春。新生活をはじめるにあたって
イタ〜イ虫歯を、きちんと治しとこうと思う人は多いもの。
今回は、そういう中からの悲喜劇、の1コマをお送りします。


(治療台に横たわる患者。そこへ先生がやってくる)

はい、こんにちは。ありゃ、まだ口は開けんちゃよかですよ。
今日は、どげんしたとですか?

そうですか、冷(つ)んたかもんの、すびくとですか。
どこんにきですか? 奥んにきですか?
そしたら、どれ、見せてもらいましょうだい。
口ば、アーンてしてください。はい、アーーーン…。

《訳》
はい、こんにちは。ありゃ、まだ口は開けなくていいですよ。
今日は、どうしたんですか?

そうですか、冷めたいものが、しみるんですか。
どのあたりですか? 奥のあたりですか?
それでは、どれ、見せてもらいましょうか。
口を、アーンとやってください。はい、アーーーン…。


あいやー! こいはたまがった!
痛かはずです。えろうふっとか穴の、ほげとるばい!
こいは、根ーから引っこんがさんば、治らんですよ。
よかですか? 引っこんがすですよ。

《訳》
うわあ! これは驚いた!
痛いはずです。とても大きな穴が、あいてますよ!
これは、根っこから引き抜かないと、治らないですよ。
いいですか? 引き抜きますよ。


我慢できんやったら、手ばあげてくださいね。いきますよ。

キイィーーーーンガガガキイーーーンガガギガキィーーンン…

はい、もうすぐ、もうすぐやっけん、ちっと我慢して。

ガガガキイィーーーンガガギガキイーーンン…

まちっと、まちっと我慢して。

ガガギガキイィーーンン……

《訳》
我慢できなかったら、手をあげてくださいね。いきますよ。

キイィーーーーンガガガキイーーーンガガギガキィーーンン…

はい、もうすぐ、もうすぐですから、すこし我慢して。

ガガガキイィーーーンガガギガキイーーンン…

もうすこし、もうすこし我慢して。

ガガギガキイィーーンン……


はーい、お疲れさまでした。
そこんコップで、口ばゆすいでください。

そんがん、思うたごと痛(いと)うなかったでしょ?
なに、痛かった? こがんして何回も手ば上げた…?

《訳》
はーい、お疲れさまでした。
そこのコップで、口をすすいでください。

そんなに、思ったほど痛くなかったでしょ?
なに、痛かった? こうして何回も手を上げた…?


< ワンポイント>

【すびく】
虫歯などのせいで、冷たいものや甘いものがしみること。

【引っこんがす】
引き抜く。
例/「畑の大根ば、よかしこ引っこんがして持っていかんね」
 (「畑の大根を、好きなだけ引き抜いて持っていきなさい」)

【ゆすぐ】
すすぐ。これは標準語でも使われることばではあるが
長崎では、けっこう頻繁に使用される。
例/「洗濯機のスイッチば、「ゆすぎ」にしとってくれんね」
 (「洗濯機のスイッチを、「すすぎ」にしといてください」)


次回へつづく…

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