文・宮川密義


*ご当地ソングと長崎ブーム
この時期、昭和40年(1965)に始まったベトナム戦争が激化する一方、中国の文化大革命(41年)、中東戦争勃発(42年)、ケネディ米大統領狙撃事件(43年)、ソ連軍東欧軍のチェコ全土占領(同)…と、世界は大きく動いていました。国内では経済の高度成長が続き、カー、クーラー、カラーテレビの“三C時代”に入り、“昭和元禄”とまでいわれました。高速道路建設のために土地を売った億万長者が続出、東名・名神高速道路全線開通で繁栄する岐阜市の盛り場を歌った「柳ヶ瀬ブルース」はブルース演歌、ご当地ソングブームに火を付けました。この流れの中で昭和43年(1968)の「思案橋ブルース」から長崎の歌が相次ぎ“長崎ブームの歌”を呼びます。長崎歌謡史上、この時期はまさに“黄金時代”であったといえます。(表中、下線付きの青文字はバックナンバーにリンクしています)

【昭和41年(1966)】 全13曲から9曲
No. 曲 名 歌 手 作 詞 作 曲
1

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恋の長崎 松山まさはる 西沢爽 上原げんと
2 2 和蘭陀船
西六郷少年合唱団 北原白秋 山田耕筰
3 2 ながさき 大崎幸子 林柳波 藤井清水
4 5 長崎日記 都はるみ 石本美由起 市川昭介
5 6 太鼓山 西六郷少年合唱団 中村あきら 寺崎良平
6 6 ルドビコさま 南里美瑳子 永井隆 石川和子
7 8 南蛮ながさき 真帆志ぶき 植田紳爾 寺田滝雄
8 10 順風唐船踊り 許ヒスイ 島内八郎 深町一朗
9 11 オランダ屋敷の花 扇ひろ子 西条八十 古賀政男
※ほかに「骨かみ地蔵に」「大村音頭」「黒丸くずし」「天草四郎(みこ)さんの子守唄」。

●主な出来事
2月4日・全日空機が羽田沖で墜落、乗員7人を含む133人が死亡したのを皮切りに、3月4日・カナダ航空機が羽田空港で炎上し64人死亡、8人重軽傷。3月5日・英旅客機が富士山上空で乱気流に巻き込まれ墜落、124人全員死亡。11月13日・全日空機YS11が松山沖で墜落、50人全員死亡…と、航空機事故が相次ぎました。5月には中国で文化大革命が起こり、ベトナム戦争は米軍機による135波に及ぶ大規模北爆もありました。
国内では昭和44年に長崎国体の開催が決まり、長崎市で総参加県民大会が開かれて準備がスタート。この年、三菱長崎造船所の進水量が世界一を達成しました。
音楽・歌謡界では、6月にビートルズが来日、5回のステージにファンは熱狂しました。一方、この年、マイク真木の「バラが咲いた」がヒット、第一次フォーク・ソングブームが始まっています。歌謡曲は加山雄三の「君といつまでも」、城卓矢の「骨まで愛して」、美川憲一の「柳ヶ瀬ブルース」、美空ひばりの「悲しい酒」などがヒット。流行歌の新譜はこの年1,200曲も出て、レコード界も大量生産量・大量消費が進行していきます。長崎の歌にはまだその傾向は表れていません。長崎の歌13曲のうち、全国盤は9曲でした。

「南蛮ながさき」の表紙

【昭和42年(1967)】 
全16曲から9曲
No. 曲 名 歌 手 作 詞 作 曲
1 ? 恋のパールライン 小村勝雄、竹元好子 吉見 虎雄 土肥寛展
2 ? 恋の長崎
三沢あけみ 梅木三郎 服部良一
3 4 九州音頭 村田 英雄 原田 茂安 古賀政男
4 6 ロザリオお雪 三沢 あけみ 大賊 大次郎 三島秀記
5 8 泣くな長崎 杉野正男 高浪藤夫 深町一朗
6 10 長崎国体の歌 藤山一郎、安西愛子 長崎国体準備委 長崎国体準備委
7 10 長崎国体音頭 鈴木正夫 長崎国体準備委 長崎国体準備委
8 10 長崎のブルース 天ヶ瀬美和 小島胡秋 伏見竜治
9 10 霧降る恋の港町 天ヶ瀬美和 小島胡秋 伏見竜治
※ほかに「新九州小唄(1)」「新九州小唄(2)」「九州小唄」「福島町民の歌」「福島町歌」「福島橋音頭」「波佐見音頭」。

