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第7回(平成28年度第1回)長崎市原子爆弾放射線影響研究会

更新日:2017年1月16日 ページID:029284

長崎市の附属機関について(会議録のページ)

担当所属名

原爆被爆対策部調査課

会議名

第7回(平成28年度第1回) 長崎市原子爆弾放射線影響研究会

日時

平成28年9月29日(木曜日) 14時30分~16時00分

場所

長崎原爆資料館 2階 平和学習室

議題

1 原爆被爆者追跡調査における低線量被曝リスクの評価について
2 小児および胎児の放射線被曝による癌リスクの調査結果について
3 次回開催について

審議内容

1 原爆被爆者追跡調査における低線量被曝リスクの評価について【A参考人】
本日は、原爆被爆者追跡調査、被爆者ご本人につきましては寿命調査と、英語でLSSと略しているが、そこにおける低線量被曝リスクの評価についてどのように行っているかということについて、ご説明させていただきたいと思う。

原爆被爆者追跡調査(寿命調査:LSS)における低線量被曝リスクの評価

それに先立ちまして、寿命調査について少し詳しく説明しておかないと低線量被曝の評価をするうえで、どこが問題になるかということが分かりにくくなるので、それについて少し細かくご説明させていただきたいと思う。寿命調査の母集団になる方は、被爆者の方であるが、その被爆者の方をどのようにして把握したのか、誰が被爆者であるかということを知ったのかということだが、これは1950年に国勢調査・付帯調査というのが行われて、その質問というのは、この原爆時に広島市、又は長崎市にいましたかというような内容である。ご本人ないしご家族がいましたか、ということでどなたかその時に広島市内、長崎市内におられたか、ということを把握しており、これが日本全国で284,000人の方がこれは概数であるが、いたという形で回答しておられる。その内1950年当時に広島市または長崎市に住んでおられた方というのは195,000人になる。この方々の住所、氏名等がこの当時のABCC(※1)に渡されて、その99%以上の方にとにかくABCCの職員が面接、或いは郵送等でコンタクトをとったとされている。つまり、どこで被爆したかという状況が必要になってくるので、そういう、面接ないし何らかの形でのコンタクトをとっている。その調査により、被爆時の場所によって対象者を選択している。選択の仕方は大きく分けて2.0km以内の方々、近距離被爆者でも2.0km以内の方、2.0kmから2.5kmまでの間の方、そして遠距離被爆者の10 kmまでの方である。まずは、被爆者の方については、こういう分け方をしている。その当時は、線量というものは、当然、全く分からないような状況なので、要は距離でもってグループで比較しようという考え方である。2.0 km以内からまず28,000人の方を選んで、その方に対応するということで、2.5kmから10kmまでの遠距離被爆者の方でこの近距離被爆者の方から性・年齢をマッチさせて同数を選ぶと。ここの間に入ってくる方がおられるが、これは比較の意味でこういうふうに特に近距離の方と遠距離の方を比べているがこの間の方も当初17,000人入っている。それに対して、この原爆時に市内におられなかった方というのがいる。NICということで原爆時市内におられなかったということを意味する英語の略称であるが、その方を27,000人これは丸めの関係でこの数字になるが、基本的にはこの数字とこの数字が対応している。この方も基本的にはこの方々に対応するように性・年齢をマッチさせて採用したわけであるが、この調査は被爆者の方は分かるが、それ以外の方は分からない。それから、こういう作業をした時点においては、この集団以外の国勢調査の資料は全て終わってしまっており、利用できないので、広島市、長崎市にお願いをしてその1950年当時の市内在住者の資料を再構成して、この条件でこれだけの方を対象として選ばせていただいているということになる。こういう形でスタートした訳だが、それ以後、もう少し数を増やす必要があるだとか、或いは個人線量というのが分かってきたということでグループの比較ではなく、個人ごとに線量に基づいて比較することが可能になったとか、いうような状況があるので、近距離被爆者の方については、基本集団の全てを追加している、それから長崎のほうでは後で見ていただくが全体として人数が広島に比べて少ないということもあり、さらに後で長崎の遠距離被爆者の方を追加しているというような、やや不規則な形での追加がある。それらのすべての人に関して1950年当時以降の状況が分かっているので、最終的に120,000人の方について1950年を起点として追跡している、というのがこの寿命調査の対象者に関する枠組みである。

そういう方々がどのように性別、年齢別に分布しているかということである。広島の男性、女性、長崎の男性、女性で被爆時年齢ごとにまとめている。全体として女性の方が多い。これは基本的に2.0 km以内の方々の分布に全体が引っぱられるので、元々が2.0 km以内の被爆者は女性の方が多かったわけである。それから男性の若い方々が、おられない、これは軍の仕事とか兵士につくとかいう形で、市内には残っておられなかったということが非常に大きなところがある。その当時若い方で残っておられる方は、昔でいう丙種合格になるのでしょうか、どちらかというと健康にすぐれなかったというような方が残っておられたのではないか、ということもある。そういう性別、年齢階級別の分布になっている。長崎の場合は、比較的、遠距離被爆者の方がおられるということがある。色の関係で区別しにくいが、外側の方が2.5km以遠である。

これは、個人が被爆された線量をどのように評価しているのかということの説明である。原子爆弾から放出された放射線は初期放射線と残留放射線に分かれる。初期放射線は核分裂が始まって以降、ほぼ1分以内に放出されたもの、多くは30秒以内といわれているが、もちろんこれは核分裂による中性子線(※2)の他に核分裂後にできた核分裂物質が非常に不安定だから、それが崩壊していく過程でのガンマ線(※3)が、むしろそちらのほうが非常に大きいが、そういうものが出る。一番影響を与えるのはもちろん距離である。その次に遮蔽状況、それから個人の体格とか、どちらを向いているとかそんなことも影響してくる、体の中の臓器の線量を考えようとすると。それを後で示すような方法で体内の15臓器について線量を推定している。これは、中性子線が生物学的にガンマ線よりも効果が大きいだろうという、この場合10という係数をあてはめているが、それにガンマ線を足して重み付け吸収線量という形で、吸収線量なので単位はGyということで表現している。ただ一般的には、Sv。放射線防護で使う等価線量としてのSv。或いは、実効線量の場合もSvを使うが、そういう単位のほうが、馴染みがあるということ、それから等価線量の場合、この係数が中性子線のエネルギー量に対しては、10というのがあてられているので、我々が使っている重み付け吸収線量は、放射線防護の等価線量と実質的には同じ数値になってくる。従いまして、よく説明等でGyというのはSvと同じですかというように聞かれるが、それに対しては実質的に同じであると考えて頂いて差し支えありません、という形でのご説明をしている。その他に中性子線がいろんな元素に当たって、その元素が放射化されることによる誘導放射能は、爆心地ほど当然中性子線が当たる量が多いから強いということ。それから放射性降下物は、原爆はだいたい空中で500mから600mの高さで爆発しており、ここで全てのものは、数十万度という温度になるから、気化、或いは原子の状態になって、上昇気流になっていく。それが冷やされて、雨となって降ってくる。その時には巻き上げた土や塵、或いは火災の煤、そういうようなものが巻き込まれるから、いわゆる黒い雨となって降ってくるということになる。これはどこに降ってくるかというのが不規則になるので、不規則なホットスポットという形で出てくる。

