怪盗団「ネ・シャール」とK・G・ユーカー伯爵の対決
その、闘いのゆくえは……?
そして、生き別れとなった親子の運命は?


(母親のナレーション)
K・G・ユーカー城は、こっから遠くはなれた、絶海の孤島にあったと。
うったち3人は城ん中に、ハタば使うて忍びこんだ。
セキュリティは、ぼっくいがんじょかったばってん
うったちも、負けとらんやった。
みごと「けごゆかカピタン」ば手に入れて
ふたたびハタに乗って、城ばあとにしようてしたと。
ばってんそんとき、K・G・ユーカー伯爵の
ふっとかハタに乗って、あらわれたっさ。

《訳》
(母親のナレーション)
K・G・ユーカー城は、ここから遠くはなれた、絶海の孤島にあったわ。
わたしたち3人は城の中に、凧を使って忍びこんだ。
セキュリティは、とても頑丈だったけど
わたしたちも、負けてはいなかったわ。
みごと「けぶかいカピタン」を手に入れて
ふたたび凧に乗って、城をあとにしようとしたの。
ところがそのとき、K・G・ユーカー伯爵が
おおきな凧に乗って、あらわれたのよ。



ガメール ああっ、K・G・ユーカー伯爵の追ってくるばい!
ユーカー ふははは! 「ネシャール」め
     おいん手から、逃れらるって思わんとばい!
チャリー ああ、こんままやったら、3人ともつかまってしまう……。
     姉さんたち、うちがここでオトリになっけん
     姉さんたちは「けごゆかカピタン」ば持って、早う逃げて!
モサール ああっ、ダメ。ダメて、チャリー!


《訳》
ガメール ああっ、K・G・ユーカー伯爵が追ってくるわ!
ユーカー ふははは! 「ネシャール」め
     わたしの手から、逃れられると思うなよ!
チャリー ああ、このままでは、3人ともつかまってしまう……。
     姉さんたち、わたしがここでオトリになるから
     姉さんたちは「けぶかいカピタン」を持って、早く逃げて!
モサール ああっ、ダメ。ダメよ、チャリー!



(伯爵とチャリーとのあいだで、激しい闘いがはじまる)
チャリー えいっえいっ! おかしかばい、なして伯爵のヨマの切れんと?
ユーカー おいの使いよるヨマは、特殊セラミック製んヨマばい。
     そんげん簡単に、切れやせんとばい。ふははは。
     小娘め、今度はこちらからいくばい、それっ!
(チャリーのヨマが切れる)
チャリー きゃああああーー!

ガメール ヨイヤ〜! ……て、おめいとるだんじゃなかばい!
モサール チャリー、ああチャリー。どげんしゅう。
     こんげん夜の海へ、落っちゃけてしもうて……!

《訳》
(伯爵とチャリーとのあいだで、激しい闘いがはじまる)
チャリー えいっえいっ! おかしいわ、なぜ伯爵の凧糸が切れないの?
ユーカー わたしの使っている糸は、特殊セラミック製の凧糸だ。
     そう簡単に、切れやしないのだよ。ふははは。
     小娘め、今度はこちらからいくぞ、それっ!
(チャリーの凧糸が切れる)
チャリー きゃああああーー!

ガメール おみごと〜! ……なんて叫んでる場合じゃなかったわ!
モサール チャリー、ああチャリー。どうしましょう。
     こんな夜の海へ、落ちてしまうなんて……!



(母親のナレーション)
海に落っちゃけたうちは、必死で泳いだと。
そして、ある島にたどりついたと。
ばってん、そこは人っこひとりおらん、無人島やった……。

そん時からうちの、ひとりきりのサバイバルがはじまったと。
(BGMに「でんでらりゅう」のメロディが、かなしく流れる)
そりゃ、何度もくじけそうになったばい。
ばってん、おに……お姉さまたちの、探してくれよるって信じとったし
愛する夫と子どもんことば思うたら
しゃっちが、しゃっちが生きて帰るっちゅう気持ちになれたと。

……そして、いつんまにか10年間の経っとったとさ。

《訳》
(母親のナレーション)
海に落ちたわたしは、必死で泳いだわ。
そして、ある島にたどりついたの。
でも、そこは人っこひとりいない、無人島だった……。

その時からわたしの、ひとりきりのサバイバルがはじまったの。
(BGMに「でんでらりゅう」のメロディが、かなしく流れる)
そりゃ、何度もくじけそうになったわ。
でも、おに……お姉さまたちが、探してくれてるって信じていたし
愛する夫と子どものことを思えば
かならず、かならず生きて帰るって気持ちになれたの。

……そして、いつのまにか10年間が経っていたのよ。



<ワンポイント>

【ハタ】
凧。長崎人は凧のことを「ハタ」と呼ぶ。
春には、唐八景、風頭山、稲佐山などで、ハタ揚げ大会が行われる。
空中で凧糸を切りあって闘う「けんかバタ」のスタイルが主流。
※実際には、ハタに人は乗ったりしません。絶対に乗りません。

【ヨマ】
一般的に凧糸のこと。
ハタ揚げに使うガラス粉(ビードロ)をまぶした凧糸を
ビードロヨマというが、不用意にさわると手を切るので、
注意してください。

【ヨイヤー!】
「おみごと!」というような意味の、絶賛のかけ声。
けんかバタで勝負のついた瞬間などに叫ばれる。

【おめく】
叫ぶ。

【でんでらりゅう】
長崎地方を中心に、古くから歌われているわらべ唄。
起源も意味も、あまりはっきりとしてはいない。

今回は、そのうちのひとつの解釈
「出ていけるのならば 出ていきますけど
     出ていけないので 出ていきません」
の、ニュアンスで、使わせていただいた。

ちなみに「でんでらりゅう」の歌詞は
でんでらりゅうが(or でんでらりゅうば) でてくるばってん
でんでられんけん でてこんけん
こんこられんけん こられられんけん こーん、こん

【しゃっちが】
ぜひとも。どうしても。どうあっても。かならず。


次回へつづくッ!

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