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第5回(平成27年度第1回)長崎市原子爆弾放射線影響研究会

更新日:2016年11月10日 ページID:029039

長崎市の附属機関について(会議録のページ)

担当所属名

原爆被爆対策部調査課

会議名

第5回(平成27年度第1回) 長崎市原子爆弾放射線影響研究会

日時

平成27年9月28日(月曜日) 14時00分~15時10分

場所

長崎原爆資料館 平和学習室

議題

議題: 研究論文等の調査結果について
その他:・長崎総合科学大学 大矢名誉教授の研究論文について ・次回開催について

審議内容

審議事項 研究論文等の調査結果について

1 被ばく線量をモニターした原子力施設労働者(INWORKS)における電離放射線と白血病および悪性リンパ腫による死亡リスクの関連性についての国際コホート(母集団)研究

【会長】
まず、被ばく線量をモニターした原子力施設労働者(INWORKS)(研究のコード名で、「INWORKS」と言われる国際研究)、における電離放射線と白血球及び悪性リンパ腫(血液の癌)による死亡リスクの関連性についての国際コホート研究について、「コホート」とは労働者の大きな集団という意味であるが概要を説明をしたい。

まず1ページ目だが、タイトルは英語名では、Ionising radiation and risk of death from leukaemia and lymphoma in radiation-monitored workers。これは著者名にLeuraudという人が筆頭著者になっているが3番目にCardisという人が入っている。このグループは今からもう10年ぐらい前に大規模なこれと同じような研究をやって、原子力発電所で働いている人たちは、低線量被曝をしているということと、そこで少し白血病による死亡のリスクが増えているということを発表していたが、そのデータは、まだ十分に国際的には低線量被曝の証拠としては不十分だというふうに考えられていたという背景がある。

背景のところに書いているように、職業、環境、あるいは医学的診断による低線量被曝。低線量被曝は職業で原子力施設、あるいは核兵器製造施設の被ばく。環境というのは、自然放射線が高いところが世界にいくつもあるので、そこでの住民が被ばくしているということである。医学的診断は前回取り上げたCT検査。特に子供のCT検査とか、そういう医学的診断による低線量被曝があるが、こういうもので反復被曝している、或いは、持続的に被ばくしている場合に、後障害として白血病及び悪性リンパ腫による死亡が過剰に発生するかどうかについては、これまで多くの不明部分があった。著者らはフランス、英国、米国、この3か国。Cardisが発表したのが日本も含まれた15か国のデータであったが、今回は3か国。これは放射線被曝のモニターを、ずっと被曝線量測定してきたということであるが、成人の労働者について白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫による死亡数と被曝線量の関係について調査研究を実施している。

今後は、1.対象の労働者というのは、フランスの原子力省、それとAREVA(※1)という核サイクルの企業から見つけたもの、フランスは国営企業のAREVAの1者で全てやっているが、そこの労働者、それから米国国防総省、これは、核兵器製造工場の労働者、それから米国のエネルギー省の原子力発電所の労働者、それから、英国の原子力労働者登録機構に所属する労働者、合計で、308,297人である。それで、観察期間が相当長いので、観察期間をこれに掛けると8.22百万人年ということになる。約8百万人年である。統計というのは、何人の人を何年間、観察したかで掛け算をする。それから3番目に白血病、悪性リンパ腫および多発性骨髄腫による死亡数の割り出し、罹患した人だとこれよりも大きい数字が出てくると思うが、今回死亡数である。そして、Poisson regression法(※2)という統計学の手法を用いて、赤色骨髄吸収線量といわれる、血液の腫瘍は骨髄から発生するが、その骨髄がどのくらい線量を浴びていたかというのを赤色骨髄吸収線量という。それと死亡の相関を計算したということである。この研究費が3か国の政府から出ているのに含めて、日本も厚生労働省がこの研究費の支援をしている。

結果は4つにまとめられている。この約30万人の方々の年間の平均被曝線量は1.1mGy。平均就業期間が27年ということであるから被曝線量は平均では約16mGyということになる。それから白血病は4つのタイプがあるが慢性リンパ性白血病は除かれている。これは日本人には非常に少ない、白人に多いという特徴があるが、放射線によって起こるという白血病ではないと考えられている点もあり除かれている。そして、過剰相対リスク(※3)いわゆるERRというのを求めたところ2.96/Gy、これは90%の信頼区間が1.17-5.21で、lagged 2 yearsというのは、就職されて原子力労働開始したあと2年間はその前に発病した病気が出てくる可能性があり、白血病の場合は比較的早く出てくるという事で、2年間での死亡は入れないで計算している。そして、特に慢性骨髄性白血病の過剰相対リスクがこの過剰相対リスクの2.96という主要因であり、慢性骨髄性白血病は、単独では10.45で90%の信頼区間が4.48-19.65です。悪性リンパ腫と多発性骨髄腫はデータは示していないが、リスク上昇は全くなかった。白血病が特に出ている、ということであった。