●主な出来事
6月=第三次中東戦争ぼっ発。10月=佐藤首相の東南アジア諸国訪問に反対する全学連が抗議デモ(第1次羽田事件)。11月=佐藤首相の訪米に反対する全学連デモ (第2次羽田事件)。県内では6月から9月にかけて全域で干ばつに見舞われました。県は6月21日に干害対策本部を設置しますが、7月9日、皮肉にも県北・五島地域に集中豪雨があり、死者50人、負傷者364人を出しました。9月=西彼杵半島に西彼開拓道路、10月=福島大橋が完成、11月=長崎バイパスが長崎市の新しい動脈として開通。12月=28日・長崎市中央橋脇にX字型歩道橋が完成しました。
世相では、クレジット販売が繁盛し、ゴーゴー喫茶、アングラ酒場も盛況でした。フーテン族が話題になり、「核家族」「蒸発」の流行語が出たのもこの年です。
歌謡界は石原裕次郎の「夜霧よ今夜も有難う」、相良直美の「世界は二人のために」、伊東ゆかりの「小指の想い出」などのほか、早回しテープを使ったザ・フォーク・クルセダーズの「帰ってきたヨッパライ」は“アングラ・フォーク”のブームを呼びました。長崎の歌は長崎国体の盛り上げを図る「長崎国体の歌」「長崎国体音頭」が作られたほか、天ヶ瀬美和が初のブルース演歌「長崎のブルース」でキャンペーンしましたが、長崎にはまだ受け入れる土壌は整っていませんでした。長崎の歌16曲のうち全国盤は8曲でした。

「長崎のブルース」の表紙

【昭和43年(1968)】 全20曲から15曲
No. 曲 名 歌 手 作 詞 作 曲
1 ? 長崎の女の子 坂本スミ子 大塚義章 大塚義章
2 2 悲しみの十字架 ジュディ・オング 向島朝泳 市川昭介
3 4 長崎の乙女 大賀義雄 井手博 関口一弥
4 4 長崎そだち 鈴村由美 周東敬二 遠藤実
5 4 長崎のザボン売り 都はるみ 石本美由起 江口夜詩
6 4 グリーンベルトのハイウェー 立川澄人、安西愛子 長崎県選定 長崎県選定
7 4 思案橋ブルース 高橋勝とコロラティーノ 川原弘 川原弘
8 5 長崎の別れ星 大木英夫 吉田孝穂 佐藤正明
9 7 西海旅情 北島三郎 星野哲郎 島津伸男
10 8 長崎ブルース 青江三奈 吉川静夫 渡久地政信
11 11 悲恋 白珠姫 東海林太郎 田中仙夢 森一也
12 11 雨の長崎 ヤング・トーンズ 山上路夫 渡久地政信
13 12 長崎のあなた 高橋勝とコロラティーノ 丘灯至夫 鈴木淳
14 12 思案橋空車 ハニー・トーンズ 高浪ふじを 松本敏美
15 12 思案橋のひと 高橋勝とコロラティーノ 吉岡治 戸塚三博
※ほかに「玄海ワルツ」「勝本小唄」「西海小唄」「西海音頭」「琴海ばやし」。

