文・宮川密義


長崎の歌には「オランダ」が数多く取り込まれていますが、なかでも観光スポットとして人気の「オランダ坂」は随所に顔を出しています。ここではここ十数年前から最近までの歌の中から選んでみました。
 

1.「長崎ワルツ」
(平成10年=1998、荒木とよひさ・作詞、 西條キロク・作曲、服部浩子・歌 )


オランダ坂に雨が降ると長崎らしい情緒が漂います。この歌に「オランダ坂」は出ませんが、「和蘭陀(オランダ)しぐれの雨」は“雨のオランダ坂”のイメージです。
歌った服部浩子は神奈川県出身。小学5年の時、日本テレビの「日本ちびっこ歌謡大賞」でグランプリを獲得。その後も「プロになって自分を試したい」とレッスンに励み、高校卒業後の平成2年に「御神火月夜」でデビューしました。
平成6年に「海峡わかれ町」がヒット。同10年2月の「上海ボレロ」から港町をテーマに取り組み、「自作は異国情緒のある港町を舞台に…」と長崎に白羽の矢が立ったそうです。
[長崎ワルツ]を出した翌平成11年にはデビュー10周年を迎えるとあって、この歌にかける思いは熱く、長崎でのキャンぺーンの甲斐あって地元の民放(NBC)ラジオのリクエストでも5位以内が続きました。


2.「長崎セレナーデ」
(平成12年=2000、星野哲郎・作詞、原 譲二・作曲、瀬川瑛子・歌 )


2番の歌詞のように“蔦のからんだオランダ坂”に“雨と落葉と石畳”が加わると、異国情緒たっぷりの風情は味わいをさらに深めます。
歌う瀬川瑛子は「長崎の夜はむらさき」(1970年)のヒットで長崎に縁をつないでから、「長崎霧情」「元町ブルース」「思案橋恋灯り」「祈りの港」「西有家音頭」「あなたのアベマリア」「潮騒の町」「長崎夢情」と、この「長崎セレナーデ」までの10曲で長崎を歌っており、「長崎セレナーデ」はカップリング曲ながら、長崎の風景や人情をしみじみと、温かく歌っています。
なお、瀬川の父、瀬川伸も「オランダ船の船長さん」(1950年)から「長崎のマドロスさん」(1955年)まで6曲を歌っています。


蔦の絡まる石垣や蘇鉄が多く見られる
東山手オランダ坂の活水大学前


3.「長崎情話」 
(平成17年=2005、佐々木与志・作詞、作曲、花季みわ・歌)


長崎の歌に多いシチュエーションは、恋に破れた人も片思いの人も、雨の坂道を歩きながら賛美歌やアンゼラスの音に心を癒され再起を誓う…というパターンですが、この歌もオランダ坂に雨を降らせ、相合い傘の2人が未来の幸せを夢見る姿を描いています。
花季みわ(本名・吉田美和)は長崎県雲仙市南串山町出身で、この歌がデビュー曲でしたが、平成20年(2008)に「西森みわ」に改名、同年「長崎の雨」で再出発しました。


雨のオランダ坂(活水大前)


「長崎情話」のCD表紙


4.「長崎ものがたり」
(平成18年=2006、藤波研介・作詞、信楽(しがらき)順三・作曲、櫻木健一、藤城さやか・歌)



「長崎ものがたり」の表紙


最近“男女共同参画社会”への取り組みが盛んですが、歌の世界にも石原裕次郎と牧村旬子の「銀座の恋の物語」(1961年)がヒットして以来、この“銀恋”がデュエット曲の定番曲となりました。以来、カラオケ時代とともに“男女デュエット”は一層盛んになりました。
長崎の歌には自主製作盤にその傾向が少し感じられる程度ですが、この歌はテレビドラマ「柔道一直線」でおなじみの俳優、櫻木健一と新人歌手、藤城さやかによる本格的な全国盤のデュエット・ソングです。
雨が降るオランダ坂や石畳、思案橋など長崎の異国情緒を織り交ぜながら、長崎を舞台につづる男と女の物語を、ポルトガルギターの演奏と軽快なリズムにのせて楽しませてくれました。