それで、持続性の低線量被曝によっての白血病による死亡の過剰なリスクが生じる強い証拠が得られた、ということが結論である。

私の個人的な意見を述べさせていただくが、2005年、10年前にCardisらが日本の原子力産業労働者も含めた15ヶ国の原子力労働者において同様の研究結果を発表している。British Medical Journal(※4)である。このとき白血病死亡リスクの上昇は明瞭ではなかった。可能性はあったけれども明瞭ではなかった。今回の研究はデータセットがしっかりしている米英仏の3ヶ国に限り、観察期間をさらに延長して検討したものであり、この種の疫学調査としては、おそらくこれ以上のものは、最大、最長の規模となった、今後これ以上の研究は出ないのではないかと思う。死亡者数が15か国の場合の検討の196人から531人に増えている。観察期間の平均は13年から27年に伸びている。これができたものが3か国が歴史が古いわけだ。そこに絞って精密な分析ができると考えて研究を行ったということだと思う。先程言ったように白血病は2年のラグタイムがある。悪性リンパ腫はさらに長く10年のラグタイムを設けている。これは就業早期の発病者を慎重に除外したわけである。3番目に原爆白血病の場合のERR 2.63というのがこれまでの一番最近の放影研からの報告である。これはほとんど戦後60年近くのデータの集積で2.63ということになっていたが、これに近似した数字、ERR 2.960/Gyが低線量の持続被曝でもたらされたことになる。その線量との相関が図に示されている。(P5)図に示されているように、100msv以下のいわゆる低線量領域においても、有意な直線関係モデルがヒットするという結果を報告している。これまでの原爆被爆者白血病における研究では、死亡リスクは線量が下がるにつれて低下し、特に100msv以下になると有意の上昇が観察されないと解釈されてきた。これにのっとってICRP(※5)などは、100msv値を基準においているが、今回の研究では、この100msv、mGyとほぼ同じであるが、白血病による死亡リスクが成人では初めて観察されたことになる。前回、小児のCTの報告で、これもまだ確定的ではないが100msv以下で小児でも上昇があるということが主張されており、成人で初めて、こういう研究が出てきたということは重要じゃないかと思う。この結果は、被爆地域拡大の住民の方々でこれまでに過去3回の研究会で、A委員、あるいは広島大学の静間先生が過去の実測値といえ、放射線量の測定、あるいはプルトニウムの測定から推定していった被曝線量の例えば、一番高い所で25msv程度の低線量被曝があると推定されたわけであるが、これは70年代の厚労省の検討会によっては、完全に、この程度では人体影響はないと否定された。それが今の経過になっているが、そういうところについて、少し再考するという研究結果になるのではないかと思う。前回の研究会で検討したヨーロッパ及びオーストラリアからの小児のCT検査による低線量被曝で、白血病と脳腫瘍が増加するという論文が、今年中に100万人規模で、EUの各国が協力してやられているが、発表が今の段階ではなく、今年中にあるとアナウンスされているが、白血病になりやすい先天異常の子供が100万人も子供がいるとその中に結構、先天異常を持っておられる子供さんが入ってくる。その人たちは特別に白血病になりやすいというのがあるのではないかという懸念を除外すべく研究がされている、と言われている。そういうものが今後出てくると思われるので、その時に今回のこの英米仏の合同研究の成人の結果を併せて総合判断する必要があるのではないかと思う。今のTable1を振り返ってみると、フランス、アメリカ、イギリス、それぞれ、どれくらいの癌の人たちを検討したかというのが、フランスが59,000人、アメリカが101,000人、イギリスが147,000人と書いてあり、一番下の白抜きのところで、積算された骨髄線量が書かれているが、少し国によって平均値が違うが、Overallという全体をまとめると15.9、約16という数字がそこに出てきている。それがどれくらいの線量の分布になっているかというと、6ページにFigure A1と書いてあるところで、一番大きいグラフで0というところに、225,000くらいのところに黒い棒グラフが伸びているが、ほとんどの人が0で少しずつ線量が上がってくる。100mGyを超える人があってもこのグラフでは分からない。そこで、上に100 mGy以上のところが桁数を変えて、100,000人弱で、2,000人単位で書かれているが、100msv超える人、300msv超える人が、結構数百人から数千人いるということが分かる。そういうところから導かれたデータだと思う。それから、Table2、4ページに戻るが、先程申し上げた、白血病でCLLを除くとどうなるかというのがそこに書かれている。慢性骨髄白血病が1番目にあるが、100人これで亡くなっているわけであるが、それの相対リスクが10.45で一番大きかったということである。その結果、この線量が上がるにつれて、どういうふうに白血病で死亡するリスクが上がっていくかというグラフが、Figureに、図に書いてあるが、こういうふうに100msv以下でも、統計学的には、この傾きが上がっていくということが、ある程度信頼できるものである。これが200 mGy、300 mGyと上がっていくというわけだ。もちろん原爆被爆者では100、200、300というところが一番が最低のところで、右のほうに1,000msvとか、2,000 msvとか、4,000 msvとかずっと上がっていくわけである。そういう高い線量のところのデータというのは、原爆被爆者のデータは非常に正確であるというふうに考えられているが、低い所では、原爆被爆者は100 msv以下は、どうもよく分からないというところが今回初めて統計学的に有意に低線量でも死亡率が上がる、ということを示したという研究である。細かい各線量区分ごとのどのくらい死亡例があるか細かいデータは、Table A2横書きでご覧いただければ分かると思う。区分は、0-5mGy、5-50mGy、50-100mGy、100-200mGy、200-300mGy、300mGy以上というふうにして6区分で検討している。そこで、その傾き、リスクが上がっていくとその傾きを統計処理して求めている。それから、悪性リンパ腫の原爆被爆者で増えているか増えていないか、非常に男性では増えているというデータが出ているが、女性では出ていないのでトータルとしては、はっきりしないという状況があり悪性リンパ腫は、最近非常に日本人にも多くなってきているのであるが、本当に放射線の影響の関係があるかというのは、まだ結論は出ていないが、この原子力労働者の30万人のデータでは、悪性リンパ腫が放射線との関係が見いだせなかったということになっている。

