ああ、こがんとこで、なごなごしとるわけには
いかんとばってん…。困ったなあ。
父ちゃんに怒らるっばい。ああ、どげんしゅう。
こがんとこに、うっぱさまってしもうて…。
サンタクロースの、二代目ともあろうもんが…。
こいから世界中に配達に行かんばとに。
《訳》
ああ、こんなとこで、ゆっくりしてるわけには
いかないんだけど…。困ったなあ。
父ちゃんに怒れるよ。ああ、どうしよう。
こんなところに、はさまってしまって…。
サンタクロースの、二代目ともあろうものが…。
これから世界中に配達に行かなきゃならないのに。
そもそも、こがんマチん真ん中に
煙突のあったとが、いかんやったとたい。
21世紀の現代社会に、煙突はいらんやろう。
そいとに珍しか、本格的か煙突のある家のあったけん
ついつい、興味ば持って、のぞきこんでしもうたとたい。
そしたら、おもちゃの入ったこん袋ば
つい、落っちゃかすてして。そいば拾おうてしたら
わがが、落っちゃけてしもうたったい。
《訳》
そもそも、こんなマチの真ん中に
煙突があったことが、いけないんだ。
21世紀の現代社会に、煙突はいらないだろう。
それなのに珍しい、本格的な煙突のある家があったから
ついつい、興味を持って、のぞきこんでしまったんじゃないか。
そしたら、おもちゃの入ったこの袋を
つい、落としそうになって。それを拾おうとしたら
自分が、落っこちてしまったんじゃないか。
ああ、もうこがんとこでなごなごしとられんとに
どげんしゅ…。ゲホゲホ…ゲホ…。
なんか、すぼってきたばい…。
…やばかっ! こん家、暖炉に火ば入れなった!
うわあ助けて、助けて〜!
ああも熱か、熱かて。ああ、どげんしゅう。
サンタクロース二代目とも、あろう者が
こがんとこで死ぬとはイヤば〜い!
助けて、父ちゃーん(泣く)。
《訳》
ああ、もうこんなとこでゆっくりしてられないのに
どうしよう…。ゲホゲホ…ゲホ…。
なんだか、けむってきたぞ…。
…やばいっ! この家、暖炉に火を入れやがった!
うわあ助けて、助けて〜!
ああもう熱い、熱いよ。ああ、どうしよう。
サンタクロース二代目とも、あろう者が
こんなとこで死ぬのはイヤだあ〜!
助けて、父ちゃーん(泣く)。
…ハッ。あれ、ここは。自分の家か。
なーんだ。ぜんぶ夢やったとかぁ。
父ちゃん、おい、いま変なか夢ば見たばい。
なん? 夢じゃなかて? 父ちゃんがたった今煙突から
おいば助けてきてくれたて? あと1分でも遅れとったら
おいは、死んどるとこやったて?
ひええ〜! ひえかぶり〜!
《訳》
…ハッ。あれ、ここは。自分の家か。
なーんだ。ぜんぶ夢だったんだぁ。
父ちゃん、おれ、いま変な夢を見たよ。
なに? 夢じゃないって? 父ちゃんがたった今煙突から
おれを助けてきてくれたって? あと1分でも遅れてたら
おれは、死んでるとこだったって?
ひええ〜! ぞっとする〜!
<ワンポイント>
【なごなご】
のんびり。ゆっくり。
【落っちゃかす】
落とす。「落ちる」は「落っちゃける」または「落っちゃくる」。
【わが】
自分。
例/「そがんこと、わがでせんね」
(「そんなこと、自分でしなさい)」
【すぼる】
けむる。くすぶる。煙が出る。
筆者が親の日常会話より採取した一言。
(もしかすると、長崎の言葉ではなく「五島弁」である可能性も)
次回へつづく… |