これは、爆心地からの地上距離別のDS02(※4)、2002年の線量体系での被曝線量である。広島が15kt、長崎が21ktという原子爆弾の規模で、爆弾の規模としては長崎のほうが若干大きいから無遮蔽での空中線量は、同じ距離であれば長崎のほうが高くなっている。一方、広島がウラン爆弾、長崎がプルトニウム爆弾ということなので、中性子線の量は広島のほうが相対的に多い、多いといいましてもこの量に対して数パーセント、この場合5%ちょっと、それぐらいの量になる。長崎のほうがむしろ少ない。中性子線のほうが、ガンマ線より早く減衰していくので、この距離になると中性子線はほとんど出てこないということになる。それから1,000mのところは、全身被曝線量としては致死量であるが、当然この辺りでは熱線とか爆風とか、そういうものはもっと厳しいから、通常、被爆して生存される方という方はまず無いという状況である。放射線に関すると、ここから500m離れると、このような形でどちらも約1月10日近くに低下する。同じ様にここからここまでが500mで1月10日近く低下する。さらに500m離れると広島で13mGy、長崎で23mGyとなり、その減り方は大きいものがある。ただ被爆の体験ということでみるとこの辺でも非常に熱線とか爆風とかは厳しいものがあり、即死される方とか、重症を負われる方というのがおられるので、そういう被爆された体験というものと放射線量というものは必ずしも感覚として一致しないという面はある。

個人線量をどのようにして推定したのかということである。面接調査では、被爆時の位置をおおまかに聞いているが、2km以内の方、約20,000人の方については、こういう形での調査をしている。まず地図でどこにおられましたかと、屋外であれば屋外の位置を指していただき、自宅であれば自宅をお伺いしてその周辺の地図を1人1人について作成していく。こちらが爆心の方向。これは、爆心を向いているということなので、実際には放射線はこちらからきたことになるが、それに対してさらに家の中の間取りを書いていただいて、その中のどこにおられましたかと、どちらを向いていましたかということもここで入ってくる。これは横から見た場合。この方の場合だと、爆心方向を、爆発中央点の方向を見上げるということになる。これは広島の場合だったと思うが、こういう形を見上げるとこの角度になり、この方の場合でしたら屋根を通し、天井を通して、それだけ減衰していると。もっとこちらにおられたら障子とか或いは壁とかを通してという形で減衰が少ないことになる。この状況でどうであったかということを、計算をするわけである。これは非常に手間がかかることで、1人につき最低でも3回4回の面接をお願いして聞き取り調査をしたと聞いている。ただこれはとてもでないけれど全員についてできるものではないということで、遠距離被爆者の方については、路上であればその地点の空中線量の100%を受けていたであろうと、こういう家の中であれば、家の中のどこにいたかわからないから、平均的に50%弱ぐらいの数値になってくるが、そういう値を機械的に適用していくということになる。ですから、遠距離被爆者の方での線量推定の正確度というのは、落ちるわけであるが、例えば近距離被爆者の方で線量が半分になるといった場合に、2Gyが1Gyに半分になると非常に大きなことであるが、遠距離被爆者の方で、例えば100mGyが50mGyになるのはそんなに影響はないだろうと、その当時は考えていたわけである。ただ、今、100mGyで被爆したのと50mGyで被爆したのとでどんなに違いがありますか、みたいなことを問題にするようになってくると、その辺りの遠距離被爆者での線量推定はかなり大まかであるということが、どういうふうに影響してくるのかということは、難しい問題になってくるのかもしれません。

これで、個人の被爆した線量をずっと見ていくと5mGy未満の方が約4万人、広島、長崎合わせてである。ずっとまいりまして、1Gy以上の方は2,400人くらいしかおられない。しかしながら後で出てくるように、この2,400人でほとんどの原爆被爆者における放射線リスクの推定が成り立っているというような状況である。

これは、被曝線量別の対象者の地理的分布である。こちらは広島でここは原爆ドームがあるところであるが、広島はもう本当に市内のど真ん中に落とされたということで、ここ一円が市内だが、その中で生存されている方は、ほとんどないわけである。ちょっとこれでは見にくいが、線量不明というのは、灰色でポツポツポツと記載してあるが、大きなビルディングとか或いは防空壕とかそういうところに入っておられて助かったという方だが、そういう方の場合、先程のような調査では、そのビルの中でどれだけ線量が減衰したのか、防空壕でどれだけ線量が減衰したのかということは、ちょっと計算できないので線量不明という形になっている。外側に1Gy以上の線量の方がおられて、1.7 kmぐらいまでだと500mGyぐらいまでである。それから、2.5 km以遠になるとほとんど5mGy未満の方という形で、当然距離が一番大きな要素になるので、同心円状になってくる。こういう線量の出入りは、当然遮蔽の状況によって変わってくる。長崎も、もちろん同じようなことだが、長崎の場合、東西が山になっているから、そこにはあまり人は住んでおられないということで人の分布は南北方向になる。放射線の量が広島よりやや多いので、同心円が外側に広がるような形で分布している。今我々がいるのは、ここであるが長崎の市内というのはもっとこちら側だから、長崎の場合多くの方々が遠距離被爆者というカテゴリーに入ってくる。

後は、残留放射線の問題である。中性子による誘導放射能は原子爆弾からどれだけの中性子が出てそれがどういう元素に当たったかということが分かるので、そこから後で再計算することが可能である。広島の場合、爆心地から例えば200mの距離であれば、翌日に12時間そこに滞在すれば82mSv被爆したであろうと、こういうことが計算できる。長崎の場合には中性子線量が少ないので、このような数値になる。もうひとつは放射性降下物である。これは不規則に下りてくるので、そういう計算はできない。戦後に測定された地上の放射線の分布から推定していくというようなことが行われてきた。これはその代表例、沢山そういう測定があり、この委員会でも議論しておられたと思うが、その1例である。1945年10月の日米合同調査団での放射線の等線量曲線があり、爆心地を中心とする同心円はこちらであろうと、こういう不規則な部分、これはこちらであろうということになる。広島の場合は、己斐・高須地区であるが、長崎の場合は、ご承知のように西山地区で非常に強い放射性降下物が観測されている。これからどれだけの被曝をするのかということ、これはDS86(※5)が報告された時に、一定の代表的な結論というか、そういうサマリー(※6)されたものが出ており、広島ではこのレベルであり、長崎ではこのレベルでかなり高いものがある。ただ西山地区で被爆された方は、数百人レベルになるので、放射線リスクの全体としてのリスク推定には、影響が及ぼさないと考えている。ここで被爆された方が少ないからである。それから内部被曝に関しては、60年代の後半から80年代にかけて、ボディカウンターが実用化された頃だと思うが、いろいろ測定されており、その結果も報告されているが、やはりそれは被爆当時の状況を反映しているものではないのではないかというのが現代の評価であるかと思う。

