つつましく暮らす、ワケあり親子のもとに
いきなり帰ってきた女房。
その過去は、おどろくべきものでした!


(母親のナレーション)
そう、そしてそん頃
うちも奪われてしもうとったったい。……ハートば。

ガメール また、ため息ばつきよらすとね。チャリー。
チャリー モサール兄さんに、ガメール兄さん。
モサール ……チャリー。何度も言いよるばってん
     うったちんことは「姉さん」て呼びなさい。
     ボディは男ばってん、うったち、ハートもルックスも女ばい。
チャリー ごめんなさい。モサール姉さん、ガメール姉さん。
モサール そう、そいでよかとよ。カムフラージュんためにも
     うったちが、ごく普通にくらしとる三姉妹ていうことば
     世間さまに、アピールばしとかんばならんとよ。
ガメール あら、普通じゃのうして、美人三姉妹ばい。うふふふ。
モサール あいやまた、ガメールが。おほほほ。


《訳》
(母親のナレーション)
そう、そしてその頃
わたしも奪われてしまっていたわ。……ハートを。

ガメール また、ため息をついているのね。チャリー。
チャリー モサール兄さんに、ガメール兄さん。
モサール ……チャリー。何度も言ってるけれど
     わたしたちのことは「姉さん」と呼びなさい。
     ボディは男だけど、わたしたち、ハートもルックスも女よ。
チャリー ごめんなさい。モサール姉さん、ガメール姉さん。
モサール そう、それでいいのよ。カムフラージュのためにも
     わたしたちが、ごく普通にくらす三姉妹だということを
     世間さまに、アピールしておかなくちゃならないのよ。
ガメール あら、普通じゃなくて、美人三姉妹よ。うふふふ。
モサール あらやだ、ガメールったら。おほほほ。



ガメール そいにしたっちゃ、チャリー
     クリスマスん夜から、おうちはため息ばかし。
モサール わかっとるばい。恋に落ちたとやろ、チャリー。
チャリー ね、姉さん。なしてそいば?
ガメール ばってん、いまは恋はつまらん。つまらんばい、チャリー。
モサール そうばい。世界じゅうにうっ散らばった
     おとしゃまの絵ば、すべてこん手に取りもどすまでは。
ガメール 画家チャールズ・チャッパラレー。うったちんおとしゃま。
モサール そう、そいまでは、うったちに恋は禁句ばい。

(母親のナレーション)
そう。うちは、かつて世界的な画家やった父親の
だまされ、ちゃっぱられたすべての絵ば、取りもどすために
美術品怪盗団「ネ・シャール」ば結成しとったと。
愛するふたりのおに……お姉さまといっしょに。

《訳》
ガメール それにしても、チャリー
     クリスマスの夜から、あなたはため息ばかり。
モサール わかってるわ。恋に落ちたのね、チャリー。
チャリー ね、姉さん。どうしてそれを?
ガメール でも、いまは恋はだめ。だめよ、チャリー。
モサール そうよ。世界じゅうに散らばった
     お父さまの絵を、すべてこの手に取りもどすまでは。
ガメール 画家チャールズ・チャッパラレー。わたしたちのお父さま。
モサール そう、それまでは、わたしたちに恋は禁句よ。

(母親のナレーション)
そう。わたしは、かつて世界的な画家だった父親が
だまされ、奪いとられたすべての絵を、取りもどすために
美術品怪盗団「ネ・シャール」を結成していたの。
愛するふたりのおに……お姉さまといっしょに。



(母親のナレーション)
お姉さまたちの忠告は、ようわかっとったばってん
そん人との再会は、思いもかけず早かったと。
そいは、うったちがカムフラージュでやいよった喫茶店に
ぐうぜん彼が、やってきたこと……。

(カランカラン、とドアのベルが鳴る)
チャリー いらっしゃいませ。
サンタ  ミルクセーキばいっちょくださ……あれっ!
チャリー ああっ、おうちは!

《訳》
(母親のナレーション)
お姉さまたちの忠告は、よくわかっていたけれど
その人との再会は、思いもかけず早かったわ。
それは、わたしたちがカムフラージュでやっていた喫茶店に
ぐうぜん彼が、やってきたこと……。

(カランカラン、とドアのベルが鳴る)
チャリー いらっしゃいませ。
サンタ  ミルクセーキをひとつくださ……あれっ!
チャリー ああっ、あなたは!



<ワンポイント>

【ねしゃる】
人のものをだまって取って、自分のものにする。
また、そのような人を「ねしゃり」という。

【がめる】
人のものをだまって取って、自分のものにする。

【もさる】
人のものをだまって取って、自分のものにする。

【ちゃる】
人のものをだまって取って、自分のものにする。
また、そのような人を「ちゃり」という。

【ちゃっぱる】
人のものをだまって取って、自分のものにする。
また、それをされることを「ちゃっぱられる」という。

※それぞれ、微妙なニュアンスのちがいがありますが
文章による説明は、むずかしいので、実際に使ってみて
感覚でマスターされるのが、懸命な方法と思われます。


次回へつづくッ!

【もどる】