもう少し線質が高い。中性子も含めて、あるいはガンマ線、そうするとおそらくRBE(※10)は下がってくると思う。LET(※11)というのは、どんどん低くなればなるほど吸収されやすくなる。逆にRBEは上がっていく、低い領域ではそういった傾向があるので、その辺の違いを考慮した総括が必要かと思う。

【会長】
ICRPは、そうするとがんリスクがある可能性はあるが、明確には言えないという見解か。ネガティブだということではないのか。

【B委員】
これをもって、オックスフォード研究の結果を是認するということは書いていない。

【会長】
前向きの調査の時期の問題があるのではないかと思う。放射線の照射の線量のリスクが下がってきた時期と重なっているのではないか。

【B委員】
そのことについては、先ほどおっしゃったようにオックスフォード研究の場合は時期によってリスクが変わってきている。それについても、むしろそれは医療被曝を控えるようになってからではないか、潜伏期と合わないのではないか、むしろリスクがバラついているということも、このリスク評価自体、つまり線量評価等々がこのオックスフォード研究がしっかりしていないことの論拠となるのではないかとICRPは書いている。

【会長】
ICRPとUNSCEARとBEIR(※12)報告で微妙な違いがあるわけであるが、この検討会として低線量での胎児被曝による健康影響はあり得ると、少なくとも否定はできないとの見解でよろしいか。そこまでいかないのか。

【B委員】
現在のところICRPの見解とBEIRの見解と必ずしも一定していない状況ではないかと思う。明らかではないというか、そこについては一定の見解は得られていないということではないかと思う。明確にあるとは、言えないのではないかと思う。

【A委員】
一番、線量としてしっかりしているのは原爆被爆者のデータだと思っている。そのときのリスクが、条件があるが、リスクがあるということではあるが、その際の線量というのはオックスフォードで、オックスフォードサーベイで示されている線量よりはだいぶ高い値で、そういう値でリスクが認められるとういうことではあると思う。オックスフォードサーベイに関してB委員から指摘があったように、ほかの研究論文で、まだ議論が続いている段階だと思う。一方、UNSCEARはオックスフォードサーベイの結果を取り入れた評価をされているということであるので、今後さらに調査が進むのではないかと思っている。

【会長】
今後調査というのはできるのか。なかなか難しいのではないか。

【A委員】
なかなか難しいと思う。

【会長】
現状ではかなり論理的な問題が生じる。意見が少し分離している状況を提出するということになるか。認めている放射線の委員会もあるというようなことでよろしいか。
これをもって断定していい、というわけにはいかないということである。

