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第4回(平成26年度第2回)長崎市原子爆弾放射線影響研究会

更新日:2016年11月10日 ページID:029042

長崎市の附属機関について(会議録のページ)

担当所属名

原爆被爆対策部調査課

会議名

第5回(平成27年度第1回) 長崎市原子爆弾放射線影響研究会

日時

平成27年3月31日(火曜日) 13時30分~15時30分

場所

長崎原爆資料館 平和学習室

議題

1 原爆放射線とフォールアウトについて
2 原爆放射線の人体影響に関する研究等の情報について
3 次回開催について

審議内容

審議事項1 原爆放射線とフォールアウトについて

広島・長崎の原爆残留放射能の測定とフォールアウト

 (内容)

1. 広島の残留放射能測定 -DS02以降の新データ-
日本銀行(広島)、原爆ドームの銅板等を利用した中性子の測定データについて等。

2. 長崎の残留放射能測定
浦上天主堂の石垣、長崎の被爆鉄材、山王神社前の個人宅の石垣を利用したコバルト60の測定について等。

3. 広島のフォールアウト(※1)
広島市内の「黒い雨」の降雨域、己斐・高須の積算線量について等。

4. 長崎のフォールアウト プルトニウム調査報告について
初期空間線量率に基づく被爆線量の推定(岡島報告書等)

【A参考人 】
この話をいただいた時に、メインはこのプルトニウム調査についてポイントのようであったが、私自身は長崎のフォールアウトについては何も行っていないので、フォールアウト以外の原爆による放射能の測定など、そのような話を出してよろしいか、というお願いをした。話としては広島の残留放射能の測定、長崎の残留放射能の測定、広島のフォールアウト、長崎のフォールアウト。それで、調べてみると長崎のフォールアウトについて非常にたくさんの論文があり、本日はその論文紹介のようになるが、いろいろと紹介したい。特に残留放射能におきましては、DS02(※2)以降の新しいデータについて紹介させていただきたい。

1.広島の残留放射能測定―DS02以降の新データ

これはDS02のファイナルレポートである。2002年にできあがったが、出版が少し遅れて2005年くらいになったと思う。DS02はアメリカ側の計算に対して、広島・長崎の実際の測定データと比較検討するということを非常に細かくやり、γ線、中性子、コバルトの測定等は非常に細かく一致するということを検証している。それで、新しい事実として、速中性子(※3)、銅の中に原爆の中性子np反応(※4)でニッケル63ができているということが分かり、これを測れば原爆のスペクトルの非常に高い中性子の検証ができるということで、DS02では、そのニッケル63の測定が行われていなかった。主には物理学としてはAMS加速器質量分析法(加速器マス)(※5)であるが、一番近い点では日本銀行、あと市役所辺りや、広島大学の理学部辺りまでである。これは広島のデータであり、長崎ではニッケルは測定されていない。このような測定データが得られ、速中性子についても一致するという風に評価されている。このファイナルレポートの後でデータをいくつか追加し、その分の紹介をさせてもらうが、一つは私自身で日銀のその銅の試料の測定を行った。また、原爆ドームについての銅の試料を得ており、それをアメリカのグループと、日本の柴田誠一(京大)さんのグループに託したが、残念ながらすぐに結果を出すにまではいかなかった。日銀は広島の爆心地から約392mの位置辺りにある。原爆ドームから155mくらいになる。

(1)日銀避雷針の銅線
日銀の避雷針の銅線であるが、日銀の壁が爆心の方向に向かっており、銅線が残っている。それで、銅線が壁を伝って床に埋まっている。実際のサンプリングは広島の放影研の方で行い、それをアメリカのStraumeのグループと我々と柴田先生のグループに送って分析を行った。

(2)原爆ドーム
次に原爆ドームの銅の話であるが、原爆ドームは被爆前は、建物部分が銅板で覆われていた。それが、原爆の熱線でこの銅が溶けてどこかへ飛んで行き、形が残ったという風に思われている訳であるが、実際は、銅板が少し残っている。それで、影になって熱線が直接あたってない所では、銅板がこういう格好で何ケ所かある。それで、我々は何度かこの原爆ドームの改修のときに、鉄材などいろいろサンプルを得ているので、その時に銅板が付いてるというのが分かった。その時は、既に世界遺産になっていたので、文化庁からこれを取っていいという許可を得るのに1年以上かかったが、その後でこのような銅を取った。

これは最近撮った写真であるが、その時に半分しか切り取っていない。あと半分は残っており、それを見ることができる。少し大きな望遠鏡であれば、この周りにも、このような格好で銅が残っているというのが分かる。この銅を分けて、この部分は私のほうで分析を行い、この部分はアメリカに送って加速器マスで分析した。これは、原医研(※6)にある訳であるが、恐らく星先生の所にある。それでアメリカに送ったデータは、加速器マスで、ちゃんとデータを出している。勿論これは直接ではなく煉瓦の陰になっているので、その遮蔽の計算もしないと最終的なデータは出ないが、そのあたりの計算もアメリカの方で、きっちりやってこういう値を出してきている。

(3)Copper sampling from A-Dome
それで、我々は、上のほうの銅を採取したが、実はあの時に原爆ドームの保存工事のために下にこの排水溝を造るという作業が行われていた。それでこのように発掘されたが、そしたら銅のカケラが出てきたという事で、これは広島市にとっては、ゴミと同様で、文化庁に許可を得る必要はなく、これを頂いた。これは、先程のドームを覆っていた銅が、どこかに飛んで行ったのではなく、少し溶けたものなどがパラパラと地上に落ちて、その上に爆風による瓦礫が積もり、埋まっていたということが分かった。これは、最終的なデータである。アメリカの日銀のデータがあったが、私が測ったのがこの位置にあった。さらに原爆ドームの銅については、アメリカのグループの加速器マスのデータがこのように載って、それと京大原子炉の柴田誠一先生のところの液シンのデータがこの点である。それで、これをみると、こちらがDS02で、上のがDS86(※7)であるので、DS02にぴったり合うという感じではないが、誤差の範囲で一致しているということが分かった。

2.長崎の残留放射能の測定
次に、長崎の残留放射能の測定についても我々もいくつか測っているので、その話を少し紹介する。これはDS86のファイナルレポートで2巻に渡ってこういう形で出版されている。これをみると、DS86というのは、ほとんどアメリカ側の計算主体で、ごく短期間でまとめられたものであるので、実験データとの比較検討というのは、あまり行われていないと思う。特に広島フィールドの測定としては、金沢大学の中西先生たちのデータがいくつかあり、大体あっていると思う。長崎の場合は非常にばらついており、中西先生のデータもあるが、岡島先生のデータもかなりばらついているというのが分かったので、これは、長崎で実際にEu-152(※8)をGe検出器(※9)で測ってみる必要があるということで我々も長崎のサンプリングから行った。この赤字が我々が集めた試料。この浦上天主堂については、岡島先生に直接、石の試料を頂いた。あとは、長崎放影研と広島放影研のかたといっしょに集めてもらった試料である。先程の岩石はEu-152測定に使えるものである、同じように鉄の中のコバルト60があるということもあり、これは平成6年頃に島崎先生から譲ってもらった鉄の試料である。

これは、岡島先生から頂いた浦上天主堂の石垣である。石の表面を削ったものを頂いた。あと長崎医専のレンガや医専納骨堂のレンガである。

これは、片足鳥居で半分は、山王神社に並べてある。その並べてあるものを少し貰えないかと山王神社の宮司さんにお願いしたが断られ、それで、長崎の放影研の方とで、神社の近くのSさん宅の石垣の表面を少し削って集めた。これは最後の測定結果だが、この黒いものが我々が測定したデータで、白い四角が中西先生のこれまでのデータである。

この黒い点が我々の測定で、DS86と、DS02がまだこの時点では出ていなかった。ほとんど93Rev(※10)に一緒であるが、このデータが合うことが分かった。DS02のファイナルレポートには、この中に我々のデータを入れて貰っているが、奥村先生たちのデータがあり、少し外れているという研究になっている。同じくコバルト60のデータの赤い点が我々が測定したデータで、橋詰先生たちのデータ、この場合はそれほど外れている感じではないが、誤差の範囲で確定という結果が得られた。

DS86からDS02において変更された点としては、簡単に紹介すると、まずは、原爆出力スペクトルの非常に詳細な計算が行われたということがある。それと、長崎の場合は、あまり変更はなかったが、広島の場合は、爆発高度が580mから600m、原爆の出力15ktから16ktに変更された。これらは我々の測定データと比較していって、こうした方がいいだろうということでアメリカ側が変更したものである。残留放射能のいろいろな放射線を比較をして、それらとの比較も行われている。さらに、爆心は15mほど西に移動するということになっており、このような変更が行われている。最終的な線量としてはほとんど変わりないと思っている。

3.広島原爆のフォールアウト

3-1 原爆残留放射能の初期調査

―広島・長崎のフォールアウトに関する調査を中心として―

次は、広島原爆のフォールアウトについて。

原爆の燃料というのは、長崎はプルトニウムであるが、その長崎の評価にあたって、広島での評価の仕方というのも関係してきている。まずは、その原爆残留放射能の初期調査からみると、これはご御存じのとおり、8月6日以降の初期調査としては、理化学研究所(※11)、京都大学、大阪大学、広島・当時の文理大の先生方も測定をされている。また、学術会議を基にできた原子爆弾災害調査研究特別委員会(※12)の調査、いわゆる原災報の調査に載っている。

