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クララとお日さま

更新日:2021年6月1日 ページID:036790

ホッとトーク

 待ちに待ったカズオ・イシグロさんの新作が出ました。『クララとお日さま』という童話のようなタイトルが付いたこの小説を、すぐに書店で買って読んだのは言うまでもありません。ロンドンでお会いして以来、この日を楽しみにしてきたからです。

 3年前にロンドンでお会いしたのは、長崎市名誉市民章をお渡しするためでした。妻のローナさんと会場のホテルに来られたイシグロさんは、長崎にまつわるさまざまな思い出と同時に、長崎への思いを話してくれました。
 イギリスに行っても家族全員が日本に帰るつもりだったので、日本語の勉強をするようにお母さんに厳しく言われたこと、長崎でおじいさんに連れて行ってもらった映画が怖かったこと……興味深いエピソードをたくさん聴くことができました。
 中でも私が一番感動したのは、受章後のあいさつでこう言われたことでした。
 「私は長崎を離れたことはありません」。
 その言葉を聞いた時、このかたに名誉市民になっていただいて本当によかった、と思いました。5歳の時に長崎を離れ、イギリスに渡ったイシグロさんの心の中にずっと「長崎」があったことを、とてもうれしく、そしてありがたく思いました。
 私は、会話しながら、イシグロさんに長崎人的なものを感じていました。とても気さくで、垣根を感じないのです。ノーベル文学賞を受賞されたことも自然体で受け止めておられて、そのおかげで必要以上に緊張せずに話すことができました。
 「長崎にぜひおいでください」とお願いすると、笑顔で「ぜひそうしたいと思います」とすぐに答えてくれました。「ただ、今、新しい小説を書き始めていて、それが完成するまでは難しいのです」というお話でした。その日から、新作の発刊を楽しみに待っていました。もちろんその時は題名を知る由はありませんでしたが、それが『クララとお日さま』だったのです。

kurara
カズオ・イシグロ著
土屋政雄訳
早川書房刊

 
 『クララとお日さま』は、AIロボットのクララと登場人物との交流を軸に物語が進みます。私の場合、ドキドキしたり、切なくてしばらく本を置いたりしながら、一気に読み進むうちに、あっという間に印象的なラストシーンにたどり着きました。とても読みやすくて、そしてとても深い物語です。未来について、人間についてのヒントや考えるきっかけをくれる物語です。ぜひお読みください。
 ところで、最新作は完成しましたが、コロナ禍のために、イシグロさんの来崎はしばらく難しそうです。でも、近い将来、必ず長崎に帰ってきてくれる日が訪れると思います。
 イギリスも、日本も、まずはコロナ禍をしっかり乗り越えることが先決。厳しい冬の後に訪れる春を楽しみに待つように、この訪問はしばらく取っておいて、今はコロナ対策に全力で取り組みたいと思います。

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