審議事項

1 研究論文等の調査結果について

(2)2015~2016小児CTスキャン論文の紹介およびCT癌リスクの検討

【会長】
次は医療被曝の人、もう一つのカテゴリーである、小児のCTスキャン論文の、その後、いくつか論文が出ており、資料に論文1から6まであるが、それを簡単に説明する。
ピアースの論文や、オーストラリアでの60万人を対象とする論文で、小児期にCTスキャンされた子供たちが、その後10歳くらいまでの間に、がんや白血病が増えるという、かなりショッキングな論文が出た。その後、その論文についての批判が出て、結局、何十万人という子供たちの被曝を扱う場合、この子供たちの中にがんを起こしやすい、あるいは白血病になりやすい先天異常の病気が20くらいあるが、それがオリジナルのピアースの論文などでは解析されていないため、その影響ではないかという反論が、論文1のフランスの小児CT論文である。ジャーニーの論文で、これが2015年に出た。既に読んでいると思うが、先ほど申し上げた20ぐらいのがんや白血病を起こしやすい先天異常を持った子供たちの方の死亡が多く、やはりその影響が一番大きいということである。その方たちを除くと、残りの先天異常がない子供たちではCT検査の被曝によって、がんや白血病が増えているというデータではなかったということが、このジャーニーらが発表している。
これで決まりと思ったが、フランスのこの論文に対してミューアーヘッドというイギリスの教授だったと思うが、この論文を精査したところ、ジャーニーの解釈と異なる点があると述べている。
「ジャーニー論文のデータについて、がん発祥素因を有する患者を除くとCT被曝による有意ながんリスクの上昇は消えるというフランスの結論は、以下の点で疑問がある。すなわちこの論文は、表面的には発がん素因を有する症例の方がCT被曝でより高い線量を浴びているように見えるが、電子版のサプリメントテーブル6を詳細に見てみたところ、がん種別に見た場合、修正した場合もわずかに下がるのみで、さらに素因がない症例の15と素因がない7症例をがん種別に比較した場合、素因がある症例ではERRはほとんどゼロになっている、つまりカッコ内のデータに非常に近い。」と書いている。素因がない症例では、むしろERRは高くなっているといっている。CNS0.028、Leukemia0.187、Lymphoma0.025。したがって、素因があることによってERRが上昇したのではなく、死亡は先天異常がある人で多いから、データが修飾されたと考えるべきではないのかということである。がん種別のデータでは、明らかに素因のないグループでERRが高く、素因のあるグループではむしろERRが低くなっているため、ジャーニーらの解釈は誤っているというのではないか、というコメントを同じジャーナルに発表している。素因のない症例グループのERRが、全体解析のERRとほぼ同等であることも重要であると指摘している。ということは、ピアースやオーストラリアのマシューの論文も素因についての解析をしていない、先天異常の症例を特定していないわけである。だが、論文全体のERRのデータは近似するのではないかとコメントしている。
フランスのデータは、ひとつの国のデータであるから症例数が少なく、観察期間も4年と短いため、現在、ヨーロッパのグループが110万人の小児のデータを解析中ということであるから、その結果が重要になると考えている。
論文3のカルディスのコメントは、論文2と同じであるため省略している。
論文4はクリールというドイツの解析の論文であるが、フランスの論文1と近いデータで、先天異常が交絡因子(※13)として働いていることを否定し得ないという論文である。
論文5は、そういった状況を知りながら、Epi-Studyが現在進行しているが、そのデザインを公表している。研究計画と方法を、論文として既に報告している。その中で、フランスの論文1を紹介しており、その後出るフランスのプラクタルデータの論文2も紹介している。9ページ、フランスの対象症例の登録が110万人になって、現在データ解析をしている。これまでのこのグループから出た論文は、フランスの先ほどの論文1、PF(※14)が交絡因子になっているという論文。論文2は、ジャーニーがこれまで紹介したコメントに対する回答のような論文を書いている。この論文は、論文6として再掲している。
この論文6の結論は、先天異常の子供たちは非常に死亡が多いためデータに影響を与えたものの、あくまで修飾因子であって、この子供たちがCTにより放射線被曝したことによってがんを発症したかということをハザード比(※15)で分析したところ、それは上がっておらず、むしろ先天異常の子供たちを除いて解析した場合の方が、ハザード比は上がっているということである。
それから10ページ目だが、一番重要なこのデータは最後の結論の直前に記載されている、全小児において全原因による死亡とPFおよび被曝線量のハザード分析をした箇所である。有意に差が出てくるのは、先天異常の存在がハザードで9.89、これは突出して高い。しかし、赤色骨髄線量があるグループは1.12で、被曝していることで上がったというデータになっている。
結論としては、PFは交絡因子ではなく修飾因子ではないかということである。PFによるがん、白血病あるいは非がん疾患による死亡リスクが、CT被曝による死亡に影響を与えているデータではないかと。このコメントを発表したジャーニーの論文2は、先ほど紹介したカルディスも参加して分析した論文である。先天異常の子供たちは線量との関係は薄い、全小児例においては被曝線量のハザード比は、有意なp値を示すということで、この限られた症例数と観察期間が短いフランスのデータでは、ピアース論文の全体のERRは正しいとは言っていないものの、それでいいのではないかということを言っている。
そういったことで、PFは交絡因子ではなかったという可能性が出てきたということである。修飾因子であった可能性があると。私の意見は、結局同じであるが、7ヶ国での110万人のデータが解析されつつあるため、それでほぼ結論が出るのではないかなと考えている。そうすると、CTの被曝は100mSv未満であるから、それが20mSvや40mSvなども含めて、小児のCT被曝でがんのリスクがあるかどうかが分かるのではないかなと思う。
このEPI-CTの論文が、今年、ずっとサーチしているが、まだ出てきていない。あとはオランダのグループも同じように交絡因子ではなかったというようなことを言っているが、これは論文にはなっていない。
中間報告にはなるが、CT被曝による小児のがん発生リスクはこれまで述べたような状況にあるということである。これについて、委員からご質問やご意見があればお願いしたい。

