文・宮川密義


1.「琴海(ことのみ)ばやし」
(昭和43年=1968、田中仙夢・作詞、森一也・作曲、東海林太郎、島倉千代子・ 歌)


歌謡界の大御所といわれたポリドールの東海林太郎(しょうじたろう)とコロムビアの島倉千代子(しまくらちよこ)がデュエットした珍しい歌です。
昭和43年、ご当地ソングブームが開幕。大村市の婦人会が「大村の歌もほしい」と、大村商工会議所専務の田中吉太郎(たなかきちたろう)さんに持ち掛けます。
田中さんは「田中仙夢(せんむ)」のペンネームで、大村湾の真珠にまつわる民話「白珠姫(しらたまひめ)」と大村湾の風光を盛り込み、「琴海(ことのみ)ばやし」と「悲恋・白珠姫」を作詞しました。
この頃、東海林太郎が公演などのため頻繁に大村市を訪れており、東海林太郎と知り合いだった田中さんが2つの歌詞を見せたところ、東海林太郎は「自分が歌いたい」と言い出し、コロムビアの作曲家・森一也(もりかずや)に作曲させました。
元の原稿は難解でしたが、東海林自ら手直しして、作曲の森一也にもいろいろ注文を付けていたそうです。
「悲恋・白珠姫」は東海林太郎がソロで吹き込みましたが、「琴海ばやし」は島倉千代子を巡業先から呼び寄せてデュエットしました。島倉も「大先生と一緒に歌えて光栄です」と感激していたとか。

真珠貝のイラストを配した歌詞カード表紙
(発表会のチラシも兼ねています)
レコードは自費で1,000枚作られましたが、一地方の歌に大物歌手がこれほど入れ込んだ例はあまりないようです。


2.「石だたみの坂道」
(昭和47年=1972、所太郎・作詞、 作曲、ピンク・パンサー・歌 )


作詞、作曲の所太郎(ところたろう)は現在、民放テレビでワイドショーのレポーターとして活躍している人。
早稲田大学の学生5人組、ザ・リガニーズから3人組のザ・シュリークスのメンバーとして活躍した後、男性ボーカルの学生トリオ、ピンク・パンサーを結成、所をリーダーに昭和47年2月に「新しい愛の夜明け」でデビューしました。
同年7月にファーストアルバムを出し、その中の「石だたみの坂道」を8月にシングルカットして発表しました。歌詞に地名は出ませんが、長崎の石畳の坂道をモチーフにしたということです。
所太郎はピンク・パンサーの後、所太郎とアットホームも結成しましたが、1990年代から放送界に転じ、ラジオのパーソナリティーやテレビのワイドショーのリポーターなどで精力的に活動しています。


歌詞カード表紙
(中央の人物が所太郎)


3.「さすらいのマドロス」 
(昭和46年=1971、いのうえばん・作詞、佐々木勉・作曲、さん・ぐらす・歌)



「さん・ぐらす」は3人グループ。リーダーの佐々木勉はシンガー・ソング・ライターとして名が売れていましたが、自分のデビュー曲の「貝のひとりごと」を最大限に生かせる仲間を捜した末、ギターとボーカルの郷田哲也とボーカルの又吉美晴を加え、3人3様の個性のあるグループとなりました。
グループの名の通り、3人ともサングラスを掛けているのが特徴でした。
「さすらいのマドロス」は佐々木自身の作品(曲)。セリフも付けて、各地の港町を渡り歩くマドロスもの。“ザ・シリトリ・ソング”とも表現されるとおり、しりとり風に歌っていますが、1番の冒頭に長崎が出るのは五木ひろしの「長崎から船に乗って」の出だしに似ています。




レコードの歌詞カード表紙


4.「想いっきり、レット・イット・ビー」
(昭和62年=1987、OI−WAI・作詞、作曲、歌)


OI−WAI(オイ・ワイ)は音楽の好きな長崎の若者、高橋りょう、稲松まことが組んだデュオ・グループ。高校時代からの友人で、フライングバーズやオリーブというロック系のグループで活躍した時期がありました。
ともに社会人になったものの、プロの夢は捨て切れず、ビートルズを真似て「想いっきり、レット・イット・ビー」と歌い、一部に「好いとっとばい」(好きなんだよ)の長崎弁を「sweet tow by」に変えて取り入れた明るいポップスです。
OI−WAIの「オイ」は長崎弁の仲間言葉で「俺」、「ワイ」は「お前」のこと。 方言の持つ人間臭さと温かさ、そして“長崎はよかとこ”ということを宣伝したかったそうです。
レコードは自主製作で、プロへの夢は叶えられなかったようですが、作品としては長崎の歌の中でもユニークな存在です。



レコードの歌詞カード表紙



5.「エキゾチカ長崎」
(平成14年=2002年、パイン・オカヤマ・作詞、クール・ナガサキ・作曲、クール・ナガサキ&ハイビスカス・歌)


平成6年(1994)ごろ、宴会の余興をきっかけに結成したという6人組のハワイアン・スタイル(?)のグループ。リーダーのクール・ナガサキは札幌市出身。ハワイに移民した人たちの出身地を…と考えた末、地名の抜けがよくムード歌謡っぽい「長崎」にしてイメージアップを図ったそうです。
「エキゾチカ長崎」は9曲入りのアルバム「ウクレレ若隊長」に収録しています。ナイトクラブ風の「伝説の男」、グループサウンズ風の「蟹女」など、ユニークな“えせハワイアン”の世界。
「エキゾチカ長崎」は“ジプシー風”で、9曲の中では最もハワイアンに近い演奏で長崎の魅力を歌っています。



「エキゾチカ長崎」も収録のCD表紙




6.「雨の長崎人形」
(平成13年=2001、城野賢一・作曲、 深町栄・作曲、一条みゆき・歌 )


ダンス教材として製作された城野賢一・清子=監修・振付による、学芸会・お遊戯会用9曲入りCDの1曲。
図入りの振り付け解説が添付され、 “ねらい・準備”の項 では「『長崎』には日本人として忘れられないものが多くあります。蝶々夫人や原爆のことです。世界中の人が仲よくくらせるように、子供たちにもながく伝えていかなければならないでしょう。この踊りは、それとは違いますが、長崎に溢れる異国情緒を可愛い人形になって表現します…」として、中国風の衣装で踊るよう勧めています。
曲調はチャイナメロディーを基本に、軽快で浮き浮きするようなアレンジで長崎の魅力を散りばめていますが、歌詞は1節のみ振り付け解説にあるだけ。ここに掲げた2〜3節は聞き書きのため(特に2節の5行目「鳥使(ちょうし)」は)正確でないかも知れません。



「雨の長崎人形」も入ったCD表紙

なお、同シリーズで「長崎のちょうちょうさん」(城野賢一・作曲、長生淳・作曲、伊東恵里・歌)が平成9年(1997)7月に6曲入りシングルCDとVTRで、平成14年(2002)には名曲60曲をピックアップしたシリーズの4枚組CDに収録されています。



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