アメリカ側の調査団としては、マンハッタン管区調査団MED(※13)と、米国海軍医学研究所NMRIの二つの調査団が入って調査をしている。これは、理化学研究所の仁科芳雄先生が、日本の原爆開発の依頼を受けていたので、原爆の後にすぐに陸軍から広島、長崎に調査に行くようにということで、8月9日に広島に入られている。8月10日に広島の土のサンプルを、土以外にも銅線やゴムなども集められており、それを10日に東京に空輸して理化学研究所でたローリッツエン検電器(※14)を使って測ったら、銅線から放射能がみられたことから、これは原爆であるということを認めたひとつの根拠であった。これが仁科財団の原子爆弾の資料に載っている。

これが使い古しの封筒にサンプルを集めたもの、こういうものを入れて、こういう格好で送ったという風に写真が残っている。この試料はどうなったかのかと言うと、理研の仁科研究室(※15)の方が、試料を引き継いでこられたが、最後に岡野真治先生が手伝い、岡野先生は、まだ、お元気で福島の事故でもご活躍されているが、岡野先生は、実はだいぶ前に退任されているので、この試料を自宅のほうに保管されていた、ということを聞いている。それで、その時、いろんな方にその仁科試料を持っているんだという事を言われており、我々もそういう事を聞き、その試料を是非あたらせて欲しいと申し入れたが、了解を得られなかった。それで、我々は仁科試料を、広島の原爆資料館に寄贈して欲しい。寄贈してもらうにあたっては、マスコミを呼びたい。こういう貴重な試料を資料館に保管したいということを言うと、すぐに持ってこられ、これはその時の新聞記事であるが、各紙とも同じような記事を載せている。「47年ぶり広島に戻る」ということで写真入りで紹介されている。資料館に戻ると、我々は、すぐこれをお借りして測定を行った。実物はこういう格好で、理研はペニシリンとか作っていたので、その土の試料もそのペニシリンの瓶の中に入れて、封入されていた。それで、調べてみると、いくつか欠番がある。同じ場所でも2本とか3本あるような試料もある。先程の封筒についても、実際にはこういう色がついた非常に鮮やかな封筒だということが分かった。そして、我々の測定が終わり、現在は広島の資料館の方で「広島の土」として展示されている。仁科試料は爆心から5km以内で集められている。サンプルだが、実際に現存するのは22本。土から、セシウムが検出されたが、セシウムの値を出すのに、重量濃度は我々で出すことができるが、面積あたりの濃度も必要になる。今回の長崎のプルトニウムについて、重量濃度あたりで出すのか、表面積あたりで出すのかで違ってくるので、苦労した点である。重量濃度は、放射能(Bq/g)である。それを面積あたりに直すときに、仁科試料については、封筒に入る程度の量であることと、被爆の直後であるので、ほぼ表面についていただけであろうということ。それをサンプルにしたであろうということで、Xcmまで入っているとすれば、面積あたりの濃度は、QをSで割ると、深さ、密度でいうと何cmまで分布したかというので決めた。これはもう1cmまでをサンプルにしたというふうな仮定をした。これが、No7スペクトルのナンバーワンのセシウム137、非常に強いと思う。14番、この辺りであるが、これは出ていないということが分かった。これで、この丸がセシウムの面積あたりの(mBq)であるが、この7番は実際のもの1月20日になっている。それくらいこの辺りが非常に強いことが分かった。後は、この辺りは割と少ない。

仁科試料から何がわかるか?

それで、この仁科試料から何が分かるかというと、広島市内の「黒い雨」の降雨地域ということと、広島でフォールアウトの強かった己斐・高須でのフォールアウトの線量が評価できる。

(1)広島市内の「黒い雨」の降雨域―「黒い雨」雨域と援護地域―
広島の「黒い雨」の降雨地域については、これは原災報(※16)に載っている1953年に宇田雨域というものがあり、北西11km、南北が19kmの楕円形の範囲である。この地域について、国は1976年に「大雨地域」という風に指定し、「援護地域」としており、健康診断が受けられることや、被爆者が病気になったら被爆者健康手帳に切り替えられるということがあるが、その外の小雨地域は、援護対象外となっていた。それで1978年にその援護地域の外の人達が、その援護地域拡大をするようにということを厚労省や県・市に求めて、そのような運動が始まっている。1987年に、もと気象研(※17)の室長の増田先生が、この宇田雨域のアンケートに加えて、116のアンケートに加え、さらに170のアンケート調査を行っている。そして、降雨域は宇田雨域より2倍ぐらい広い。これが増田雨域と言われている。これが宇田雨域であり、これが大雨地域、その外の地域。それで、増田雨域は、もっと複雑でこのピンク色の部分が大雨地域である。この破線で描かれているのが、宇田雨域の大雨地域、その外が小雨地域である。それで、増田雨域の緑の部分が小雨地域となっている。この色は、増田先生自身が最近塗られた部分である。

これを広島市内で比べてみると、宇田雨域というのは単純な楕円であるが、増田雨域は非常に複雑で、それと原災報等をみても、馬蹄形の記録が残っており、その、この黒い点の部分が大雨が降った地域である。この青い所が中くらいの雨域、緑のところが小雨域と分布している。これを仁科試料と比べると、宇田雨域と比べた場合は、宇田雨域の外にもセシウムがこのように数ケ所検出されている。これを増田雨域と比べると、今のように小雨雨域の中に全部入ってくるということで、これからも降雨域は宇田雨域よりも広い、増田雨域の方が近いという事を、我々としても結論として論文としている。

(2)己斐・高須地域のフォールアウト
次に、己斐・高須のフォールアウトであるが、この地域で採取された試料はない。ただし、これは、9月3日、4日に理研のグループが何度か入っているが、山崎文男先生たちが、カーボーン、車に測定器を、ローリッツエンを積んで測ったデータがある。この数値はバックグラウンド(※18)に対して何倍としている。これで、ちょうどこの古江については、仁科試料の土の試料と、空間線量(※19)の測定データがあったので、ここで繋げばこの非常に強かった地域での線量評価ができるということである。積算線量の推定方法としては、DS86のVol. 1に岡島先生、藤田さん、ハーレーが書いた章が6章にある。それには評価に二つの方法があり、一つは、初期の線量率測定である。それを基にそのセシウムの沈着データと、線量率のほうは、核分裂片の線量率の時間的変化、これは1時間後の線量率のtは経過時間、時間のマイナス1.2乗で減るとされている。実測データで、広島の場合、1.3乗であるというデータがあるが、まずはこの1.2乗とする。それで、爆発の1時間後から無限時間までの時間はこれを積分するだけであり、簡単に積分でき、1時間後の線量の5倍、これが1時間後から無限時間までの積分線量がレントゲンという格好で出ている。

もう一つは、セシウムの表面沈着量(mCi/㎢)から換算係数を使うというやり方で、1mCi/㎢の降下量がある時に、1時間後から無限時間までの線量は、300mR、0.3R(レントゲン)だというのが、この後半に載っている。それは、そのデータというのは実は古いものではなく、ネバダの核実験場でのそういったデータを何人かの科学者が調査して出している。300より少し低いのと、少し高いのがあり、それをまるめて、1mCiが0.3R(レントゲン)として、このDS86の方では使っている。そして、R(レントゲン)は旧単位であるので、Gy(グレイ)に直すと8.76mGyということで換算している。これは、先程の古江のデータを基にして、己斐・高須の最大値はバックグラウンドの5.1倍であるので、これは古江の20倍の値で、そうすると、己斐・高須の最大線量であるが、空気吸収線量(※20)それで37mGyぐらいがでる。DS86のファイナルレポートでは、初期線量から見積もった値とセシウムの降下量から見積もった値は、結果としては同じにならなければいけないと思う。それで、広島の初期線量率の測定データでネーヤ(※21)とかローリッツエンとかで測られたもので、マンハッタンのティボー,アラカワ、Pace and Smithの値です。マンハッタンの60日後で 1.2Rという値を出している。Pace and Smithは0.6~1.6。それで、宮崎・増田3~2.3。広島大学のグループも、これは少しずれていて差がある。結局、広島の己斐・高須では、1~3Rと評価されている。これはGyに直すと9~26mGyぐらい出て、私が見積もって37mGyになっている。

長崎の西山地区の初期線量率と線量であるが、これは、九州大学・篠原先生たちが、53日後に測った値で、これから2.5~70 R、マンハッタングループがふたつのデータが出て29、24~43R、Pace and Smithの42、38ふたつ出て DS86では20~40Rと評価されている。

