(父親のナレーション)
そう、そいがおいとわいの、出会いやった……。
女性 こがんところで、何ばしよっと?
サンタ 見たらわかるやろう。煙突にうっぱさまって
出られんごとなっとっとです。
女性 (近づいて)どいどい……ああ、その、いのうとる袋の
ひっかかっとっとばい。取ってやっけん待っとかんね。
《訳》
(父親のナレーション)
そう、それがおれとお前の、出会いだった……。
女性 こんなところで、何をしているの?
サンタ 見ればわかるでしょう。煙突にはさまって
出られなくなっているんです。
女性 (近づいて)どれどれ……ああ、その背中にしょってる袋が
ひっかかっているんだわ。取ってあげるから待っててね。
(父親のナレーション)
そん女性(ひと)は甘か香りんして、おいは気の遠(とお)なるごたった。
女性 ほら、取れた。そしたらね(去ろうとする)
サンタ ありがとうございます。あ、あの、せめてお名前ば……。
女性 名乗るほどでんなか。
そいにそん袋。おうち、同業者んごたっし。
サンタ ど、同業者? そいじゃおうちも、サンタクロースね!
女性 えっ!?
《訳》
(父親のナレーション)
その女性(ひと)は甘い香りがして、おれは気が遠くなりそうだった。
女性 ほら、取れた。それじゃあね(去ろうとする)
サンタ ありがとうございます。あ、あの、せめてお名前を……。
女性 名乗るほどでもないわ。
それにその袋。あなた、同業者のようだし。
サンタ ど、同業者? それじゃあなたも、サンタクロースなんだ!
女性 えっ!?
女性 サ、サンタクロース……?
サンタ クリスマスのよんの夜中に、屋根にのぼる人間て
サンタクロースんごたっとしかおらんですよね。ははは。
そいにしたっちゃ、おうちの衣装は、斬新かね。
スマートで、かっちょんよか。おいも来年はそんげんすうかな。
女性 ……ごめんなさい。同業者ていうのは、うちのカンちがいたい。
時間のなかけん、もう行くばい。
サンタ あっ……名前……。
《訳》
女性 サ、サンタクロース……?
サンタ クリスマスの深夜に、屋根にのぼる人間なんて
サンタクロースぐらいしかいませんよね。ははは。
それにしても、あなたの衣装は、斬新だなあ。
スマートで、かっこいいや。ぼくも来年はそれにしようかな。
女性 ……ごめんなさい。同業者というのは、わたしのカンちがいね。
時間がないから、もう行くわ。
サンタ あっ……名前……。
(父親のナレーション)
そがん言うて、そん女性(ひと)は去っていった。
そしておいが、彼女の正体ば知ったとは、翌朝んことやった。
新聞屋 号外ばい、号外! クリスマスん夜に、美術館から
国宝級の美術品「ギヤマンの涙」の消えたとばい!
どうやら犯人は、国際怪盗団「ネ・シャール」ばい!
(父親のナレーション)
そう。彼女の正体は、怪盗やった。すでに遅かった。
おいは、彼女に奪われてしもうておったのだ。……ハートば。
《訳》
(父親のナレーション)
そう言って、その女性(ひと)は去っていった。
そしておれが、彼女の正体を知ったのは、翌朝のことだった。
新聞屋 号外だよ、号外! クリスマスの夜に、美術館から
国宝級の美術品「ギヤマンの涙」が消えたんだよ!
どうやら犯人は、国際怪盗団「ネ・シャール」だよ!
(父親のナレーション)
そう。彼女の正体は、怪盗だった。すでに遅かった。
おれは、彼女に奪われてしまっていたのだ。……ハートを。
<ワンポイント>
【いのうとる】
(荷物を)背負っている。ちなみに「背負う」は「いなう」。
【遠(とお)なる】
遠くなる。ちなみに「近くなる」は「ちこなる」である。
例/「ほら見て! UFOのとおなったり、ちこなったりしよるばい!」
(「ほら見て! UFOが遠くなったり、近くなったりしてるわ!」)
【よんの夜中】
深夜。真夜中。ちなみに昼間は「ひんのひんなか」。
例/「うるさかぞ、よんの夜中にいったいなんばしよ……ゆ、UFO!」
(「うるさいぞ、真夜中にいったいなにをして……ゆ、UFO!」)
【そんげんすう(そげんしゅう)】
そうしよう。
例/「いちごメロンビッグパフェにすうかな」「おいもそげんしゅう」
(「いちごメロンビッグパフェにしようかな」「おれもそうしよう」)
次回へつづくッ! |