(これまでのあらすじ)
稲佐山展望台にて、
いそがしゅう立ち働く、撮影スタッフたちのもとに
ヒロインとそん恋人役の役者の、おらんごとなったていう知らせの届く。
《訳》
稲佐山展望台にて
いそがしく立ち働く、撮影スタッフたちのもとに
ヒロインとその恋人役の役者が、いなくなったとの知らせが届く。
スタッフC 目撃者の証言によると
伊王島に行く船に、2人が乗りこむのを見たそうです。
スタッフ全員 伊王島だと〜!?
《訳》
スタッフC 目撃者の証言によると
伊王島さん行く船に、2人の乗りこむとば見たそうです。
スタッフ全員 伊王島てね〜!?
(いきなり場面転換。
ヒロインとその恋人役がたたずむのは、伊王島の馬込教会。
このくそ暑いなか、なぜか2人ともマフラーを巻いている)
ヒロイン あなたのその「ヨン様巻き」、よく似合うわ…。
恋人役 君のその「真知子巻き」も、よく似合ってるよ…。
監督 (いきなり飛び出し)そこまでばい、2人とも!
まわりはすべて、スタッフに囲まれとる。
観念して、ドラマん撮影にもどらんかー!
《訳》
ヒロイン おうちのそん「ヨン様巻き」、よう似合(お)うとる…。
恋人役 君のそん「真知子巻き」も、よう似合(お)うとるばい…。
監督 (いきなり飛び出し)そこまでだ、2人とも!
まわりはすべて、スタッフに囲まれている。
観念して、ドラマの撮影にもどりなさーい!
ヒロイン イヤよ! こんなに愛しあってる2人なのに
これ以上すれちがいの人生なんて、もうたくさん!
監督 なんば言いよっとや。今回撮影すっとは、クライマックスで
2人の誤解のとけて、愛ばたしかめあうシーンばい。
ヒロイン いいえ、私、夕べ立ち聞きしてしまったの。
ドラマの続編を作るようにするために、彼が実は不治の病という
設定に変えられてしまうって。そんなこと、許さないわ!
監督 あいや〜しもうた、聞いとったとか。
《訳》
ヒロイン イヤよ! こがん愛しおうとる2人とに
これ以上すれちがいの人生なんて、もうたくさん!
監督 なにを言ってるんだ。今回撮影するのは、クライマックスで
2人の誤解がとけて、愛をたしかめあうシーンなんだぞ。
ヒロイン うんにゃ、うち、夕べ立ち聞きしてしもうたと。
ドラマの続編ば作っごとすっために、彼が実は不治の病ていう
設定に変えられてしまうって。そがんこと、許さんばい!
監督 ああしまった、聞いていたのか。
監督 …しょんなかたい。続編の話は、白紙にもどそう。
ヒロインと恋人役は、こいまでの設定どおり
稲佐山展望台で、愛ばたしかめあうごとしよう。
スタッフA ええー、また帰るんですか? 稲佐山に? スタッフB せっかく、伊王島まで来たんだから
ここで、撮影しちゃいましょうよ。
監督 そいもそうたい。そげんすうか。
《訳》
監督 …しかたがないな。続編の話は、白紙にもどそう。
ヒロインと恋人役は、これまでの設定どおり
稲佐山展望台で、愛をたしかめあうようにしよう。
スタッフA ええー、また帰(かい)っとですか? 稲佐山に?
スタッフB せっかく、伊王島まで来たとやっけん
ここで、撮影しましょうで。
監督 それもそうだな。そうしようか。
(ふたたび場面転換。クライマックスシーン撮影中)
恋人役 (海にむかい)好きだ〜! 君を、愛してる〜!
監督 よかぞ! もっと…もっとおめけ、おめけ、もっと!
恋人役 君を、あ・い・し・て・る〜〜〜!
スタッフA (つぶやくように)…感動の…ラストだなぁ。
《訳》
恋人役 (海にむかい)好いとる〜! おうちば、愛しとる〜!
監督 いいぞ! もっと…もっと叫べ、叫べ、もっと!
恋人役 おうちば、あ・い・し・と・る〜〜〜!
スタッフA (つぶやくように)…感動の…ラストばい。
< ワンポイント>
【〜さん】
〜の方へ。「あっちさん」は「あっちの方へ」である。
【馬込教会】
明治4年に仮聖堂、23年に本聖堂を新築。その後、台風によって改修不能となるが
昭和6年、現在の白亜ゴシック式天主堂が建立され、大天使ミカエル聖堂と名づけら
れた。
海からのこの天主堂のながめは、美しく壮観で
最近放映された、月9ドラマでも、この教会が舞台として使われていた。
「沖之島天主堂」とも、呼ばれている。西彼杵郡伊王島町。
【真知子巻き】
1953(昭和27)年、NHKのラジオドラマ「君の名は」が大ブーム。
放送の夜は、銭湯の女湯が空っぽになるほどだった。
のちに岸恵子、佐田啓二で映画化。
ヒロイン独得のマフラーの巻き方である「真知子巻き」が流行し
また、長崎や雲仙にも、観光ブームがおとずれた。
雲仙の「真知子岩」は現在も、記念撮影スポットとして有名である。
【おめく】
叫ぶ。大声を出す。長崎以外の土地で、この言葉を不用意に使うと
ちょっと誤解されて、恥ずかしい思いをするかもしれないので
気をつけて使いましょう。
例/「夕日にむかって、思いっきりおめこうで!」
(「夕日にむかって、思いっきり叫ぼうよ!」)
次回へつづく… |