これに対してセシウム137から求めた集積線量は、これは、Millerが1956年に土を採取しており、この間はゲルマニウム検出器(※22)とかないので1982年になってゲルマニウム検出器で測っている。この時は、西山地区のセシウムの降下量、バックグラウンドが長崎市内のバックグラウンドを用い、それを引いて5倍したら、1時間後から無限時間までの集積線量がでる。それで、40Rという値を出している。その他に馬原先生と、岡島先生の、1969年、1981年にサンプリングのデータがあるが、全てバックグラウンド引いても270とか非常に高い値になっており、ここに書かれてようにセシウムの分布は状態が変わってきている、それで、いかにバックグラウンドを引いても正確な長崎原爆によるフォールアウトの評価ができないということで、40Rこの値を採用している。

これをまとめてみると、上は旧単位であるが、広島・長崎でみるとセシウムフォールアウトについては空間線量の測定と、セシウムの測定から己斐・高須は1~3Rセシウム4.2R、長崎の場合は、西山地区で20~40セシウムの値40Rであるので、最大値は、40Rとしている。これを、Gyに直すと広島は9~26mGy、セシウムは37mGyこれは私どもの数字。それで、旧市内、広島市内については、これも仁科試料等ありますので測ると1mGyと低くく、ほとんどないというのが分かる。長崎はGyに直すと土で350mGy、初期線量が180~350mGyとまとめている。

(3)最近の研究―原爆資料館の「黒い雨」の壁面
このあとについては、最近の話をひとつ付け加えさせてもらうと、原爆資料館に「黒い雨」の筋がついた壁面が展示されている。このふたつは、同じ家の同じ壁の別な所から切ったもので、一つは資料館の本館に展示されているが、一方は企画展とかそういった時に使われている。この試料から平成12年に、この端を少し切り取った。こちらについては、以前にいろんな人がサンプルに採っている。ここは、アメリカが採って分析している。こちらの本館展示の方は、なかなかサンプルを採る機会はないが、平成14年に資料館の改修が行われた時に、この壁が外されていたので、その時にこのようないくつかのサンプルを採った。

この「黒い雨」の壁は、フォールアウトのちょうど真ん中にあたりにあるYさんという家の壁。黒い雨といっても、この壁のほんの表面に付いている黒い雨であり、これをカミソリで切り分けて、黒い部分とそうでない部分に分けて分析を行った。それで、セシウムがこのようなところに流れ、この様に非常に強いセシウム、別の所だとセシウムが少し出てきたというのが確認できた。

それとウランの分析を、これは京大原子炉(※23)の藤川先生にお願いし、ウラン235とウラン238の比を測定してもらった。これから天然比(※24)は0.00726というのは、これはご存じだとは思うが、「黒い雨」の壁からは、小さいものが0.00779、大きいほうは0.00887という値が出てきており、天然比は、どこで採っても一緒のはずであるが、それが高いのは、ウラン235が高い、ことを示している。広島原爆は濃縮ウランが使われているので、濃縮ウランの材料が「黒い雨」に含まれて飛んできたといったことが分かった。原爆自体は90%ぐらい濃縮されたものであるが、壁のウランは壁のどこにでもあるので、その中のほんの一部からでも天然比より大きい値が出るということは、ウラン235を多く含んでいたということを表している。

4.長崎のフォールアウトと被爆線量について
次に4番目として、長崎のフォールアウトと被爆線量についてであるが、これは、この研究会でも常にいろいろ調べられているので、ご存じのとおりであるが、ひとつはマンハッタンの測定データと、もうひとつPace,Smith、それと理研のデータである。これが初期線量に基づく推定になっている。それともうひとつは、被爆地の土の測定データに基づく推定で、これは過去の文献をみると、大規模なサンプリングが3回行われている。それで、1回目は、厚生省ですけれども、広島・長崎で大規模なサンプリングを行っている。1976年でいくつか高い地域を、さらに1978年に追加で測定した。これは、公衆衛生協会(※25)の報告書として出ているが、セシウムとストロングチウムがあるが、主にセシウムを測っている。プルトニウムは測っていない。それで、この同じサンプルで金沢大学の山本先生たちがプルトニウムとセシウムを測っている。残念ながら、サンプルがほんの僅かであった。次に1981年に馬原、工藤先生たちのグループが、大規模なサンプリングを行って、プルトニウム、セシウムの測定を行っている。それと、これは1990年に採取された岡島報告書の土のサンプリングである。岡島報告書の方では、プルトニウムのみであるが、同じサンプルを島崎先生、奥村先生たちが、ここだけ(5点)バックグラウンドのサンプルに加えて、プルトニウム、セシウムの分析をされている。最近になると、放医研のグループがプルトニウムの測定を行っている。これは、大規模というより、西山地区とかそういうところの測定である。

これは先程と同じなので省略するが、被爆当時のグローバルフォールアウトを被ってない土でないと評価はできないので、私の今日の結論もそれ以降の土では、セシウムが検出されても、それはそれから評価は無理だということである。

4.1 初期空間線量率に基づく被爆線量の推定

(1)マンハッタン管区の測定
初期空間線量率に基づく被爆線量の推定については、マンハッタン管区の測定が、放影研のArakawaの報告として、一部載っているが、西山地区でこういうことが載っている。

2)N.Pace,R.E.Smith(米国海軍医学研究所:NMRI)
さらに、今度のデータについては、米軍の資料でそちらの方で、手に入るようだ。私自身もちょっとそのデータは持ち合わせていないが、このPace and Smithの10月15日から27日に長崎で900ヶ所、その後、広島で100ヶ所測っているが、放影研のレポートにこんな図で載っている。こちらに飛んだということと西山地区の評価線図が描いてあるが、この地図自体からとても数値は読めない。京大原子炉の今中さんからいただいた資料で、これはもう少しはっきりして、ただ広い範囲については、Pace and Smithは何ケ所も測っているが、これしか今のところ分からないということである。

(3)理研グループの測定
次に、理研グループの測定であるが、これは、原災報に増田、坂田、中根の3名の調査として載っている。ネーヤ型宇宙線計データという。そのデータがこのように載っているが、よく見ると、0(ゼロ)という数値があり、これは、バックグラウンドの比にする場合に0はないはず。1、最低でも1のはずであるが、実際1以下もある。そのこともあって、このデータはあまり使われてこなかったということがある。これに対して、先程の調査された中根先生が2000年に、ラジオアイソトープ誌、アイソトープ協会の研究誌にレポートを載せている。これは、今のようにネーヤ型のデータというのが分かりづらいというのがあり、ネーヤ型の測定データを[J]という単位になっているが、もともとのデータで数値が入っている。それで、この黒い数値は、6.4J以下と低くく、バックグラウンドに似ている。それで、このあたり白抜きが10J以上で、緑が中間くらいということ。まず、この論文をみるとネーヤ型は、少し古いものかなと思っているが、実は宇宙線計でフィールドワーク用だと非常に安定しているということが書かれており、ローリッツエンは、室内で使うものであり、フィールドワーク用ではないので外にでるというと少しいろいろある。ネーヤ型というのは、フィールドワーク用であると書かれてある。それで、西山地区では先程の篠原先生たちが、集中的に測られていたので、自分たちはそれより広い範囲を測っている。これは米軍のジープにネーヤ型を積んで、測ったということであるので、かなり広範囲に測られている。これを見ると、非常にこの辺りが高い。ここは少し薄くなっている。それと、雲仙の島原、この辺りが高いというのが分かる。およそここで17Jぐらいの値であるので、この辺り十数kmとほぼ同じくらいの降下物が島原にも来ていたというのがよく分かる。

【D委員】
これは、先生、何年の測定か?

【A参考人】
測定は、同じ1945年の12月25日。

それで、同じ論文に西山地区でも測られているのは、1か所ではなく、実は何ケ所か測られている。その数値が627Jとか、685 Jというのがある。この辺りだと、私が土地勘がないので分からないが、100ぐらいという数値で、同じ西山でも高い所と低い所がある。それで、先程のデータを私なりに解析をしてみた。ただ、先程の色刷りのデータも距離が非常に曖昧で、あまり正確でないので、まずは、島原あたりの距離を現在の地図で確認してそれから換算したが、あまり距離は正確ではない。まず、爆心から北の方向、バックグラウンドを測っているが、この辺りは5Jという単位。南の方向もこの辺りでだいたい5J。島原半島の下の方についても5Jくらいになっている。5Jをバックグラウンドとしてとったが、島原半島全体についてみると、この辺5Jであるが、島原辺りについてはこれぐらい高くなっているので、大体バックグラウンドの3~5倍ぐらいの線量になっている。

それで、これは少し小さいが、一応、私のほうで東側についての生データを、原爆の1時間後から、マイナス1.2乗の式で直し、それを5倍して積算線量に直した。西山地区の空間線量40Rとして計算した。そうすると、積算で空気中の線量が出て、組織吸収に直すと0.7かけて、実際の生活では家の中にいる、又は外にいるというのがあるので、それも0.7ぐらいで、cGy(センチグレイ)に直すと16.4。これは、岡島先生の報告にあるが、それと同じになる。あと計算したが、当然ながら岡島先生が言われたようにネーヤとの比較は全体に合っている。それと、同じ結果である。長崎のフォールアウトによる被爆線量というのは、このデータが一番いいだろうというのが私の結論である。