【B委員】
この論文は、社会的にとって結構、大きかったと思う。それで、最初の論文を眺めてみると、気になったのが7ページ、先程説明があったTable A2と書いてあるところ。これに対応して論文自体がResultsのところに記述があるのだが、ここでは、CLL(※6)を除く白血病の相対リスクというのが、同数、線量の範囲のカテゴリだと200mGy以上の蓄積線量のところでは、明らかなリスクが生じるというふうに書いている。つまり、それ以下については、明らかなリスクはない、ということだと思う。実際にTable A2に戻ってみると、CLL以外、慢性リンパ急性白血病以外の白血病のリスクというのは、順番に線量のカテゴリでみていくと、確かに100-200までは、これは有意な上昇ではない。200-300になって初めて相対リスクが2.30でこれが有意だ、300以上もそのとおり、ということになる。ですから、この表とこの結果の比率から素直に読むと恐らくこれは、200-300以上のところで有意性が認められる、有意な相関が認められる、ということではないかと思う。更に低線量、いわゆる慢性被曝と急性被曝の違いについての議論というのがあるので、今、ICRPがひとつのモデルとして、このリスクの比を大体1対2というようなひとつの基準を出しているが、それから考えても、これまでのいわゆる原爆被爆者の方の疫学調査の結果とも祖語はないのではないか、と私はこれをみて素直にそう思った。

【会長】
確かに、先生が言われるように6つの区分でみると、300以上でそのグループ、グループでの統計的な有意差というのが300以上で出てきている。しかし、その下側の200以下から5 msvまで、これをプロットして、いわゆるモデルにあてはめて、直線関係があるというデータになっている。それ以上、我々はそれを検証できないが、それが、有意だとしている。

【B委員】
要するに上の線量で、直線関係があるのを下の線量のほうに外挿して、有意性がある、有意になっているということを証明している。これも、私の理解では、原爆被爆者の線量についても同じような結果ではないかと思うが、どうなのか。リスクの外挿をしているという意味ではないか。

【会長】
原爆被爆者では、外挿が有意にならないのではないか。だから、放影研の判断では200以上となっているのではないかと思う。

【B委員】
これは0-100の範囲もこれだけとっても、有意に直線関係が成り立っているということなのか。

【会長】
私はそのように考える。

【B委員】
そうすると多分このTable A2の有意性はこのようにならないと思う。0-5、5-50、50-100、これは全て有意性ではない。

【会長】
そう、各区分に分けたら有意性がみれない。

【B委員】
だから、それで普通それを求めて直線にして有意性が出るか少し考えにくい。

【会長】
それがモデルにあてはめて、放影研がやっているモデルを利用してやっている。だから、そこを言われる通り本当に正しいやり方なのか、正しい結論を導いているか検証がいると思う。