5.「長崎みれん」
(平成18年=2006、水木れいじ・作詞、水森英夫・作曲、美川憲一・歌)


雨のオランダ坂、丸山を歩きながら恋人の面影をしのび、雨の思案橋で“命をかけて出直したい…”かなしくも希望を見いだそうとする女心を、情感豊かな声で歌っています。
美川憲一は昭和40年(1965)にデビュー、翌41年の「柳ヶ瀬ブルース」の後、「釧路の夜」など数々のご当地ソングを歌ってきましたが、長崎の歌はこれが初めてです。
当初の歌詞は北国の町が舞台でしたが、美川自身が「北国の歌が続いているので九州、それも長崎の地名にしたら、文字に書いてもきれいでムードがある」と提案して長崎に書き直してもらったそうです。
同年11月9日、この歌のキャンペーンのため長崎を訪れた美川は長崎市役所を訪問、当時の伊藤一長市長や職員の前でこの歌をアカペラで披露。長崎市の観光名誉大使第一号に選ばれ、伊藤市長からの依頼状を渡されました。
そして翌19年2月24月には「長崎ランタンフェスティバル」の皇帝パレードで皇帝役を務めました。150人の大行列が長崎市中心部をパレードすると、皇帝に扮した美川をひと目見ようと沿道は観客であふれていました。


「長崎みれん」のCD表紙


長崎ランタンフェスで皇帝に扮して
パレードする美川憲一


6.「港のブルース」
(平成21年=2009、円理子(えんりこ)・作詞、作曲、小野由紀子・歌 )


開港150周年を迎えた函館、横浜、長崎の波止場を訪ねる愛の物語です。小野自身が「円理子」のペンネームで(作詞、作曲)書き下ろしたブルース歌謡で、本人も「じっくり歌い込んでゆきたい」と意気込んでいました。
前作の「雨のタンゴ」の後の作品だけに、雨模様の波止場が舞台。長崎では“雨がそぼ降るオランダ坂”も登場しています。
小野由紀子の長崎ものは、昭和46年(1971)の「長崎の別れ船」(鳥井みのる・作詞、佐藤正明・作曲)以来2曲目です。「長崎の別れ船」は昭和43年に「思案橋ブルース」と同時に出て不発に終わった「長崎の別れ星」(大木英夫・歌)の歌詞を変え、大木と同じ事務所の小野が歌い、改めて勝負をかけましたが、これも狙い通りにはいかなかったようです。

「港のブルース」のCD表紙


7.「長崎の雨」
(平成23年=2011、たかたかし・作詞、弦 哲也・作曲、川中美幸・歌 )



長崎限定版のCD表紙


雨に濡れたオランダ坂の石畳

昭和52年(1977)に現在の芸名で再デビュー以来35年となる川中美幸が今年の元旦に発表した新曲です。「ふたり酒」「二輪草」など数々のヒット曲で夫婦の情愛や恋唄を歌った川中美幸ですが、今度はしっとりとした恋歌。
冒頭から、にわか雨のオランダ坂の石畳をそぞろ歩く風景。年に一度秋祭りの「くんち」に逢瀬を重ねる二人が旧長崎街道の玄関口・蛍茶屋や唐人屋敷、思案橋など長崎名所をめぐります。
テイチクではほかにDVD付きのCD、さらに長崎限定のジャケット盤も発売するほどの力の入れようです。
川中はNHK朝の連続テレビ小説「てっぱん」(2010年9月27日〜2011年3月26日)にも出演、2011年3月6日から27日までの東京・明治座での座長公演「天空の夢〜長崎お慶物語〜」で、幕末から明治の長崎で日本茶の海外貿易で活躍した大浦慶を演じています。



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