これをグラフに直すと西山地区から20km、この辺りまで、このような分布になっている。この回帰曲線の傾きを求めた。傾きについては後で、全部まとめて評価するが、マイナス2.66という傾きとなっている。この傾き数値が大きいほど急傾斜です。

4.2 土の137Csの測定データに基づく推定

(1)1976、1978年に採取された土(S51厚生省サンプル)
次に、その後、集められた土のセシウムについて、データに基づく推定というのを私なりに行っている。

最初に1976年に採取された厚生省サンプルの土である。これは、広島で107ヶ所、長崎98ヶ所、西山20ヶ所で爆心から30km以内で測られている。結果は西山地区では高いけれども、それ以外では有意性がなかったという結論になっている。それを調べてみたが、長崎の場合は、この報告で10kmから30kmまでのサンプリングが行われている。実は、この同じデータは、広島医学の橋詰先生たちが、岡島先生、竹下先生とともに、1978年に同じような論文を書かれている。これをみると、東側であれば、具体的にこういう所のサンプリングを行ったというのが載っている。

それで、このデータ全部を並べてみると、この赤い点が西山地区。西山地区だけでも、低い所、高い所があるというのが分かる。それで、東側の方にもサンプルから、何となく、傾斜があるというのが分かる。その他の方向についてはバラバラで、特に分布はみられない。これを、バックグラウンドを差し引くと、このような分布で、さらに、最大値を推定すると、低い値は少し外すとこのような分布になってくる。これを、回帰曲線を描くと、傾きとして0.596とかなり緩い傾斜となっている。

(2)山本政儀ら(金沢大)によるS51年厚生省試料のPu、Am、Csの分析(一部試料)
この同じサンプルを、金沢大学の山本先生が分析されている。これは、西山地区で5点、それ以外8点、合計14点しかされていない。結論としては、西山地区のプルトニウムの面積あたりの14.4から45.1 mCi/km2、プルトニウム・セシウム比、これが、西山地区では、0.15~0.31。それに対して、その他のグローバルな値は0.016~0.027と非常に低くく違いがあるというのが分かる。それで、8kmくらいまでは、長崎原爆の影響を検出できると考えている。広島については、距離、方向に依存しない。

山本先生の論文を少し紹介すると、これが西山地区で、これがそれ以外のところであるが、白いのがプルトニウムで、西山以外ではこれくらい低い。これに対してセシウムは、この黒い方であるが、あまり違いがない。プルトニウム・セシウム比にすると、西山地区では、先程言った0.3ぐらいの数値が並んでいる。それ以外では、0.02の数値が出ている。

山本先生はこういうグラフは描かれていないが、プルトニウムデータを距離で表して、回帰曲線を求めると、傾きとして-2.506で、セシウムについては、これくらいで、-0.928くらいの値になった。

(3)馬原保典、工藤章(京大原子炉)の長崎フォールアウトに関する研究
次に馬原先生たちが行った測定であるが、1981年から行われており、これも、原論文は見ていないが、原論文をみれば数値が出ていると思うが、20kmまで2kmごと、80~120kmの土、橘湾の海底土から測ったというのが分かった。プルトニウムは、長崎原爆のプルトニウムはだいたい15kgとして1.2kgが爆発して、要するに92%はグローバルフォールアウトとなり、全体の0.25%が地上に落ちたという風な評価がされている。馬原先生たちのデータは、距離にして爆心の風上側にも何点かあり、西山地区で64.5mBq/g。それで、この傾きとして100km、この辺りだと思うが、これがグローバルで0.2mBq/gとあり、このように20kmぐらいまで飛来してる。これも先程と同じように傾きをグラフから読み、解析してみたが、プルトニウムで少し大きいが、-3.58、セシウムは-0.67という傾きになった。

(4)岡島報告書 平成3年(1991)6月
岡島報告書であるが、これはもう、よくご存じのとおりだが、70地点のサンプルを採取されている。結果としては、バックグラウンド0.9Bq/kgとなっている。馬原論文では0.2Bq/kgぐらいで違いがある。有意なものは西山地区で6地点、その他で9点あり、被爆線量の推定は西山地区で20~40R、DS86の線量評価にその数値をもってきて、人体組織で0.7倍、行動実態ではその0.7という値で、最大で16cGyという値になっている。これは、西山地区のプルトニウム24Bq/kgこれを16cGyに相当するものとされている。プルトニウム自体から線量評価はできないので、これをされたというのは、プルトニウムとセシウムが同じ比であるということで、セシウムの換算比を使って出されたということになる。表面的にみればセシウムは全然変わってないが、セシウム・プルトニウム比が一定だという仮定がはいっている。それで、結論としては、ネーヤ型と比較した場合、概ね一致したというのが分かる。内部被曝についても、先生自身が評価されて、大きくないということを言われている。拡大要望地域での最大の推定線量は、2.5cGy、25mGyということで、過剰相対リスク(※26)は、この程度、要するに低いということが分かる。

岡島報告書では、プルトニウム・セシウム比が一定と仮定されているが、実際にはセシウムとプルトニウムの比は一定でない。これが影響するかと言うと、遠方で過小評価ということになる。岡島先生のデータを、グラフにしてみると、西山地区からこんな感じ、バックグラウンドを岡島先生0.9Bq/kgをとられているが、これは、要するに東側以外のプルトニウム0.9Bq/kgであるが、東側をとると0.9より高くなることになっている。それで、傾きを調べると、プルトニウムで-1.89という値になる。

(5)島崎、奥村他の研究
この同じサンプルを実は島崎先生、奥村先生たちが測定されており、長崎医学の1992年と1994年の広島医学に載っている。これは、なにをされたかというと、岡島先生の報告書は、プルトニウムしか測られていないが、プルトニウムとセシウムを測ったということと、初期線量率の測定と比較したということが書かれている。しかしながら、大部分のサンプルは一緒であるが、この岡島報告書については、全く引用されていないということがある。それと、岡島先生の報告書や島崎、奥村先生の論文も先程の2000年の理研のデータについては、まだ知られておらず、最初のデータしかない。この島崎、奥村先生たちの論文では、沸点の高い元素は早く凝固して落ちる、ということで、プルトニウムが先に落ちて、セシウムが遠くまでいくからプルトニウムとセシウムの分布が違ってくるということが分かる。岡島先生のサンプルに対して、この5点を追加されたということである。それで、この5点ついてプルトニウムを測ったということである。プルトニウムを並べてみると、先程、岡島論文でいわれたようなグラフになる。それで、バックグランド引くと、こういう傾斜になって、この傾きはマイナス1.81。セシウムを並べると、こういう感じ。この中でプルトニウムが高かったのは黒い点で、これをみると少し傾斜がある感じにはみえる。それで、プルトニウム・セシウム比のグラフを作られて、このようなプルトニウム・セシウムの傾きは、比が一定であれば、傾きは先程の1.81と一緒であるが、セシウムの傾きが緩やかであれば小さくなり、1.76となる。ただ、大部分がプルトニウム。最後にこの、島崎論文にこのようなグラフが載っており、距離でプルトニウムの減少がこの間マイナス1.81の間、セシウムがこのくらいになる。私が厚生省のデータから見積もった時のものと比べるとおよそ似た感じ。それで、初期の線量率のデータの傾きがこの辺にくると出てきた。

これも、元の表が島崎論文の表であるが、これに、私が今までに見積もってきた傾きのデータを加えると、島崎論文では、プルトニウムは傾きマイナス1.81、セシウムはマイナス0.74で、岡島報告書は、マイナス1.89で、山本先生のプルトニウムでマイナス2.5で、理研のグループは概ねマイナス1.4、これをまとめると、プルトニウムがマイナス1.8~3.5、かなり急な傾斜になる。それで、セシウムはこれに比べると0.6~0.9と緩やかになる。私が理研のデータから読み取った傾きはマイナス2.68であるので、これとかなり違う。これがなぜ違うのか原因は分かっていない。

岡島報告書の中にあるデータと理研のデータ、私が見積もったもので比較すると、西山のほうでは一緒。青い点が岡島報告書のデータ、赤い方が理研のネーヤのデータで、概ね合っている。岡島報告書が少し上で、これは対数値。リニアに直しますと岡島報告書はこの辺りで、理研のデータは少しわずかに低い。この岡島先生の1990年のプルトニウムのデータも原爆のあとの状態が少し分布が広がっている。セシウムだともっとはるかに変わってくる。それがあると少し上にくる。本来これ同じはずであるが、若干、上にきているのは、やはりプルトニウムはほとんど動かないが、少し動いている可能性があるということ。

これは私の感想であるが、岡島先生の報告書にある住民の最大被爆線量というのは西山地区で、ここが被爆地点からだいたい7kmあたりで、拡大要望地域というのは、12kmになっている。岡島先生のデータをみても7kmの前後であまり変わらない。ここに線引きする理由がないんじゃないかとういうのが私の印象。また、今回のこの12kmにとっても、これはもうほとんど変わらないと思っている。

それでは、もう一回比べてみると今の指定地域はこのあたり(*6.7kmを指す)に線が引かれている。ここについては、理研のデータがたくさんある。12kmの前後で比べるとやはりそんなに変わらない。大きく変わるのはここ(*16km辺りを指す)、このあたりが妥当ではないのかなというのは、これは私の印象である。