【B委員】
だから、おそらく生のデータを出したのが、Table A2だと思う。これをみる限りは、何かいままでとそこまで大きな違いはないのかなという気がする。今、言われたその直線で引いたときのやり方というのがよく分からないが、データから、そういう印象があるのがひとつ。

【会長】
そういう見方と、もうひとつは、もう少し外挿していくところでも有意になっているというデータと解釈すると、100 msv以下が分からないと言われてきたことが、100 msv以下においても影響が出る可能性が示唆されているということになるというのがこの人達の主張である。

【B委員】
論文の主旨としては、分かる。結果として、どうかなという気が少ししている。もうひとつ気になったのが、同じくTable 1であるが、これでみるとやはり確かに平均値でいうと、11.6、15.2というそういったところであるが、そのかっこ付けで最大値と最小値を示した、これでみるとかなり高い人が多いという気がする。特に例えばアメリカで一番高い方で820、イギリスが一番高い人で1217、かなり高い人の線量も測っている。いかに慢性被曝とはいえ、かなり高い線量であるという人が、かなり混じっているということも、少し考慮すべきことではないかなというふうに思う。

【会長】
この図でいくと何人かというのが読み取れないが少しいる。そういう人たちが全部、白血病になっていると引っ張られて、そういう現象が起こるかもしれない。

【B委員】
かなり、高い確率で、当然確率が上がる。

【会長】
そのあたりは、著者らに直接あたってみないと細かい数字まで分からない。この論文がTHE LANCET Haematology(※7)という論文に一応採択、レビュアーが4、5人はいるでしょうから、一応それぞれのレビュアー側の評価をうけ、論文化されているので一定の評価は受けているのではないかとは思う。

【A委員】
今の線量評価のところに関しては、今年、同じグループが線量評価だけの論文を出しており、それを見てみると、かなり細かくやっている。発電所なので中性子の規模がどれくらいあるかによって、被曝線量が随分変わってくる。実は国別で線量が随分違うが、発電所の中のワーキングエリアの構成、レイアウト、いわゆる遮へいがどれくらいあるかでこういうところで随分違ってくるのではないかと思う。したがって個々の例に関して、ワーキングエリアであったり、動きであったりを加味したうえで計算をしているので、その中で、1sv超えというのはあったのではないかと思う。中性子の規模が大きくなると勝手にそうなると思う。それでもしっかりと線量評価している。

【会長】
それを入れたり除外したりして、両方検討したということでないのか。

【A委員】
両方入っている。だから、そのあたりは良いが、B委員の意見に少し近いが、この資料の5ページ、Figureのグラフだが、これは恐らくモデルをフィットさせたら合うか合わないかということをみているのだろうと思う。それで、青の部分の要は300mGy以下の被曝線量群にすると90%CIでも確かに上昇しているので、これは恐らくLNTにもフィットするかと思うが、100mGy以下の集団に絞りますと90%CIがむしろ下がってくるようなところも見受けられる。ばらつきがこれだけ広がっているのであるから。したがって100mGy以下で、有意に上昇している証拠ではないと思う。300mGy以下であれば、少なくとも統計的にフィットするといえると私は理解した。

【会長】
この論文の記述にその記述がない。そこが一番ポイント。100 msv 以下の強い証拠が出たとは書いていないので、一応今まで言われている100 msv 以下のところでは癌の発生というのは、特に白血病の発生というのは、よく分からないといういままでの説を覆せるかどうかは、A委員が言われたところにかかっているので、これは統計の専門家、特に放射線疫学の統計の専門家、例えば放影研のモデルを開発してきたプレストン先生とか、そういう方の意見を聞いてみないと。私達が判定するのは難しいという形になっている。そのもう一つの論文は、この論文より先に出たのか。

【A委員】
同時期。今年。

【会長】
並行して出たのか。

【A委員】
そうである。同じ時期に。

【会長】
ポイントは、B委員とA委員の意見のとおり100 msv 以下、これは、全体としては、それを主張しているのだが、それが本当に、それでいいかということを今後検証していく。それでよろしいか。もしそれが事実とすれば、いわゆる直線仮説というのがあるがLNT(※8)の、100mGy以下でもある程度は影響があるとなっていくのかどうかである。そこの皮切りの論文ではないかと思う。小児のCTの論文がまだ続けて出てくるので、新しい展開がしてるということが一番重要でないかと思う。

もうひとつは、環境放射線でインドとか中国とかブラジルとかイランとかいろんな所に高線量地帯があるが、そういうところの研究は我々はまだ網羅的に検討していないので、今後の重要な課題になろうかと思う。

