梅雨が明けて、夏本番です!
夏になると、いろんなものが出てきます!
さてあなたは、何が出てくるのを想像しますか?
そして、どう対処しますか?


(夜、若い女性が、部屋の中でふるえている)

ああ、おとろしかおとろしか……
あいの、あすこにおるて思うただけで
おとろしか。

こないだなんか、見たとたんあせがって
「あいやー!」て、おめいてしもたけん
近所の人から「夜にあまらんでください」って
注意されてしもうたばってん。

手で「あっちゃん行け」ってしたっちゃ
なんでか知らん、いつもこっちゃん来るとやもん。

《訳》
ああ、おそろしいおそろしい……
あいつが、あそこにいると思っただけで
おそろしい。

こないだなんか、見たとたん焦って
「いやーあ!」て、叫んでしまったから
近所の人から「夜に騒がないでください」って
注意されてしまったけれども。

手で「あっちに行け」ってしても
なぜか知らないけど、いつもこっちに来るんだもの。


(部屋のすみから、黒い影があらわれる)

来た……来た、来た来た来た!
あああ、なしてあんげんおとろしか色ばしとっとやろ。
せめてもっと、あっか感じやったらよかとに。

いやいや、こげんして黙っとったっちゃ埒(らち)はあかん。
よーし、勇気をもってたたか……(向き直る)
うわあー、あっちゃこっちゃ、よけしこおるー!

《訳》
来た……来た、来た来た来た!
あああ、どうしてあんなこわい色をしてるんだろう。
せめてもっと、明るい感じだったらいいのに。

いやいや、こんなふうに黙ってても埒はあかないわ。
よーし、勇気をもってたたか……(向き直る)
うわあー、あっちにもこっちにも、たくさんいるー!


(若い女性、がっくりとうなだれ)

あいやー、もうムリばい、こがんなったらうちの手には負えん。
スプレー殺虫剤も、新聞紙丸めたとも
もう、使う気のうなった。

明日……くん煙剤ば買(こ)うてこんば。
そいで、一網打尽やけん。
……あもじょになって出てこんでね、あまめさんたち。

《訳》
ああ、もうムリだわ、こうなってしまったらわたしの手には負えない。
スプレー殺虫剤も、新聞紙丸めたのも
もう、使う気なくなった。

明日……くん煙剤を買ってこなくちゃ。
それで、一網打尽だから。
……お化けになって出てこないでね、ゴキブリさんたち。



<ワンポイント>

【あんちっしょ】
あんちくしょう。あの野郎。

【あい】
あいつ。あれ。

【あすこ】
あそこ。

【あせがる】
あわてる。焦る。

【あいやー】
もともとは「おやまあ」「あらー」 とかいう中国語の感嘆符だが
すっかり長崎にも、なじんでしまった。
ちなみに著者は、ふだん気取って標準語をしゃべっていた人が
何かの拍子に「あいやー」と叫んだのを見て、密かに安堵した経験がある。

【あまる】
はしゃいで騒いだり暴れたりすること。

【あんげん(あがん)】
あんな。

【赤(あ)っか】
年配の女性のあいだでは、本来の「赤い」という色だけではなく
「明るい」「派手だ」という意味でも、使われている。
例/「あいやー、あんなんの、あがんあっか服ば来て」
  (「あらー、あの人ってば、あんな派手な服を来て」)

【あっちゃこっちゃ】
あっちこっち。

【あもじょ】
お化け。

【あまめ】
ゴキブリや船虫など、黒くて楕円形で平べったくて
カサカサ動きまわる虫を指して、こう呼ぶ。
(船虫の場合は「うみあまめ」と表現することもある)
なぜか「あまめさん」と、敬称をつけて呼ぶ場合も多い。

いずれにせよ、どんな明るく派手な色をしていても
「あまめさん」とは、仲良しになれそうもありません……。




【もどる】