今年は例年より先に、桜の花が開花したとか。
そんな便りを見たり聞いたりして
ワクワクするのは、誰でも一緒のようです。


(とあるお花見会場)

地球人 よいしょっと、こがんして、生地ばはたげて……と
     ああ〜、忙しか忙しか。豚まん作っとで忙しか。

宇宙人 あいやー、今日は豚まん屋ですか!

地球人 あいやー、わいは先月ランタンフェスティバルに
     来とった宇宙人たい。まだ母星に帰っとらんやったとや!

宇宙人 じつはですね、ちんぐが、えろう地球の気に入ってしもうて
     ひゅうなしんごとして、地球からいっちょん帰らんけん
     母星のはらかいて「あーもはがいか、はよう地球侵略せんかー」て
     空飛ぶ円盤で、地球に攻めてきよっとです、ワープ航法で。

地球人 ええーっ! そいはぼっくい冷えかぶるやっか!

《訳》
地球人 よいしょっと、こんなふうに、生地を広げて……と
     ああ〜、忙しい忙しい。肉まん作るので忙しい。

宇宙人 あれえ、今日は肉まん屋ですか!

地球人 あれえ、おまえは先月ランタンフェスティバルに
     来ていた宇宙人じゃないか。まだ母星に帰っってなかったのか!

宇宙人 じつはですね、仲間が、えらく地球が気に入ってしまって
     なまけ者みたいになって、地球からぜんぜん帰らないから
     母星が腹を立てて「ああもう歯がゆい、はやく地球侵略しないか」と
     空飛ぶ円盤で、地球に攻めてきているんです、ワープ航法で。

地球人 ええーっ! それはものすごくびっくりじゃないか!


(お花見会場の上空に、いきなり空飛ぶ円盤が現れる)

地球人 うわっ、ふっとかボウブラんごたる円盤のひょかっと出てきた!

宇宙人 こがん早(はよ)う来るて思わんやった。
     きっと、ひしてワープ航法ば、してきたとたい。
     円盤のほたぶれる前に、何とかせんば……あれ?

地球人 ……なんもしてこんぞ。

宇宙人 じつは、わたしの星の人間は
     ピンク色ば、ぼっくい好いっとっとです。
     こん満開の桜ん花ば見て、ウットリしよっとかもしれません!

《訳》
地球人 うわっ、大きなカボチャみたいな円盤がいきなり出てきた!

宇宙人 こんなに早く来るとは思わなかった。
     きっと、一日じゅうワープ航法を、してきたんだ。
     円盤が暴れる前に、何とかしなくちゃ……あれ?

地球人 ……なにもしてこないぞ。

宇宙人 じつは、わたしの星の人間は
     ピンク色を、ものすごく好きなんです。
     この満開の桜の花を見て、ウットリしているのかもしれません!


(宇宙人の通信機の鳴り、宇宙人出(ず)る)

宇宙人 ……はい、はい。他のお花見会場も教えろて、はい。

(宇宙人の通信機ば切る)

宇宙人 やっぱいそうでした。こん満開の桜ん花ば見て
     あんましきれかけんて、地球侵略はやめるごとしたそうです。

地球人 そうか、花見の季節でよかった。桜ん花が地球ば守ってくれたったいね。
     ……ああ、空飛ぶ円盤の、はっていきなった。

(ナレーション)
その後、各地のお花見会場に、空飛ぶ円盤のあらわるっ現象のつづいた。
そいに対して、花見客からやがて
「フトウマワレ」ていう歓声の、かかるごとなったとか。

《訳》
(宇宙人の通信機が鳴り、宇宙人出る)

宇宙人 ……はい、はい。他のお花見会場も教えろと、はい。

(宇宙人が通信機を切る)

宇宙人 やっぱりそうでした。この満開の桜の花を見て
     あまりにもきれいだからと、地球侵略はやめることにしたそうです。

地球人 そうか、花見の季節でよかった。桜の花が地球を守ってくれたんだな。
     ……ああ、空飛ぶ円盤が、去っていった。

(ナレーション)
その後、各地のお花見会場に、空飛ぶ円盤があらわれる現象がつづいた。
それに対して、花見客からやがて
「オオキクマワレ」という歓声が、かかるようになったとか。



<ワンポイント>

【はたげる】
ひろげる。足などを開く。

【豚まん】
長崎を含む西日本では、一般的に肉まんのことを「豚まん」と呼ぶ。
西日本において「肉」といえば、牛肉をさすためであるらしい。
そういえば筆者は、子どものころ「肉まん」は、都会的な響きに感じていたが
皆さんはどうであろうか。

【ひゅうなし(ひよなし)】
なまけ者。無精者。

【はらかく】
腹をたてる。怒る。

【はがいか】
はがゆい。じれったい。悔しい。

【ぼっくい】
ものすごく。

【冷えかぶる】
びっくりする。おびえる。

【ふっとか(ふとか)】
大きい。

【ボウブラ】
かぼちゃ。元はポルトガル語の「アボウブラ」。
実際にはこの言葉は死語となり、使っている人はほとんどいない。

【ひょかっと】
いきなり。ひょいと。

【ひして】
一日じゅうかかって。

【ほたぶれる】
暴れる。
例/「ひして並んどったとに、横からひょかって入られたら、ほたぶるっばい」
   (一日じゅう並んでいたのに、横からいきなり入られたら、暴れますよ」

【はっていく】
去っていく。

【フトウマワレ】
「長崎くんち」での掛け声のひとつ。
傘鉾に対して「大きく回れ」という意味で使われるが
長崎の人間は、丸くてクルクル回るものを見た際に
ついつい叫んでしまうらしい(……というのはウソです)。




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