これから少しリスクのお話をさせていただくが、その前にリスクをどのようにして評価するのかということをご説明する。通常リスクというものを疫学的に評価する場合には、比較した場合に比をとる。例えば1,000人あたり10人に発生していたものに対して、1,000人当たり15人発生したとすれば1.5倍だと、そういう比較の方法。それから差をとる方法、1,000人当たり10人から15人で5人増えたという、そういう差をとる方法がある。それが一般的だが、放射線においては過剰相対リスクというERRという略称を使うが、それをよく使う。これは、この部分である。1,000人当たり5人増えた部分がもとの部分に対してどれだけの割合があるのかという、非被曝でのベースラインとしての率に対してどれだけ増えているのか、ですから相対的にどれだけ増えたのか、ということを示している。相対的にといいましても、比での1.5倍という表現に対してこちらは50%増しというような表現が適切かなと思うが、なぜこういう指標をとるのかということに関してよく聞かれるが、これは基本的には放射線によるがんの増え方の考え方というのはやはり相加的なもの、いってみれば放射線で傷ついた細胞の数だけがんが増えるというような相加的なものであるという特性がある、それに基づいていると思う。そうしますと、どれだけ増えたかというと、こちらでもいいわけだが、がんには一般的に多いがん、非常に稀ながんというものがあるから、その率に依存する。というのは、全ての部位で一義的に増えるわけではないから。元のがんの部位の率に対して何%増えるのかという形で表現すると、ある一定の幅に増えてくるだろうというような考えの基に作られていると思う。それが本当にそれでいいのかどうかというのは、なかなか難しいところがあり、そのことが例えば日本人は胃がんが非常に多くて、アメリカ人は胃がんが少ないと。その場合に例えば1Gy被曝した場合にどれだけ胃がんが増えるのかということを考える場合に、日本人の胃がんの罹患率や死亡率を基にして、その何倍という形でアメリカ人に適用できるのかどうかという問題、アメリカ人はもともと胃がんが少ないわけですから。日本人で増える分を差でとれば、多分ものすごく増えるでしょうし、比でとればさほどでもない。同じように日本人では、乳がんはこの世代の方では非常に少ないから、それに対してアメリカ人とか西洋人では、乳がんは昔から割と多いがんだから日本人での乳がんで観察されたこういう放射線のリスクの絶対値を足せばいいのか、或いは相対的な率を掛けてやればいいのかというのは、また大きな問題になってくる。そのことは、我々のようなリスクを評価する者からはそこまではとても考える余地のないといいますか、それが専門でもないわけだが、放射線防護からいくと、その問題は大きな問題となってくるので、それはICRP(※7)等でいろいろ考えられているが、現在のところそんなに決定的な、どちらが適切であるかという決定的な考え方はないように思う。いくつかのものでは絶対値を足すか相対的な率を掛けるかの傾向があるが、しかし、あとは概ね半々で考えるような折中的な考え方にはなってくると思う。そういうふうなこともあるが、いずれにしても、こういう指標をとること自体が放射線によるがんの影響というものが相加的なものであることを示すために、一般的にはこちらよりもこちらの指標を使うということになっていると思う。

これは追跡の状況である。2003年までのデータなのでこのようになっている。若くして被爆された方はまだご生存ですし、高齢で被爆された方は、ほとんどお亡くなりになっているという状況である。

これが問題の焦点になってくるが、被爆時の年齢とか、何歳になった時のリスクだとか、というそういうことがやはり問題になるので、30歳で放射線被曝された方が被曝されていない方と比べて70歳になった時にどのような差があるのかということを過剰相対リスクで調べている。それは1Gyのときにだいたい40数パーセントという形であるが、この点が1Gy以上の人でこういうように非常にきれいに、ちょっと外れ値のようなものがあるが、直線的に並んでくるということでほぼここで、この傾きは決定される。非常に多くの方がここに入ってくるが、見ていただいて分かるように非常にばらついているという状況である。Lというのは、直線で近似させた場合、LQというのは直線とその曲線で、二次項だが、それを加えた場合にどの程度変わるかと。これは2Gy未満に限った場合にどのようになるかということで、2Gy以上の線量推定がかなり大きな誤差があるのではないかというひとつの仮定に基づいて2Gyまでということを考えた場合にどうかということを問われる場合があるので、それを示しているが、ちょっと下向きが強い。ただ下向きが強いというのは、この部分が直線の下にくるものが多いので、それに引っぱられているところがある。こういう直線は全体としての傾向がどうであるかということを見るためのものである。ですからこの直線でもって、例えばここから上のほうで有意にリスクがありますよ、というようなことはできない。この直線はいってみれば全線量において、どういう傾向があるかということを示している、直線或いは曲線モデルである。従いまして、ここに点線が入っている。これは、この直線の95%の信頼区間を示している。そうしますと、この直線はどんどんどんどん小さくなってゼロに収束する。つまり初めからそういう仮定でこのモデルを作っているわけである。従いまして、この辺は、こういうそれぞれのカテゴリーごとの95%の信頼区間と似たような値をとってくるが、この辺は明らかに他のものは非常にばらついているのに、ゼロに収束していく。明らかにその現実を反映していない。ですから繰り返しになるが、この直線というのは全線量の傾向を示しているものであって、どこからどこまでがリスクがはっきりしていて、どこからどこまでがはっきりしませんよ、というものはこれでは表せない。それが、まず第1にある。そして、このグラフで次に閾値のことが書いてあるので、それをご説明するが、閾値は自動的に決まってくるものではないので、まずこの直線は原点を通ると仮定して計算する。次に、例えば10mGyに閾値がある、20mGyに閾値がある、という形で順々に閾値があるということを仮定して計算をする。そのどこで一番このデータにモデルがフィットするのか、それはフィットすることを示す統計値があるので、その統計値で判断していく。この場合には、原点を通るというものが、閾値があると仮定するよりも、最もこのデータにフィットするということなので、閾値の推定値は0.0Gyであるという形で通常考えている。ただもちろん、その95%信頼区間がどこまでで、上側が曖昧かということが出てくるので閾値については0.15Gyぐらいまでは、ある可能性があるという、そういう推定値になっている。