やはり集中的に100 msv 以下で被爆拡大地域も100 msv 以下であるので、健康障害が、健康影響があり得るかとの観点から国際的な研究の現状を最終的には、この1、2年では結論を出していかねばならないかなと思っている。

2 日米合同調査団報告書に見る急性症状

【C委員】
11ページに日米合同調査団(※9)の報告書の全6巻の目次、タイトルを示している。1巻が物理的被害調査、2巻が臨床所見、3巻が血液学的調査、4巻が病理学的調査、5巻が統計学的分析、6巻が集団と傷害ということで、今回、用いたのは第5巻、統計学的分析。長崎の6898人について分析されたものを使っている。

17ページには長崎におけるいろんな急性症状の距離別の表が作成されている。まず、Ringというところに1~7まである。次にDistanceで距離が0~1000、1100~1500、1600~2000というふうに距離が刻まれている。それを横に行くとDistance の横はTotal Numberなので、例えば0~1000mの人は789人いたと。その次が脱毛(Epilation)なので249人の方が脱毛した。割合的にみると、31.6%。というこの表を用いて13ページのグラフを作成した。13ページのグラフは横軸が被爆距離、縦軸が脱毛の頻度となっている。この画のごとく近距離には脱毛が多く、遠距離になるほど脱毛の頻度は減っている。しかし、4kmから5kmまでは少しではあるが脱毛があるということを表している。

次のグラフは17ページの表で脱毛の隣が出血斑ということになっているので、この数値を用いてグラフ化したのが14ページのグラフ。これは横軸が被爆距離、縦軸が出血斑の頻度ということで、先ほどの脱毛のグラフと類似のパターンを示しており、近距離では高く、遠距離では減っている。しかし、遠距離になっても数パーセントであるが、その症状は見られた、というグラフである。

15ページのグラフであるが、これはABCDというカテゴリーに分けている。青で示したAというのは、1kmまでで外にいたか日本家屋にいたかというグループをAと呼んでいる。Bという赤で示したグループが1100m~1500mで外にいたか日本家屋にいたか、もしくは1000m未満で純遮蔽にいたかというグループ分けになっている。これは横軸が原爆後の経過の週である。縦軸が平均白血球数。4週目のところに点線を入れているが、4週目のところを見ると、一番近距離のA青グループが低く、次の近距離のBグループが次に低いということを示している。横軸に3500のところに点線を横に引っぱっているが、これは一般的に3500未満が異常値とされるものなので、AグループとBグループについて4週目にかなり平均白血球数は減っているが、あとは徐々に回復しているというグラフである。以上、脱毛と出血斑と平均白血球数について示した。

【D委員】
ABCDの区分の説明を再度お願いしたい。

【C委員】
分かりにくいが、16ページにABCDのグループ分けの定義がある。Aグループは距離が0~1000、外か日本家屋、Bグループは1100~1500で外か日本家屋、0~1000の純遮蔽。ちょっと複合的になっているので分かりにくいが、16ページに示している。

【先生】
遮蔽方法として、例えばBの遮蔽が外か日本家屋と、その0-1000のコンクリートと本当にいっしょかどうかというのは少し疑問があると思う。だから、原爆直後の9月の調査であり最も早期の米軍のドクターが中心になっているので、脱毛の調査としては確実な調査だろうとは思うが。米軍としても、とりあえずはこういうふうにして区分してみようということで、試行錯誤しているような感じもする。

ここまでは原爆被爆者では、距離との関係で症状を信頼できるとか何か言えるか。

【C委員】
このデータからだけでは何とも、その距離における頻度が有意かどうかというのは分からない。

【会長】
今、国の認定制度では3.5kmだが、3.5km以内の方で癌になった場合は、原爆症と認定されておられるという現状だが、3.5kmというのが、こういうグラフから出てきたのかと思ったが、そういうことじゃないのか。この当時の調査としては最大の調査なので非常に重要な医学的な観察記録だったと思うが、脱毛というのはなかなか難しく4km、5kmのところでも脱毛する人は数パーセントは出る。それから、被爆地拡大の住民の調査にも脱毛があるというふうに答えている人が数パーセントある。それが本当に放射線の影響かどうかというのがいつも議論になるが、明解な判定基準というのがなかなかない。そういうものがこの合同調査団の記録から出ないかと思って分析していただいているが、グラフで見る限りは、これを全部放射線の影響だというふうに言えるかどうかというのは、なかなか難しい。それから時間的に経過があって1週間目に既に脱毛が起こっている人がマンハッタン調査団(※10)の調査に有るんじゃないのか。