(注)(*・・・)の部分は、事務局で追記しました。

(まとめ)
最後であるが、被爆線量を推計するには、やはり、初期調査のデータが最適じゃないかとのこと。長崎の場合は、プルトニウムが非常に多く検出されている。それはプルトニウムというのはあまり動かない。だから原爆の後の状況をかなり留めている、ということが言える。岡島報告書では、プルトニウムのデータをもとにセシウムから被爆線量を出している。プルトニウムを使われているということで多少過大評価であるが、妥当であると言える。

あとは私の印象で、線引きの場所がちょっと離れているかなという気がしている。

ひとつ付け加えると、マンハッタンのデータというのは、理研のデータと比べると諫早の上のほうと西側、南側のあまり関係ないところのデータが多く、島原の高いところは測られていない。

【D委員】
マンハッタンのほうが測っていない。

【A参考人】
測っていない。

【D委員】
そうですね。

【A参考人】
結局は、あまり違わないだろう。

【D委員】
基本的にはいっしょだけれども、測っている地域が少し違う。

【会長】
新しい我々が採ったデータとか、測定値も含めて、解析していただいた。これは、D委員からまずはご質問をいただきたい。

D委員が前回報告されたあれは、だいたい岡島先生の評価と同じ考え方ということなのか。

【A参考人】
IAEA(※27)のデータ換算率。

【D委員】
IAEAの換算率を使っている。

【A参考人】
セシウム137である。それ(核分裂生成物)を全部いれればちゃんとした評価になると思う。セシウムだけでは過小評価になっていると思う。その点だけ。

【会長】
はい。それではどうぞD委員。

【D委員】
全体の解析の基本的なやり方として、横軸に爆心地からの距離をとって、被爆線量或いは換算係数をとって、それをセシウムなりプルトニウムで全部評価して傾きをみてみたと。そうすると空間線量率の場合と、それから土壌中の汚染濃度の場合と、それから同じ汚染であってもセシウムの場合とプルトニウムの場合で、違った時間の傾きが得られたということか。

【A参考人】
そうである。

【D委員】
それで、実際の初期調査の空間線量率では、-2.68という値と急なストロークをしていると。それに対して放射線量からみた場合は、セシウムはかなり緩やかに、プルトニウムは急であるというお話しということでよかったか。

【A参考人】
そうである。

【D委員】
分かりました。今のは、ちょっと基本的なところの確認をさせていただいた。それから、岡島報告書に関しては、セシウム・プルトニウム比を1対1にという、同じだと前提が実は違ってくるからちょうど相殺してあの程度で、実際の報告書ぐらいのデータのところが妥当ではないか、とそういうご判断ということでよろしいか。

【A参考人】
そうである。

【D委員】
極めて分かり易い。

【会長】
よく理解できたと。

【D委員】
はい。

【会長】
非常にたくさんのデータがあるので、また、これは、後日、先生方の言いかけた質問を先生にEメール等でお伺いするという方法をとらさせていただきたい。

審議事項2 原爆放射線の人体影響に関する研究等の情報について

1 被爆2世における遺伝的影響研究のまとめと考察

【会長】
今日の予定の第2の原爆放射線の人体影響に関する研究等の情報について、まずは、被爆2世における遺伝的影響研究のまとめと考察をB委員にやっていただく。よろしくお願いします。

【B委員】
手元の資料2になるが、私の宿題は、被爆2世における遺伝的影響です。被爆2世の遺伝的影響調査ということで、放射線がDNAに影響を与えると、体細胞に異常が起これば被爆者自身の健康に影響を与えるわけであるが、生殖細胞である卵子、精子でのDNA障害では被爆2世への遺伝的影響が懸念される。

スライド2枚目にあるように1945年以降に生まれた2世の方に対して、今まで出生時の障害、それから染色体異常、血液タンパク質の突然変異、DNA調査云々というのが行われてきている。それぞれの2世の方の年齢と、その当時にできる検査との組み合わせでこのようなことが順次行われてきている。

順次説明させていただく。

最初が出生時の障害になる。1948年であるので原爆が落ちて3年後であるが、新生児として約75000人、この中で両親に血縁関係がないということで約65000人、血縁関係にあると劣性遺伝とかあるので65000人が対象になっている。調べられたのが体重、未熟度、性比、新生児期の死亡、出生時障害。妊娠終結異常も調べられているし、循環器疾患等はなかなか新生児期にはわからないということで生後8~10か月後に改めて検査されている。両市に不在と低・中・高線量被爆に分けているが、低は50ミリシーベルト以下、中は500ミリシーベルトまで、高は500ミリシーベルト以上ということで、父親と母親とそれぞれで分けて奇形率が計算されている。全体として約600名で異常が見つかっている。見つかった奇形は無脳症、口蓋裂など、いわゆる普通見られる奇形と同じである。当時、戦前に東京で大規模に奇形率が調べられており、それは比率が0.91であるので、ほとんど変わらないということで出生時の障害はないということがわかると思う。死産の率も出ているが比率に差はない。これを併せた妊娠終結異常で、奇形と死産と2週間以内の死亡と併せても線量との関係はないということで結論付けられている。他にも原爆以外の被ばくのデータもたくさんあるが、治療に伴う高い線量率では、早産、死産、低体重とか多いという場合があるが、どちらかというと遺伝的な影響というよりも、いわゆる子宮への障害が考えられるということ。

さらに性比に関してもやられている。性比に関しては被爆を受けた遺伝子を赤で書いているが、黒のエックス赤のエックス対赤のエックス黒のワイが大体1対1になる。

この場合、優性遺伝の場合はどちらも死亡となるので変わらないが、劣性致死の場合は黒のエックス赤のエックスは生存するが、赤のエックス黒のワイは死亡するということで、母親が被爆を受けた場合は、子供として男児が減るんじゃないかと予想である。逆に父親側が被爆を受けた場合はエックスとワイが赤になるのでこの形で1対1で理論的には生まれる。優性致死の場合は、赤のエックス黒のエックスが死亡する。劣性の場合は差が出ないので、優性致死が起こって、父親被爆の場合は女の子が減るんじゃないかという予測ができる。実際子供の性比を調べると差は見られていない。実際、最初の頃は少し予想に合うような結果があったようであるが、症例が増えるにしたがって差がなくなって最終的にはこのようになったという、歴史的な経緯があったようだ。

次に1960年代から染色体が調べられるようになっている。基本的にはギムザ染色、簡単に染色体を染める方法であるが、被爆者8,000人と、対照8,000人で検査が行われている。染色体の異常として見つかったのが、性染色体の異常がこのように被爆群に19例、対照群に24例と、対照群の方がちょっとであるが、少し多めに出ている。常染色体の異常に関しては、構造異常と、数の異常が報告されているが、このように影響は見られていない。数の異常として、ダウン症候群が1例あるが、全体的な異常としては0.5%とうことで、世界各地の新生児における染色体異常との比較は差はないということが報告されている。

このうちの転座(※28)と逆位(※29)について報告があるが、23例と27例のうち転座と逆位は18例と25例である。この中で実際に親も調べて親にも同じ異常があった場合、親に異常が無い場合、親が調べられなかった場合がある。親に異常があったということは、放射線に関係ないわけである。両親が正常で異常があるということは、生殖細胞に異常があった可能性がある。被爆群の場合、このように18例であるが、親が調べられた11例のうち、1例で異常が見つかっている。そういう頻度で異常が起こるとすれば、この調べられなかった7例のうち、親が異常であるという確率は、7×1月11日になる。こちらも同じように9×1月16日ということになって、18例と25例の中で、実際に推定される新規の異常というのは、1+7月11日で1.64。こちらは1+9月16日で1.56ということである。それがもともとの数が8,000人ということで比率というのが0.0197とか0.0196とかの頻度になっている。これも世界でいろんな調査がされており、新規の構造変異が0.018%と言われているので、ほとんどこれも変わらない。被爆群と対照群でも差はなく、世界の他の地域とも差はないということで、放射線と関係なく低頻度で起こる生殖細胞での遺伝子の異常というのがここに反映されているだけということになる。

1970年代になって、血液の蛋白質の解析がされている。まだ、遺伝子の検査が詳しく出来ない時代であるので、血液の中の蛋白質を電気泳動で調べて、遺伝子の異常があればアミノ酸が変わって電気泳動のパターンも変わるだろう。更にはアミノ酸が変わったことによって酵素の活性がなくなるんじゃないかという考えで検査がされている。電気泳動に関しては血漿蛋白4種類、赤血球蛋白が26種類。酵素活性には赤血球酵素9種類の活性が調べられている。11,000人から12,000人が対象になっているが、1人当たり調べられた数をかけると50万から60万位の蛋白質が調べられたことになるが、頻度として出てくるのは2例とか3例くらいで、頻度的にも0.5×10-5、酵素の反応も調べられているが、基本的には被爆群1例だけであるが統計学的に血液の蛋白質に異常をきたすような遺伝子の異変はないんじゃないかという結論もここになされている。