先程の直線に戻る。ここの曖昧さをどのようにして表現するのかということが次の課題になる。それがこのグラフである。これがある線量までの傾き、それを低いほうの線量の傾きと高い方の線量の傾きを別々にとれると考えて計算をする。あとのパラメータは一緒とすると最初の傾きはこの辺が上にいっているのが多いのでどうしても高い所に出てくる。それがだんだんだんだん全体のところに収束していき全体の線量というのは、さっきのグラフに一致するわけだが、そういうこの部分がどうであるか、というのを示したのがこのグラフである。小さいところでは、当然どっちを向いていようがまったく有意ではない、というところから始まる。推定値としてはこういうところを取るが。それがだんだんだんだん一定の方向を向いてきて、有意になるという点がこの0.2Gyのところである。先程のリスクが有意となる最小線量は0.2Gyというのは、こういうことで計算をしている。このことで、ただちに、有意になるのは0.2Gy以上なのかということは、それはまた必ずしもそういえるのかどうかというのが難しいところもあるが、現在のところそれ以下では有意にはならない、ということでもってこれ以上で有意になると考えていいのではないかと、そういう考え方をしている。ここが、多分、一番現在分かりにくいところだとは思うが、曖昧さというものを現在こういう方法で、他にも方法ありますけど、従来的にはこういう方法で評価してきたということである。

これが他のデータでどうかということである。これが今のデータ。これが前段階。これが、がんの死亡だが、がんの罹患、それに対応するUNSCEAR(※8)での集約値である。リスクが有意となる最小線量は今回これである。前回はこれだがp値が0.1で計算しているので、これに比べて小さい値になっている。これは統計学的に有意性を広くとると、この値は小さくなるということになるので、直接的には比較できない。がん罹患に関しては、こちらを見てもらったほうがいいが、同じデータを使っているので、0.25Gyという値になる。ですからこの辺で報告ごとに、やっぱりこういう数値がばらついてくるということになる。同じように閾値についてもこれが今回で、がん罹患では40mGyぐらいに閾値があるというふうなことになっているが、もちろんこれはゼロと比べて有意にならないから、これでもって閾値がある程度確定できるとはとてもいえない数値であるから、今のところ閾値はないということに対する有効な考え方にはなっていないということにはなる。

こういうものがどういう分布をとるのかというと、このデータではこういう分布をとっているし、この罹患リスクに関しては、こういう分布をとっている。上のほうは、少々点は変わるが、ここにこういう傾向があるいうのは変わりようがないが、ここの分布というのは結構、報告ごとに変わっている。次が新しい方法である。今のような形で全体としての傾向、そして、この辺としての結果、曖昧さについて、ふたつに分けてやるのはどうにもよくないのではないかと、今まではそれしかなかったが、ということでいろんな方法が試されている。

これはそのひとつである。これは英語になっておりBayesian semi-parametric modelということになるが、こういう点をつないでいった場合にどういう形になるのかということだが、単純につなぐと緑のような恰好になるが、これではあまりかんばしくないだろうということで一定のルールの下につないでいくという、そこのルールというのが、なかなか一言で説明できないが、最も統計学的に適切だろうと考えられるルールに基づいてつないでいくとどうなるか、というのが今回のこの赤い線である。この黒いのが、閾値がなくて且つ直線であることを示す線、それから青いのが先程のこのデータであるから、40mGyに閾値があるというのが最も統計学的にはフィットするという形で、結果が出されているものである。40mGyのところに閾値があるとして、こういうふうになっている。そうしますとこの赤い線というのは、最初はあまり上がらなくて、そこから上がっていくという、そういう線をとる。ここでは、そういう線は、だいたい今までの結果とほぼ共通する。この点線が、この赤い線に対応する95%信頼区間を直接的に示しているものである。この場合、下のほうとしては0.1Gy、100mGyまでは、下のほうでかなりばらつきが入り込みますよと。しかし、100mGyを超えるあたりよりは、概ね有意になってくるだろうとそういう結果を示している。ですから、これは、先程見ますとここに相当するもので、これよりかなり小さい値になる。ですから、こういう形で直接に誤差を推定するほうが、より正確なのかなということにはなるが、一方でこのやり方だと結局つないでいくので例えば1Gyでは、どれくらいのリスクがあるのか分かるが必ずしも直線にはならないので、そういう直線にならないものをどう考えるのかということが、また一方で課題になるわけで、モデルによる一長一短というものがある。従って、このレポートでは0.2Gyという値が出てくるが、なにもこれが決定的なものでなくて、いろんな意味で0.1Gyから0.2Gy、0.3Gyぐらいのまでの間は、リスク推定というのは曖昧にならざるを得ないだろうということである。

その理由である。なぜリスク推定にならざるを得ないのか、これは統計学的に研究が少ないことになるが、これはやむを得ないところだが、これを増やしたからといって必ずしもなるものでもないと。その理由がよくいわれる生活習慣等の理由である。一般的には原爆の被爆者の方というのは、原爆放射線に対して無差別に被曝されている。例えばたばこを吸う人ほどたくさん放射線を浴びたとかいうことは全くないわけである。ですから大きな交絡というのはない。喫煙で調整しても値は変わらない。しかしながら、地理的なもの、広島でいえば爆心地が市内であって遠距離被爆者の方は、当時でいえば周辺地域に住んでおられると、そういうものが、こういうレベルになってくると影響を及ぼしてくるのではないか。それから被爆している人、被爆していない人でも、たばこを吸っている人、吸っていない人が沢山いるからそういうものがどうしても信頼区間を広げていくだろうと。それともうひとつは線量推定の誤差というものがあり、遠距離被爆者での情報というのは、近距離被爆者の方よりも乏しい、曖昧であるということを先程申し上げたとおりである。それから残留放射線とか、後での医療放射線被曝等の付加される放射線量というものが入っていないのも、線量推定の誤差に入ってくる。ただ、そういうものが付加されていないということで線量評価を過小評価すると、リスクはむしろ過大評価されるほうになる。従いまして、放影研でもよく付加されるべき線量が付加されていないというご指摘を受けるが、リスク推定という意味では、線量が付加されない方がどちらかというとリスクを大きく評価するということで、いわば保守的に評価しているという考えなので、そういうことである程度カバーされているだろうということを考えている。