【D委員】
修飾因子と交絡因子の違いは難しいと思う。その前に論文6であるが、PFを有しない場合の腫瘍と白血病と、有する場合の腫瘍と白血病であるが、どちらも有意ではない。ハザード比で腫瘍はPFを有しない場合は1.07、PFを有する場合は0.80と、数字の上では有しない場合のほうが高そうに見えるが、どちらのハザード比も有意ではない。
先ほどの交絡因子について、これを参考にはできないが、一般的な定義としては、例えば飲酒とがんの影響を調べて、飲酒をする人ががんになりやすいというデータが出たとする。一般的に、飲酒をする方はタバコも吸っていることが多く、タバコもがんに影響があるということで、飲酒も喫煙もがんに影響があるというふたつの因子があって、この場合にタバコが交絡因子ということになる。
修飾因子はややこしくて、例えば放射線被曝で被曝時の年齢が若い方が発がんの可能性が高いというデータがある。この場合に、年齢が修飾因子であるという定義をするようである。交絡因子ではないと。うまく説明できないが。 

【会長】
若い方が、発がんリスクが高いから、死亡が多くなるということか。

【D委員】
そういうことになる。

【会長】
カルディスなどは、原子力発電所でも研究に携わっているような専門の方である。そういった方々がこのような論文を発表していて、やりとりがあっているということである。ピアース論文は、先天異常の疾患を排除していないから駄目かと一時期は思っていたが、まだ今後の研究に注目していく必要があるということでよろしいか。2017年度中に出る可能性があるということであるためそれを待つということでよいか。

審議事項

1 研究論文等の調査結果について

(3)原発労働者研究におけるpooling dataの長所と短所

【会長】
前々回にかなり詳しく検討した、原子力発電所で働く方のデータ、これをプーリングデータとも言うが、この白血病に関する論文に対する長所と短所を、ドイツのマリオ・ブレットナーから意見が出ており、その紹介をいただきたい。

【B委員】
マリオ・ブレットナーという方、先ほど会長からご紹介がありました論文4の共同論文執筆者の方であるが、私もよく存じ上げており、非常に優秀な研究者である。この方が、今言われたように、CTもそうであるが、多国籍、多施設でデータをプールして解析するという方法が採られており、解析する症例数が多くなるという長所もあるが、同時にいくつかの欠点があるのではないかということをコメントしている。
紹介するが、1970年代の単施設研究から現在の多施設・多国籍研究に発展してきたが、この問題、ひとつにはINWORKS(※16)では低線量被曝後の白血病リスクを大規模コホートにより解析しているが、このやり方に問題点があるのではないかということである。
ひとつは、国や人種ごとの多様性はどこまで解析されているのかということである。当然ながら人種によりがんの構成は違ってくるため、そういった多様性がどこまでカバーできるのか、そして、国によって死亡診断の信頼性がどこまでクリアになっているのかということも問題であると指摘している。当然、それ以外の社会経済的な要因であるとか、他の生活因子が十分に評価されていないのではないか、あるいはベンゼンなど発がん物質は他にもいろいろあるから、そういったものへの曝露も地域により全く異なるのではないか、あるいは医療被曝もそうである。日本の様に医療被曝は非常に高いというところもあれば、そうでないところもある。その違いをどこまで把握できているのかというところもある。
もうひとつ、一番大きな問題であると思うが、非常に低線量になってくると、自然放射線被曝による影響をどう考えるかということである。ヨーロッパの平均で年間3mSv程度と言われているが、5年間で15mSv、10年間で30mSvの被曝になる。そういった被曝をこの研究では考慮していないため、自然被曝の問題をどうするのかということも、大きな問題があるのではないかということを指摘している。低線量被曝の影響を正しく理解するのであれば、外部被曝と内部被曝の線量のデータを正確にする必要があるということである。それプラス、医療被曝のデータをきちんと考慮しなければならない。また、低い線量を評価しようとするのであれば、当然ながら自然放射線被曝といったものを含めた他の被曝線量のデータを考慮しなければならない。先ほども申し上げたが、タバコなども含めた生活因子、あるいは他の職業曝露による因子にも発がん物質はあるため、そういったものをきちんと把握した新しい集団においてデータを収集する必要がある。日本における原爆被爆者の方を対象としたような長期間の前向きな研究によって、きちんとした線量反応関係を明らかにするべきであると提言されている。
ここに書いているとおり、一般の方もそうであり、原発作業員の方を含めた労働者の方も、放射線防護の観点から被曝線量を最低限化することはもちろんであり、そのためにもこういったような前向きな研究が必要だとブレットナーは述べている。私の意見としても、これに関しては妥当な意見ではないかと思う。
ICRP等の勧告であるが、INWORKSのような大規模研究は言及されることはあっても、その結果によって従来の見解を変えていないため、こういった問題点を十分認識しているものと考えられる。これらの問題は、先ほど紹介があったようなCT検査も含めた医療被曝の問題を、解析においても言えることであるが、ここで得られた知見をそのまま他の集団、例えば原爆被爆者の方への影響にも該当しているとの判断は、慎重に行うべきではないかというのが私の意見である。

