文・森 草一郎



 「坂の長崎」と歌にも歌われているように長崎は山の斜面に広がった町です。 ある調査では、人口の三分の一が傾斜度15度以上の斜面に家を建てて住んでいます。 丘の頂上から下まで傾斜地にびっしりと建て込んだ家並みは版画家田川憲さんが「人間の丘」と名付けたように長崎独特の風景です。

 当然ながら道路は山の斜面をくねくねと這い登り、旧市街には車さえ入れない住宅地がたくさんあります。その坂の町に暮らすのはなかなかたいへんですが、いい面もあります。家の窓から広い景色が開け、縁側から港が見えるところもあります。また、風がそよそよと入ってきて夏が涼しく過ごせるのではないでしょうか。

 そんな坂の町ながさきを味わうのは歩くのが一番です。グラバー園のような観光スポットをちょっとはずれて、古い石畳がくねくねと続いている路地や階段のある下町に足を踏み出してみましょう。
 歩いていくと途中で道が分かれています。その中からなるべく細い道・曲がりくねった道を選び、左右を子細に眺めながらゆっくりと歩きます。子供が遊んでいたり、お婆さんが一休みしていたり、猫が道の真ん中で寝ていたり、洗濯物が干してあったりするなかを歩きます。
 迷路のような街を歩いていて、自分が現在いるところが分からなくなったら、それこそが長崎街歩きの至福の時間です。小さなお寺や狛犬さん、井戸や植木やマンホール、駄菓子屋さんやお風呂屋さんなどに出会います。最後は高いところに登って、歩いたコースを振り返って見ましょう。

 そして、国土地理院が発行している長崎市街地の一万分の一の地形図を本屋で買ってきて、今日自分が歩いた道を赤鉛筆でなぞりましょう。赤の入った道が増えるとうれしくなります。地図を見ながら「次はどこを歩こうかな」と思うようになれば、あなたは街歩きオタクに変身し、我々路上観察アルキメデスの仲間です。


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