これで最後にしたいと思うが、その辺のベースライン。要はここがゼロだが、ここがゼロというのは、本当は何だというところである。そのゼロというものがどれだけばらつくかということを少しご説明しておきたいと思う。これはちょっと古くて全死亡ということで、がんではないが、全体の傾向を示すものとしてお示ししたいと思う。ここのゼロは、要は全被爆者でのゼロである。それに対して上の点線が遠距離被爆者3 kmから10 kmの線量ゼロの人のリスクのあるところ、こちらが近距離被爆者での線量ゼロの人のリスクがあるところ、何でこんなに差があるかというと被爆距離によって、つまり外側の人ほど内側の人よりもリスクが高くなっている、全線量、線量ゼロの人であっても。これだけの差があるわけである。では、これは先程の例えば、広島だと遠隔地の当時、農村であった人たちの方が全体として健康リスクが高かったのではないか、とかそういう地理的なものがこれに反映されているのではないかというようなことが考えられている。さらにこの赤いところは原爆時に市内に不在であった方々である。この方々は、直接被爆者の方よりも死亡リスクは低い。さらに早期入市された方はもっと低い。これはその被爆当時に市内におられた方とそれ以外の方の全体としての健康格差、それから早期に入ってこられた方は、健康な方、頑健な方が多かっただろうかとか、そういったことを示唆する所見である。こちらがそれぞれの被曝線量に対応するリスク。これのばらつきがどれくらいに対応するのかというと、結構な被曝線量のリスク、ここで250~500mGyだからそれぐらいのばらつきに相当してくるわけである。もちろんそれがそのままここにかかるわけではない。統計学的とか、疫学的な手法でもって調整はするが、しかしながらやっぱりそれだけの誤差があるということは調整しきれない部分とか、そういうのがいろいろ出てくるので、それがどこまで影響するのかということはなかなか単純に判断できない、かなり低線量域におけるリスク推定の曖昧さというものにかかってくるだろう、そのことを本当にこういうもの全て考慮してリスク推定するのは、なかなか難しいというのが、これは広島、長崎のその時点の調査における情報の今持っているものが限られているので、そこでの限界であろうというところである。

後は今日いままでしたことをまとめている。時間が超過したが、以上で私からのご説明を終わらせていただきたいと思う。どうもありがとうございました。

【会長】
A参考人どうも非常に丁寧にご説明していただき、かなり分かり易かったという印象を持った。一番印象に残ったのは、なかなか低線量域の人体影響、特にがんの発生を、リスクを評価するというのは大変な作業だということで、いろんな統計手法を駆使して推定しているけれども、今のところは0.2Gy以上だと確かな影響があっているけれども、ということであった。今日は是非、委員の先生方から日頃、低線量領域についてのこういう統計学的な推定法について、もうご理解されている方も多いとは思うが、まだ聞いてみたいということがあると思うので、どうぞ委員の先生方からご質問を挙げてください。

【A委員】
スライド18ページ。Comparison groupでのばらつきが大きいというところがある。これは、広島、長崎合わせたものか。

【A参考人】
はいそうである。

【A委員】
広島と長崎で別々にやるとまた変わってくるのか。

【A参考人】
そうだろうと思う。ちょっとそこまでは。人数はやっぱり広島の方のほうが多いので、広島の方を反映しているように思う。

【会長】
広島に引っ張られている可能性はあるのか。

【A参考人】
はいそうである。

【A委員】
でも7 km~10 kmが、かなりこっちにいくと0.5~0.7Gyぐらいに相当するぐらいの。

【A参考人】
これは全死亡であるから、死亡全体でいけば、がん以外のものも多いので、そこらへんは必ずしもがんは反映していないところがあるので、これは一例としてこういうことがあるということで、これが今後、広島、長崎の別だとか、がん及びがん以外の死亡であるとか、そういうものできっちり見ていかなければならないところであると考えている。

【会長】
がんに絞った距離との関係は。

【A参考人】
やっていない。

【会長】
プレストンさんの論文に何かあったような気がするが、なかったか。

【A参考人】
ゼロ線量で、ですか。

【会長】
3 km以内でもゼロ線量のグループでのがんは、リスクはどうだ、こうだとか。

【A参考人】
はい。がんの解析の場合に3 km以遠で少しベースラインが違うということを前提にして解析する場合がある。

【会長】
その時も遠距離のほうが高く出ていたのか。

【A参考人】
はい。これと同じような傾向はある。

【会長】
プレストンさんのは、がんでしたよね。

【A参考人】
はいそうである。

【B委員】
初歩的な質問。13ページ。いつもこのグラフをみて悩ましいが、左側にあるのと右の真ん中といっしょか。

【A参考人】
いえ違う。これはここのところを拡大しているだけである。これはこの結果を出しているだけである。

【B委員】
先生の今日のお話で線形モデルとの関係がよく分かって助かった。それとは関係ないが、真ん中のグラフを見たときに1点1点をみていくと有意なものが3個あるという感じか。

【A参考人】
そうだが、これはこの点というのはここからここまで、そのバンドに対する点であるので、そのバンドをどう設定するかによってかなり任意に変わってくる。従いまして、全体として傾向を示すためにこれを出しているが、ひとつひとつをそういう形で捉えるとちょっと全体を表せないと思う。

【B委員】
ありがとうございました。いつも、この線を混乱してしまうので助かった。

【C委員】
14ページ。確認というか、一番下の全線量域でのERR/Gyがだいたい、いろんな推定でも0.4から0.5の間にという形でこれはもう一致していると思うが、ちょっと私自身がよく理解していないのが、よく100mSv当たりの発がん死亡リスクが0.5%といわれる。それとこの値との関係というのは。

【A参考人】
その100mSv当たりの0.5%というのは、全生涯でのということか。

【C委員】
はい。

【A参考人】
これは30歳で被爆された場合の70歳時点において、同じ70歳の方と比べた場合にどれだけリスクがあるかということで、大きなそういう条件を無視しているが、いずれにしても、時点でどうかということで、生涯で何%を超えるかということになると、そういうものを年齢ごとに積み重ねていって、なお且つ当然亡くなられて少なくなっていくが、生命表法に基づいて積算していく結果になるので、これから次の段階になる。

【C委員】
もうひとつ。全体的なことだが最近の低線量域での疫学調査の論文を拝見すると、例えばINWORKS(※9)とかでも有意差は見えないが、傾向としてどうも増えているようであると、いうような論調で書かれているものが多いかなというふうに思うが、今なにかそういった傾向といいますか、あるのでしょうか。

【A参考人】
それは書き手がどういうふうにその解析結果をどう解釈されているか、ということにやはりよると思う。

【D委員】
低線量のリスクの検出というのが非常に難しいというのが本当によく分かった。私の質問は、C委員の質問とほとんど同じなのだが、放影研のデータというのは線量の精度が極めて高く評価されているということと、それとその後のコホート(※10)調査が厳密に行われたということで、コホート自体が非常に正確にリスクを検出できるというように、世界中に理解されていると思うが、そのコホートをもってしてもなかなか200mSv以下のリスクは検出が難しいというお話だったと思う。そういう中で先程、C委員がご指摘になった最近、原子力施設の作業者のデータとか、或いはCTを受けた子供たちのデータでこれが、母集団を非常に大きくして検出力を出そうというような試みだと思うが、こういうデータの検出力というような観点で先生から今お話しになられたようなベースラインのばらつき、そういうものを考えた場合に、コホート集団を非常に大きくした場合、その検出がどれくらい可能性があるのでしょうか、ということを先生の疫学者としての感想でも教えていただけたらと思う。