●主な出来事

3月=南ベトナムのソンミ村で米軍が村民500人以上を虐殺。4月=米黒人指導者キング牧師暗殺。6月=ケネディ米上院議員狙撃され死亡。8月=ソ連軍東欧軍がチェコ全土を占領…など、この年は国際的な事件が続きました。国内では、5月=十勝沖地震、死者52人。8月=岐阜県白川町で観光バス2台が飛騨川に転落、死者・不明104人。10月=川端康成にノーベル文学賞。米ヌカ油中毒事件。12月=東京・府中市で3億円強奪事件が発生。この年、日本のGNPが自由世界で第2位となり、「いざなぎ景気」「昭和元禄」が流行語に。ラジオ付きカセットテープレコーダー(ラジカセ)が登場したのもこの年。県内関係では、1月=12日・長崎市の花がアジサイに決定。19日・米原子力空母「エンタープライズ」が佐世保に入港、三派系全学連と警官隊が衝突(佐世保事件)。2月=長崎市と香焼町が陸続きに。3月=横綱佐田の山が引退。4月=対馬でカドミウム汚染が発覚。5月=対馬縦貫道路(比田勝〜厳原)が開通。この年、長崎市内の宝町、県庁前、興善町、住吉の各交差点に歩道橋が完成。
歌謡界では、タイガースの「花の首飾り」、いしだあゆみの「ブルーライト・ヨコハマ」、ピンキーとキラーズの「恋の季節」など若者の歌が相次ぎました。演歌ものは長崎から「思案橋ブルース」で高橋勝とコロラティーノがデビュー、“長崎の歌ブーム”の口火を切り、「長崎の別れ星」も出てキャバレーの歌による客寄せ合戦の様相を呈しました。青江三奈の「長崎ブルース」も大ヒット、思案橋を取り入れた歌が相次ぎ、ラジオや有線放送のヒット・ランキングが全国から注目されたほどです。長崎の歌20曲のうち13曲が全国盤でした。


「思案橋ブルース」の表紙

「長崎ブルース」の表紙
 

【昭和44年(1969)】 全23曲から14曲
No. 曲 名 歌 手 作 詞 作 曲
1 2 長崎は今日も雨だった 内山田洋とクール・ファイブ 永田貴子 彩木雅夫
2 2 マリアのふるさと 川路泰子
佐々木みつぐ 下村耕史
3 3 西海ブルース 花菱エコーズ
永田貴子 尾形よしやす
4 3 野母崎音頭 葵ひろ子 池田誠一郎 木野普見雄
5 3 野母崎町町民歌 石垣良彦、クラウン合唱団 山口芳弘 木野普見雄
6 5 港町ブルース 森進一 深津武志 猪俣公章
7 5 長崎ロマン こまどり姉妹 石本美由起 和田香苗
8 6 霧の長崎 都はるみ 三浦康照 甲斐靖文
9 7 マリアの長崎 有明ひかり 周東敬二 木村公一
10 7 わかれ雨 内山田洋とクール・ファイブ 鳥井実 彩木雅夫
11 7 終着駅の港まち 松山純子 佐々木みつぐ オダ・マナブ
12 7 長崎慕情 鈴木次郎 金子知司 大泉光
13 11 長崎詩情 内山田洋とクール・ファイブ 中山貴美 城美好
14 11 ヘイジー・ポート・ナガサキ 原田糸子 水島哲 米山正夫
※ほかに「佐世保市歌」「明るい町づくり音頭(佐世保=三波春夫)」「佐世保の女」「不知火の女(クール・ファイブ)」「ブルー・ナイト・イン・長崎(松浦ヤスノブとトウキョー・ブルーナイツ演奏)」「夾竹桃のうた」「平戸慕情(仲宗根美樹)」「佐世保の夜」「夜の銀座と長崎と」。

●主な出来事

この年は「長崎国体」など県内で出来事が相次ぎました。1月=16日・長崎大学の学生会館の管理問題をめぐる紛争に警官隊導入。東大でも学生たちが安田講堂を占拠、機動隊8,500人が出動して封鎖を解除。このほか全国各地で大学紛争が激化。3月=対馬の佐須川、椎根川流域がカドミウム環境汚染要観察地域に指定。6月=長崎駅前に高架広場が完成。原子力船「むつ」が進水。7月=長崎市営交通船が45年の歴史に幕。7月=池田辰己県議会議長が刺殺される。アポロ11号が月面着陸。8月=長崎市の平和公園に「平和の泉」完成。9月=早稲田大学、機動隊導入して大隈講堂と第2学生会館の封鎖解除。長崎国体夏季大会開催。長崎市が再び渇水対策本部を設置、19日から全市給水制限。10月=天皇・皇后両陛下を迎え、長崎国体秋季大会開催。国体期間中に限り給水制限を解除。11月=長崎で第5回パラリンピック開催。沖縄72年返還の日米共同声明。世相ではこの年、パンタロンが流行。「フォークゲリラ」「断絶の時代」「オー、モーレツ!」「野球拳」などの流行語を生みました。