そして、1980年代半ばになって、やっとDNAの検査ができるようになっている。ここでミニサテライトという人の遺伝子の中にある繰り返し酵素がある。6塩基から100塩基くらいを繰り返すミニサテライト、それからもっと短い1塩基から6塩基くらいの反復マイクロサテライトというものをそれぞれ8箇所、40箇所選んで、その反復の数が変わるかどうかというところを見ているが、調査した子供の数は少なく、60例前後でパイロットスタディ的にやられておるが、ミニサテライトで2%台、マイクロサテライトで0.4%くらいの頻度ということで、対照群被爆群とも差は出ていない。

それ以外に詳しいデータは出していないが、DNAの二次元の電気泳動で調査するもので、ゲノムを制限酵素で切ってそれを二次元に流し、スポットで出てくるが、スポットの強度からコピー数を推定するという方法や、さらには最近、マイクロアレイという方法があるが、これもまたコピー数を推定する方法であるが、コピー数の異常で有意な差は出ていない。

次が生活習慣病の有病率であるが、2002年から2006年に行われている。当時平均年齢が49歳で、高血圧→糖尿病などの疾患が調べられており、父親被爆と母親被爆で区別しているが、これら多因子疾患の発症に差は無いということがこの時はわかっている。年齢がまだ50歳未満と若いので今後もさらに調査が必要だということはこの時言われおり、昨年の放影研の地元連絡協議会では被爆2世の臨床調査4年ごとの健診を計画ということで、9,000人以上の受診の予想であるので、この調査は今後進んでいくのではないかと考えている。

次は死亡率。出生時の死亡率の話はしたが、20歳未満と、20歳以降の死亡率というのが報告されており、2007年の時点で平均年齢47歳である。

がんの死亡とがん以外の死亡を20歳未満と20歳以上で出して、ハザード比(※30)を計算しているが、基本的には上がっていないということで被爆量による有意な死亡率の増加はないとこの時点では結論されている。

がんの死亡率に関してはいくつか報告がある。最初の報告は白血病。小児の白血病が多いとのことで最初の3つが白血病だけの報告であるが、距離とか被爆量に従って1群2群3群に分けて発症率が検討されて、基本的には差が見られていない。Yoshimotoらの報告は白血病と固形がんも含んでいるが、白血病に関してはここにあるように基本的には差はなく、固形がんにも頻度には変わりないと言われている。この次にIzumiらの報告であるが、血液疾患と固形がんの発症率であるが、20歳前と20歳以降の発症で比較されているが、20歳前だと、リンパ腫を含めた血液のがんの父親被爆と母親被爆で変わらない。固形がんでも変わらず、そして20歳以降でも父親被爆と母親被爆でも変わらない。固形がんでも基本的には差はないということが言われている。

ここまで報告は基本的に放影研を中心に調査が行われてきたが、今までのところ差は全く認められていない。ただ一つ、広島の鎌田先生らの報告が2世で白血病がでてるんじゃないか、という報告があり、前回の時もご報告したが、もう一度改めて新しい論文が出たので、そこを少し報告させていただく。

これが3年前の後障害研究会で発表されましたデータである。放影研のデータでは被爆者からの白血病が20~30例くらいしか把握されていないが、鎌田先生は広島の94件の被爆2世の白血病の症例を持っておられる。その中で原爆投下後から分類していって、最初の10年くらいで50名が発症した。次の10年で30例が発症した。その後が16例であるが、その中で1966年から1975年の発症が高いということが先ず言えるということである。次に発症年齢というのが図3にあるが、0歳から20歳25歳くらいまで非常にずっと高い、これが一つの特徴だと鎌田先生が言っている。次のスライドで示しているが、一般的な人口での小児の白血病は最初2~3歳でピークがあって以後下がるが、鎌田先生の症状では下がらないということである。それから慢性と急性の比率も示されている。結局、子供の出生年として、1946年から1955年、いわゆる原爆がおちて早期に生まれた子供さんに、しかも両親被爆の場合に非常に白血病の頻度が高いということが分かった。両親被爆の場合に期待値が最も高くなっています。

こういう報告を2年前3年前にされている。両親の被爆量の記載が全くない。ただし、白血病の分で骨髄芽球性とか色々あるが、あるタイプの白血病は幼少期だけでなく年齢は高くなっても発症率が高いというものもある。実際に鎌田先生の症例がどういうタイプの白血病なのかという記載がないので、一概に違うと言っていいのかどうかというのは問題かなという気がする。

次に去年、後障害で発表された内容がまた論文になっている。先ほど94例症例をいったが、その中で兄妹の例がある78例の中で、兄妹が発症している発症していないで差があるんじゃないかということで、リスクの計算がされている。両親の被爆区分、つまり爆心地からの距離と入市の有無、それから子供の性別、子供の出生日、つまり原爆が落ちた日から出生日までの経過時間の3つを変数として、スライドにあるようなモデルをたてられている。この3つで想定されているが、この論文で見る限り、この想定が正しいのかどうか、ちょっと情報不足で分からない。しかし、この3つで決まるんじゃないかということで結論としては。原爆投下後早期に生まれた人で、父親が1キロ以内で被爆の場合は、原爆投下からの期間が短いほど発症リスクが高いということを報告されている。ですから父親の場合なので、父親の精子と、精母細胞のDNAダメージ、異常ということになるが、精母細胞の生存には影響しないけれども、将来白血病になるような遺伝子の異常が起こり、それが早い時期に受精して子供ができた場合には病気になるけれども、時間がたつと、それは出てこないということになると思うが、そこらの解析というのも問題になってくるのかな、と思う。いずれにせよ、被爆の早期に生まれた2世の方に影響があった可能性というのは、ちょっと示唆される報告ではないかと思っている。もう少し鎌田先生は調査されるのでしょうけれども、あえて言うと早期に起こった可能性が有るのではないかと思っている。

【会長】
B委員ありがとうございました。それでは委員の先生から何かご質問はないか。

【A委員】
単位の確認だけだが、スライド9、10ページ。DNA調査の被爆群の平均被爆量の1.47と書いてあるのは単位は何なのか。グループ分けは0.01グレイで分けているが。

【B委員】
これは多分ミリグレイ。

【A委員】
下も一緒。

【B委員】
そうである。

【A委員】
先生がされたのはほとんどが放影研の文献。

【会長】
センチグレイ。確認するように。

【A委員】
それとスライド11だが、ぱっとこのハザード比を見ると、ガン以外の死亡では20歳以降で5から149。これもセンチグレイか。単位グレイじゃなくて。

被爆線量はグレイになっている、センチグレイか。

【B委員】
ミリが抜けている。これはミリグレイ。

【A委員】
5から149のグループで横に行ってガン以外の死亡、一番はし。1.39。ここだけちょっと高い感じで。線量の高い所は低くて、統計の変動かなにかか。

【B委員】
ですからこれは結局、その下のより高い線量で0.99で上がっていないということで、線量依存性はないというふうに捉えられて結論付けられている。

【A委員】
参考の母親被爆の場合も1.43と変な動きをしているが、同じような感じなのか。

【B委員】
はい。

【A委員】
ありがとうございました。

【会長】
よろしいか。そうするとB委員、今までの調査をされた被爆2世への遺伝的影響というのは、まだはっきりしないということになる。鎌田先生のデータもまだ完全なものではなくって、まあ、いずれ鎌田先生に実際にここに来てもらうということもあっていいかな、と思っているが。あと、今後、どういう研究、研究は今されているのが、放影研の研究がある。これがまだ先生、分析されていない。先ほどのページの生活習慣病ですかね、あれがそうか。