【A参考人】
当然、数というのは非常に問題になってくるけれども、疫学の場合には、数というものよりもその集団がどういう特性をもっているのかということのほうを重要視する。原爆被爆者の方の調査において、ほとんど放射線のことだけ考えていれば、結論が出てきたというようなことは、結局先程も申したように殆どが無差別に被爆されているので、たばこ吸っている人ほど線量を沢山あびたというような、そういう状況が全く考えなくてもいいと、そしてそのことを考えなくていいというのは、この領域においてほとんど考えなくいい、従ってこの領域で決まってくるものはほぼ確実であろうと、そういうところに寄っているわけである。それが1Gy当たり40%~50%増しになるリスクであるということで、そこはもう揺るがしようがないと思う。しかしながら、先程申し上げた問題がこういうところには沢山あるので、それがどうなのかというのは、この調査でもそういうところは非常に分からない部分である。同じようにCTの調査であるとか原子力作業者の方の調査であるとかその対象者がどういう特性をもっておられるのか、というところが結果にどのように影響しているのかというところをいかに考えるのか、というところが難しいと思う。だから、そこのところをいかに考えるかということで出てきている結果をどのように解釈するのかいうことになってくるかと思う。

【会長】
集団の特性ということで、被爆者は非常に割合、医学的には特性を持っていると考えられているだろうと思うが、例えば小児のCTを何十万人という単位でみた論文が結構沢山出ているが、そこで一番問題になっているのが、何十万と子どもさん達を集めると先天異常の子どもさんが相当含まれると、最初からである。その人達から出てくるがんとか白血病の発生が交絡しているのではないかという話が今一番ポイントで、そういうのも特性というふうに考えていいか。或いは、子供という特性でもっと別の特性を沢山考えないといけないのか。

【A参考人】
CTの場合は、CTを受けられた方々が対象になっているので、そういう方々がどういう方々であったかということである。例えば、先天異常の方とか、CTを受けるという適応がどういうものであったのかとか、そういう問題が一番考えなければならない問題であると思う。

【会長】
はい。分かりました。私の方からもうひとつ。閾値という言葉が少し分からないようになったのだが、この場合に使われている閾値の定義というか、ご説明いただきたい。閾値がゼロだというところがちょっと。

【A参考人】
閾値というのはその線量までリスクがないと考えられるという線量である。例えば、閾値が40mGyという結果がある。40mGy以下はリスクがゼロであるという、積極的にリスクがゼロである、ということができるという。

【会長】
閾値がゼロという場合は、どのように解釈されるのか。

【A参考人】
閾値がゼロというと線量が上がれば、それに対してリスクも上がるであろうという、そういう関係を示す。

【会長】
その場合100~0の間でも上がっていくというふうに解釈するのか。

【A参考人】
それはここで申しているように、全線量における傾向を示しているわけである。ですからここで見ますようにここで点線が収束してきますけれども、全線量における傾向はそういうことを示しているが、明らかに点線が収束してくるということ事態が、ここでの現実を反映していないわけである。ですからこの線全体がここでどうなっているのかということは、やはり不確実であろうと。ですからこの直線をここにある意味伸ばすといいますか、ここを含めて考えるというか、それがゼロになるが、それがこういうところの曖昧さも含めて考えるとそこがまだ確実ではないと、そのこと自体が確実ではないというふうに考えている。

【会長】
0.2以下から0の間は不確実だという言い方もできるか。

【A参考人】
不確実である。

【会長】
統計の言葉から離れて一般的な言い方をすると、0.2以上は確実だけど0.2から0までの低線量領域は不確実性もかなりあってポイントはばらついていると。ということは、そこに影響があるかないかは積極的には断定できないと。

【A参考人】
はい。不確実であるということになる。

【会長】
それを否定もできないと言い換えられるか。

【A参考人】
どちらでもないという状況である。

【会長】
影響がありえるということも含めて不確実だと。

【A参考人】
不確実である。

【会長】
そういうふうな解釈でよろしいか。ありがとうございました。今日はここまでで、十分ご質問できたのではないか思うがよろしいか。委員の先生方よろしいか。どうも先生、お忙しい中を長崎までお越しいただき、懇切丁寧な、しかも分かり易いお話しで随分我々の理解も進んだと思う。本当にありがとうございました。

2 小児および胎児の放射線被曝による癌リスクの調査結果について

(1)小児および胎児の放射線被曝による癌リスク

【会長】
それでは、残された時間で今日は十分な時間がありませんので途中で終わることになると思うが、ふたつ目の議題で小児および胎児の放射線被曝による癌リスクの調査結果について、特に今日は胎児の放射線被曝ということで、私が調べたことをお話し申し上げたいと思う。それからE委員から追加の報告があり、それを連続でやりまして、それから今日はおそらくディスカッションする時間がないのではないかと思って、次回にディスカッションは持ち越してやると、結構重要なデータがまとめられているというふうに私自身は感じたので、先生方のご意見というのを次回にお聞きしていくという形で考えている。

それでは用意した情報提供シートであるが、米国学士院(※11)のほうから「低線量被曝による健康リスクに関する委員会」が第7報2期の報告書を出している。これは、テーマは小児および胎児の放射線被曝による癌リスクというテーマで、みなさんに1枚ものの英文のものを出しており、172ページから173ページのところにexposure in uteroというのがあるが、これが胎児被曝の米国学士院のまとめである。