歌謡界では、皆川おさむの「黒猫のタンゴ」、ザ・ドリフターズの「いい湯だな」などがヒットしましたが、長崎から「長崎は今日も雨だった」で内山田洋とクール・ファイブがデビュー、森進一の「港町ブルース」など中央サイドで企画された長崎ものも増え始めました。この年に発売された長崎の歌23曲のうち、全国盤は19曲でした。

「長崎は今日も雨だった」の表紙
 

【昭和45年(1970)】 全28曲から22曲
No. 曲 名 歌 手 作 詞 作 曲
1 1 東京長崎札幌 三谷謙 北 五郎 遠藤実
2 3 出島長崎異人館 アカシヤ洋子 入江市郎 川上英一
3 3 長崎の夜はむらさき 瀬川映子 古木花江 新井昌作
4 4 ヨカバイ音頭 榎本美佐江、鈴木正夫 井田誠一 鈴木庸一
5 4 ギヤマン小唄 榎本美佐江 井田誠一 鈴木庸一
6 4 愛して別れた港町 長崎二郎 くるみ広影 くるみ敏広
7 4 想い出の長崎 平浩二 高原としお 八坂邦生
8 5 そとめ音頭 杉野正男、丸山浜子 乗田正美 木野普見雄
9 5 そとめ口説 葵ひろ子 民謡 木野普見雄
10 6 白い血 松山昌広 辻端力 増永二郎
11 9 茂木音頭 吉村みつの 吉田三代治 原綾子
12 9 茂木小唄 田中久之、近藤敬子 田中竜男 深町一朗
13 9 お蝶夫人 都はるみ 石川潭月 市川昭介
14 10 お祭り渡り鳥 鳳けい子 北上由希夫 吉田屋健治
15 10 泣いてる長崎 西条秀 千坊さかえ 花礼二
16 11 長崎出島物語 倍賞美津子 豊島トイ 米山正夫
17 11 ラテン長崎港町 倍賞美津子 長崎八代 米山正夫
18 11 長崎ごころ ジ・アーズ 酒井好満 野田孝一
19 11 長崎非情のブルース ジ・アーズ 酒井好満 野田孝一
20 11 出島の雨 田中久之 竹本稔 深町一朗
21 11 ながさき南山手二番館 田中久之 出島五郎 深町一朗
22 12 あゝ長崎 平川幸夫 木下竜太郎 白石十四男
※ほかに「あゝ島原城」「九州盆唄」「九州ゆらゆら小唄」「平戸ブルース」「夢のコバルトライン(平戸)」。

●主な出来事

3月=大阪で日本万国博覧会開催。赤軍派が日航機「よど号」を乗っ取り、北朝鮮に投降、亡命。ペルー北部で大地震があり死者は約5万人。4月=大阪北区の地下鉄工事現場でガス爆発、79人死亡。6月=日米安保条約が自動延長。8月=東京銀座などで歩行者天国スタート。11月=東パキスタンで猛烈サイクロン発生、死者は20万〜50万人。25日・三島由紀夫割腹自殺事件。
県内では、3月=5日・長崎市が完全給水にとなり、水不足から脱却。4月=28日・長崎開港400年記念祭。7月=国鉄浦上線の長崎トンネルが開通。9月=県公害対策本部発足。10月=24日・三菱長崎造船所でボイラー爆発、死者3人、重軽傷32人。世相では男性の長髪が流行。大気汚染・環境汚染などの公害が問題化、「ヘドロ」が流行語にもなりました。
歌謡界では加藤登紀子の「知床旅情」、ソルティー・シュガーの「走れコウタロー」、鶴田浩二の「傷だらけの人生」、藤圭子の「圭子の夢は夜ひらく」など。長崎ものは瀬川映子の「長崎の夜はむらさき」がヒットして“長崎ブーム”が続く一方、長崎開港400年にちなむ歌のほか、町や地域のマイナーレコードが作られました。長崎の歌28曲のうち全国盤は20曲でした。


長崎開港400年にちなんで
作られたレコードの表紙


「長崎の夜はむらさき」の表紙

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