【会長】
他の委員のご意見をお願いしたい。

【C委員】
先ほどのB委員への意見へのコメントではないが、INWORKSそのものが約10年前に15ヶ国で同じようなモニタリング調査が実施された時に、ICRPのレスポンスとして、そういうポストスペクティブな集団を取り上げて、100mSv以下のリスク云々の是非について、要はLNT仮説に対して、そういった議論をするべきではないという強い批判がICRPからあった。それも、明確に添付文書に書かれている。
その後、そういったポストスペクティブなことではなく、さらに新しい調査ということで進めつつ、15ヶ国間での差が大きかったため、3ヶ国に絞ったということである。そういった状態でこの研究は成り立っており、目的とするところが今の放射線防護体系で言われている、例えば5年間で100mSvであったり、一般公衆の年間1mSvなどの妥当性というか、どの程度の線量ならば実際に影響があるのかといったことを示すための、一つの傍証として試験されているということである。
低いところでの影響の有無についての問題ではなく、今の放射線防護体系の線引きの妥当性の判断のために使われているものである。元々は、そのような成り立ちの研究だと認識している。
そういった意味では、今の原発労働者に関して、すなわち放射線業務従事者に対する防護策としては、今の状況の実効性の程度あたりで、この程度のリスクであればそもそも許容できるであろうといったものになるとINWORKSの研究については考えている。
その点に加えて、今回のE委員のおっしゃるとおり、解析の問題点についても指摘されたのかと思う。おそらく、ICRPはそのように解析しているのかと考える。

【会長】
D委員、ご意見はいかがか。

【D委員】
様々な国で環境も違い、それぞれに測定された線量も違うと思われるため、それを一緒くたにまとめて論じることは問題があると考える。

【A委員】
100mSv以下の低線量放射線のリスクを疫学的に検出しようとするのであれば、どうしても母集団を大きくしなければ検出できないため、今行われているような多国籍のデータを集めたような解析をせざるを得ないわけであるが、一方でそういった解析方法だと、論文で指摘されているような、まさしくコンファウンディングファクター(交絡因子)が入ってきて、特に指摘があったような人種の問題やデータの信頼性、それからヨーロッパはラドンの線量が高いため、バックグラウンドが全く異なるものを全て一緒にして解析するのは、科学的にはなかなか難しいものがあるということだと思う。
他にいい方法がないからこういった手法による解析をせざるを得ないわけであるが、データの評価においてはコンファウンディングファクターがもっと複雑に絡んでくるということを考えなくてはならないということである。
がんのリスクは、生活習慣により大きく影響を受ける。例えば食事の内容によってもずいぶんと違ってくる。国が違えばリスクのバックグラウンドが大きく異なる。もっと細かい話いなると、日本においても県によってがんのリスクは全く異なる。その差は10%以上にもなる。例えば100mSvを被曝した時はがん死亡のリスクを約0.5%程度上げることになる。それと生活習慣を比較すると、生活習慣によるリスクの方が遥かに大きいため、そのあたりを含めて解析するのが非常に難しいということだと思う。

