110 夏休み最終日

皆さん、夏休みはいかがお過ごしでしたか?
今回は、おそらくどこの家庭でも見られる光景。
夏に限らず、著者も原稿を出す〆切前は
だいたいこんな感じ……(汗)。


(とある家庭、母親が子どもを叱っている)

あーもー、はがいか。
そいけん宿題は、早めのうちにしとかんねて
お母さんが、あんだけ何度も何度も言うたろうが。

あーもー、どーまた、ぞーたんのごと。
漢字の書き取りも、算数も、絵日記も
あいもどいもこいもそいも、7月分までしかしとらんたい。
ちゃんと出来とっとは、工作だけて……
あたりまえたい。親子工作教室に行って作ったとやもん。

《訳》
ああもう、はがゆいわ。
だから宿題は、早めのうちにしておきなさいと
お母さんが、あれだけ何度も何度も言ったでしょう。

ああもう、どうしてまた、冗談じゃないわ。
漢字の書き取りも、算数も、絵日記も
あれもどれもこれもそれも、7月分までしかやってないじゃない。
ちゃんと出来ているのは、工作だけって……
あたりまえだわ。親子工作教室に行って作ったんだもの。


(子ども、ぐずぐず言う)

あーもー、ぐぜらんと! どいもこいも
宿題せんでおって遊んでさらいた自分が悪かとやろうが。
あーもー、なしてこがんあるかねー。

(子ども、さらにぐずぐず言う)あーもーしゃあしかー。
そげんしてお母さんにうっかからんと、暑かとに。

とにかく明日までに、どげんかせんといかん。
お母さんは漢字の書き取り、お父さんが帰ってきたら
算数ばしてもらうけん、あんたは絵日記ば書きなさい。

《訳》
ああもう、ぐずぐず言わないの!  どれもこれも
宿題しないままで遊んでまわった自分が悪いんでしょう。
ああ、どうしてこんなふうなんだろう。

(子ども、さらにぐずぐず言う)ああもううっとおしい。
そんなふうにお母さんに寄りかからないで、暑いのに。

とにかく明日までに、どうにかしなきゃならないわ。
お母さんは漢字の書き取り、お父さんが帰ってきたら
算数をやってもらうから、あなたは絵日記を書きなさい。


(電話がかかってきて、母親が取る)

あっ実家のお母さんね。
いま、ちんちろまいやけん、あとで……
……へーさ、そんとおりさ。
今日で夏休み終わりとに、宿題ばいっちょんしとらんで
いま、おごっておごっておごりつらかしたところさ。

ていうか、なしてお母さん、そげんことんわかると?
うちはまだ、なんも言うとらんとに……

えっ、うちん時もそうやったけんて……
おっお母さん(汗)。
お願いやっけん、子どもん前では言わんどってね。

《訳》
あっ実家のお母さん。
いま、てんてこまいだから、あとで……
……そうよ、そのとおりなのよ。
今日で夏休み終わりなのに、宿題を全然していなくって
いま、叱って叱って叱りまくったところよ。

ていうか、なんでお母さん、そんなことがわかるの?
わたしはまだ、なにも言ってないのに……

えっ、わたしの時もそうだったからって……
おっお母さん(汗)。
お願いだから、子どもの前では言わないでいてね。



<ワンポイント>

【そいけん】
だから、の意味。

【ぞーたんのごと】
冗談じゃない、の意味。
「ぞーーたん」と長く伸ばし、高くすっ頓狂に発声するのがコツ。

【ぐぜる】
駄々をこねたり、機嫌悪くぐずぐず言うこと。

【〜せんでおって(〜せんどって)】
〜しないままでいて、の意味。
例/「お願いやっけん柱にうっかからんでおって」
   (「お願いだから柱に寄りかかったりしないでいて」)

【こがんある】
こんなふう、の意味。
ネガティブなシチュエーションで使われることが多い。
例/「すみません。いつもあん人は、こがんあっとです」
   (「すみません。いつもあの人は、こんなふうなんです」)

【うっかかる】
寄りかかる。
例/「柱にうっかかたら、柱ごと倒れたとです」
   (「柱に寄りかかったら、柱ごと倒れたんです」)

【しゃあしか】
わずらわしい。面倒くさい。「せからしか」「やぜか」ともいう。

【どげんかせんといかん】
どうにかしなければいけない、の意味。
元宮崎県知事の東国原英夫氏が発言して
2007年の流行語大賞にもなった、有名なフレーズ。
宮崎に限らず、九州圏内ではひんぱんに使う。

【ちんちろまい】
てんてこまい。

【おごる】
怒る。叱る。
例/「あーあ、母ちゃんにおごらるっばい」
   (あーあ。お母さんに叱られるよ」)




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