【B委員】
あれは臨床の健診。今年からやられるのだろうと思うが。

【会長】
そういうデータの結果はまだまだ先にしか出てこない。

【B委員】
放影研が中心でやられてきて、いわゆるその時代時代に合わせた最先端の検査方法でやられてきていると思う。いわゆる遺伝子の検査もどんどん進んでいるので。

【会長】
今後はそういう非常に新しい遺伝子の分析方法を使った研究がされる可能性が有るということか。

【B委員】
そうだ。 

2 放射線の低線量被曝による人体影響に関する学術報告の調査と解析

【会長】
「放射線の低線量被曝による人体影響に関する学術報告の調査と解析」をお示しする。これは、みなさんよくご存知のように、100mSV以上で原爆被爆した場合にガン白血病の発生率が少しずつ上がっていくわけであるが、直線的に上がったり、少し指数関数的に上がったり、これは世界中で認められているが、100mSV以下の低線量、特に50mSV以下くらいになると、真相が分からないというのがこれまでの通説で、その中でどういう報告が今までになされているかということで、インドのケララ州をはじめ世界中にいくつかある高線量被曝地帯が1番目。それから2番目にウラニウム鉱山のラドンのガスを吸って肺がんが増えるっていう報告がある。それから3番目にCTスキャンで子供の被曝は白血病ガンを増やす可能性があるという論文があるということ。それからウラニウム鉱山と、ラドンと少し近いが、ラドンは一般の家庭でもあり、それを詳細に分析したのが2番目。ウラニウム鉱山のラドンが4番目。この辺の論文が数百あるが、調べてみると、現在、分析に値する、20mSVとか50mSVくらいの範囲で、健康影響、すなわちガンが子供たちに増えるというのは、唯一このCTスキャンの被曝である。この論文が6つくらいあり、その中から非常に大規模の研究である英国とオーストラリアの研究を2つ紹介する。それから、この二つを見るとほとんど影響があるのではないかと思われる結果であるが、それにもいろんな欠陥があり、それを指摘した第3の論文が今年になって、フランスのある大規模研究から出た。ここに紹介する1,2,3の論文の結果、やはり100万人規模の子供のデータがないと本当の分析ができないということで、EUの11ヶ国でEpi-studyというのが始まっている。これが今年ぐらいに一応結果が論文になって出ると予告されている。そしてその結論は、20ページに示している。今回の結論は、研究会の現時点での見解を書いているところである。精度の高い大規模研究により50msv以下の低線量被曝のCTスキャンによる健康影響について、影響ありとする論文が多く出版されている。しかし、いずれの論文も、なぜCTスキャンをしたか。健康な子供がCTスキャンを受けるにはそれなりの症状とか、いろんな医学的な理由があるはずであるので、その検討がいずれもされていないとのこと。この点を疑問視して行われたフランスの大規模研究では、その何万人もの子供を集めると、ガンを発症しやすい先天異常の子供とか、免疫不全、特に腎移植などの移植を既に受けている子供たち等の症例を考慮しないといけない。それを考慮すると、これが子供たちの症例のCT検査の回数が、フランスのこのグループの解析では有意に多く、回数が1回じゃない。2回3回と繰り返されている。そうするとこのグループの被曝線量が高い。そこから白血病・ガンを発症した症例がかなりあり、全体の白血病・ガンを100とすると、この群に属しており、これを計算に入れないと本当の群が分からない。計算に入れてみるとイギリス、オーストラリアの第1と第2の論文でいわれた低線量被曝の健康影響は、フランスのこの解析では有意ではなかった。完全に否定しているのではないが、有意にはならなかった。従って、今後、こういう先天異常とか、免疫不全の子供をしっかり把握したうえで、全体解析をしないと、純粋の低線量被曝の影響は結論は出ないということであることから、既にフランスのグループを中心に、Epi-study(※31)が始まっているという状況があるということが分かった。これは去年までは把握してはなかったことである。

それで、あとは簡単に、資料の横書きの資料が(1)。論文1です。Pearceという人が著者で、Lancet(※32)という世界で有数の雑誌であるが、これは論文タイトルが、小児のCTスキャンによる放射線被曝がその後に白血病及び脳腫瘍を引き起こすリスクの後方視的コホート(※33)、studyということである。後方視的というのは最初から計画してやったんじゃなくて、後から振り返ってみてという意味。研究の方法は、過去にガンはもちろん患っていない子供たち、健康な子供たち、ということで集めてCTスキャンを行った。

また、フランスの全国の13の大学病院のデータも全部集めた。そこで、178,604人の子供たちを分析している。かなり大きい数字である。

そして、1985~2008年まで。CTは2002年までのグループである。それと、結果の要約であるが、2008年まで経過をみたところ、白血病と脳腫瘍を発症してきた子供が、白血病74例、脳腫瘍135例あったこと。それからCTスキャン被曝線量をしっかり計算したところ、癌の発生の間に相関が認められたこと。そして、彼らのデータでは、CTスキャン回数が1回、2回、3回と増えるごとに、白血病と脳腫瘍の発生が上がるというデータになっている。そこに、1mSVのあたりの過剰相対リスクとして、白血病が0.036、それから脳腫瘍が0.023。白血病の場合は対象のCTを受けてない小児の白血病の発生率にすると約3倍になっている。また、脳腫瘍の場合は約2.8倍ということをいっている。この論文の理由が、CTを受けた理由が分かっていないので、そこが調査されていないのが欠点だということを自分たちも認めている。従って、癌、白血病の発症の1年前にCTを受けているグループは除くとか、2年前までの症例も除くとか、いろんな除外をしており、それらをしても有意にこういう結果が出たということである。これは、統計学的には有意だという論文のはしりであり、ここから世界中がそれは大変だと、子供のCTで白血病とか脳腫瘍が起こったら本当に大変なので、あらゆる国がEpi-Studyを開始したはしりの論文ということである。これは、多いといっても10,000回CTをする時に1例の白血病という、或いは1例の発症という程度の低さではある。それが有意であるかどうかということ。論文の評価として、3点挙げているが、いままでのとおりこれは繰り返しとなるので省略する。

次の論文が、さらに大規模のオーストラリアでの論文であり、68万の子供たち、CTを受けた子供たちを対象としている。そして、もともとのデータは11百万人、オーストラリアのメディケア(※34)という日本の保険制度の同じようなものがあるが、そこで、CTを受けた子供を68万人追跡している。そこから出てきた結果の要約であるが、11百万人のデータのうち、60万人が癌を発症しており、その68万人のうちCT検査を受けていた人が3,150人の集団をいろいろ分析した。そこで、4,5,6,7と結果が書いてあるが、癌と白血病の発症が1.24倍ぐらいになっている。そして年齢が低いほど、1.35倍ぐらい高い。白血病、その他の癌を調べており、それぞれ有意に増えている。ただ8番目であるが、100,000人あたりに換算すると、9.9人が白血病になっているということである。その時の平均のCTの被曝線量は4.5mSvとかなり低いようである。これは、驚きのデータである。もちろん、これがある期間だけみたその期間内の白血病、癌の発生率から、将来ずっとこの子供たちが成人していく頃には、あと20年、30年、50年と続いて、そういう研究はある意味では意味がない。だから何年間みればいいんだという問題も含まれているが、生涯リスクは計算できない。しかし、こういうデータが出た以上は、少年、青年のCT検査は、早い時期に制限するべきだという主張をしている。それで、評価の1.2.3.であるが、先程と同じようなことで、CT検査を受けるに至った理由が調査されていない。本論文もそういう欠点を自分たちも認め、そのために、CT検査と癌、白血病の発症の間が短い症例を除くとか、そういう2次的なことをいろいろやっている。

そして、3番目の論文から、先程言ったように、フランスの論文にでた。これは、結果のところだけ最初に見ると、癌を発症しやすい小児の先天性疾患を含めて精査したということである。2番目に67,000人の集団で、2000年から2010年の間に、10歳までに受けた最初のCTスキャンによる被曝とその後の癌の発症の関係を23の大学病院において調査した。CT検査後4年間の観察期間で結構短い。ですからこれも決定的な論文とはいえないかもしれない。これらの癌症例中32%がこういう先天症とかPF群のグループに属したということ。その疾患が欄外の一番下に*(アスタリスク)の1に挙げている。例えば3行目のダウン症候群。これ67,000のうち202例のダウン症候群。ダウン症候群は白血病を起こしやすいということがよく知られている。実際ここから白血病がでてきており、それを放射線の影響だといってしまうと問題がある。それから臓器移植が一番先に書いてあるが749例もしてある。ここから臓器移植すると免疫が落ちまして癌が起こり易い。そういう意味では、非常に重要なことであるが、この論文はそういったところもしっかりとしている。しかし、自分たちのこの研究も67,000人という大規模であるが、それぞれの癌の症例の数が少なくなってしまった。そういうことで100万人規模のコホートのデータがないといけない。これからデータがとれるかどうかということであるが、100万人規模といえば、ひとつの国ではとてもできない規模で多国籍の検証をしないといけないということで、現在はEpi-studyというのが行われている。小児及び青年におけるCTスキャンの放射線被曝による癌リスクがあるとする論文が相次いでいることに鑑み、フランス、英国、オーストラリアを除くEU内のベルギー以下の11ヶ国の共同研究で、計算するとだいたい100万人規模のコホートということで、癌のリスクをあげるような、先天症なども十分検討をして結果を出そうとしている。それで既に被曝線量をどういう風に統一して出すかという被曝線量の推定方法がもう論文になって出ている。

これはかなり着々と進められており、今年中に結果が出てくるとなっている。今回、私が調べたこの問題の現在、低線量被曝で人体影響があると、すなわち100mSV以下で、ところでこれは推定しかできないということで、例えば、福島の場合20mSVで避難地区が設定されているが、年間20mSVが本当に人体影響があると証拠がないが、これだけ熱心にやられているということは、やっぱり非常に重要であると思われる。その100mSV以下ということがどこまで影響があるのかということを本当にデータをだす可能性がある大きなテーマになってきているということで、これは、ひいては今日のA参考人の発表にもあったように被爆拡大地域の被爆線量が20~25ぐらいか、ミリシーベルトに推計されるということは、この間、D委員からもご報告いただいたが、そういうものから人体影響が推計できるかということで、直結する部分もあり大変注目している。

【C委員】
よろしいか。

【会長】
はい。

【C委員】
一番最初のPearceさんと、実は去年の12月、私、ドイツでPearceさんといっしょに会い、その時にいろいろと話をしたが、Pearceさん自身も、今、先生がいわれたようにリスクが、このリスクがどうなのかという気持ちを感じており、リスクとしてこのくらいの癌の発症リスクであれば、その小児のCTをすることによって病気を早期診断するとか、治療に役立てることが今のままでは大きいんじゃないのかという、やっぱり検査をすることによるベネフィット(利益、ためになること)。ベネフィットのほうが大きいんじゃないかなというのがPearceさん自身もそういう見解である。