【C委員】
記憶にないんですけど、1週間目で起きていたかどうか、被爆後何週間から脱毛が、ちょっと遅れて脱毛は2~3週目後だったと思う。

【会長】
それが1週目ぐらいからの脱毛があったということで。脱毛のメカニズムに関して、新しい研究がないかをもう1回みてみる必要があるようだ。例えば熱線とか。髪の毛がある意味で焼ける、毛根の細胞が熱線で焼けるという、死ぬということを利用して、医学研究があるようだ。そういうものを含めて今後、脱毛をどこまで信頼できるかということを、我々の研究会でももうちょっと追求していかなければいけないかなと思っている。

C委員はこれとマンハッタン調査団のデータとは比べていないか。

【C委員】
随分前に比べたのでちょっと記憶が薄れていますけど、マンハッタンがもうちょっと高く出ていたかもしれない。

【会長】
それと根本的な疑問ですけど、マンハッタン調査団で調査された対象の被爆者は、この合同調査でも同じ被爆者をやっていいので、重なっているんじゃないかなと。

【C委員】
私が思うには、マンハッタンの調査はだいたい入院患者に絞ってあった。大村海軍病院とか。これは一般のその日にいた人を調べてたと思うので、重なりがあるかもしれないが、ほとんど重なっていないと想像している。ちょっと調べてみないと正確なことは分からない。

3 広島および長崎の原爆における残留放射能強度測定報告書(米海軍報告書)

【会長】
次は、既に前回の静間先生の発表の中に、測定値そのものは含まれていた、米国海軍の調査である。原爆が落ちた年の10月頃に長崎で、そしてその後広島で調査された報告書が出ており、中身のデータは静間先生が利用しておられる。新しいことではないが、私がこの前ニューヨークに出張した時、アメリカの国立健康医学博物館というのが新しく設立され、従来からの広島長崎原爆の被爆者に対する医学調査のすべての調査の基本データがそこに保管されている。元々は米国陸軍病理研究所というのがそこにあり、そこに保管していたのが、今その組織がなくなり、そちらに移行していて、インターネットでアクセスすると、この博物館の長崎、広島の関係のデータのリストが全部見られる。そのリストを見てから、これとこれを見たいということで私がいくつか読み、厳重な資格審査があったが、それをクリアして見てきた。そして彼らが提供してくれたデータの中に、この海軍のデータがあり、それが図の2と3と4である。これが静間先生の報告書の中ではパワーポイントで薄く入っており、よく分からなかったが、ここで初めて明確な図を目にすることができた。そこに各ポイントの測定された線量が記入されていた。Figure2ですけど長崎県と熊本県を含む地図上で主要な地点の測定値が記入されている。この当時、1945年8月9日の原爆当日の11時から16時の風の方向が矢印で示してあると思う。Figure2で見ると長崎市内が72μr/hrとか数字があり、少し東の方に1080、さらに東に80、島原半島にいって15ないし20という数字が記入してあり、あと、熊本の方まで見ると熊本のところに放射線、放射能が日本側によって記録されている記述があるが、数字が書いていないので分からない。熊本あたりまで本当にいっていたのかは分からない。

それから、次のFigure3だが、これは拡大になるがさらに拡大したのが次の23ページのFigure3だが長崎市内の浦上の中心のところ、それから西山水源池周辺。それからさらに東の方を測定したデータが、等高線といい、線量が大体同じレベルにあるところを色分けしているが、西山のところが一番高い。555μr/hr。その外側が130μr/hr。一番外側が19μr/hr。市内はどうかとしてみると、更に拡大されているが、爆心で69μr/hr、57とか、45とか。それから右の端のところに大学病院がかかれているが650m位で11μr/hrとか、こうした数字は意外と低い。そういうところがあり残留放射能が10月の時点であって、測定できているのは間違いないと思う。10月15日から27日の間に測定されているが、こういう図を明瞭に見たのは私も初めてだったので、みなさんにお示ししたいと思う。静間先生が既に触れておられるので私の方から追加することはないが、爆心から東側に風が向かって吹いていてプルトニウムのデータもそうであるが、10月15日以降の実測値でも放射能汚染があったと。A委員、これはセシウムを中心としたものでしょうか。

【A委員】
そうである。

【会長】
プルトニウムから出て来ない。

【A委員】
出ない。

【会長】
プルトニウムも降ってるのだろうが、それと同時に分裂物質として核分裂物質として、セシウム以外の数多の放射性核分裂生成物質が散ってて、そこからγ線が出てるのを測定している、というふうに言っていいか。そういうことで、一応ビジュアルにきれいに出ているということで紹介した。東側がかなり汚染があったということは、もう非常に動かない事実ということだと思うが。