【会長】
私の意見はA委員のご意見に近いが、多国にわたるデータ解析の危険性はあると思うが、ここでブレットナーが指摘している点を実際に実行できるのかという観点からすると、できない点ばかりではないかと思う。
例えば、25歳で就職して70歳まで原子力発電所で働いている人の25歳までの自然放射線の被曝線量のデータを取ることは不可能である。加えて原爆被爆者の研究でも、戦後70年以上を経過した被爆者の低線量被曝の影響について、問題点と言うか課題がいろいろとあるが、この方たちに対する、日本だと年間2mSvといわれている自然放射線の影響が実際はどうだったのかなど、これらを実際に考慮することは不可能である。
それから、生物学的なマテリアルについても書かれているが、これを福島のようにたくさんの人が被曝したところで前向き調査が得られているかというと、なかなか難しい。
これらのとおり、非常に難しいことが羅列されており、考慮はしないといけないが、人種差というのは米英仏3ヶ国の別々のデータを信頼しているから、人種差が本当にあるのであればそのあたりで出てくるのか、白人が中心だから出たのか出ていないのか分からない。例えば原爆被爆者は日本のデータを世界中で参考にしているが、人種のことについて日本人のデータのみでは偏っているのではないかという論文を見たことはない。がんの種類については人種差が強く影響すると思うが、がんになること自体に人種差があるという論文は存じ上げない。そういった意味では、このコメントは理論に偏りすぎているコメントだと思う。
実際は、疫学というのは社会生活を送っている方を対象として行っていく研究であるから、交絡因子に満ちており、その中でポジティブなデータが何かということを見ていく学問であり、こういうINWORKSのように多くの症例を集めることができない国においては、非常に重要な方法である。ここは、A委員のご意見と一致するところである。その際に、データの解釈を慎重に、例えば交絡因子のタバコのことで、タバコの影響が最も出現しやすいのは肺がんであるから、INWORKSは肺がんのことを非常に警戒している。それから、線量の測定のところも中性子線を浴びている人も含まれているのではないかということを批判があるが、そういった方たちは除いて解析している。そういう、自分たちの研究における弱点をINWORKSは考察している。
それから、データそのものについてもひとつのポイントにおける症例数が示されていくが、そこに95%信頼区間というものが各線量においてある。INWORKSでは90%を用いており、そのあたりはデータの信頼性が低下するということを自身で書いている。そういった中で研究していくということが、現実的な疫学研究のあり方であろうかと思う。そういう意味で、今後、前向きに長期間にわたって、かつ線量を正確に計測した集団で、例えば原爆被爆者のように30万人もの研究を行うことは、私としては不可能だと思う。こういったデータで判断するほかないというのが、私たちが置かれている現状だと思う。
そういう意味で、INWORKSの100mSV以下でもがんリスクがあるというデータを、可能性があるものとして解釈すべきではないかと思う。以上が私の意見であるが、いかがか。
特に、低線量の生物学的なところまで書いているため、A委員は専門であるためご意見を伺いたいが、低線量被曝で人体の組織や細胞で、あるいはDNAレベルで研究レベルに流用できるところまで到達していると判断できるものであるか。

【A委員】
疫学調査だけで非常に低い線量のリスクを検出することは、限界があるのではないかという印象を持っている。どのようにして低い線量のリスクを検出するのかということになるかと思うが、その場合は生物学的な研究によって放射線がなぜがんを作るのかというメカニズムを明らかにすることによって、低線量でのリスクが解明されていくのではないかと考えている。疫学的な情報とメカニズムに関する情報を併せて低線量のリスクを解明していくということをやらないと、疫学情報だけでは先ほどご指摘があったとおり、低い線量になればなるほどコンファウンディングファクターが大きく関わってくるため、なかなかクリアな結論が得られずに、常に灰色の部分でリスクが議論されるということになるため、私自身はふたつのアプローチで解明していく必要があると考えている。
特に生物学的な解明に関しては、ゲノム解析が非常に高度化しており、人間のゲノム全体が網羅的に解析できる時代になっている。そうすると、放射線が当たってゲノムが変化するということが、がんの原因であると考えられているが、放射線が当たってゲノムに変化が起きたところを捉えることができる可能性があるということである。現時点ではバックグラウンドが高くて一塩基の変化までは捉えることができないが、将来的にはそういったことが可能になる時代がくるかと思う。そういったことができるようになれば、低線量でのリスクを検出できるのではないかというイメージを持っている。