【会長】
非常に、リスクはあるけど非常に低い。CTで例えば病気で使って、それを手術なり、なんなりで命を救える利益のほうが大きい。それはある。

【C委員】その1点と、その論文の中で、その時も実は話題になったのが、いわゆる検査時年齢と癌リスクを比較したところがあるが、この論文では、検査時年齢が高いほうがリスクが上がるという風な傾向になっている。いわゆるこれまでの原爆被爆者のかたもそうで、チェルノブイリなんかもそうであるが、いわゆる年齢の層が逆のデータになっている。それがひとつのこれまでの本来というか、いままでの傾向とちょっと違うところになる。以上です。

【会長】
その検査法としてCTが安全性がどうだという本研究会の直接テーマではないが、放射線関係の世界では、このCT検査を子供にしていいのかということの方が大きい課題となっている。はい。ありがとうございました。他には。

【D委員】
高線量地帯であったり、或いは、ラドン(※35)があり、高線量地帯の全身被曝、それからラドンの場合は内部被曝と違いがある。CTの場合は、これは恐らく局所被曝が多いのではないかと思う。今回のこのような調査内容では。

【会長】
局所だけれども、ある程度の範囲で。

【D委員】
だから、線量の出し方も違うし、シーベルトという単位でもっていくところも計算というか評価の仕方を統一しておかないとリスクだけみてもなかなかできないと思う。

【会長】
それは、かなり細かくやられてはいる。臓器線量として。例えば、低線量をみるときは骨髄線量とか。

【D委員】
なるほど。分かった。

【会長】
それは、あくまで100万人規模くらいにしてしっかりやらないとそれぞれの症例とですね、発病してくる白血病、癌はほとんど少ない。その症例が、何十例とかぐらいでは、なかなか難しい。それが何百例とか何千例とか。そこまで出てきてでないと確定できない。

【D委員】
脳のCTで脳腫瘍はまだ分かり易いが、脳のCTで白血病というのは、ではどのように説明をするかということ。

【会長】
それは、分析を。それも11ヶ国の間で、統一しようと既に論文が出てくる。統一されているかどうか。今日はこれで終わりたいと思いますが、全体を振り返って何か。E委員何か。今日のところで新しい知見といいますか、あれば是非。

【E委員】
今日は、本当に貴重な情報を整理していただいて、整理された先生方には感謝申し上げたいと思う。A参考人の新しい情報の再解析みたいなデータも非常に今後この検討会では、大きな検討課題になるのではないかという風に思っている。会長が照会したCTのデータは、これからもEpi-studyの大規模な調査が行われるということであるので、低線量影響に関しての非常に大きなきちっとした論文になるんじゃないかと思っている。これは、先程のC委員の議論との続きですが、これが先程のちょっと実は控室で会長にもご質問させていいただいたことであるが、Pearceの論文も白血病の増加に関しては、ほとんどがMDS(※36)である。それは一般の今までの被曝のリスクからすれば、少し気になる感じもするので、そのあたりの解析というのも今後必要になってくるような気がする。

【会長】
細かいところまで入っていくと、そういうところがポイントだ。それから、被爆2世のほうでは、疑問に思っているのが放影研の白血病の症例がすこし少なかった。鎌田先生のはその3倍くらい、それがどうなのかということがある。放影研は、高線量被爆した両親はかなりの数で捕捉しているからこれでよろしいということになっているが。それも分析を加えていただければと思う。

【会長】
あと控えている解析すべき主な点は、今日、マンハッタン調査団、日米合同調査団、海軍の報告書など、まだ手つかずで膨大なデータを分析する必要がある。

これは、認定基準とかいろんな問題も含めたことに関わってくると思うが、A委員にみていただきたい。そういうものも検討としていく。それからA参考人の今日の文献をみると非常にデータが膨大であるということが分かったので、D委員はそこを含めてA参考人とも接触していただき、もう少しデータの原点に戻ってといったところで、少し分析を続けていただければと思うが、理化学研究所のデータも入っていたので。それも含めて。それから、島原地区まで測定されてるデータ、馬原データもあった。汚染という意味ではその辺りまで行っているということは事実ではあるけれども、それで健康影響があるかどうかということは、また別問題ではあると思うが、是非よろしくお願いしたい。

次回は9月ぐらいを目途にということで。

〈用語解説〉

※1 フォールアウト
放射性降下物のことである。大気圏における核爆発や、原子炉の事故による放射性物質の大気中への放出などが原因になり、核分裂生成物を含む放射性の粒子状物質が大気中(または成層圏中)に飛散し、これが生活環境に降下したものである。

※2 DS02
広島と長崎に投下された原子爆弾による被ばく線量に関して日米の専門家が共同で作成した評価方式。従来のDS86(Dosimetry System1986)を改善し、2003年3月より新しい線量推定システムDS02を寿命調査(LSS)に導入した。

※3 速中性子
中性子のうち、大きな運動エネルギーを持つもの

※4 中性子np反応
1個の中性子の照射により1個の中性子と1個の陽子を放出する反応

※5 AMS加速器質量分析法(加速器マス)
加速器を利用し、物質を通過する際のエネルギー損失率の差などを利用して同重体などを除去し、特定の原子のみを計測するもの

※6 原医研
広島大学原爆放射線医科学研究所

※7 DS86
広島と長崎に投下された原子爆弾による被ばく線量に関して日米の専門家が共同で作成した評価方式。英語名称 Dosimetry System 1986 の略称としてDS86と呼ばれる。

※8 Eu-152
ユウロピウムの人工放射性同位体 

※9 Ge検出器
半導体を利用した放射線検出器

※10 93Rev
原爆線量

※11 理化学研究所
1917年(大正6年)に創設された物理学、化学、工学、生物学、医科学など基礎研究から応用研究まで行う日本国内唯一の自然科学系総合研究所。

※12 原子爆弾災害調査研究特別委員会
1945年9月に文部省学術研究会議によって、原子爆弾の災害を総合的に調査研究するために設立された

※13 マンハッタン管区調査団MED
1945年に米国から広島、長崎の原爆から出た放射能及び残留放射能を測定することと、それらの人体への影響を明らかにするために広島、長崎に派遣された調査団

※14 ローリッツエン検電器
放射線の被曝量を測定するのに用いられる検電器

※15 理研の仁科研究室
1931年7月に、当時国内では例のなかった量子論、原子核、X線などの研究を行なうために仁科芳雄氏が理研で立ち上げた

※16 原災報
原子爆弾災害調査報告書 … 原子爆弾災害調査研究特別委員会が昭和20年度に行った調査研究について、総括編として昭和26. 年に「原子爆弾災害調査報告書」として出版したもの。 

※17 気象研
気象庁気象研究所

※18 バックグラウンド
放射線測定の際の、測定対象以外からの放射線。宇宙線や天然の放射性物質などに起因する。

※19 空間線量
ある空間における放射線量を表す単位の事で、基本的に地上1メートルで測定した1時間あたりの放射線量のこと。

※20 空気吸収線量
空間線量(※注19)と同義

※21 ネーヤ
ネーヤ電位計 … 宇宙線を観測する野外用の電気計

※22 ゲルマニウム検出器
放射性核種の同定や放射能の測定をする機器

※23 京大原子炉
京都大学原子炉実験所

※24 天然比
ある元素について、同位体の種類ごとに自然界に存在する割合

※25 公衆衛生協会
日本公衆衛生協会 … 公衆衛生の向上をはかり、健康で文化的な国民生活の建設に寄与することを目的とした会。

※26 過剰相対リスク相対リスク(暴露群の発生率を非暴露群の発生率で徐したもの)から1を引いたもので、相対リスクのうち、調査対象となるリスク因子(この場合は被曝放射線)が占める部分。

※27 IAEA
国際原子力機関

※28 転座
細胞は染色体切断端を誤って再結合することがある。こうした再結合が1つの染色体内で生じた場合、2個所の切断端の間に挟まれた染色体分節の方向が逆になること。

※29 逆位
切断された染色体末端の再結合が2つの染色体にかかわる場合、2つの異常染色体ができる。これらの異常染色体はそれぞれ他の染色体の一部と結合し、自身の染色体の一部が欠落すること。

※30 ハザード比
追跡期間を考慮したリスクの比。追跡期間によりリスクが変化する場合に使用する。生存率を指数関数モデルで表した生存関数において、その時定数をハザードという。

※31 Epi-study
疫学調査

※32 Lancet
週刊で刊行される査読制の医学雑誌。同誌は世界で最もよく知られ、最も評価の高い世界五大医学雑誌の一つである。

※33 コホート
分析疫学における手法の1つであり、特定の要因に曝露した集団と曝露していない集団を一定期間追跡し、研究対象となる疾病の発生率を比較することで、要因と疾病発生の関連を調べる観察的研究である。

※34 メディケア
公的医療保険制度の名称

※35 ラドン
希ガス類元素の一つ。元素記号Rnラジウムの崩壊に際して生ずる放射性の気体元素

※36 MDS
骨髄異形成症候群

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