まず1番目にこの胎児被曝の前に原爆放射線による胎内被曝というところも151ページにあり、それは、今日はプリントしていない。シートの第1ページ目にまとめてみると、紹介されているのは、放影研(※12)からの第1報、これはkatoさんという方が発表しているが、胎児被曝の影響は検出できなかったという有名な論文がある。1,300人の胎内被曝の子供たちを24年間フォローアップして、どのくらい死亡があったか、その原因疾患を調査している。ここで重要なことは、母親の放射線被曝線量が増すとともに、死亡が増加している。特に出生後の第1年目に集中している。ただし死因が特定できていないことがあり、終戦後の非常に混乱した時期で死亡診断書がなかったとか、いろんなことである。その後の9年間には、この線量によって死亡の増加というのは見られていないが、さらにその後9年間で再び増加しており、そこで、3例の癌が発生して、白血病がその内の1例である。これは当時の日本の小児癌の発生数と大差がないという判断から、この時期での胎児被曝者の年齢が26歳の時であるが、結論が影響ありとはいえないということで、今後さらに長期の観察期間が必要ということになっている。外国からもこの論文に対していろんな評価、批判があって、観察症例が少なすぎるのではないかということである。そういうことで放影研も研究を続けられ、第2報とも言うべきYoshimotoらの報告が1991年にあり、観察期間を延ばして1984年まで症例追加がなされて症例数は18例となっている。小児科タイプの癌はわずかに2例で、その他全て成人型の癌であった。生後被曝した対照群の小児癌とほぼ同じ癌のパターンであった。その結果の解析では対照群に比べて、先程、A参考人が説明された相対リスクのRR=3.77/Gyとして、線量反応が放影研として確認したという報告である。それからさらに1997年、放影研の第3報的なものとしてDelongchampという人が原爆被爆者群と生後被曝した小児を対照群として比較をおこなって、さらにカバーされる期間が1992年までいっている。これは、1988年に同じYoshimotoさんたちの報告よりも、もっと観察が延ばされたわけである。10例の新たな癌が被爆者群で観察されて、ERR/Sv=2.1の有意の線量反応を認めている。特異点としては、この10例中9例が女性だった。そこで乳癌と子宮癌と卵巣癌の女性特有の癌を除いてみても、10例中9例でほとんど女性であり、どうしても性差がある。これはまだ解決できない問題でなぜそうなのか、というのがわからないから、さらに観察を続けなければならないという結論になっている。

以上が原爆のほうで、後でE委員からこの胎児被ばくの放影研のデータで線量との関係についてご報告がある。

それから次に小児(胎児を含む)における医学低放射線による被曝のリスクということで米国学士院の委員会は、一番上に脊柱湾曲症に対する放射線の治療、2番目に我々がかなり精力的に検討してきたCTスキャンのことがここに入るが、この報告書でのこういうデータは少し古いデータでEPI Study(※13)という100万人規模のレポートを今我々の委員会は待っている状況であるが、一昨日検索した段階ではMedline(※14)では、発表は上がっていない。ドイツ、フランスから個別に発表がその後あっているが、確かにCTを受けた子供では癌と白血病の患者数が増えている傾向にあるが、やっぱり先天異常の問題だとか、先程,A参考人がおっしゃったような特性の問題だとかが克服できていないので,このEPI Studyを待っているというような結論になっている。

それで、胎内被曝であるが,これは先程の172から173ページが本文の方は英語である。まず第1番目のオックスフォード大学の小児癌、これはイギリスのオックスフォード大学のSurveyでOSCCと略しているが、Alice Stewartという女性の教授がおられて、母親の骨盤をX線検査によって出生前被曝した子ども達について、その後の癌の発生増加の最初の報告である。これは、有名な報告で反論も大変多くて、私自身は疑問をもたれた研究だというふうにちょっと頭に入っていたが、今回この米国学士院の報告を読むとそうでもないな、ということでご紹介しているわけである。方法は英国全域の小児癌、これは終戦後まもなくの頃のイギリスの話である。X線が非常に広範に応用されて、お産の時の安産を確かめるために母親の骨盤のX線検査というのが非常に記録された。そこで英国全域の小児癌1416例とそのケースコントロール群間比較を行っている。ケースコントロールというのは、こういうX線検査を受けていないお母さんから生まれた子供を年齢とか性を合せて、大体同じ検出のグループにして観察するということで、要するに妊娠中及び出生後の放射線被曝のアンケート調査をやっている。アンケート調査に非難があったが、結果は被曝群において癌と白血病を併せて約40%、1.4倍に上がっているという驚くべき調査結果が初めて出された。この時の批判も思い出し調査、母親に後から子供さんが癌になった時に、あなたは骨盤の検査を受けていましたか、という調査は癌になった母親がよく覚えているという傾向を生むのではないかということである。バイアスというか、批判があった。

そこで2番目にMacMahonという人達が、米国の医者が1962年に追試確認の報告をしている。米国東北地方の小児734,000人の調査を行って、1954年まで小児癌584症例について、母親の病歴を病院記録をもとに行い、思い出しバイアスを排除したということである。結果はStewartらと同様、約40%の過剰を観察している。5-7歳のときにそういう癌とか白血病とか最大2倍になったということである。

3番目であるがOSCCは、オックスフォード大学はその後もずーっと全米の小児の癌の死亡について母親の妊娠中のX線被曝を調査し続けており、そこにいろいろ書いてあるが時間がないので簡単にいうと、この報告が出て以来、臨床の産婦人科の先生方も骨盤検査を自粛する方向にどんどんなっていって70年代、80年代となるにつれて母親の被曝線量が当然減ってくるから、小児の癌の発生も減ってきた、というまたユニークな観察がされている。それから、10)のところDoll/Wakeford、有名な研究がなされており、原爆被爆者のコホート研究を含めたメタアナリシスという、あらゆるこの種の研究をまとめて観察してみると、被爆者のコホート研究で第1報で差が観察できなかったというのを除けば、ほぼ全てものでRR(※15)が観察できたと、影響が観察できたということである。その時に、Doll先生が原爆の胎内被曝群の追跡年数が短くて、十分な症例数が集積されていないためと推定している。それから、国連の放射線専門家のUNSCEARという別の団体があるが、1972年にいろいろなドクターが観察したが,胎児の被曝線量がずっと下がっていくのである。それと共に小児癌が減っていったということをUNSCEARも認めている。それから11番目にUNSCEARの結論が照会されているが、これは1996年の結論である。これは原著を手に入れようと思っているが、まだ手に入っていない。ERR(※16)の上昇が認められているというのが、UNSCEARの結論で、それによれば10-20mGyで、これ非常に低い。そこで40%の過剰が認められているということになっている。その後も報告が続いて一番最近は2003年のWakeford/Littleという人が胎内被曝による小児癌のERR=50Gy-1、EAR=8%-1というようにして、結論としては胎児のX線被曝事例と原爆放射線被曝の事例におけるERRはほぼ一致しており、このふたつは線量が違うが低い線量のほうのデータとしては10mSvのオーダーで胎内被曝が小児癌リスクを押し上げる、という結論を出している。こういう米国学士院の報告が出ている。

私の意見としては、我々が今問題にしている100mSv以下のところの影響をこういうふうに報告してあるので、我々はこれを十分調査、分析しなければいけないということで、特に被爆地拡大の住民の方々のいろんなデータで140名ぐらいの方が原爆被爆者の胎内被曝と同じ状況で、お母さんが妊娠中に原爆を体験しておられる。そういうことも考慮するならば、この課題をしっかり検討しなければいけないと、そこでE委員に追加の論文をお願いする。