【会長】
例えば、低線量被曝をされた方がいたとして、その方の血液を採取してゲノム解析により低線量による影響を受けているか否かが分かるということか。

【A委員】
そういう可能性があるということである。

【会長】
現時点では、それを何十万人のデータに応用できるというものではないということか。

【A委員】
そうである。現在、研究者が行っている研究の一つが放射線のつめ跡を見つけようということで、放射線被曝して発生したがんのゲノム解析をして、その中で放射線のつめ跡を見つけようという研究をしている。それに近いような結果が出ているデータもあるが、まだ決定的にこういう放射線を浴びたらこういうつめ跡が残って、それがこういうがんになるというところまでは到達していない。

【会長】
動物実験でもいいが、個体レベルで20mSvやこの会でも問題になっているような低い線量領域でも遺伝子を確認できるのか。

【A委員】
現段階ではそこまではいかないが、理論的には将来的にそういったことができる可能性があるのではないかと思う。
もうひとつ注意しないといけないのが、遺伝子に傷がついてそれがすぐにがんになるわけではない。がんが発生するまでは、様々な段階がある。

【会長】
そこは、疫学研究で重要なところ。コンバインドする必要がある。
今、放射線被曝影響の最先端の、しかも最も線量が低いところで人体がどのような影響を受けているかという研究が進んでいるという話であったが、現実問題として放射線被曝をされている福島の人たち、非常に低い線量であるが、現段階でこの方たちの細胞を研究することにより影響が分かるというレベルではないと思う。疫学研究を多国間で実施して30万人という対象者のデータを無視することはできないため、最大限のコンファウンディングやあらゆる可能性を考慮しながら、現段階では低線量被曝による影響を判断していく以外に現実的な方法はとり得ないのではないかと思う。そういう意味で、低線量被曝の影響があるとする論文を参考にすべきかと思う。そこまでするべきではないという意見の方もいるかも知れないが、いかがか。

【C委員】
現時点では、疫学情報に頼るしか方法はないと思う。

【会長】
そういう意味では、胎児被曝の具体的な数字が出てきている。20mSvというのがあるが、そういうものを本当に信頼できるものであるのかどうか、UNSCEARは影響があると一応判断しているが、ICRPはコンサバティブというか、そこまでの判断はしていない。
B委員にお伺いしたいが、先ほどICRPがINWORKSのことに言及しているが基準としては採用していないと言われたが、ICRPがINWORKSについて何らかの評価を発表したのか。

【B委員】
評価ではなく、こういう研究を行っているということを、いわゆるリファレンスとして出すことはあるということである。

【会長】
しかし、取り入れていないということか。

【B委員】
その結果として、低線量領域でがんが増えているということをICRPとして認めるということには繋がっていないということである。こういう研究が行われているということはICRPの報告にあるということである。ICRPは、様々な意見を総合的に判断して、ICRPとしてはこういう勧告を出すと判断するのが常である。そういったことを言及する中のひとつとして、こういった疫学研究も言及されているということである。

【会長】
まだ、INWORKSのデータを否定したわけではないということか。

【B委員】
この研究データにより、従来のICRPの勧告を変えることはしていない。

【会長】
検討はするということか。

【B委員】
検討するかどうかは書いていない。
ここに書いているとおり、ICRPの勧告でもこういった研究があることを言及はしていると、要するに述べているということである。

【C委員】
ICRPがプレシーメイキングといって、そのベースとなるものは、UNSCEARや、あるいはそれ以外のものを参考にしてポリシーだけ作っている。そのため、低線量域の健康影響に関して言えば、何のポリシーができるかというと、線量限度を変えるべきかどうかということに最終的にはなってくるかと思う。そこまでは全く至っていないということである。しかし、こういう論文が出ているということは十分承知されている。
2006年以降勧告は出ていないため、大きな勧告の中にはこの研究はまだ入っていないが、毎年出るレポートでは言及されているため、委員会で考慮されていることは間違いないという状況だと認識している。

【会長】
その考慮は、どういった内容が考慮されたかまでは分からないということか。

【C委員】
そうである。

【会長】
専門委員会がいくつもあって、なかなか意見が一致しない部分もあり、この検討会の中でもそういった部分はあるが、大変な問題と課題を含んでいる領域のことが、偶然であるが被爆地域拡大を求める人たちに被爆の影響があるかということを判断する際には、具体的にそういったことを考えていかないといけないと、実情はそういうところにあるということである。

