ほらほら〜、出前ん皿うどんの届いたけん
お膳ばあけて、小皿ば並べて。
あ、ちょっとお兄ちゃん
玄関にソースば忘れてきたけん、持ってきてくれんね。
《訳》
ほらほら〜、出前の皿うどんが届いたから
お膳をあけて、小皿を並べて。
あ、ちょっとお兄ちゃん
玄関にソースを忘れてきたから、持ってきてちょうだい。
ありがと。え、お兄ちゃん、なん?
「おいは、皿うどんよかチャンポンがよかった」って?
しょんなかたい。
さっき「皿うどんどん、とりましょだい」て、言うて
注文ばすっときにお兄ちゃん、おらんやったとやもん。
しょんなかけん、そがんはぶてんちゃさ
みんなでおもやいで、皿うどんば食べましょで。
(ラップをはずして、皿うどんをほぐす)
どうぞどうぞ〜、お客さんから。
よかしこ取ってくださいね。よけいしこ食べてくださいね〜。
《訳》
ありがと。え、お兄ちゃん、なに?
「おれは、皿うどんよりチャンポンがよかった」って?
しょうがないじゃない。
さっき「皿うどんでも、とりましょうかね」て、言って
注文をするときにお兄ちゃん、いなかったんだもん。
しょうがないから、そんなにふくれてないで
みんなでいっしょに、皿うどんを食べましょうよ。
(ラップをはずして、皿うどんをほぐす)
どうぞどうぞ〜、お客さんから。
好きなだけ取ってくださいね。たくさん食べてくださいね〜。
あ〜、食うた食うた。
腹いっぱい食うた。かつれて食うた。
ほら〜お兄ちゃん、皿うどんもよかったろうが? お客さんも、もっと食べんば、ほれ。
もう全部、さらえてしまいましょうで。
え、もうそがん食べきらん?
もう、はらんふとか?
そうね〜。食べきえんとね。しょんなかね。
そしたら残りは、かぶりにすっけん
あしたん朝、食べてくださいね〜。
《訳》
あ〜、食った食った。
たらふく食った。ガツガツ食った。
ほ〜らお兄ちゃん、皿うどんもよかったでしょう?
お客さんも、もっと食べなくちゃ、ほら。
もう全部、食べてきってしまいましょうよ。
え、もうそんなに食べられない?
もう、おなかいっぱい?
そうなの〜。食べられないの。しょうがないわね。
それなら残りは、持ち帰れるようにするから
あしたの朝、食べてくださいね〜。
<ワンポイント>
【出前の皿うどん】
長崎では、親せきの集まりや、急なお客さんなどの時に
皿うどんの出前をとることが多い。
「金蝶ソース」という銘柄の、皿うどん用のソースがあり
出前の際には、これが皿うどんについてくる。
最近は、多くの店で専用の容器が使われているようだが
むかしはこのソース、必ずドリンク剤のビンに入っていた。
【おいはチャンポン】
出前をとる際に、なぜか必ず、こう言う人がいる。
これまでの、筆者の経験からいうと
たいていは若いおじさんか、年ごろの従兄弟であったりする。
これは「その共同体から脱却したい、自立したい」という
若いオスとしての本能が、無意識にあらわれている
という説を、筆者はむかしから唱えているのだが
「ただの好みの違いやろ」と、一笑されることが多い。
みなさんは、どう思いますか?
【しょんなか】
しょうがない。
例/「そがんこと言うたっちゃ、しょんなかたい」
(「そんなこと言ったって、しょうがないじゃないか」)
【〜どん】
〜でも。
例/「どがんや、カツ丼どん食わんか」
(「どうだ、カツ丼でも食べないか」)
【はぶてる】
ふてくされる。
例/「なんばはぶてよっとや、わい」
(「何をふてくされているんだ、お前」)
【おもやい】
「共同でつかう」「共有する」の意味。
【皿うどんをほぐす】
皿うどんを、大皿からおもやいで食べるときのコツ。
皿の中央から、箸で十字型にバリバリと麺をほぐしていく。
これをすることにより、小皿に取り分けやすくなり
アンや具も、からみやすくなる。
【よかしこ】
好きなだけ。
【よけいしこ、よけしこ】
たくさん。山のように。
【かつれる】
ガツガツと食い意地がはっていること。
食い意地がはった子どもは「かつれご」という。
【さらえる】
皿に残った料理を、全部たいらげること。
【〜きらん、〜きえん】
〜できない。
【はらんふとか】
おなかいっぱい。
【かぶり】
料理店などであまった料理を、持ち帰り用につめてもらうこと。
衛生上の問題もあってか、最近では
「かぶり」をしない店が増えてきているのが、すこし残念。
【あしたん朝、食べなさい】
多くの市民に言わせると、皿うどんは
二日目に、フライパンで炒めなおして食べるのが
なおいっそう、旨いのである。
次回へつづく。
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