(2)胎児及び若年被爆者における固形がん

【E委員】
追加の論文であるが、先程、会長のほうから紹介があった原爆被爆者における胎内被曝と癌リスクいうことで1997年に第3報が出ているが、その後の一番新しいデータで2008年のデータを紹介したいと思う。これは1999年までであるから、被爆後54年間までのデータをまとめたものということになっている。この論文では長崎、広島の胎内被曝の方が2,452名、被爆当時6歳以下の方が15,388名であるがこの方々を対象にして、固形がんの頻度について調査を行っている。その結果、胎内被爆者群では94名、小児期被爆者群の中では649名で固形がんが診断されている。小児期被爆者群では、診断到達時年齢、診断時何歳だったのか、これが30歳~54歳の群では男性、女性とも0.2Gyであるから200mGy以上の被ばく線量群で固形がんの上昇を認めている。そして診断到達時年齢が12歳~29歳の群では女性のみ200mGy以上での被ばく線量群のみで有意な上昇を認めている。一方、胎内被爆者群では診断到達時年齢が12歳~29歳の群の女性のみで固形がんの有意な上昇を認めた。それをまとめたのが、下の表ということになる。左に胎内被爆者、右に小児期被爆者をみているが、これで相対リスクというところがある、数字の5.0と書いているところが相対リスク。かっこにふたつ数字がでている0.2-127、0.3-11とあるが、この範囲が1をまたがないものが有意な上昇を認めた群ということになる。そうするとみて分かるように男性の12歳~29歳の群では、0.005Gy未満、つまり5mGy未満、或いは5mGyから200mGyの間、いずれも有意な上昇を認めていないということが分かる。さらに、男性の診断到達時年齢30歳~54歳をみるとこれでは胎内被爆者ではいずれの線量群でも有意な上昇は認められない。ただし、小児期被爆者では0.2Gy以上、200mGy以上の被ばく群で相対リスクが1.7で95%信頼区間が1.2-2.4で1をまたぎませんので、ここは有意に上昇していることが分かる。さらに女性の診断到達時年齢30歳~54歳の群をみると、胎内被爆者で0.5mGy以下或いは0.5mGyから200mGyの間ではいずれも有意ではありませんし、200mGy以上でも有意には認められておりません。ただし、小児期被爆者の方では、0.2Gy以上、つまり200mGy以上の方では有意な上昇が認められているという事が分かる。

結果としては、先程、A参考人が説明された0.2Gyのところとほぼ一致するような結果ではないかというふうに思う。

【会長】
やはり女性が多い。それで、0.2Gyというのが再び出てきたが、それ以上は確実にみられる。だから、かなり母親の骨盤、X線検査のデータの10-20mSvと随分違うので、これは慎重に今後も検討していきたいと思っている。

今日はここで終わらさせていただきたいと思うが、是非、原著論文を先生方読んでいただきたいと思う。今日は、我々の研究会も回を重ねて、そろそろ一定の結論を導かないといけないという時期になってきており、今年度末までにはその努力をしていこうということを思っているので、委員の先生方ひとつよろしくお願いする。ただ、EPI Studyという小児CTの結果がタイミングよく今年度、2016年内に発表されれば大変いいが、そこがちょっとまだ分からないということがある。それでも、論文はもう沢山出ているので、そういうものを総合的にまとめて、どういうふうに被爆地拡大における低線量被曝の人体影響というものを考えたらいいか、ということについて結論を導ければと思っている。

【事務局】
会長、そうしましたら、次回の開催は、だいだい来年の3月を目途にということでよろしいか。

【会長】
3月であるので、それまで約半年あるが、これまでの研究会の全てのデータを先生方も振り返っていただいて、まだやり残している部分がないかどうか、ということの点検を含めてである。小児が少し大人よりも感受性が高い。大部分の被爆地拡大の体験者の方々は小児だったわけである。そういう意味で小児の感受性をどうみるか、という点も課題かなと思っている。そして、もうひとつ小児の部分のことを推定する、推定法がこれにあるので、これはE委員くらいに是非、検討していただければと思っているので、またこれは改めてお願いしたいと思う。今日はこれで終了いたします。どうもありがとうございました。

〈用語解説〉

※1 ABCC
原爆傷害調査委員会(Atomic Bomb Casualty Commission、ABCC)。原子爆弾による傷害の実態を詳細に調査記録するために、広島市への原子爆弾投下の直後にアメリカ合衆国が設置した民間機関である。

※2 中性子線
中性子線を物質に照射すると、中性子と物質中の原子核との様々な核反応が発生することになる。

※3 ガンマ線
ガンマ線はコバルト60やセシウム137などの放射性物質の自然崩壊により発生する。

※4 DS02
広島と長崎に投下された原子爆弾による被ばく線量に関して日米の専門家が共同で作成した評価方式。従来のDS86(Dosimetry System1986)を改善し、2003年3月より新しい線量推定システムDS02を寿命調査(LSS)に導入した。

※5 DS86
広島と長崎に投下された原子爆弾による被ばく線量に関して日米の専門家が共同で作成した評価方式。英語名称 Dosimetry System 1986 の略称としてDS86と呼ばれる。

※6 サマリー
要約、概略、集約のこと。特定のことに関する情報を要約したもの。

※7 ICRP
国際放射線防護委員会(International Commission on Radiological Protection、略称:ICRP)は、専門家の立場から放射線防護に関する勧告を行う民間の国際学術組織である

※8 UNSCEAR
UNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)は、電離放射線による被曝の程度と影響を評価・報告するために国連によって設置された委員会である。

※9 INWORKS
被ばく線量をモニターした原子力施設労働者。

※10 コホート
分析疫学における手法の1つであり、特定の要因に曝露した集団と曝露していない集団を一定期間追跡し、研究対象となる疾病の発生率を比較することで、要因と疾病発生の関連を調べる観察的研究である。

※11 米国学士院
米国学士院はリンカーン大統領政権時代の1863年に設立された私的機関であり、米国政府の要請に応じて「科学および技術に関連したあらゆる問題に関する調査、検討、実験および報告」を行い、学術・技術分野における連邦政府のための独立した専門的助言機関の役割を果たしている。

※12 放影研
公益財団法人放射線影響研究所。被爆者の健康調査及び被爆の病理的調査・研究を行う研究機関で、日本国政府とアメリカ合衆国政府により設立・運営されている。

※13 EPI Study
疫学調査。

※14 Medline
Medlineは、医学を中心とする生命科学の文献情報を収集したオンラインデータベースである。

※15 RR
相対リスク。暴露群と非暴露群における疾病の頻度を比で表現したもの。

※16 ERR
過剰相対リスク。相対リスクから1を引いたもので、相対リスクのうち、調査対象となるリスク因子(この場合は被曝放射線)が占める部分をいう。

お問い合わせ先

総務部 行政体制整備室 

電話番号:095-829-1124

ファックス番号:095-829-1410

住所:〒850-8685 長崎市魚の町4-1(9階)

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