審議事項

2 「第8回研究会までの中間報告について」

【会長】
どういうふうにまとめるか、なかなか難しい問題であるが、先ほどの多国間研究での小児CTのデータが出るかと思う。被爆地拡大の人たちが原爆にあったときは、ほとんどが小児である。一部胎児の方もおられた。そういうところに直結する問題なのでしっかりみていくということである。
しかし、たくさん論文が出ている疫学の最近の論文を総合的に見てみると、色々問題を含みながらも、交絡因子や、100mSv以下でもがん、白血病のリスクがあるという方向になってきているように判断している。委員各位はそういう判断をすること自体は時期尚早との考えか。
あと、放影研から最近のデータが出て、これはプレストンから予告を受けていたが、今まで直線性で議論してきた。それを、ベジアムセオリーを取り入れて新しいモデルを開発し、それでいくと直線性よりも少し低くなってしまうが、100mSvから0mSvまでの間にも少し落ちていくようなリスクがあるということである。完全な直線ではなく、少しカーブを描いて落ちていくようなものである。そこで推定であるが、100mSv以下のレンジでも0.7%くらいがんリスクをみているというような論文が新しく出ている。これは新しい方法論として出ている。今後放影研はやっていかれるのではないかと思っている。放影研の専門家とディスカッションする際に、100mSv以下で、以前の開催で閾値がないという問題をいろんな角度からご説明いただいたが、この問題に放影研もチャレンジしてセミパラメトリック解析というのを提唱して、今からやっていくのではないかと思う。そういうふうに研究は少しずつ進んでいっているが、依然として100mSv以下のところがグレーゾーンとして常に問題を解決できない状況が続いている。
人体影響を、C委員に中心にやっていただいたところで、資料2の中間報告までに至るかどうかというところを考える場合に、これまでやってきた第7回研究会までの経緯を事務局にまとめてもらっているため、これを先生方は見てもらってはどうか。
健康影響がある程度はあることを示唆する論文が多い。その論文のクオリティなど、様々な問題を含んではいるが、1970年代の重松班のように100mSv以下は完全に健康影響はなしという状況とは少し異なって、考慮すべきとするデータも論文も少なくないということで、中間的なまとめをしておくということでいかがか。

【B委員】
放影研からもうすぐ論文が出そうであるが、まだ論文の頭はまだ見られないが、おそらく昨年ここで講演していただいたときは、もうあの論文のことがあっての話だと思う。INWORKSの論文だったと思うが、かなり線量とRRがかなり低いところで相関があるということで、相関が、本当に意義があるのかという話で。その時点で参考人に来ていただいて、そのあたりの話をしてもらおう、ということだった。結局、100mSvや200mSv以下はなかなか難しいということであった。おそらく今度出る論文もそういうことだと思う。関係がリニアか、ちょっと違うというのは、何かあると思われる。
あくまでもこの前言われたように100mSvや200mSv以下はまだ言えないというのが、今の放影研のデータでもあると思う。そのため、CT等のデータで100mSvや200mSv以下で影響を示唆するようなものがあるということを、ここで積極的にいうのは尚早であると思う。

【会長】
他の委員はどうか。

【C委員】
今までのレビューという意味で考えると、放射線の線量と影響あるいはリスクの関係をひとまとめに論じてしまうのは危険だと考える。
例えば、今日の話は医療被曝の場合で、急性被曝かつ複数回あったかもしれない場合で、後半のINWORKSのディスカッションに関しては、長期の慢性的な低線量の被曝ということで、被曝の状況が全く異なる。
以前、参考人に来ていただいた際は、自然放射線、高自然放射線地域であり、これもまた長期の低線量の被曝ということ、そして原爆被爆者は急性被曝ということで、それぞれ被曝の状況は全く異なる。もちろん線質も違っており、ロジカルなレスポンスが違ってくる可能性は否定できないため、これらを全てまとめてひとつの意見に集約するということは無理があると思う。
あくまで、個別の事例としてということであれば、いくつかまとまったポイントはあるかと思う。