【事務局】
一つ目は「米国戦略爆撃調査団(※11)と日本映画社の長崎原爆記録映画(2011年9月)」。大矢先生は、長崎原爆被害記録フィルムのデジタル化と被爆の実相を「社会的記憶」にするための研究に取り組まれているが、この論文は、その原爆記録映画の一端である、日本及び米軍それぞれの長崎原爆記録映画や米国戦略爆撃調査団が撮影した映画などの概要を示し、結びにはこの研究に関しての今後の取り組むべき課題について述べられたものになっている。

二つ目は「相原秀二資料に見る長崎原爆の残留放射線」。(2012年11月)分。これは、日本映画社の記録映画『広島・長崎における原子爆弾の影響』の制作に参加した相原秀二氏の資料が長崎原爆資料館に寄贈され、長崎原爆資料館で相原秀二企画展が開催されているが、それを機会に大矢先生が相原資料の調査研究を行われたものである。なお、この資料は、長崎原爆被害の写真、長崎医大・三菱長崎製鋼所・城山国民学校などの被害記録、被爆者の証言などである。この論文では、その中でも長崎原爆による残留放射線量の測定に関する資料を取り上げ、長崎原爆の残留放射線の研究を示し、また今後の課題を述べたられたものになっている。

最後に3つ目は、「坂田民雄資料に見る長崎原爆の残留放射線」(2015年3月)。この論文は、理化学研究所仁科研(※12)の坂田民雄氏の資料によるものが中心で、内容は、理化学研究所仁科研グループが1945年12月末から翌年1月中旬まで測定した長崎原爆の残留放射線の測定経過について述べ、この理化学研究所仁科研グループの測定結果と、九州帝国大学の篠原健一氏らのグループによる調査と、米国マンハッタン管区調査団等の測定結果を比較したものになっている。また、2002年から2008年までの長崎原爆の放射性降下物についての論文を紹介した内容である。

【会長】
これをすぐ議論することは今日は出来ないが、前もって少し読んでいただいているA委員にコメントをいただきたいと思う。

【A委員】
これは先ほどあったように、1945年12月から翌年の1月の間の理研のネーヤ型(※13)という当時の環境放射能測定に一番適しているといわれていた測定器を使った結果に関してで、これは既に報告書が出ており、前回の静間先生のレビューの中にも紹介いただいていたけれども、今回、大矢先生が紹介されているのは、その元となった生データである。オリジナルデータにアクセスすることができたということで、それをご照会されているということで、内容的には坂田先生が理研のグループに入っておられ、資料でいきますと「坂田民雄資料に見る長崎原爆の残留放射線」の例えば一つ典型的なところ、103ページ。これは西山地区のネーヤ型で測定した結果を示している。理研仁科研グループの測定日、1945年12月15日で0.038から1.085mR/hである。これは大矢先生がこのmR/hに換算されている。生データはジュールとなってでてくるが、この線量率に換算されている。同じような方法を使って篠原健一ら、マンハッタン調査団、と先ほどの米国海軍の4つの測定時期と線量率の結果を全て並べてここに一覧に書いている。これ見た限りでは、大体同じような線量が出ているが、このあと例えば矢上であったり島原。それから今度は積算線量。こういったところへの話がこの後続いている典型的な比較のデータである。

【会長】
そうすると大矢先生の研究は積算線量まで出しておられるのか。

【A委員】
そうである。

【会長】
積算線量の先生が前に推計されたのとか、静間先生が推計されたのとか比較するのは可能か。

【A委員】
可能である。

【会長】
理研のデータというのは、既にある程度分かっていたので細かい所での微動があるかもしれないが、理研データと同じものじゃないのか。

【A委員】
同じ。

【会長】
ほぼ一緒。

【A委員】
ですから最近生データとして出てくるジュールをR/hに換算するところ、そしてそれを生涯線量に換算するところのロジックが微妙に違ってくる。

【会長】
大幅に高い線量が出てきたということではないのか。

【A委員】
そういうことではない。

【会長】
では、これはもう少し委員の先生方にも読んでいただき、大体、プルトニウムの実測値、それから放射線の実際のこういう測定値というのが出揃って、ほぼこれ以上は出てこないのではないか。

米国の国立の博物館のリストを見たときに一番私が興味あるというか、注意しないといけないと思ったのが、今まで述べてきた各調査以外の調査がないか、ということで、そこを非常に熱心にみたが、ない。やっと海軍の報告書の中にそういう明瞭な写真があったというくらいで、残念ながら他に特に長崎の被曝線量を比べた国際グループ、例えば全然違うイギリスのグループとかもない。そういう意味で、もう出尽くしたということで、これは来年の3月くらいに予定されている次回の研究会くらいまでには、まとめて、最終的には我々としての判断をしないといけない。