【会長】
被曝の状況は違うが、個別の事例としては低線量被曝の影響はあるという論文はある、とのまとめ方ということでいかがか。

【C委員】
個別の事例であったとしても、先ほど話題に上がったような200mSvや100mSv以下で有意な差があるとの論文はなかったと思う。言及はされていたものの、有意な差があるとの論文ではなかったと思う。そういう傾向にある程度だった。

【会長】
A委員は、この件について意見はあるか。

【A委員】
特にない。

【会長】
低線量被曝の影響について、積極的に健康影響があると断定できるデータはないということは、はっきりしている。しかし、示唆する論文はいくつかあり、それらの論文に問題点はあるものの、INWORKSも含めて、低線量被曝の影響を否定するものではない。最後に書いているのが、現在の放射線防護の考え、いわゆる基準をサポートすると書かれているが、結局のところ、低線量被曝の影響については執筆者も逃げており、そういうところが現状であると思う。中間報告としては、そのあたりをまとめていくという方向でよろしいか。
あと、ピアース論文のフォローアップとして、Epi-Studyという研究がヨーロッパから120万人のデータが出ると思うため、フランスの論文の2のようなことが確認されると思う。それらのことから、この問題についての次のステップに進んで結論を導きたいと思うが、よろしいか。
以上で、第8回研究会の議論を終了する。

〈用語解説〉

※1 米国学士院
リンカーン大統領政権時代の1863年に設立された私的機関であり、米国政府の要請に応じて「科学および技術に関連したあらゆる問題に関する調査、検討、実験および報告」を行い、学術・技術分野における連邦政府のための独立した専門的助言機関の役割を果たしている。

※2 ABCC
原爆傷害調査委員会。原子爆弾による傷害の実態を詳細に調査記録するために、広島市への原子爆弾投下の直後にアメリカ合衆国が設置した民間機関である。

※3 放影研
公益財団法人放射線影響研究所。被爆者の健康調査及び被爆の病理的調査・研究を行う研究機関で、日本国政府とアメリカ合衆国政府により設立・運営されている。

※4 RR
相対リスク。暴露群と非暴露群における疾病の頻度を比で表現したもの。

※5 ERR
過剰相対リスク。相対リスクから1を引いたもので、相対リスクのうち、調査対象となるリスク因子(この場合は被曝放射線)が占める部分をいう。

※6 コホート
分析疫学における手法の1つであり、特定の要因に曝露した集団と曝露していない集団を一定期間追跡し、研究対象となる疾病の発生率を比較することで、要因と疾病発生の関連を調べる観察的研究である。

※7 UNSCEAR
原子放射線の影響に関する国連科学委員会。電離放射線による被曝の程度と影響を評価・報告するために国連によって設置された委員会である。

※8 ICRP
国際放射線防護委員会。専門家の立場から放射線防護に関する勧告を行う民間の国際学術組織である。

※9 ケースコントロール
ある時点で特定の疾病の状態にある人と、年齢や性別等が同じ条件で疾病の状態にない人を集め、過去に遡り疾病との関連が疑われる要因について調査する研究方法である。

※10 RBE
生物学的効果比。放射線の種類により生物学的影響の強さが異なることを表すための指標である。

※11 LET
線エネルギー付与。放射線の線質の違いを図る指標である。

※12 BEIR
電離放射線の影響に関する委員会。米国科学アカデミー研究審議会に設置された委員会である。

※13 交絡因子
調査対象の因子以外の、病気の発生に影響を与える因子のこと。

※14 PF
Predisposing factor。素因。

※15 ハザード比
追跡期間を考慮したリスクの比。追跡期間によりリスクが変化する場合に使用する。生存率を指数関数モデルで表した生存関数において、その時定数をハザードという。

※16 INWORKS
職業放射線被ばくの癌リスク:フランス、英国、米国の3カ国原子力施設労働者の後方視的(過去にさかのぼる)国際研究。被ばく線量をモニターした原子力施設労働者に関する研究である。

お問い合わせ先

総務部 行政体制整備室 

電話番号:095-829-1124

ファックス番号:095-829-1410

住所:〒850-8685 長崎市魚の町4-1(9階)

アンケート

アンケート

より良いホームページにするために、ご意見をお聞かせください。コメントを書く

観光案内

平和・原爆

国際情報

「行政運営・審議会・指定管理者・監査」の分類

ページトップへ