ただそれで人体影響が有るか、無いかということに関しては、被爆地拡大の人の約1万人の方々の健康調査で証明することは不可能だと一応我々はみているので、先程から何度も述べている、海外の非常に大型の30万人とか、小児のCTだと恐らく100万人のデータが出てくるので、それによって低線量被曝が100msv以下でも、ある程度白血病とか病気を引き起こすというデータにほんとになっていくかどうか。これは人類の放射線被曝の課題でもある。それを被爆地拡大の住民の方々の健康障害の可能性を推定するデータになるんではないかなということで注目している。それは、まだ3月までは出ないかもしれないが、継続の課題にしていきたいと思う。

低線量被曝では、あと環境放射線があるので、それはできればC委員に是非調査をしていただいて。鹿児島大学に秋葉先生と言われる公衆衛生学の教授がおられるが、その先生が日本では環境放射線の第一人者であるが、ここにきていただいて最新知見を話していただくというのもあっていいと思う。ざっと総説的な論文を見ると多くの研究が、低線量被曝地域はあまり影響が無いとなっていると、一部有ると、出ているという書き方になっているので、そこの評価をしっかりして。低線量の地帯の生涯線量というのは結構なるのであろう。

【B委員】
年間で17とか15とかであったか。

【A委員】
年間ではもっと高い。100越えた場合もある。空間線量で。

【会長】
ということは、生涯線量は何千ミリにもなるのか。

【A委員】
はい。

【会長】
その集団からは癌が多いというデータは出てきていない。

【A委員】
ケララでは出ていないですね。染色体異常は増えるんですけど。癌にはなっていない。

【会長】
染色体異常は増えるけれども癌にはならないのは何か意味があるのか。

【A委員】
説明は難しい。

【会長】
人間の方が順応するのか。

【A委員】
不安定型染色体異常(※14)しか見ていないので、はたしてそれが良い指標かどうかはまだ分からない。

【会長】
このあたりの問題を、秋葉先生という方に、是非1回まとめてもらいたい。今日、用意しました検討課題はこれで終了だが、先ほどのような方針でやらさせていただく。

〈用語解説〉

※1 AREVA 
フランスに本社を置く世界最大の原子力産業複合企業

※2 Poisson regression法
一般に、ある現象が一定時間内に起こった回数を数え上げたデータのことをカウントデータといい、カウントデータの発生頻度と、それに影響する要因との関係を分析する手法のことをカウントデータ分析といい、その代表的なものがポアソン回帰分析(Poisson regression analysis)である。

※3 過剰相対リスク(ERR)
相対リスクから1を引いたもので、相対リスクのうち、調査対象となるリスク因子(この場合は被曝放射線)が占める部分をいう。

※4 British Medical Journal
イギリス医師会雑誌

※5 ICRP
国際放射線防護委員会

※6 CLL
慢性リンパ球性白血病

※7 THE LANCET Haematology
イギリスの医学誌 血液学の有力紙

※8 LNT(仮説)
放射線の被ばく線量と影響の間には、しきい値がなく直線的な関係が成り立つという考え方を「しきい値無し直線仮説」という。

※9 日米合同調査団
原子爆弾の人体への影響を調査する目的で、1945年9月に組織された合同調査団。

合同調査団は、連合国軍最高司令官総司令部軍医団・マンハッタン管区調査団・日本側研究班の3者で構成され、日本側は九州帝国大学・長崎医科大学・大村海軍病院が協力した。

※10 マンハッタン調査団(マンハッタン管区原子爆弾調査団)
原爆から出た放射能及び残留放射能を測定することと、それらの人体への影響を短期間に明らかにする事を目的とし、昭和20年9月20日から10月6日までに長崎に派遣された調査団

※11 米国戦略爆撃調査団
アメリカ軍による戦略爆撃(空爆、艦砲射撃)の効果を検証するための陸海軍合同機関。

※12 理化学研究所 仁科研
1917年(大正6年)に創設された物理学、化学、工学、生物学、医科学など基礎研究から応用研究まで行う国内唯一の自然科学系総合研究所。その中で1931年7月に、当時国内では例のなかった量子論、原子核、X線などの研究を行なうために仁科芳雄氏が立ち上げた

※13 ネーヤ型
ネーヤ型宇宙線計式測電器。放射能を測定する計器

※14 不安定型染色体異常
染色体異常は1個の染色体が変化する異常と2個の染色体の間で起こる異常がある。また、安定型染色体異常と不安定型染色体異常があり、不安定型染色体異常は細胞分裂できず細胞死してしまうために時間とともに減少するという特徴がある。

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